低カロリーなタフチーンの作り方を教えてください 作:猫好きの餅
お待たせしました。
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「……ん……」
右腕にくっついた温もりがモゾモゾ動く感触で、俺は目を覚ました。
隣を見るとニィロウが俺の腕を抱き込んですやすやと眠っている。そんな彼女の頬にかかっている髪を優しく払い除けながら目線だけで時計を見て。……俺は飛び起きた。
「やっべっ!起きる時間過ぎてるっ!」
今から急いで準備したら間に合うけど、余裕がない。予定してた時間より1時間程寝過ごしてしまい、俺はまだ寝てるニィロウの肩を揺すった。
「ニィロウっ!起きろっ」
「……んみゅ?くーふぁ…?」
かわいいいかよ。って、違う今はそんな事思ってる場合じゃないって!
「ニィロウっ!時間時間っ!」
「んへ?……じかん?………えっ、ええええええ!?」
時計を見てニィロウ目が覚めたのか、大声を出して飛び起きた。寝癖ができてて長い赤茶色の髪があちこちに跳ねている。こりゃ一旦シャワー浴びないとだな。
「後30分で家出るぞ。俺は家帰って荷物取ってくるから、お前はシャワー浴びとけ」
「う、うんっ」
ニィロウにそう伝え、俺は部屋を飛び出した。
ダッシュで家に戻ると着替えを数日分カバンに突っ込み、剣を持って来た道を戻る。
部屋に戻ると、ちょうど浴び終わったところみたいでニィロウはバスタオル姿だった。おまっ、なんて姿で出迎えてんだ!
「ちょっ、服着てから開けろって」
「もう、別に良いでしょ?……昨日いっぱい見たんだし…」
「やかましいわっ!…とりあえず髪乾かすのは俺も手伝うから」
「うん、ありがと。……き、着替えは、みみ、見る?」
「朝ごはんのトーストのベーコン」
「ご、ごめんねっ、謝るから抜かないでっ!」
取り出したタオルでニィロウの髪を拭う。幸い水の神の目で水分を操れるので一瞬で乾いた。洗濯も楽だし何気にこれが神の目貰って一番良かったことかもしれない。
バタバタしてしまったけど、何とか間に合った。スメールシティの西門に走っていくと、ディシアさんが立って待っていた。こちらを見つけると手を振ってくる。
「おー、おはよう。時間ピッタリだな。……そんなに走ってどうしたんだ?」
「おはようございます。いや、ちょっと寝過ごして……間に合って良かったです」
「…よ、よかった…遅れてなかったね…」
いやぁ結構走った。俺は鍛えてたからこれくらいは走れるけど、ニィロウも結構余裕そうだった。ニィロウって踊りやってるからかわからんけどめちゃくちゃ体力あるんだよな。疲れててもすぐ復活するし。すぐに息を整え彼女はディシアさんと話している。どうやら一緒に来たことを聞かれてるみたいで、俺が一晩泊まったことを話していた。その事とちょっと遅れかけた事が何かと結び付いたのか、んんっと咳払いをしながらこっちをチラチラ見てくる。
やめてっ!間違ってないけどその目でみるのやめてっ!
ここからキャラバン宿駅に歩いていって、そこで荷車に乗っていくらしい。荷車は砂漠を越えるので屋根付きのちょっとお高めな奴らしい。
スメールシティと宿駅は歩きで1時間程。道中2回くらいヒルチャールズに絡まれたけど、俺が水をつけた後にディシアさんが炎を纏った拳をぶち込んで一撃で終わるので楽だった。
一応護衛はディシアさんだけど、無料で乗せて貰えた手前少し悪いので俺も剣を持ってきていた。横を見るとニィロウも茶色の剣のようなものを背負っている。そういや、前に踊りで使ってるのを見たことあったけど、それはなんなんだろう。
ニィロウは俺の目線に気が付いたのか、背負った剣(?)を俺に見せてくれた。
「これは"聖顕の鍵"っていうおまじないが掛けられた剣なんだよ?斬れ味は無いんだけど、生命力が増して、元素力の扱いがしやすくなるんだ」
「へぇ、貰い物か?」
「うん。シアターにずっとあった剣でね。なんでもむかーしに遺跡で発掘されたんだって。ディシアの剣もそうだよ」
「ん、ああコレか。この前買い戻したんだがアタシは気に入ってるぜ、軽いし元素力で刃を付けるから鞘もいらないしな」
ディシアさんは背中の茶色の紋様が刻まれた剣を叩きながら言う。
俺のこの剣も璃月で結構値段したやつなんだけどな。ディシアさんの剣を持たせて貰ったけど、なんか力が沸いてきた気がする。やべぇなこの剣。
そんな話をしながら歩いていたら足元が草から砂に変わっていき、キャラバン宿駅が見えてきた。
周りを見ると色々なキャラバンが集まっていて、それぞれ旅路の話し合いをしたり、さっき到着したばかりなのか、こんな時間から酒場でワイワイやっている様子が見受けられた。
ディシアさんに着いていくと、今日同行する予定のキャラバンの場所に着く。出されたメンバーの書類に俺とニィロウの名前を書いて登録を済ませると、好きな荷車に乗って待つように言われた。
一応俺も護衛を手伝おうと思っていたので、ディシアさんとそのキャラバンの団長と陣形について話し合いをした。全部で荷車が3つ繋がっていて、偶にヒルチャールや宝盗団に絡まれるのだとか。
つーか、宝盗団砂漠にも現れるんかよ。ミントとスイートフラワーと宝盗団はどこにでも現れるって例えがあるくらいだし、最近宝盗団にはいい思い出がないのでちょっと憂鬱だ。何気なく客のリストを眺めてみる。乗客は護衛のディシアさんを含めて10人ほどで大体は商人みたい。その中でひとり、他とは書体が違うお名前を見つけた。
「へぇ、メンバーに稲妻人もいるのか。珍しいなこっちのルートでフォンテーヌに行くなんて」
「確かに、大抵璃月港通って沈玉の谷の方から行くもんね。…どの人だろう」
ちょっと気になった俺たちは3人で周りを見渡すが思い当たる人は見えなかった。まぁいいかと肩を竦めた俺たちにさっき話していたキャラバンの団長が話しかけてくる。
「お客さんにディシアさん。護衛の人がひとり増えましたぞ」
「ん?そりゃありがたいが……誰なんだ?」
「それがですね、お客さんの中から頼まれてくれまして……」
キャラバンの団長が後ろを振り返り「この方です」と言ってきたので3人でそちらを見ると、1人の男がこちらに歩いて来ていた。
まず紺と白に金のアクセントが入った稲妻の服と腰に差した黒い刀が目に入る。年齢は俺より少し上、ディシアさんくらいだろうか。目にかからないくらいの長さの藍色の髪に透き通るような碧色の瞳。髪と対照的な白い肌。
美形と言って差し支えないような見た目の青年はこちらの目線とキャラバンの団長に気が付くと、会釈をした。
「えっと、こちらがキャラバン隊の護衛の人達ですか?」
「ええ、ディシアさんとクーファさんです」
響く芯のある声に、俺もお辞儀を返した。
「クーファです。……それでこっちが……」
「………」
「……ディシアさん?」
「っ、あ、ああ。傭兵をやっているディシアだ。よろしくな」
「えと、私はニィロウって言いますっ。護衛の人では無いですけどクーファの同行者です」
握手の手を差し出した紺色の青年も応える。ニィロウも護衛の人ではないけれど自己紹介をした。それに頷いた青年も自分の胸に手を当てる。
「俺は迅。稲妻の配達員と冒険者をやってるんだ。よろしく」
「なんと、この方はかの有名な"蒼夜叉"さんなのですよっ」
「あっちょっ」
横からでてきた自慢げな団長のカミングアウトに俺たちは目を見開く。えっ、マジか!よく見ると腰に雷の神の目が見える。名前は有名だけど容姿とかの情報は流れてこなかったのでこんなに若い人だとは。いや俺の方が年下っぽいけどね。
どうやら異名で呼ばれるのはこそばゆいみたいでジト目で団長を見ていた迅さんは、ため息を吐いた。
「…ま、まさかあんたがあの蒼夜叉だとは…………アリだな」
「え?」
「あ、ああいや、何でもない。あの凄い噂を聞くにもうちょっとゴツイ人かと思ってたんでな。驚いていたんだ」
「はは、よく言われるよ。……それで、護衛の陣形はどうするんだ?」
3人で話し合い、基本2人で左右を挟んで歩き、30分に1度交代をすることになった。もし魔物や宝盗団が出てきたら3人で戦うって事に。
その話し合いが終わると、直ぐに出発になった。本格的に砂漠に入るまではまだ安全なので、今は荷車に全員が乗っている。そして何故か化粧をし直し、迅さんの隣をキープしているディシアさんに首を捻る俺たち。
ゴトゴトと揺れる荷車に座っている俺たちの目に入るのは腰から抜いて肩に立て掛けている迅さんの黒い刀。それをディシアさんが聞くとみんなの得物発表会が始まった。
「俺の刀の名前は"霧切の凱旋"って言うんだ。なんでも魔神戦争時代に巨獣に踏まれても一切曲がらなかったとか」
「へぇ〜、神器ってやつか?」
「まあそうだな。これも雷電将軍に作って貰ったし」
「ら、雷電将軍っ!?」
とんでもない人の名前が出てきて俺たちは飛び上がる。え、そんな神様を知り合いみたいに!?
「え、迅さんは、雷神様と知り合いなの?」
「まぁ、間違ってないな。よく一緒にお茶する」
手を挙げて聞いたニィロウがあまりの話のスケールに固まっている。俺たちで例えるならクラクサナリデビ様とお茶会してるようなもんだ。恐れ多いにも程がある。
迅さんが刀を鞘から少し抜くと、光さえ吸収しそうな漆黒の刀身が目に写った。そこに綺麗な水色の波紋のようなラインが入っていて、俺たちは目を奪われる。
「ちなみに斬れ味はどれくらいなんだ?」
「えっと、かるーく振ると木くらいは1発だな。元素込めれば雷元素の特性もあるけど、そこらの武器じゃ鍔迫り合いが出来ない。武器ごと真っ二つにしちゃうからな」
「本当に神器ですね」
なんなら俺の剣に軽く当ててみる?とか言いそうになってた口を紡ぐ。絶対エグい傷付いてたわ。よかったー言わなくて。
武器の話が終わると、次は迅さんの目的地の話に。
「迅さんは、何をしにフォンテーヌにいくの?たしか、稲妻の配達員ってさっき言ってたけど…」
「ああ、これも配達員の仕事のひとつでさ。フォンテーヌには国際配達の手続きに行くんだけど、その前に冒険者としてフォンテーヌで活動して名を挙げて、配達会社の信用度をあげようって話。ディシアさんは護衛だけど、クーファとニィロウは?」
そう聞かれたので俺とニィロウは顔を見合わせる。
「俺たちは旅行っすね。ちょうどここのキャラバンの席が2人分空いたんで、ディシアさんに誘われたんです」
「へぇ、旅行か……いいなぁ」
「迅さんにはそういう相手は居ないんですか?」
俺はこっそりニィロウの手を握りながら言う。すると、何故かディシアさんがそわそわし始めた。そういえば話を聞く限り、迅さんってディシアさんのストライクゾーンど真ん中じゃ……?同じことを考えたらしいニィロウがチラリとディシアさんの方を見る。
「ああ、彼女はいるよ。ただ今は別行動でなぁ」
ガタガタッ
「え、大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫、大丈夫だ…!」
あ、ディシアさんが崩れ落ちた。
ちょっとぷるぷるしてる。耳を澄ますと小声で「やっぱそうだよなぁ」って聞こえてきた。
どんまい、ディシアさん。
ん、なんだろう。迅さんがめちゃくちゃディシアさんの髪を見ている。目線をきちんと追ってみるとディシアさんの髪型が気になるみたい。
よし、ここはちょっとアシストしてやろう。まぁ、彼女持ちだからどうしようも無いんだけど、このままだとちょっと可哀想だ。
「ディシアさん。ずっと気になってたんですけど、その猫耳みたいのって髪型なんですか?」
「…ん?ああ、そうだぞ。可愛いだろ?」
「うんっ、すごく似合ってるよっ!……迅さんもそう思うよねっ?」
ナイスニィロウっ!話を振られた迅さんはこくこくと頷いた。
「俺の……友達に髪を巻いて猫耳みたいにしてる髪型のやついるけど、そこまで似てるのは凄いな」
「そ、そうか?……そこまで言われると照れるぜ…」
よし、なんとかディシアさんの空気が戻った。そのまま迅さんとディシアさんはお互い似たような仕事をしてるのもあって話が合うみたいだ。バリバリ戦闘の話をしている2人を眺めていると、頬をニィロウに突っつかれる。
彼女の方を向くと「お話しよ?」と上目遣いで言われたのでリラクゼーション(おしゃべり)していると、何やら外の空気が変わった。2人の方を見ると同じことを感じた様で双方武器を持っている。まだ完全に砂漠に入った訳じゃないので、魔物も宝盗団も盗みをするリスクが高いはず。
ニィロウも神の目を持っているので、一応着いてきて貰う。全員でキャラバン隊の先頭を見ると、案の定宝盗団に絡まれていた。
周りを見ると既に囲まれている。先頭に5人、両サイドに3人ずつに岩山の上に3人弓手がいた。どうやら待ち伏せられてたらしい。荷車の構造と道幅を考えても引き返すことは困難だった。
「おい、乗客の命が惜しけりゃ金目の物を置いていって貰おうか」
先頭にいた頭らしき宝盗団がキャラバン団長に詰め寄るのを見て、俺も行こうとしたら迅さんに腕を掴まれた。
「な、なにをっ?」
「今行ったら囲まれてジリ貧になるぞ。俺たちが荷車の中にいたせいで、まだアイツらはこっちの戦力を認識してない。俺が岩山の上の弓使いを倒すから、その隙にサイドの宝盗団を制圧してくれ」
「い、岩山って、あそこの高さ10mはあるぞ!?……刀一本でどうやって」
「いいから。……団長にはこういうことになった時話を引き伸ばすように言ってある。長話にリーダー以外が暇になって油断した所を突く」
真剣な顔で有無を言わさずに指示を出すので、とりあえず全員頷いた。
そのまま身を隠して少し待つと、大分引き伸ばされてるのか苛立ったリーダーの声が聞こえてくる。もう制圧した気なのか取り囲む宝盗団も余裕の表情で欠伸をかましてる始末だ。
「よし、そろそろいいか」
迅さんは片手でもう片方の手首を掴むと、雷元素を集め始めた。
紫色のスパークが手に集まっていって、それを小さく圧縮する。見たことが無い元素の扱い方に俺たちが目を丸くしていると「じゃ、行くぞ」とそれを空に撃ち込んだ。
「みんな、目をつぶってくれっ!」
言われた通りにそれぞれ腕で目を守ると、空に上がった雷元素が炸裂して、もうひとつの太陽が出来たと錯覚するような閃光が辺りに襲いかかった。
「…っガッ!?目がァっ!?」
予想通り引っかかった。荷車を囲んでいる宝盗団達は空に昇る光をなんとなく目で追ってしまったらしく、閃光を食らって目が眩んでいる。
「今だっ!」
迅さんの声と共に俺たちは荷車から飛び降りた。
ひとまず目の前の宝盗団3人をディシアさんと一緒に制圧をする。その横を駆け抜けた迅さんは雷を身にまとい、「飛んだ」。
「はぁ!?」
思わず驚きの声が漏れる。地面を蹴った反動ではなくて、まるで背中を誰かに押されたかのように空中で加速して一瞬のうちに岩山へ飛び上がった迅さんは、目が眩んでいる弓使いに刀の峰を叩き込んでいる。
鮮やかな立ち回りに目を奪われていた俺たちはハッとして反対サイドの宝盗団も叩く。荷車の中を覗き込んで乗客の安全を確認すると、先頭に向かった。
「ちぃっ!なんだ今の光はッ!……おいっ、しっかりしろっ!」
リーダーは運良く荷車の屋根で光を凌げたらしい。目が眩んで蹲る他の宝盗団を起こしていた。リーダーの目に俺たちが写ると団長を自分の方に引き寄せて舌打ちをする。
「くそっ、よりによって熾鬣の獅子まで居るなんてな……、だが油断して出てきたな。岩山の上にまだ弓使いがいる。お前ら動くなよ。少しでも変な動きを見せたら乗客の誰かに矢が刺さるぞ?」
「へぇ、弓使いね、それがどこにいるんだ?」
腕を組んだディシアさんが余裕そうな笑みを浮かべて言うと、ちらりと岩山を確認したリーダーの顔が驚愕に染まった。
「なっ!……あそこの仲間をどうやって……!?」
「それってもしかしてこれのことか?なら返すわ」
上から人が降ってきた。モンドの風の翼でゆっくり降りながら。襟首を掴まれて失神している弓使い達を放りなげる。
これで戦力差は覆った。戦闘を抑えていた宝盗団も武器を持っているくらいなのでディシアさんや俺の敵では無い。
「……チィ!、これだけは使いたくなかったんだがな……!」
リーダーは団長の額に懐から取り出した筒のようなものを突きつけた。
俺とニィロウは一瞬それが何かわからなかったのだが、迅さんとディシアさんの警戒レベルが上がるのを感じた。ディシアさんが大剣で自分の身を守るように構える。
「それは、……銃かっ!」
銃と聞いて思い出した。たしかフォンテーヌで普及が始まっている弓を超える飛び道具。俺にはどういう仕組みで撃つのかはわからないけど、鉄の弾を矢を遥かに超える速度で撃ち出すという事はわかる。
自分に向けられている訳では無いが、一応ニィロウを俺の後ろに隠した。
「よしお前ら、動くんじゃねぇぞ!少しでも動いたらコイツの頭が弾け飛ぶぞ!」
「ひぃぃぃっ」
人質を取られた状況にさしものディシアさんも動けずにいる。だが、その中でも迅さんはリーダーのことを冷めた目で見ていた。
「…そこのお前っ!さっきは妙な技を使っていたな。空中で加速するとか一体どんな道具を使ってやがるんだっ?それを渡せっ!」
「え、アレ道具じゃないんけど。それより、それって銃?初めて見たわ」
ちょっ、人質取られてんのになんでそんな普通なんスか!?普通に世間話をするみたいなテンションで話しかける迅さんに俺達が慌てる。
この場面でも物怖じしない迅さんにリーダーが顔つきを変えた。団長に突きつけていた銃を迅さんに向ける。
「……お前、只者じゃないな。普通はこれを向けられたら多少なりとも動じるはずだ。…俺はこれでも長年略奪してきたんでな。その勘がお前はヤバいと告げている」
「へぇ、なかなかいい勘してるじゃないか」
それでも態度を変えない迅さんに銃の引き金に掛けられた指に力が入り始める。それを見て思わず動き出そうとするディシアさんにリーダーは叫んだ。
「動くなッ!それ以上動くと客車に向けて全弾ばら撒くぞ!俺はお前らに倒されるが、蜂の巣になった客車から何人助かるかな?」
「ぐっ…!」
さすがのディシアさんでも、止める前に銃が火を噴く方が速い。動けなくなった彼女を勝ち誇った顔で屈めたリーダーは迅さんに突き付けた銃の引き金を絞り始めた。
「とりあえずどの道、お前は死んでもらう!避けたら客車が蜂の巣になる。避けんじゃねぇぞ!」
そういい、リーダーは後ろの仲間に目線で指示を出して、引き金をーー
「ーーー避けねぇよ。別に」
「…はっ?」
引こうとしたはずなのだが。何故かリーダーは後ろから頭を鷲掴みで持ち上げられて宙に浮いて、銃を持っていた腕が自分のこめかみに逆に突き付けられていた。
「な、なんで……?」
「余所見はダメだろ。特に人質取ってる時はさぁ」
ほんの一瞬前まで5mほど離れたところにいた迅さんが片手でリーダーを持ち上げて、手の上から自分で掴んで銃を持っていっている。ジタバタ藻掻くがビクともしなさそうだった。
それを見ていた俺は逆に震える。横目でディシアさんとニィロウの様子を見るが俺と似たような顔をしていた。
いくらなんでも速すぎる。全く見えなかった。
リーダーが後ろの仲間に目線をやった瞬間、隣からドンッという衝撃音が聞こえ、横を見た時にはもうリーダーが宙に浮いていた。
もう強さの次元が違う。
だからあんなに余裕な感じだったのか。迅さんはこめかみに銃を突き付けたまま他の宝盗団に向けてブラブラ揺らす。
「おら、動くなよ。動いたらお前らのリーダーの頭が吹っ飛ぶぞー」
さっきのリーダーと同じことを言い出す迅に緊張感も飛んでいった俺たちは隙を付いて残った宝盗団を制圧した。後はリーダーのみ。
「わ、わかったっ!悪かったっ!もうこの旅団には手を出さねぇっ!だから命だけは…っ!」
「…この旅団には?」
「イダダダダッ!?ぬ、盗み!もう盗みはしませんっ!だから助けっ」
にっこり笑顔でアイアンクローをする迅さんが怖すぎる。命乞いを始めるリーダーに雷元素を叩き込んで麻痺させた迅さんはぽいっと放り投げた。
パンパン手を叩いて掃除気分で終わらせた迅さんは呆然と見てる俺たちを見る。
「おつかれ。ナイス制圧だった」
直後、歓声が旅団の方から上がった。迅さんは瞬く間に人に取り囲まれる。俺たちも客の商人たちからよくやったと肩を叩かれた。って、おいっ!どさくさに紛れてニィロウに触ろうとすんじゃねぇよ!!
「く、クーファ…近いよぉ」
ニィロウを抱き締めて男の手から守りきる。
俺の腕の中でニヤニヤしてるニィロウの頭を撫で撫でしながら迅さんの方を見るとあわや胴上げされかけてるところだった。
その後は特に絡まれることもなく。無事に砂丘を超えた旅団は日が暮れたのでキャンプを設置して一晩明かすことになった。これで明日の昼にはフォンテーヌに着いている予定。宝盗団のせいちょっと遅れたが、誤差の範囲だと団長は言っていた。
んで、俺たちは今何をしているのかと言うと、3人で迅さんの作った料理にがっついている。俺も料理人やってるからわかるけど、この人の料理も自分じゃなくて誰かの為に作ってるって味がした。スメールは他の国よりスパイスをよく使うから、今食べてるカレーライスもスメール人好みに味付けられていてめちゃくちゃ美味い。
「…はぁ〜、アンタ料理まで上手いなんてな。出来ないことないんじゃないか?」
「そんなことないよ、料理はできた方が人生楽しめるからな。……ニィロウ、おかわりする?」
「い、いただきます……」
恥ずかしそうに皿を渡すニィロウに苦笑する。俺以外の作った料理を美味しそうに食べてる彼女にモヤッとするところはあるけれど、そこは堪える。実際マジ美味いし、俺は理解あるかれ……んんっ、幼なじみだし!
すると、おかわりを受け取ったニィロウが隣に座ってくる。耳元に口が寄せられてちょっと慌てた声が聞こえてきた。
「か、勘違いしないで…?私の1番は、クーファの料理だから……」
「マジ愛してるわ」
「ふぇえっ!?」
「遂にイチャつくの隠さなくなってきたなお前ら……」
ほーんとなんでこんなに可愛いかなこの子は。真顔で即答した俺にディシアさんがジト目で見てくる。
もう知るかとニィロウの頭をわしゃわしゃ撫でる。そういえばと米粒残さずカレーを完食したディシアさんが稲妻式の挨拶をして、隣でスプーンを動かしている迅さんに問いかけた。
「しっかし、昼間の迅の速さには驚いた。雷元素使いは知り合いにいるが、鍛錬すればあんなに早く動けるのか?」
「いや、まぁ、俺は特別というか、種族の特権というか……人より動体視力とか反射神経が優れているからあそこまで速くしても大丈夫なんだ」
「えっと、蒼夜叉…の夜叉ってもしかして迅さんの?」
迅さんは頷く。
「そういうことだな。一応、仙人の血が入ってるんだよ。元素の他に仙力っていう別の力があるから元素の扱いも長けてるし、量も多いって訳」
「…へぇ…、なぁ今度アタシと闘ってみないか?ちょっと傭兵の血が騒ぐ」
「じゃあ、今度配達でスメール来た時にでも手合わせするか」
「よっし!約束だぞっ!」
この人手合わせをデートと勘違いしてない?喜び方がまんまそっちなんだけど。
食後、辺りも暗いので早めに就寝する事に。もう開き直ってニィロウと同じ寝袋に入った。えへへと嬉しそうにしてる幼なじみを抱き寄せる。
少しして寝息が聞こえて来るが、俺は正直まだ眠くない。こっそりと寝袋を脱出して外に出ると見張り当番中の迅さんと目が合った。
「ん、眠れないのか?」
「はい。いつもは遅くまで料理の試作してるんで」
「そういえば料理人なんだってな。でも、昼間の戦闘を見てた感じ冒険者って言っても不思議じゃなかったけど?」
「ああ、それはーー」
俺は自分が何故料理人をやっているのかと、幼なじみのことについて話した。
「なるほどね。で、ニィロウとは付き合ってるのか?」
「あー、まぁ付き合ってるけど公表してないっていうか。あいつ踊り子で凄い人気なんで」
「ああ…、大変だな」
「それじゃ、迅さんの彼女の話を聞いてもいいですか?」
「……ああ、俺の彼女は…………マジかわいいよ」
「わかります。彼女の説明しろって言われたらまずそれが出ますよね」
そういう迅さんの顔を見る限り、本当に好きなんだろうな。でもなんでそんな言いにくそうなんだろうか。
「えっと、これはちょっと他言無用で頼むな?」
「はい」
「実は……彼女、1人だけじゃないんだ」
彼女、1人だけじゃない。…………え、ってことは。……え?
「……ハーレム?」
「……否定できないな」
「……実在したんだ…」
うっそだろこの人。色々常人離れしてるって思ってたけどそこもかよ。
まぁ、この人ばりクソイケメンだし、料理できるし強いしでめちゃモテそうだけどさ。
「言い訳になるけど、一応1番はいるんだぞ?でもその1番の子と他の子がすげぇ仲良くてさ。その子の希望でこんな事になってる」
「…すげぇ。何人いるんすか?」
「…5人」
「ちなみにさっき言ってたマジ可愛いよはその中の誰なんです?」
「ああ、それは俺が1番好きな子の事だよ。……で、その子は笑顔がくっそかわいいんだよ」
「笑顔が似合う女の子っていいっすもんね」
俺だって日頃からニィロウの笑顔にやられてるからめちゃくちゃわかる。
「それと、何より尻尾だな。2本あるしっぽが可愛い。感情が大体尻尾を見ればわかるからそこもかわいいんだよ」
「ん、しっぽ?その彼女さんって人ではないんですか?」
「ああ。稲妻の妖怪なんだ。猫又って種類で、元は俺ん家で飼ってる猫だった」
「へぇ〜、凄い話」
話を聞くと、迅さんが修行で故郷を開けている間、その子は人の姿になって配達員になってたらしい。そこに迅さんが帰ってきて、その配達会社に入ったらそこにその子が居たんだとか。
「それで、そっちはどうなんだよ。だいぶラブラブみたいだけど」
「あはは…、大切なんで近くに居ないと嫌なんですよ。その、結構フレンドリーな性格な子なんで顔が広くてめちゃくちゃモテるんすよ。それもあってその、ずっと抱き締めてたいんです。……重いっすかね」
そんな俺に迅さんは頬杖を突く。
「それは、俺が答えることじゃないんじゃない?」
「えぅっ」
「へっ?」
迅さんが俺の後ろを見て微笑むのでそのまま振り返ると、ずっとそこで聞いていたのか、お顔が真っ赤っかのニィロウがいた。
「ニ、ニィロウ……まさか今の聞いて……?」
「っ!」
ニィロウはつかつかとこっちに歩いて来ると俺の手を掴んだ。そのまま荷車に戻ろうとする。
「…こっちきて?」
「えっ、ちょっニィロウっ!?」
「おやすみ〜」
手を振って見送って来る迅さんが視界の端に写る。俺は抵抗虚しく荷車に詰め込まれると、寝袋に押し込められた。そこにニィロウが入ってきて胸に抱きついてくる。
「んっ!」
「えと、どうすれば…」
「…ずっと抱きしめてたいんでしょ?」
はぁー………、ほんとマジでかわいいな。
隣でディシアさんが寝てるけど、ちょっと我慢出来なくなった俺はニィロウの顎を上げて、唇を奪った。
「んぅ…」
ニィロウも俺の頬に手を添えて啄んでくる。流石にこれ以上の事は出来ないので唇を離すと、優しく胸に抱き寄せた。
「ニィロウ」
「……ぅ、な、なに?」
「大好きだ」
「…んぇへ…わたしもっ」
「隣でコレとか、ゴーモンか」
ディシア好き?
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大好き
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ゲームで使い込むくらい好き
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倉庫番/未所持だけど好き
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原神やってないけど好き
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頼むから性能を強化してくれよ……!!
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うーん、ニィロウの方が好きかな……