低カロリーなタフチーンの作り方を教えてください   作:猫好きの餅

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怒った幼なじみは怖い

 

□□□□□

 

 

 

もうもうと燻る爆煙の中。キュッと閉じていた目を俺は開けた。

 

 

「………ははっ」

 

 

マジかよ。

 

……生きてるんだけど。

 

 

俺は自分を覆う水で出来たシールド(・・・・・・・・・)を見ながら乾いた笑いが漏れる。

 

夢中で握りしめた手を開くと、その中には水元素の紋様が描かれた物があった。

 

「これ………神の目……」

 

これが、俺を守ってくれたのか?

 

自分の身体を見下ろしてみると、最初の爆弾のダメージだけで今の大爆発のダメージは殆ど無かった。

 

次に周りをみると爆発の規模は凄かったようで、地面が抉れている。そこそこの広場だったのが幸いで、火事にはなってないようだ。爆発で発生した軽い火は神の目で消火する。

 

「……っててそうだ。ニィロウの所に行かないとっ」

 

とりあえずはニィロウだ。俺は近くで伸びてる宝盗団を1箇所にまとめるとスメールシティに急いで戻った。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ………」

 

やっぱか最初に貰った爆発がかなり効いていて、走る度に身体が悲鳴をあげるが、無視して足を動かす。

 

 

俺はどうにかグランドバザールに戻って来れた。俺のタフチーンが盗られたことを考えると、あいつはそのまま俺のをニィロウに渡す気だ。時間はちょうど公演が終わったところで、スロープから降りてきたニィロウが遠くに見える。

 

そこに、俺を殺そうとしたクソ野郎が俺のタフチーンを持って近づいて行った。

 

クソっ、声を上げて止めたいけど距離がありすぎる。俺は痛む身体に鞭を打ってどうにか止めようと来るが、奴の方が早かった。

 

あの男とニィロウが二言三言話をしている。口ぶりから多分、俺の許可を得て自分がタフチーンを用意したとか言ったのだろう。ニィロウは普通にそのタフチーンを受け取ってしまった。それを見てジュートさんが口を出そうとしているが、そいつの取り巻きらしい奴に抑えられている。

 

タフチーンを受け取ったニィロウのその嬉しそうな顔に俺は目の前が真っ暗になった。同時に堪えていた身体も痛み出す。

 

それでも何とか近くに行こうと脚を引き摺りながらシアターに向かう。段々と声が聞こえるようになってきた。

 

 

「そのタフチーンは僕が心を込めて作りました!どうぞ召し上がって下さいっ!」

「え、えっと、ありがとうございます。それじゃあ………え?」

 

タフチーンの包みを開けたニィロウが訝しげな声を上げたが、もう俺にはそんなことはどうでもよかった。

 

……終わった。これで俺より美味いタフチーンを持ってきたあいつが、俺の代わりになるんだ。結局はあいつの目論見通り。俺はそれを見たく無くて、顔を背けた。

 

 

「……えっと……」

「……ニィロウさん?どうかしましたか?」

 

どんだけ背けてもニィロウの絶賛の声が聞こえて来ないので、恐る恐るそっちを見ると、困惑顔のニィロウがタフチーンを持ったまま首を傾げていた。そのまま彼女の口が動く。

 

「ねぇ、………どうして?」

「はい?どうかしましたか?腕によりをかけて作ったのですが」

「……………は?」

 

俺はこのニィロウの顔を初めて見たかもしれない。

 

あの常に笑顔を絶やさないニィロウが、能面のような無表情をしていたのだ。なんなら目元が鋭くなっていっている気がする。そのまま色のない声が出た。

 

「ねぇ、…なんで貴方がクーファの作ったタフチーンを持っているの?」

 

………………

 

…え?……わかんの??

 

当の本人の俺も、痛みを忘れて目が点になった。当然、ニィロウに渡したあの男も鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。そのまま墓穴を掘り出した。

 

「な、何を言っているのですか?これは、僕が作ったタフチー「嘘つかないで」…ひっ」

 

ニィロウはタフチーンの断面を男に見せる。そのまま無表情で男に詰め寄った。

 

「……ここ。この鳥肉の部位を使うのはクーファだけ。…それに、貴方が作ったって言うのならこのタフチーンを何時間焼いたの?」

「そ、そんなの基本の1時間ですっ!」

「また嘘ついた。……このタフチーンは焦げ的に1時間15分焼いてるの。私の好みの焼き時間だよ。それを知ってるのもクーファだけ」

「うっ…」

 

 

うわっ、……こ、怖っ。

 

俺も長く見てきて初めてここまで怒ったニィロウを見た。優しい子程怒ったら怖いって言うのは本当みたいで、普段からじゃ考えられないくらい低いトーンで詰めるニィロウにあの男もビビっている。

 

「……それにっ。第一クーファはそう言う連絡は絶対に事前にするよ。当日になっちゃったとしても朝には連絡が来る。……それすらも来てないってことは……ねぇ、貴方。クーファに何したの?」

「…い、一体何の話でしょうかっ?」

「1ついいか?」

 

そこで男の取り巻きの拘束を逃れたジュートさんが割って入る。その顔にはニィロウ以上の怒りが刻まれていた。

 

「クーファは今日、しっかりタフチーンを作っていたよ。すげぇ気合いが入ってたし、あいつの性格を考えてもこんなに時間には遅れて来ないさ。そして、クーファが作っていたはずのタフチーンをお前が自分で作った事にして持っている。……どういうことか…説明をしてもらおうか?」

「それは私にも説明をしてもらおう。最近公演の空気を乱しているとクレームが入っていてな。そのことについても色々聞きたいことがある」

 

額に青筋を立てるジュートさんの横に同じくブチギレているシェイクズバイルさんも並んだ。

 

そしてそのまま審問会が始まる。だが男は自分は何も知らない。このタフチーンは自分で用意した。鳥の胸肉を使ったのも脂身が少ないからだし、追加した層もオリジナリティだ。焼き時間は少々見誤ってしまって長くなってしまったの1点張り。言い訳臭いが実際そう言われてしまうと確たる証拠がない。流石に俺が行かないとダメかと重い脚を動かそうとして……その場に人間離れした、透き通るような声が響いた。

 

「……話は聞かせてもらったわ」

 

シアターのみんなでその声がした方を見ると、そこに緑色の光が凝縮し、1人の人の姿をかたどった。

 

その人物はすとっと地面に降り立つと、サイドテールに纏めた…白髪と言って差し支えがないだろうか。緑色の差し色が入った艶やかな髪を揺らし、華のような模様の瞳で民の驚いた顔を眺める。

 

『く、クラクサナリデビ様っ!?』

 

シアターに突如現れたのは、スメールの神にして知識の神。クラクサナリデビ様だった。

 

 

 

「……さて、いいかしら」

 

みんなが驚いて声を出せないでいる空気の中、腰に手を当てたクラクサナリデビ様が口を開く。

 

こうしてこの方が民の前に直接出てくるなんて初めてじゃないか?姿を見るのも初めてだが、この人では無い雰囲気と溢れる草元素力で草神様だと本能で判断がついた。

 

「く、クラクサナリデビ様……何故こんな所に…」

「…貴方は…踊り子のニィロウね。いつも素敵な踊りをありがとう。わたくしもよく見に来るわ」

「はぅっ」

 

クラクサナリデビ様のファンのニィロウがやられた。胸を抑えてはぁはぁしている。

 

そこにシェイクズバイルさんが腰を低くして彼女に尋ねた。

 

「クラクサナリデビ様。お会いできて光栄です。…ですが、どのような理由でこちらに…」

「シェイクズバイル。先程も言ったようにわたくしがここに来たのは、この騒ぎを収めるためよ」

 

そういい、スタスタとあの男の前に歩いていく。

 

「ぼ、僕は何も知らないっ!言いがかりだ!」

「…そう。それが貴方の答えね。………これを見なさい」

 

クラクサナリデビ様は虚空に手を伸ばすと、草元素が拡がって1つの窓を創り出した。その中でこの男が俺から盗んだタフチーンを籠から出して別の包みに入れ直すところがありありと映っている。

 

「なっ…!?」

 

「スメールの草木達が教えてくれたわ。この映像が証拠よ」

「それでクーファは?あいつは一体どこに行ったんだ?」

 

いや、ここにいるけども。

 

俺は手を挙げたりして自分の位置をアピールするが、クラクサナリデ様が出した映像にみんな釘付けになってて全然気がついてない。身体のダメージのせいで大きな声もあげられないし、何気にちょっと騒ぎの人の輪から距離があるんだよ。

 

俺がゆっくり歩いて近づいていると映像に俺が宝盗団と戦っているところが映し出された。ちょっと恥ずかしいから見ないで欲しいんだけど。

 

「っ!クーファっ!」

「なっ!あいつ大丈夫かっ!?」

 

あ、映像の中の俺が宝盗団リーダーの投げた爆弾で吹っ飛ばされた。シアターに悲鳴が響く。

 

そんでそのまま俺が籠の爆発に巻き込まれたところで映像は終了した。

 

「今ので終わりみたいね」

「……ぇ、……ぅ、うそだよね……?」

 

後ちょっとで着くからちょっと待てって!!バザールの入口からシアターまで地味に遠いんだよっ!!

 

シアターのみんなは俺が爆発で死んだと思ってちょっとパニックになってきている。あの、後ろ振り向いて貰えれば……その、わかるんですけども?

 

「………そ、そんな……くーふぁっ」

「いや、……勝手に、殺さんでくれる?」

「……えっ?」

 

やぁーっと着いたわコノヤロウ。近づいて来てからは人の輪の後ろの人に声かけたりしたのにパニックだから全然聞いてくれなかった。そろそろ泣くぞ?

 

泣き崩れそうだったニィロウは、響いた俺の声に顔を上げた。ジュートさんも勢いよく振り返る。

 

「クーファっ!?」

「……生きていたのね。良かったわ」

「だ、大丈夫かっ!傷だらけだぞ?」

「…あー…大丈夫大丈夫。かすり傷ですよ」

 

クラクサナリデビ様が安堵したように息を吐いたのを尻目に、ニィロウ達が俺に駆け寄って俺の傷を心配しだした。

 

心配させる訳にも行かんので痩せ我慢して平気を装う。

 

俺は呆然と幽霊を見るかのような目で見てくるあの男を見返した。

 

「よぉ、残念だったな。なんか生きてたわ」

「きっ、貴様ッ…!!」

 

もう俺への殺意を隠そうともしない。俺は男を止めようとしているクラクサナリデビ様に目線を飛ばす。意図が伝わったのが、手に纏わせた草元素を解いた。

 

その直後。男が懐から出したナイフを片手に俺に飛び掛ってきた。

 

「貴様さえ、居なければァー!!」

 

ここで俺を殺したところでニィロウから好かれるわけ無いのに。それを考える余裕もないらしい。

 

「クーファっ!!」

 

ニィロウは飛びかかる男を止めようとして神の目から水を出すが距離的に間に合わない。涙目で目を見ているニィロウに微笑み返すと、俺は授かった神の目の力を行使した。

 

「ぐうっ!?」

 

俺は水をナイフの刀身が埋まる程の大きさの水球に変化させて受け止める。そのまま腕を上に上げてやると無防備にバンザイをしてガラ空きになる。驚いて動きが止まった男に俺はここ数日と今日の分のイライラと怒りを全力でぶつけた。

 

「っ、らァッ!」

 

どばしゃーん。

 

俺は生み出した水をフライパンの様に薄く広く固めると、そいつの顔面に向かってフルスイングした。振ってるのは水とはいえ固めた質量は本物で形成して勢いよく振ったから衝撃面も完備している。男は悲鳴を上げれずバザールのストリートまでぶっ飛ぶと、大の字に広げた手足と頭で横に転がるっていうコントみたいな転がり方をしながら奥の壁にぶつかった。

 

「……ふぅ、すっきりした」

 

殴ったのは顔だけど水だから死んではないだろう。結構飛んだなありゃ。

 

「クーファっ……それってもしかして……」

「ん?…ああ、これがあったから爆発で助かったんだよ」

 

震える手で俺の腰に付いている神の目を指さしたニィロウは、俺の言葉を聞いて驚きの声を上げた。

 

俺はそんなニィロウに近づくと、彼女がずっと握っていたタフチーンを見る。

 

「ああ、そういえばごめんな。タフチーン、届けるの遅れて」

「えっ、そそんなことないよっ!クーファは謝らないでっ」

 

ぶんぶんと首を横に振るニィロウに俺は笑いかけた。驚いたけど、自分が作ったタフチーンだって見破ってくれたのがすげぇ嬉しい。

 

「ニィロウ、ありがとうな。俺のタフチーンってわかってくれて。嬉しかった」

「伊達に毎日食べてないからねっ!えへへ、一目見てわかったんだよ?」

「ああ、っ、ほんとにありがとうなっ」

「っ、く、クーファっ!?」

 

輝くような笑顔でちょっと自慢げに胸を張るニィロウに、神の目を授かった時の覚悟とか、そこまで見てくれてて嬉しいとか、守れて良かったとか色々な感情が大渋滞を起こした俺は、思わず彼女を抱き締めていた。

 

もう今回はきもいとか思われてもいい。俺は騒然とする周りも気にせずに、彼女に回した腕の力を強めた。

 

「んぅ、くーふぁっ…えへへ…」

 

腕の中で身動ぎするニィロウに、俺はーーーーーー

 

 

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

ええええっ!!!

 

こ、これは夢なの!?私…私っ!

 

クーファに抱きしめられてるんだけどぉ!!

 

全身に感じる自分とは根本的に違う感触と体温。息を吸うといっぱいに広がるクーファの香りに私は周りに人が居るにも関わらず内心舞い踊った。

 

彼は自分の作ったタフチーンを私が見破ったことに感謝をしていたけど、そんなの私にかかったらおちゃのこさいさいだもん。

 

だからさっきの男の人が「自分が作ったものです」とクーファのタフチーンを出した時、多分私は今まで生きてきた人生で1番怒った。

 

だって、いつもの時間になっても来ないクーファを待っていたらいきなりそんなことを言われて、全然知らない人が私の好きな人が毎日一生懸命作ってくれてるタフチーンを、あたかも自分が作ったかのように持ってきたんだよ?……なんだかまた胸がムカムカしてきたっ!

 

そこからクラクサナリデビ様が降臨なされて、彼が嘘を着いている証拠を提出してくれたから、あとは行方知れずの彼を探すだけ…ってところにクーファが戻ってきた。

 

映像で見たところ宝盗団に襲われたみたい。全身傷だらけだったけどクーファが生きていてくれた。大きな爆発に巻き込まれてたからもしかしてと嫌な想像をしてしまったけど杞憂だった。

 

そして、今に至ります。

 

このまで密着したのはお家にお邪魔して転んだじゃった時以来。事故だったあの時とは違って、今は彼から私を抱き寄せてきた。

 

う、うわぁっ!クーファってやっぱり身体鍛えてるんだ。硬いけど柔らかい?不思議な感触…………クーファ?

 

「……クーファっ?」

 

私を抱き寄せたクーファがさっきから動かない。心做しか私の方に体重を預けているような気もする。

 

ふふっ…クーファったら、そんなに私がいいのっ?

 

えへへっ……彼から抱き締めてくれたんだから、私も……いいよね?

 

私はドキドキしながら彼の背中に腕を回した。

 

 

ヌルッ。

 

 

ん?なんだろ、これ。

 

彼の背中に回した手が、なにやらヌルりとしている。…汗?それにしてはなんだかジトッとしてるような。

 

私はよく考えないままクーファの肩越しに自分の手のひらを見て。

 

 

 

 

 

「……………ぇ?」

 

そう、私の手の平隅々に付着した"赤"に、か細い声が出た。

 

「…クー……ファ……?」

 

頭の理解が追いつかない。数秒眺めて漸く自分の手に着いているのが彼の血だと理解した私は、慌てて彼を支えようとして。

 

 

クーファは私の肩からずり落ちるように、ドサッと音を立てて地面に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ……ぃゃっ……く、クーファぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 






最後のは調子こいて水フライパンフルスイングしたせいで傷開いただけです。

どうでもいいけど曇らせっていいよね(外道)

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