ウマ娘プリティーダービー『The Player』   作:K.T.G.Y

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某所でシングレのドメインが取得された事で「アニメ化か?」と話題になっているようです。
けど大丈夫?あれやるとしたら大河ドラマ級になるよ
それにプリティ要素ないからイメ損になりかねんよ
心配だなあ……


クリスマスに急にメスの顔になる卑しかウマ娘おるとよ

 

『さあ、先頭が第四コーナーを回って直線に向かう。後方はキツイか!?』

『いえ、東京2400mは差しウマ有利です』

 

「うおりゃああああああああっっっっっっ!!! あああああああああっっ!!」

『ここで来たジャングルポケット! 最後方近辺からのとてつもない切れ味の差し脚だ!』

 

「いけー! ポッケの姉貴ー!」

「捲れますよ姉貴ー!」

舎妹のリーゼント頭のウマ娘が限界まで声量を上げて応援する。

 

『どうか! ジャングルポケット! 抜けるか!? ……抜いた抜いた! 差し切ってゴールイン! やりましたジャングルポケット! ジャパンカップ制覇!』

 

ワアアアアアアアアアアアツツ!!!!

 

『古バと世界の強豪相手にとてつもない末脚! 撫で切りましたジャングルポケット! 遂にGⅠに手が届きました!』

「っっっっっしゃあああああああああああっっっっっ!! 俺の……俺の……勝ちだぁぁぁぁぁあぁあぁっっっっ!!!!」

ジャングルポケットの魂の咆哮に鳥が慌ててその場を羽ばたいていった。

 

 

「もぐもぐもぐ……。って事があってよー。これで俺も晴れてGⅠウマ娘だぜ。もぐもぐもぐ……」

翌日。アグネスタキオンとマンハッタンカフェはジャパンカップを勝ったジャングルポケットになぜかパフェを奢らされていた。

確かにもし勝ったら奢る、とは言ったが、まさかこれで五杯目とは思わなかった。

「いやーその日は興奮して眠れなかったぜ。応援してた舎弟……じゃねえ、フリーの連中にも盛大に祝われてなー。胴上げだぜ胴上げ。もぐもぐもぐ……」

「……食べるか喋るか、どっちかにしてください」

「まったく、廃涎物をこっちに飛ばさないでくれたまえよポッケ君」

(一体何杯食べるつもりなんでしょう……?)

(心配するなカフェ。Player君にツケで払わせるから)

「遂にGⅠに手が届いたんだ。これで多分有馬に出れるだろうな。カフェ、勝負しようぜ!」

既にPlayer陣営はカフェ出場予定、タキオン未出走の方向でスケジュールを組んでいるとメディアに報告されている。

両者がぶつかり合うのはほぼ当確扱いだろう。

「……分かり、ました」

「そうこなくっちゃな! できればタキオンとも戦いたかったが、ま来年以降だな。あ、店員さん、パフェお代わりくれ。ジャンボサイズクリームマシマシで」

「……まだ食べるつもりなのかい? 計量で酷い結果になってもしらないよ」

「甘味はいつだって別腹なんだよ」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

暮れの中山有馬記念。ファン投票で出走が決まるこのレースは全てのウマ娘にとって誉である。

しかも今年は12月25日。クリスマス同日だった。

 

「はっ……はっ……はっ……はっ……」

その決戦に向け、マンハッタンカフェは自分を追い込んでいた。

「ふむ、状態は悪くなさそうだねぇ」

「ああ。これなら絶好調を維持したまま当日を迎えられそうだ」

タキオンは秋天以降は悠々自適、研究に勤しんだり練習にも出なかったりとダラダラしていた。

本格的始動は年明けの『大阪杯』を想定している。それまでは見物人に徹する腹積もりだ。

「まあそういうわけでカフェはポッケ君に挑戦状を叩きつけられたわけだよ。まあ臆するカフェではないだろうが」

「ジャパンカップ、か……。まあ下剋上と言えば聞こえはいいが、結局はフロックだよあれは」

「ふぅン……」

「秋天の泥試合で古バ勢はボロボロ。ジャパンカップは疲れも取れぬままの強行出場。案の定レース当日は軒並み惨敗だ。

有馬以前に、もうまともに走れないよ。まあ青春のほろ苦い1ページを残したいというのなら、話は別だけどね」

「負けが分かっているレースを走らせるなど、君にとっては愚の骨頂、というわけか」

「みんな言うんだよ。負ける気で走っているわけではない、って。でも絶不調状態でレース当日を迎えてまともな走りができるわけがない」

「そりゃPlayer君からすれば、大して役作りもできない無個性のトレーナーなど、いてもいなくても一緒だろうけどねぇ」

「では尋ねよう。タキオン、私が来て以来、君はどう変わった?」

「ほほぅ……それを聞くか? この私に」

タキオンは一つ咳払いを置くと、ペラペラと答え始めた。

「まず走ることができるようになった。これは僥倖と言えるだろう。それだけではない。君は私にとってモルモットに過ぎないが、普段の献身的な姿勢には心から謝意を示したい。

思えば君が現れてから私の研究は飛躍的に向上した。その功績は計り知れないのは間違いないねぇ」

Playerの顔を見ながら、ニヤニヤとしつつタキオンは話を続ける。

「そしてトレーナーという一面だけでなく、生活面においても献身的に接してくれる。生活能力がない私には君は大切なパートナーだ。

好意ともまた違う感情を持っていると言えるだろう」

「…………」

「だから勝手にいなくならないでくれ。君ほどのサンプルには二度と出会えないからね」

「善処するよ」

「……」

 

(ふむ、鎌を掛けてみたが、中々餌の付いていない釣り針では動揺の素振りを見せないか)

(所詮この世界がゲームであり、我々が登場人物に過ぎないのであれば、Player君は一定の期限が来たらそこで育成終了で我々の元を去るのではないか……?)

 

「ふぅ……。Playerさん、終わり……ました」

「お疲れ様カフェ。今日はもう上がっていいよ」

「はい……」

 

「あ、そうそう、タキオン、カフェ、君たちは有馬の前日、空けておいてくれ」

「んぅん~、何か催しでもあったかな?」

「ない筈ですが……」

「いやなに、私も少し色気を出してみたいと思ってね」

「というと……?」

 

「クリスマスデートだ」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ひゅうぅ~~。

「うぅ、寒い寒い、Player君はこんな日に外に出ろとか拷問のつもりかい?」

「知りません……。まあ、デートというからには、その……」

 

(抱ケェーーー! 抱ケェーーーー!)

(押シ倒セーーー!)

(ウマピョイダ! ウマピョイスルンダ!)

 

「……////。みんな、落ち着いて……」

「ふぅン。カフェ、心拍数が上がっているようだねぇ。君も緊張しているのかい?」

「……! し、しりません!(ぽかぽか)」

「おやおや君でも緊張する事があるんだねぇ。知っているかい? クリスマスイブの夜は人間にとって『性の6時間』と言われカップルが皆(うまぴょい)する事で有名で……」

「怒りますよタキオンさん……!」

「いやはや両手に華とはPlayer君も人の子なんだねぇ……」

 

ドキドキドキドキ……。

(かくいう私も微妙に落ち着かないんだけどねぇ)

 

「お待たせ、タキオン、カフェ」

「ようやく来たのかいPlayer君。女性を待たせるとはいい度胸じゃないか」

「プライベートが忙しくてね。それじゃあ、行こうか」

「ほほぅ……いきなり来て即ベッドインかい?」

「……////(ドキドキ)」

「まあ、いい所だと思うよ」

 

 

「うわぁ、綺麗ですね……」

「まあ汚くはないねぇ」

Player、タキオン、カフェの3名は東京の夜景が美しい高級レストランに通されていた。

正装必須なほど一部では有名な超VIPなレストランである。

ドレスルームで、タキオンは蒼色の、カフェは黄色のドレスを身に纏っていた。Playerはタキシードに身を包んだ。

 

「……何だか、場違い過ぎて……落ち着きません」

「ではカフェに作法を伝授しよう。そこの水の入ったボウルは尻尾を洗うために使うんだ」

「……あからさまな嘘を付かないでください」

 

「二人とも綺麗だね」

「……Playerくぅ~ん、こういう時は綺麗じゃなくて可愛いって言われた方が女性は喜ぶんだよ」

「私は……どちらでもいいです……(かぁぁぁ////)」

 

(……拙いな。場が持たないかもしれないぞ)

(Playerさんがリードしてくれなきゃ、わ、わたし、は……)

タキオンは仏頂面の裏で冷や汗をかいていた。カフェは頬を紅潮させていた。

 

「大丈夫、見ている人なんて背景だからいないよ。緊張することなく、前夜祭を楽しんでくれ」

「そんな事言われてもねぇ」

「…………」

 

「では緊張を解すために、サンタからクリスマスプレゼントといこう」

 

ぽん! ぽん!

 

二人の前に綺麗な包み紙のプレゼント箱が置かれる。

「どうぞ。開けてごらん」

 

「(ごそごそ……)あ、新しいマキネッタ……! しかも綺麗な黒! うわぁ~有難うございます」

「ミルクフォーマーまでは手が及ばなかった。悪いがそれだけで我慢してほしい」

「充分ですよ。ああ……早くこれでカフェオレを淹れたい……」

カフェはあからさまに上機嫌になった。

「さてさて、私の方は、と……(ごそごそ……)ほほぅ、ヘレンドのティーカップとソーサーか。良い物だねぇ」

「タキオンは良い何処の出だから、ブランド物でなければ満足しないと思ってね」

「上物で光栄だよ。君は見るセンスがあるようだ」

タキオンもニヤニヤしている。

 

「では料理を楽しもう」

前菜、魚料理、スープ、肉料理、デザートと一通りのフルコースが運ばれてくる。

カフェは最初緊張で味が分からなかったが、慣れてくると深い味わいに気分がよくなった。

「Playerくん、せっかくだからワインも頼んでくれたまえ」

「ああ、いいよ」

「……私は明日に控えて、……お酒の類は遠慮しておきます」

グラスに注がれたワインは、飲まなくても分かるほど芳醇な香りを放っている。

「素晴らしい味わいだ」

「よかったねタキオン」

「Playerくんも酒を嗜むことはあるのかい?」

「まあ、ね。酔いたい夜もあるさ。もっとも、ゲームでなければこんな高級酒は飲めないが」

「役得、と言えるのかな?」

「酒は熟成させればさせる程味わいが深くなる。しかし化石の鳥が空を飛べないように、飲み手がいなくなりただの腐った水に成り果てることもある。これは飲み頃といえるね」

「ふぅン……」

タキオンがグラスの中のワインを転がす。

「君に付いてくれば、欲しいものは全て手に入る……それは夢なのか、はたまた悪魔の囁きなのか、科学者の視点としては興味が沸くねぇ」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「いや~食べた食べた。いい気分だ。実にいい気分だ」

「……ご馳走様でした」

「喜んでくれて何よりだよ」

 

どんっ!

 

「きゃっ……!」

カフェは後ろから突如『お友だち』に押された。

それを胸で受け止めるPlayer。

 

(食欲ガ満タサレタラ後ハ性欲!)

(レッツゴーウマピョイ!)

 

「も、もう、みんな、全く……!」

「大丈夫かい、カフェ」

「え、ええ……。大丈、夫、です……(意外と胸鍛えられてて抱かれて気持ちが……あわわ///)」

その様をタキオンがニヤニヤしながら見つめていた。

「さて……君たち二人が英気を養うためにホテルを用意したよ」

 

「「なっ!?」」

 

「高級ホテルのスゥィートルームだ。とてもいい所らしい。楽しみだね」

 

「「ぶっ!?」」

 

(たたたたたたたたタキオンさん!!? これはどういう事ですか!?)

(お、落ち着くんだカフェ! 私たちも聞いてないぞ!)

(つ、つまりPlayerさんは私たち二人と……え、え、え……)

(愛の終着駅というやつなのかPlayer君!?)

「……?」

 

 

サアアアァァァ……

 

カフェは家族風呂級に広くて立派な浴室でシャワーを浴びていた。

一方タキオンはジャグジー付きの風呂で鼻歌を歌っていた。

 

しかし二人ともレースを走った後のように顔が真っ赤っかである。

 

「おやぁ、カフェ~、何だか下半身をモジモジさせているように見えるのは気のせいかい?」

「し、知りません! タキオンさんこそいつまで入ってるんですか!?」

「いや~、私は酒を飲んだのでねえ。熱で酒気を抜いておかないと、ね……はは」

 

通された大部屋は全く持って素晴らしい所だった。

この浴室だけではない。装飾はいずれも最高級。テレビは最大サイズ。ルームサービスは頼めば何と全額無料。

そしてベッドは天蓋付のダブルである。

 

だが二人ともその高級感を味わうような状態ではなかった。幾ら落ち着こうと言い聞かせても動揺が止まらない。

なお、二人は知らない。Playerが、既に「保存して中断」をしている事を。

ちなみに周囲の「お友だち」は振り付けつきでうまぴょい伝説を踊っていた。

製作者がワインを二本開けてパンイチで踊りながら作った作品である。皆は座して聞こう。

 

「ふ……ふふ……いやはや、やはりPlayer君も「男」なんだねぇ。まあこんなにも見目麗しきウマ娘がいるのだから欲情しても当然か」

「浴場と欲情をかけているんですか……」

「いや偶然だよ。ああ、私たちはこれからめくるめく快楽と熱情の世界へと……」

「……タキオンさん、本気で怒りますよ」

「とはいってもねぇ、ここまでお膳立てされて答えないのも女としてやぶさかではないというか……」

「…………」

 

(痛イノハ最初ノウチダケ! スグニ気持チヨクナル!)

(女トシテ本懐ヲ果タスンダ!)

「~~~~~////」

 

ガチャ……

 

そして覚悟を決めた二人が、遂にバスルームから出てきた。バスタオル一枚羽織って。

「さあPlayer君! いざ(うまぴょい)!」

 

ヒュウゥゥ~~~~

 

Playerはいなかった。

 

「あ、あれ、Player……君……?」

「テーブルに書置きがありますよ」

 

『タキオン、カフェへ。お金は全て払っておいたので安心して泊まってほしい。明日の有馬の為にカフェの勝負服も予め置いておく。いい夢が見られますように』

 

「…………」

「…………」

「……ぷ、プレイヤーくぅぅぅぅぅぅん!! 君はヘタレかね!? 悟りを開いた修行僧か何かかね!? 散々もやもやしていた私たちが馬鹿みたいじゃないか~~~!!」

「……ほっ」

「こうなったらヤケ食いだ! ルームサービス上から下まで全部食べてやるぞ!」

「私は明日の為に早々に寝ますね……」

 

(何だろう……怒りたいような、安堵するような、不思議な気持ち……)

(でもそれだけ……私たち二人を大事にしているという事ですよね。Playerさん……)

(私たちが幸せになれるルート、か……)

 

「……」

(そうか……。私は、あの人の事を……)

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

12月25日。暮れの中山レース場で行われる有馬記念。

天候、芝は「良」となったが、寒気の影響で気温は前日より更に冷え込んだ。

 

「うぅ~~」

「どうしたんだいタキオン?」

「胸やけが収まらなくてねぇ」

「だからあんなに食べない方がいいって言ったんですよ」

「全く、誰のせいだと思ってるのかね。この唐変木が。幾ら脇役に徹しているとはいってももう少しこう何というか……うぅ~」

 

控室にはいつもの三人。調子の悪そうなタキオンと比べ、カフェは間違いなく『絶好調』。

どんな布団乾燥機でもできないほどの、アドマイヤベガが嫉妬するほどの、ふかふかの布団で眠れただけのことはある。

 

ニコニコニコニコニコ。

 

しかも何故か上機嫌である。

「カフェ、気分がいいようだね」

「……はい。私、気付いたんです。Playerさんが……私たちをとても大事にしてくれていることを……改めて」

「そうか」

「だから、私……勝ちます。……勝利を、Playerさんに捧げます」

「そこまでしなくていいよ。勝利はカフェの手柄だ。私の報酬ではない」

「……ふふっ」

(本当に機嫌がいいんだな)

 

ガチャ。

 

「マンハッタンカフェさん。時間です。レース場までお願いします」

「分かりました。……トレーナーさん、行ってきます。勝ちます」

「うん。期待しているよ」

 

 

『さあ有馬記念。間もなく本バ場入場です』

『今年を締めくくる大一番。どんなドラマが待っているんでしょうか。私も期待が膨らみます』

 

アグネスタキオンが未出走を早期に公表していたものの、投票すれば出てくれるだろうという思惑から、投票は彼女に集まった。

しかし陣営は最後まで走らないという旨を貫いた。結果、得票はバラけた。

結局、マンハッタンカフェは当日3番人気まで順位を下げた。

他の面子は、テイエムオペラオー、メイショウドトウ、ナリタトップロード。

そしてジャパンカップで惨敗を喫し雪辱を誓うオグリキャップやスーパークリークといった秋天の精鋭が集う。

だが全てが全て出場できるわけではない。泥沼の秋天を走ったせいで脚部不安を抱え泣く泣く出走を諦めたウマ娘も多い。

 

「はーっはっはっは! このメンバーで一番人気! 流石ボク!」

テイエムオペラオーが高々に笑う。

「世代交代の時は来た。この刻を超越した世紀末覇王がこの有馬で誰よりも輝いて見せよう!」

「はぅぅぅぅ……どうしてわたしが二番人気……これは何かの間違いですぅ……」

メイショウドトウが隅っこで怯えるように呟いた。

 

「…………」

オグリキャップは複雑な心境だった。

直前のジャパンカップは14着惨敗。今までで一番酷い敗着だった。

オグリキャップは終わった、そう囁く者も多い。

そして、かつて死闘を繰り広げたライバルたちも今や数えるほどになっていた。改めてあっという間ながら長く感じた現役生活を振り返る。

 

(例え私がターフから去っても、すぐまた新たなスターが現れる。いつまでもスターウマ娘ではいられないんだ……)

(それでも……それでも……私はオグリキャップなんだ。最後となっても悔いなく終わりたい……)

 

オグリキャップは悲壮感の中、静かに闘志を燃やしていた。

「やあやあオグリキャップ先輩。君のスターの看板、ボクが取らせてもらうよ」

そこをテイエムオペラオーが話しかける。

「…………」

「レースの世界は新陳代謝が不可欠。そう思わないかい? あなたを倒して、このボクが覇王となる!」

「……私はオグリキャップだ。オグリキャップとして生き、オグリキャップとして死ぬ。だが誰にも先頭を譲る気はない」

 

「……いえ、勝つのは私です」

そこにマンハッタンカフェが横槍をいれる。

「……挨拶だけは、しておこうかと思いまして……」

「そうだったね。君もいる。黒い悪魔ともゴーストとも言われる君が、ね」

 

(ビデオで見た。彼女の周囲は他のウマ娘が走りながら冷や汗をかいている様子だった)

(この大一番、最も脅威なのは彼女かもしれないな)

 

 

それぞれの思惑、それぞれの胸中を乗せ、スターターが昇降機に乗る。

旗が振られ、陸上自衛隊のファンファーレと共に観客席から大歓声が上がる。

 

『さあ暮れの中山有馬記念、この一年、多くのファンに支えられたウマ娘が一堂に会する2500mの物語。勝つのは新世代か、あるいは古豪の意地か』

『このファンファーレを聞くと、年末が来たんだなというファンも多いでしょう』

『今日の中山は冷えました。しかし、観客は暑い程に声援を送ります』

 

『既に枠入りが始まっています。キャラクターが違うウマ娘達、どのウマ娘にも期待がかかります』

『それでも基本は先団が一塊になるのではと思いますね』

 

(見せてあげよう覇王の走りを!)

(うぅ~こんな大舞台、緊張しますぅ~)

(今は誇りもプライドも捨てて、このレースに全てを賭ける!)

(メジロ家のウマ娘として、負けられない!)

(勝つのは俺だ!)

(…………)

 

 

ガコン!!

 

『スタートしました! 各ウマ娘いいスタート。ジャングルポケットだけが最初から控えるレースを選択しました』

(これでいい。直線が長かろうが短かろうが関係ねえ。全員ブチ抜くまでだ!)

『これだけ密集していると序盤ながら位置取りが熾烈になりそうですね』

『各ウマ娘がコーナーに入っていきます』

 

「う……」

テイエムオペラオーは察した。徹底的にマークされている。前も、横も、後ろさえも。

まるで包囲網のような塊の中にいた。

(ふ……成程、ボクに勝つ為には楽なレースをさせないこと、か。どこまでも正しい)

これを抜け出すのは容易ではなさそうだ。

序盤の位置取りをしくじったわけではない。スタートは完璧だった。コーナーに入る時も膨らんだ覚えはない。

これは明らかに意図的なマーク……。

(すいませぇん……オペラオーさん。あなたに勝つには、こうするしか……)

背後にはメイショウドトウがぴったりと付いた。

(焦るなボク。このペースを保つんだ。チャンスはある。信じるんだ!)

 

『さあバ群が固まりながらまずは一周目のホームストレッチ! オグリキャップ前めに付けた。テイエムオペラオー先行』

『大観衆がウマ娘に声援を送ります。この声援を最後に手にするのは誰なのか』

 

対してオグリキャップは比較的楽なレース展開になった。

(これは……周囲がテイエムオペラオーをマークしている。くそっ、私など、もはや眼中にないという事か!)

苛立ちはある。傍を行くスーパークリークは視線一つよこさない。

だがここで掛かってしまっては元も子もない。

オグリキャップは思い返す。自分のキャリアは笠松から始まった。そして中央入り。多くの戦友と魂と身を削り、焦がし、幾多の試練、困難のようなレースを走ってきた。

どれだけちやほやされても去るときはあっという間。それを十分に分かっていた。

それでも、それでも、それでも、もう一度あの大歓声を独り占めしたいという思いはあった。

(思い出そう。走る事。それ自体のかけがえのなさを……そして勝つ!)

 

『さあこの時点である程度固まったバ群の位置が定まってきました』

先頭に立つのは無名のウマ娘。しかしこの大舞台に投票で選ばれたことを誇りに思っている。その感謝をこの走りで返したい。

オペラオーは未だバ群の中、オグリは4番手。メジロライアンは中団。マンハッタンカフェも中団。最後方付近にはジャングルポケットとイナリワン、タマモクロスもいる。

(ちっ、意図的に控えたってのに何で競り合わなきゃならねえんだよ)

(楽に走られると思うなや、新人)

(ぶっこ抜きはおまえさんだけじゃないんだよ)

 

向こう正面に入り先頭は2、3バ身をキープしている。1000mタイムは1:01.3。飛ばすウマ娘はおらずまずまずのペースだ。

 

「ふむ……みんな自分のペースを保っているというよりは、ダラダラ走って最後にようやくヨーイドンという腹積もりかな?」

観客席のPlayerが呟く。

「オペラオーはマークされて厳しい。対して他のウマ娘は比較的楽に走れているのかな」

「誰かを意識するというのは考えているよりずっと難しいよ。0.1秒で攻防が目まぐるしく変わるレースではね」

「私も皐月賞でブルボンマークをやったが、あれは単体であったのでそれほど苦にはならなかったな」

「勝つ為に相手に自分のレースをさせないというのは有効なのは間違いない。一方で相手を意識するあまり自分のレースができなくなる諸刃の剣でもある」

「私は、そんなミスは犯さないけどねぇ」

 

そして先頭が第3コーナーに差し掛かる直前、タマモクロスとイナリワンが早めに仕掛けた。

「ええっ!? ちょっと待てよ!」

「お先、新人」

「ずっとそこで芝と遊んでな」

(……さあオグリ、おまえが本当に死んでしまったのか、見届けさせてもらうで!)

後方が早めに仕掛け、否が応でもバ群は密集する。

 

『さあ第4コーナーに全ウマ娘が差し掛かる! 決着を付けよう有馬記念!』

『テイエムこないかテイエムこないか!』

 

「……!」

このままバ群に囲まれ何処にも行けぬまま終わり。それもまたレースであり、どのウマ娘でもいつかは経験する事だ。当たり前の事象だ。

それでも、ひょっとしたら、これが生身のウマ娘が行うレースなら、『何か』が起こるかもしれない。

 

『中山の短い直線と、急傾斜が襲い掛かる! テイエムは未だバ群の中!』

 

しかし中山の地獄の傾斜を踏み込んだ瞬間、横のウマ娘が僅かにバランスを崩した。

 

「ここだああああああああっ!!」

そして遂に、テイエムオペラオーがカテナチオの如きバ群を抜け出す。

我慢に我慢を重ねての、封殺で終わるかもしれない道中をじっと耐え凌いでの飛び出し。オペラオーの喜びも一塩だった。

しかしレースが終わったわけではない。残りおよそ200m弱。いけるか……?

 

『テイエムきた! テイエムきた! テイエムきた! テイエムきた!』

『いやしかしその横、抜け出したのはオグリキャップだああああっ!!』

 

「うあああああああっ!!!!」

(どうだ大観衆! 私を見ろ! 私を見ろ! 私はここにいる! 私は死んでなんかいないぞ! 私は……オグリキャップだ!)

 

『オグリ先頭! オグリ先頭! オグリ先頭! オグリ先頭! オグリ先頭! オグリ先頭!』

 

「もうこれで二度と走れなくなってもいい……! 車椅子でも何でも乗ろう……! だから、ありったけを……!」

「流石は大先輩! 何という気迫だ! あなたと戦えて光栄だよ! だがボクも……負けない!」

 

『残り100mを切った! しかし後続も追い縋る! 誰が勝つのか全く分からないぞ!』

 

先頭オグリ、並ぶようにハナ差でオペラオー。しかしその背後から、あらゆる強豪がやってくる。

スーパークリークが。メジロライアンが。イナリワンが。タマモクロスが。メイショウドトウが。ジャングルポケットが。

全員がゴール板に早く届け、自分が一番先だと首を前に突き出しての全力疾走。

 

もうゴール板は視界内。

しかし僅かにテイエムオペラオーとオグリキャップの叩き合いか。

縮まりそうで縮まらない溝のような差。

だが誰も諦める気は毛頭ない。

 

「「「「「勝つのは私だああああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」」」」」

 

残り70……50……。

 

ぶるっ。

「「「「「えっ……?」」」」」

それは確かに感じた。こんなに汗だくで走っているのに、こんなに熱を放っているのに、間違いなく感じた、背筋が凍り付くような寒気……。

背後を見る余裕はない。しかしその違和感の犯人が、こんなにもあからさまなプレッシャーを放出しているのが誰なのかは分かる。

 

「「「「「マ、マンハッタンカフェ……?」」」」」

 

(決着ヲ付ケルノニ、100mモイラナイヨネ)

(アナタナラ、50mアレバ充分ダヨ)

 

時を刻むよりも早く、されど時を止めたかのような一瞬を、大接戦ドゴーンの真横を、一つの漆黒が駆け抜けていった。

 

『マンハッタンカフェだ。大外からマンハッタンカフェ!』

 

『マンハッタンカフェ一着でゴォォォォォォォォル!!』

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ワアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!

 

 

『何というレースをしてくれたのでしょう! こんなにもゴール板を遠く感じたのは初めてです!』

『誰もが、誰もが凄まじいレースをしました。しかし写真判定など不要です。最後の最後の最後に捲ったのは間違いなくマンハッタンカフェでした!』

 

「うぉぉぉぉおおお~~おいおいおい、こんなレースを見れたなんて目が幸せだぁ」

「オグリかオペラオーのどっちかだと思ってたよ。あそこからほぼ大外で捲るかふつー?」

「誰も気にしてないと思ったらあっという間にそこにいやがった。ぱねぇわ」

「新時代を飾る、新たなステイヤーの誕生だな!」

 

スタンドからは万雷の拍手。暮れの最終戦、有馬記念にこれ以上に相応しいレースはないだろう。

 

「ふぅ……」

カフェは大きく息を吐いた。

(あの娘に、一歩、近付けたでしょうか……)

最後の最後、確かにあの『お友だち』の声が聞こえた。

カフェが勝つと信じていたあの娘の声が。

まるで引っ張られるようにとてつもない末脚が出せた。

だがこれは『お友だち』の力ではない。自分で掴み取った勝利だ。

 

声援に答え、手を振る。笑顔を見せる。しかし報告するのは誰よりも早く……、

「……トレーナーさん、勝ちました」

「ああ。カフェ、私も流石に胃が痛くなる思いだったよ」

「またそんな減らず口を……」

「やあやあめでたい。お礼に実験で作った液体を飲み干す権利を上げよう」

「タキオンさんはどうでもいいとして、約束を守れて嬉しいです(ニコッ」

 

「はあ……はあ……はあ……」

テイエムオペラオーは死闘の末に敗北した。

包囲網のようなバ群の中で苦しみながらのレース展開、しかし誰も思わなかった。今日、真にマークすべきはマンハッタンカフェだったと……。

「オペラオーさぁん……」

「ふっ……はーっはっはっはっ! 負けてなお強しのレースだった。悔いはなし! 今は素直に勝者を褒め称えねばね」

(だがあれ程のプレッシャーを放ちながらレースをするとは、やはり想像以上の脅威だった。……成長した、ということかな?)

 

「はぁ……はぁ……うっ、げほっ!」

オグリキャップは2着だった。

文字通り全霊を出した勝負だった。しかしそれでも勝てなかった。もうこれ以上は絞り出せない。完敗だった。

(最後まで、復活することはできなかったか……。もう私の時代ではないという事だな……)

「オグリ……」

「……。タマ……」

「……飯でも食いに行こうや。奢ったるわ」

「……。うん。一緒に行こう(ぐぅ~~きゅるる~」

「飯の話した瞬間即それかい!?」

 

 

こうして、有馬記念は終わった。

一つの時代の転換期を人々に感じさせながら。

 

なおウイニングライブには「お友だち」の姿はなかったという。

皆が皆、観客席の方からマンハッタンカフェを讃えていたのだから……。

 




もうすぐ夏アニメの時期なのにニコニコ動画がまだ復旧できなくて見れないと泣いてる人が多数いるようです
……あのさぁ、せっかくだから月額サイトで見ようよ。そんなに高くないよ
アニメはタダで見るもの、ゲームもタダでやるもの、課金なんかしねえよ、って人ほどSNSで声がでかいんですよね
極めて製作者に対する侮辱みたいなものを感じます
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