低カロリーなタフチーンの作り方を教えてください 作:猫好きの餅
お待たせしました。なんかめっちゃ伸びててびっくりしました。ありがとうございます。
連載しているもうひとつの作品と同時に執筆しているので投稿まで期間が空いてしまうことがあるかもしれませんが、ぜひこれからも楽しんで頂けると幸いです。
さて、前回の曇らせという苦味の次は、加糖のお時間です。ゆっくりしていってね。
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「知らん天井だ」
あれ?俺、確かニィロウを抱きしめてて……なんで俺寝てるんだ?
寝かせられていたベッドからむくりと身体を起こしてみる。自身の身体を見下ろすと全身に包帯が巻いてあった。
どうやらここは病院のようだ。それはわかったんだけど、なぜ自分がここに寝させられていたのかがわからない。いやまぁ結構な怪我したけど。あんちくしょうに水フライパンフルスイングキメてからなんか傷開いたような感じしたけど。でもここまで大袈裟な処置をされるようなもんではなかった筈だ。
と、とりあえずどこかに知り合いとかいないかな?なんなら俺のお見舞いとか来てくれたり……。
そんなことを思っていると病室の戸がカラカラと音を立てて開いた。
「…ん?…おぉ!起きたのか」
「……ディシアさん?」
日焼けした小麦色の肌に金のアクセントが入った黒髪を揺らして入ってきた美女は、起き上がった俺を見た空色の瞳を見開いた。
この人はディシアさん。スメール西の砂漠を主に活動している傭兵団「エルマイト旅団」の中でも有名な
「……スメールシティに戻ってきていたんですか?」
「ばーか。お前が倒れたって聞いて急いで戻ってきたんだよ。…宝盗団5人に1人で戦ったんだって?…無茶しやがって」
「あいて」
呆れたような、安心したような顔でデコをつつかれる。ベッドの横の椅子に脚を組んで腰掛けると、横の机に置いてあった俺の神の目に目をやった。
「それに、お前も授かったんだな。おめでとう」
「…ありがとうございます。これがなかったら死ぬところでした」
そう言うと、1人で宝盗団を街の外まで追いかけたのをちょっと叱られた。事実、追い掛けてたのは爆弾だったわけなので返す言葉もない。平謝りしていると、フンと鼻を鳴らしたディシアさんは自身の腰に着けている炎元素の神の目を指で撫でる。
「アタシはいつの間にか神の目が手元にあったからなぁ。クーファは何か願ったりしたのか?」
「ああ、それはーー」
言おうと口を開いたところで、まさかニィロウで頭の中がいっぱいになって死ぬ運命に抗ったなんて言える訳もなく口を噤んだ。
「…へぇ、なるほどな」
「な、なんですか」
「いやぁ、青いなあって思ってさ。……イイなぁ、アタシもそう言う体験をしてみたいもんだ」
「ディシアさんならそこら辺困らなさそうですけどね」
俺の様子で察したのか、組んだ足の上で頬杖をついてニヤニヤしながら言うディシアさんに、何気なしに言う。
実際、ディシアさんはかなりの美人だ。本人もオシャレに気をつかっているって言ってたし、彼女に護衛を依頼する旅団ももちろん腕を見込んでだけど理由の半分に美女だからってのも含まれていたりする。
「あ?砂漠の男共はダメだ。ガサツだし、清潔感ないからな。……そうだなぁ、他国から来た冒険者とか良いな。強くて清潔感あって、料理なんてできると最高だ。なんなら神の目とか持ってくれたら言うことない。アタシとの相性的に雷とかだったらもう逃がさないかもな」
「そんな最高品質みたいな男、存在しないか居たらもう彼女いますよ」
「だよなぁ…。年齢的にそういうのもそろそろ考え出す時期なんだが」
ディシアさんはぁ〜っとため息を吐く。そんな彼女に俺は気になってたことを聞いた。
「そ、そういえばニィロウとは会いました?」
「ん、あぁ、会ったぞ……クーファ」
「なんですか?」
「…頑張れ」
「なにが!?」
「何がって、お前自分が倒れた時のこと覚えてないのか?」
「えっと、あそこら辺痛いの我慢しててあんまり記憶ないんすよね」
俺が頬を書きながら言うと、ディシアさんはこめかみに手を当てた。あのな、と俺の肩に手を置いてくる。
「お前、考えられる限りで1番ニィロウに心配される倒れ方したんだからな?」
「えっ、マジっすか?」
「私は話を聞いただけだが、ニィロウとハグ中に気ぃ失ってそのまま倒れたんだぞ?その時のあいつの慌てようがほんとにやばかったって話だ」
うそん。えっ、俺そんなバッドエンドみたいな倒れ方してたの?俺の背中からサーっと音を立てて血の気が引いて行った。
「じ、じゃあニィロウは今……」
「あいつは今シアターにいるよ。もう少しで見舞い来るって言ってたぜ。だからお前……頑張れよ」
ディシアさんは俺の頭にポンと手を置くと、「また来る」と言い残して病室を出ていった。
俺、ニィロウに殴られるくらいじゃすまないんじゃないか…?
♢♢♢♢♢
「ーーロウ?………ニィロウっ!」
「…えっ?」
どうやらぼーっとしてたみたい。名前を呼ばれて顔を上げると、シアターの道具工程師のネガールさんが私のことを心配そうな顔で見ていた。
「…大丈夫?昨日あんなことがあったんだから、別に手伝いに来なくても良かったのよ?公演は今日お休みなんだから、クーファ君のところに行ってきたら?」
「……この後行く予定だよ。……起きてるかはわからないけど」
「ニィロウ…」
昨日、クーファは私の腕の中で意識を失った。直ぐに手当をしなきゃいけなかったんだけど、私はその場から1歩も動けなかった。
ピクリとも動かないクーファ。自分の手のひらの隅々にまで着いた彼の血。そんな状況に私は倒れた彼に縋り付いて言葉にならない声を出すことしか出来なかった。
幸い、その場にいたクラクサナリデビ様がすぐに処置をして傷は何とかなった。私はその後、騒ぎを聞いて駆けつけたドニアザードと一緒に彼に会うために病院を訪ねた。彼は全身に傷を負っていたらしく、身体中に巻かれた包帯が痛々しい。私はそんなクーファを見て胸が締め付けられた。
そこから一晩明けても私の心は晴れなかった。あれから私はご飯もろくに喉を通らなくて、ほとんど眠れてない。眠ろうと目を閉じると倒れた彼の姿がフラッシュバックしてすぐに目を覚ましてしまった。
初めてクーファがあそこまで怪我をしたのを見て、今まで考えもしなかった「彼が私の前からいなくなる」という感覚が震えとなって私を襲う。クーファにもう会えなくなる。もう彼の作ったタフチーンを食べられなくなる。彼の笑顔が、私がはしゃいでいるのを見て困ったように笑う顔が、料理をしている時の真剣な顔が見れなくなるなんて。
絶対……いや。
そう心の中で強く思うと、クーファの顔が見たくなってきた。まだ起きてるかわからないけど、まだ1回しかお見舞いに行けてないしこのままシアターにいるよりはいいかも。
「……うん。ちょっとクーファの顔みてくるよ。ろくに手伝えなくてごめんね?」
「いいのいいの。早く王子様をキスでもして目覚めさせて来なさい」
「ちょっ!な、なにいってるの!?」
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ど、どうしよう。俺ぁニィロウにどんな顔して会えば良いんだ?
だって、今回の件は完全に自業自得だ。さっきもディシアさんに言われたけど、籠をひったくられた時に追いかけずにそのままシアターに行けばよかったんだ。そこを追い掛けて、結果死にかけて、トドメに彼女の前でダウンとかかっこ悪いし要らん心配も掛けすぎだ。
ニィロウは怒ってるかな。なんか感極まって俺ニィロウに抱きついたような気がするし、全然セクハラだ。ギルティだ。
ま、まぁニィロウ来るのは昼過ぎって言ってたし、まだまだ時間が………。
コンコン。
ひっ!?
今度は誰っ!?
「……クーファ?入るよ」
ににににニィロウっ!?来るの早くないっ!!?
心の準備が出来てない俺は、あたふたと慌ててーーー
「……まだ寝てるよね」
「……………」
考える中の最悪の選択肢、狸寝入りを決め込んでいた。
…………何してんの俺。罪に罪を重ねてるじゃねえか。
と、とりあえず今起きました感を出しつつ目を……。
「………ごめんね」
え?
謝罪の声と同時に左手を握られる感触。薄ーく目を開けると俺の手を両手で包み込んだニィロウが俯いていた。今日は公演が無いのか、服装は踊り子の装束じゃなくて落ち着いた色のシャツとロングスカートだ。ヴェールも被ってないのでなんか見慣れない。ニィロウは寝ている俺に言い聞かせるように、ぽつりぽつりと話し始めた。
「ズバイルさんに聞いたんだけどね、あのお客さん……クーファに前からちょっかいかけてたって……。だから最近のクーファ、タフチーンを届けに来た時にすぐに帰ったり、私が被害に遭わないようにしてくれてたって……。私、そんなことにも気が付かないで1人で気分良くなって……」
違う。
ニィロウは悪くない。
「だからね、タフチーンを作って来ることでクーファが傷つくくらいなら………それなら…ね………、ぐすっ…」
「それは違うぞニィロウ」
「……え?」
好きな子がこんなこと言ってくれているのに、寝たフリなんかしてられるか。俺はむくりと起き上がると、呆然とこちらを見詰めるニィロウを真っ直ぐ目を合わせる。
「…ごめん。どう顔合わせていいか分からなくて寝たフリしてた。……でもっ、ニィロウがそんな事を気にする事は無いって。悪いのは俺の代わりになりたくて俺自身を殺そうとしてきた向こうの方。だから、ニィロウが謝ることじゃ………ニィロウ?」
「………ぅっ……くーふぁっ…!」
「ニィロウさん!?」
彼女はホロホロと涙を流していた。俺はそれに仰天して泣き止ませようとあたふたするが彼女の涙は止まらない。俺がどうしたらいいかわからなくてとりあえず涙を拭こうとしたその瞬間。
「…っ!クーファぁ!!」
「っ!?」
ニィロウが飛びついてきた。そのまま背中に腕を回されてぎゅーっと抱きしめられる。ってソコ傷あるとこォ!!
「……いでででで!?」
「…えっ!?あっ!ごごごめん!!」
さすがに痛かったので肩をタップすると彼女は慌てて離れた。だがその顔は笑顔のままだ。
「……クーファっ、良かった……」
「悪い、心配かけた……って、なにしてんの!?」
「こ、こうなら痛くないよね……?」
な、なぜベッドに乗っかって来るんですかっ!?
困惑する俺をよそに、ニィロウは俺の脚を跨ぐように俺の上に座った。
まるで対面するように膝に座られて、柔らかいやら軽いやら、嬉しいやら困惑やらで頭の整理が追いつかない。というかいい感じに身長差が埋まって、俺の顔の目の前にニィロウの顔がある。彼女の瞳に写る俺が見える位の距離だ。
「…えへへっ……起きてよかった……!」
そしてそのまま俺の首に腕を回して、改めて抱きつき直してきた。
はっ!?
「……ニィロウ?」
「んんっ?どうしたのクーファ?もしかしてまた痛い?」
「い、いやそういう訳じゃないけどさ?」
「……クーファは、抱き締めてくないの?」
「エッ」
「…………」
「し、失礼します」
無言で見つめられて(ど至近距離)俺の腕が脊髄反射でニィロウの脇の下から背中に回った。少し力を入れて抱き寄せてみる。
「…んっ」
いやいやいやいや、何が起きてるんだ今!?
もしかしてここって天国なのか!?実は普通に死んでて天国に飛ばされていい夢見てるだけとか!?
そんなことをぐるぐる考えていると、すっとニィロウが離れた。ただまだ俺の膝の上に座ったままなので密着度はそんなに変わらない。でもやっと落ち着いて話せる。と、思っていました。
「……もういっかい」
ニィロウは今度は俺の脇の下に手を回して抱きついてきました。
「……ん!」
もう何が何だかわからん(昇天)。また抱き締めてと目線で訴えて来るので俺も今度はニィロウの首に腕を回した。当然、手は彼女のサラサラの髪に触れるわけで。
「…ん〜」
ニィロウの気持ち良さそうな声に、俺はもう一度意識を失いそうだった。
そのまましばらく抱き着かれて、俺が何も出来ずに腕を回したまま固まっていると、ニィロウがやっと身体を離してくれた。
「……ニィロウ」
「…なぁに?」
「ありがとう」
「えっ、私そんな、お礼を言われることなんて…」
顔を俯かせながら言うニィロウに俺は首を横に振る。
「あの時……渡されたタフチーンを俺のだってわかってくれて、ありがとう。俺、すっごい嬉しかったんだからな?」
「そ、そうなの…?」
「ああ、しかも当たり前みたいに説明まで始めてさ…ちょっと照れくさかったけどな」
「う、うぅ…ごめんね?あの時はちょっと周りが見えてなくて」
「ああ。あの時のニィロウめっちゃ怖かった」
「怖かった!?」
俺は昨日のブチ切れニィロウを思い出して身震いをする。
「お前、あんな低い声出るのな。びっくりしたわ」
「だ、だって……あんなの普通怒るでしょ?クーファが毎日一生懸命さ、私が飽きないように毎日具材や味も変えてくれて作ってくれてるのに、嘘まで付いて渡してきたんだもん。しかも裏でクーファが傷付いてたなんて………ああもうっ!今思い出しても腹が立つよっ!」
あ、あの、怒るはいいんですけど、人の膝の上で上下に動かないで貰えます??そんな俺の心配をよそに、ニィロウはムスッと頬をふくらませる。
「そうだ。シェイクズバイルさんから聞いたんだけど、あの人……モンドで料理人してたって言うのも嘘だったんだって。タフチーンの作り方なんて全然知らなかったよ」
「ああ…だから俺のを盗りに来たのか」
唯一謎だった部分がやっとわかった。俺から盗むより自分で作った方が安上がりじゃんとか思ってたんだけど、そもそも作れないんかい。はぁ、なら尚更無駄苦労じゃねぇか。
まあいいかと俺はニィロウの目を真っ直ぐ見つめながらお礼を言った。
「そっか。ありがとうな、伝えてくれて。これでまたニィロウにタフチーンを持って行けるよ」
「……う、……〜〜っ!」
「えっ、なになにっ?」
すると何故か顔をぼふっと音が立ちそうな勢いで赤くなったニィロウは再度俺の肩に顔を埋めた。そこからくぐもった「うううううう〜」とかいう可愛い唸り声が聞こえてくる。
「……どうした?」
「……ぅぅぅぅ〜…私、ダメな子だぁ〜」
「なんだよ急に。お前がダメな子ならテイワットの全員がダメだろ」
「もおおおおっ、そういうとこっ!」
「なにがっ!?」
もう一度抱きついてきたニィロウをどぎまぎしながら宥めていると、俺の肩に押し付けた顔から小さい、嗚咽混じりの声が聞こえる。
「だって私……いますっごい嬉しいの」
「……それでいいので?」
「ちがうのっ!だ、って、私ぃ、今、すごく安心した……。ほんとはクーファが私にタフチーンを作らなかったらっ……、君がこうして君が傷つくこともないのに…わかってるのに…さっき、言えなかった……!」
「…ニィロウ」
「そ、それなのにっ……わたしっ、君からそうやって言われて……まだタフチーンを作ってくれるって言われて……っ、安心しちゃってる自分がっ……ほんとにいや………」
そんな事を思ってくれていたのか。彼女の本心を聞いて、心が更にあったまった。
「ニィロウはさ」
「……っ、なに?」
「俺がなんで冒険者を諦めて料理人になったか知ってるか?」
「…えっ?……それは……っクーファがやさしいから……」
「違うな。そんな聖人みたいな理由じゃないよ」
「……だったら、なんで…?」
「毎日毎日、ダンスを頑張ってる踊り子に美味い飯食わせてやりたかったからだよ」
「……っ!!」
ああ、遂に言っちゃった。でも、これを心に仕舞っといてニィロウが泣くよりも100倍マシだ。
「だから、俺はお前が嫌がらない限りは毎日ご飯を届けに行くよ」
「……それって…」
「ん?」
ニィロウは俺の目をじっと見詰めている。その顔はさっきよりも真っ赤で、綺麗な水色の瞳が俺を映しながら揺れていた。
「………そう、なんだ」
ニィロウはすとんとベットから降りた。顔をあげたニィロウの表情はもう曇ってはいない。
「……それなら!また、私にタフチーンを作ってきてくれるっ?」
「勿論。楽しみにしとけ」
「〜〜っ!うんっ!!」
ニィロウは、満面の笑みで頷いた。
「ところでさ」
「ん?どうしたのクーファっ?お水っ?それともご飯食べるっ?……あ、汗かいちゃったもんね、…わ、私で良かったら……身体拭く…けど…?」
「帰らないの?」
外を見るともう夜だ。さすがに帰宅した方がいいんじゃないかと提案してみると。
「やだ」
「やだ!?」
ぷいっと可愛くそっぽを向いた。いやそんな事言ってる場合じゃないんですけど?
「私に心配かけた罰っ。今日は泊まり込みでお世話するからねっ!」
「エッ」
とまり、こみ?
「……な、何言ってるんなニィロウ?ここにトマトは無いぞ?」
「はいはい、トマト煮込みなんてベタな聞き間違いしないのっ。…それとも…私じゃいや…かな…?」
「そんなことは無いです」
「じゃあ……良いでしょ?」
「び、病院に許可は?」
「さっき取ったよ。病室も広いし、余ってた布団貰ってきたから」
「いやいやいやいや」
だからお前、さっき1回病室出て戻ってきた時大荷物だったんかい。
だからといって同じ部屋で寝るのはアウトだろ。
「だってお前、常識的に考えてな……「そ、それとも…」…へ?」
俺が間抜け顔で彼女の方を向くと、ほんのり頬を染めたニィロウがスカートを握りしめて。
「……なにか、……するの…?」
「ッーーー」
こんなん反則だろ。
俺はもう彼女の泊まり込み宣言に首を縦に振るしかないのだった。
作者のもうひとつの作品って読んでますか?(投票の比率で世界観を統合するか検討します)
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