低カロリーなタフチーンの作り方を教えてください 作:猫好きの餅
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「おぉー、この市場もすっかり変わったのぉ」
「へぇ、昔はどうだったんだ?」
「前はもっと規模が小さかった。今の半分程じゃった」
「なるほどな。まずばデーツを買いに行こうか」
「了解じゃっ」
市場の中を2人で並んで歩く。通行人の視線はやっぱりファルザンに集中する。余程昔のデーツナンが食べたかったのか、足取り軽く歩く彼女は歳を言われても信じ難いほどに可愛らしい。…ニィロウの次に。
つーか、遺跡の中で100年閉じ込められたからと言っておばあちゃんになったと言ってもいいのかな?見た目が17歳だから余計に混乱する。さっきから仕草も100歳超えとは思えないほどにかわいいし、さっきの「了解じゃっ」の時にウインクするとかわかってやってんじゃないのか?
スキップしそうな軽やかさで歩くファルザン先輩の後を着いて歩いていると、背中で揺れる神の目が目に入った。
「あれ、それ風元素?」
「む?ああ、これか。遺跡から出た後空腹で倒れての。そのときに落ちていたらしい。……クーのそれも神の目じゃろう?水元素か?」
「ああ、ついこの前な。水は使いやすくて便利だよ」
「ちと羨ましいのぉ。わしのは風を起こすだけじゃから、うっかり出すと研究室の積んだ紙束を吹き飛ばしてしまう」
「そりゃ大惨事だ」
こうして話してるとおばあちゃんなんだけどなぁ。でも横を見ると美少女。なんか目がおかしくなりそうだ。
程なくして果物屋に着くと籠に入っているデーツを2人で物色する。デーツは砂漠のオアシスに生っている果実で硬い皮の奥にある果肉が甘くて美味しい。皮を剥ぐのにナイフかナタは必須だけど。
ファルザン先輩は籠の中から大きいのではなくそれなりの大きさのデーツを2つ手に持ち、重さを比べた後に片方を差し出してきた。デーツは果実の密度が高い方が美味しいのだ。
「のぅ、こっちのデーツはどうじゃ?クー」
「どれどれ……お、良いな。さすがファルザン先輩」
「伊達に長生きしとらんからの」
「…殆ど遺跡の中じゃ?」
「う、うるさいわっ」
少し揶揄うとぷいっとそっぽを向く先輩(117歳)。それに苦笑していると。
「……クーファっ♪」
後ろから甘ったるい声で名前を呼ばれて、すぐに声の主がわかった俺は嬉しくなる。今日はさすがに会えないと思ったから、挨拶をしようと振り返って……俺は固まった。
「に、ニィロウ?」
「んっ?なに?どうしたのクーファっ?」
突如として冷や汗が吹き出す俺に、目が笑ってない最高の笑顔で首を傾げる天使。なんかニィロウの裏に鬼みたいのが見えるんだけど。
「えーあっ……と、こ、こんにちはニィロウ。市場には買い物か」
「うんっ!……で?クーファはっ?」
ヤバい、ニィロウがなんかめっちゃ怖い。まるで浮気現場に鉢合わせた妻みたいな雰囲気で、笑ってない目で俺を真っ直ぐに見てくる。そんな俺の後ろからひょこっと顔を出したファルザン先輩はニィロウを見て首を傾げる。
「む?クー、こちらは知り合いか?」
「……クーぅ?」
「あ、ああ。ニィロウだよ踊り子の」
ファルザン先輩が呼ぶ俺の略称に目を細めながら聞き返すニィロウがとても怖いです誰か助けてください。
「あ、おお!あの踊り子かっ!服装が違うから一目ではわからなかったぞ!1度見たことがあるが、素晴らしい舞じゃった」
「え?あ、ありがとうございます……」
よし、いいぞっ!ファルザン先輩のべた褒めにニィロウの暗雲が少し晴れた。握手を求められて応じていたニィロウは俺とファルザン先輩を交互に見る。
「あ、あの、貴方とクーファは…どういう関係なんですか?」
「クーか?そうじゃな……(昔のデーツナンを知っていた)わしの運命の恩人じゃな」
「ウンメイノ……オンジン?」
ニィロウの目がまた細まった!?彼女はそのまま俺の元にずんずん歩いてくる。
「く、クーファっ!どういうことなの!?」
「お、落ち着いてくれニィロウっ!」
「あ、あの時言ってくれたのは…う、嘘だったの……?」
どの時の何の話!?ニィロウはきゅっと俺の袖を掴んでくる。
「いいから聞いてくれっ、俺たちはーーー」
10分後。
「そ、そうだったんだ……誤解しちゃってごめんね?ファルザンさんも…お邪魔しちゃってごめんなさい」
「いや、わかってくれて良かったよ」
「気にせんで良い。お主の気持ちも分からなくはないからのぅ」
1からニィロウに説明をしてわかってくれたことに胸を撫で下ろす。今度ニィロウを悲しませたら文字通り俺の命はないのだ。前回のニィロウが泣き出した件で俺はリーチ判定を貰った。
すると、ニィロウは両手の人差し指をつんつん合わせながら遠慮がちに聞いて来た。
「えっと、ファルザンさんのその「クー」って言うのは……?」
「ああ、ちとクーファという名前がわしには言いにくくての」
「あ、そ、そうなんだ……。よかった……」
「ん?なんか言ったか?」
「い、いやっ!?なんでもないよ!?」
何やら慌てている彼女を見ていると、そういえばニィロウも甘いもの好きだったことを思い出した。もちろんデーツナンも好みのはず。
「なぁ、ニィロウが良ければデーツナン食べるか?この後作りに行こうと思ってたんだ」
「えっ、いいの?」
「わしは大歓迎じゃ。こういうのは大勢の方が美味しいからの」
「じゃあ……ご一緒させて貰おうかな?」
もうデーツは選んであったので、購入して自分の厨房まで歩く。
100年前と違う景色になっているらしいシティの中をきょろきょろと見回しながら歩いているファルザン先輩を見ていると、反対側のニィロウの方の俺の手の甲に何かが触れる感触がした。
やべ、何か当たっちゃったかなと少し距離を空けて歩いているとまたさわっと手の甲が触れる感触がした。
気のせいかなとちょっと手の方を見ながら歩くと今度は当てるだけじゃなくて、手の甲にすりすりされる感触。
なんだなんだと今度はちゃんと手を見ると、犯人の天使はそっぽを向いて歩きながら自分の手の甲を俺の手にすりすりしてきていたのだった。
そんな彼女の可愛さに、俺はそのまま膝から崩れ落ちそうになる。
な、なんだよそれ。かわいすぎだろ。で、でも一体どういうつもりで……?
「………」
手の甲すりすりがくすぐったくて手を離すと、ニィロウはまた距離を詰めてきた。なんか手の甲に変な汗が滲みそうだったので反射的に手首を返すと、今度はそっちを向いた手の平側に彼女の小さくて柔らかい手がするりと入ってきた。そのまま控えめに握られる。
う、うおおおおおおあああああああ!?
て、手ぇ握られてるんだけどぉ!?
今まで手をしっかり繋いだことがなかったので、自分の手の中の彼女の手の大きさや感触がそのまま伝わってきて俺は変な声が出そうだった。
「………」
チラリと横のニィロウの方を見ると、今度はガッツリ目が合った。……というかニィロウが俺の顔をじっと見てきている。思わずばっと目を逸らしてしまうと。
手の中のニィロウの手が動いた。そのまま細い指が俺の指の間に割って入ってきて、さっきとは桁違いの密着度の手繋ぎが爆誕する。
こ、これって、もしかして恋人繋ぎ………???
俺の頭は軽いパニックだ。そんな俺に追い討ちをかけるように耳元にすっとニィロウが口を寄せた。
「……クーっ」
「ふひょるぼっ!?」
「わっ!?なんじゃ!?」
耳元で響いた甘すぎる声にこの世のものとは思えない奇声を上げた俺。それに驚いたファルザン先輩が飛び上がる。
「い、いや、なんでもない……ちょっとぼーっとしてて」
「全く、これから料理をするというのに大丈夫か?」
振り向いたファルザン先輩からは丁度俺とニィロウの繋がった手が見えていない。訝しげな顔をして言ってくるファルザン先輩に乾いた笑いを向けるしかないのだった。
ーーー絡ませた指をにぎにぎされる感覚に死ぬ気で抗いながら。
♢♢♢♢♢
「よーっし、それじゃ作っか!」
「おおっー!」
「お、おーっ」
あれからもう少し歩いてクーファの厨房についた私達は髪を纏めて料理の準備をした。あ、クーファのって言ってるけど、本当はジュートさんのお店の厨房ってことね。普段は香辛料を売ってる人なんだけど、タフチーンや他の料理を作る時に使ってる厨房をクーファが借りてるって感じなんだ。
私は元気よく返事をするファルザンさんを見ながら、チラリとクーファの方を伺った。
「!」
む、向こうもちょうど私を見たみたいで目が合っちゃった!慌てて逸らす私。
さっき市場で仲良く買い物をしてる2人を見た時、私の頭は真っ白になっちゃって……気づいたらもうクーファ達に話しかけていた。
しかもその女の子は彼のことを「クー」と呼んだんだ。響きもかわいくて親しみがある呼び方にずっと「クーファ」と呼んでいた私からしたらかなりの威力の不意打ちだった。しかもすぐそこで知り合ったって言ってたのを聞いて、私はさらに不安になった。
でもクーファとファルザンさんのお話を聞いて、誤解だとわかったあとの私はまた暴走をしちゃった。
ううう……こ、恋人繋ぎなんて…な、なにしてるのよ私っ……!
今すぐに頭を抱えて逃げ出したい。そりゃあもちろん憧れはあったけど、そういうのはもっと段階を踏んで、甘い空気になったところでどちらからと無くするものだと思ってたのにっ!わ、私……変な女の子だよ……。
…で、でもクーファ、嫌がってなかったなぁ。それに最後の方はクーファも握り返してくれたし、もしかして……脈、とか……あったりするの?
こういう、クーファにどう思われてるかなとか、色々ボディタッチとか男の子が意識する行動5選っ!みたいな本に載ってる事とか試してるのに反応が無いんだけど、どうしようとかをシアターの女の人に聞いてもまともに取り合ってくれないんだもん。なんかみんな「んなこと考えてないで早く告白しちゃいなさい」とか言ってくるし……そんな事出来たら苦労しないよっ!
「……ロウ、……ニィロウ?」
「……えっ」
「なんかぼーっとしてたみたいだけど、大事か?」
なんてことをぐるぐると考えてたら心配そうな顔をしたクーファに肩を揺すられて我に返った。
「あ、う、うんっ!大丈夫だよっ?」
「そ、それならいいんだけど…」
私がそう返すととりあえずは頷いてくれた。ひとまず今は料理に集中しよう。
「…おー、調理器具は100年前より進歩しているのう。クーよ引き出しに入っておったこの道具はなんじゃ?」
「ん?…ああ、それはピーラーだ」
「ぴーらー?」
「それを使って人参とかじゃがいものーー」
「待てっ。すぐに答えが知れては面白味に欠けるじゃろ?こういうのは自分で考えてみるのじゃ」
「めんどい学者だな」
「めんどいとはなんじゃっ!」
ねぇやっぱりちょっと距離近過ぎないかなぁっ!!
さっき中身は100歳超えとは聞いたファルザンさんなんだけど、仕草とか表情が全然そうは見えない。「うーん、うーん」っピーラーを見ながら考え込んでるのを苦笑いしてるクーファの右手に私は自分の指を滑り込ませた。
「っ」
突然手を握ってきた私にファルザンさんの方を見ていたクーファがビクっと反応した。そのまま少し私の方に引っ張って耳に口を寄せた。
「もぅ、ファルザンさんとちょっと距離ちかいよ?」
「…ど、どの口が……」
暴走してる暴走してるって私っ!
でも、やっぱり私、この前のタフチーンすり替え事件の時からちょっとおかしくなっちゃったみたい。この後1人で悶えるのはわかってるんだけど、それでも彼と繋がってたいんだよね。
やっぱりだめだ、抑えられない。
私はまたクーファの指に自分の指を絡めるとさっきみたいに耳を寄せた。
「ね、この後わたしのおうちにきて?」
……わたし、今日どうなっちゃうんだろう。
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