ウマ娘プリティーダービー『The Player』   作:K.T.G.Y

15 / 24
クルクルこと、Twinkle Circle函館公演に行ってきました
なのに……当日は朝から大雨……!

午後には晴れたものの、あのまあ降り続いていたらどうなっていたことやら

そこらじゅうウマ娘グッズに身を包んだ人々ばかり(特にバッジマン)で、明らかに地元の人間ではない遠方からお越しの人々も多数いたようです
まあ観光業に全振りして地場産業がクソみたいな街ですし、楽しんでくれたのなら幸いです
でもね、アリーナには使えるロッカーが殆どないのですよ。キャリーバッグ持ったままの人は邪魔でしょうがなかったんじゃないかな?


カフェの温泉を見た人のみがこのSSを開きなさい

 

じゅ~。

天皇賞春が終わり5月。

春のGⅠシーズンも本番。今は第二週で週末は古バ牝馬春最速を決めるヴィクトリアマイルが行われる。

しかしそんな空気もどこ吹く風、タキオンとカフェは室内だというのに七輪で魚を炙っていた。

「サクラマスとサツキマスが同時に楽しめる……、ああ、Playerく~んは、な~んて素晴らしいユニットなんだ!」

「……タキオンさん、魚は苦手って以前仰ってませんでした?」

「不味い魚は食うに値しないが、美味い魚は別だ」

「そうですか……」

「はい、焼けたよ。熱いから気を付けてね」

Playerが切り身を扇でぱたぱたやっている手を止め、皿に添える」

「もぐもぐ……ううん、最高だねぇ!」

「……美味しいです」

 

「さて、食べながらいいから聞いて欲しい。次走の予定だが……」

「ふぅン」

「はい……」

「タキオンは大阪杯で、カフェは春の天皇賞を完勝した。その為、ファン投票で出走者が決める『宝塚記念』でも出走希望が相次ぐと思う」

「宝塚記念か……」

 

「つまり、私とカフェが初めて……」

「……レース場で相まみえる事になる、ということですね」

 

「正直、私は反対なんだがね。勝者は一人主役は二人なんていうが、個人的にこんな小さな場で白黒つけて遺恨を残したくはない」

「いいじゃないかPlayer君。私はカフェと対戦したかった。その目標の一つが適う。それでいいんだよ」

「……私も、タキオンさんと勝負してみたいです。『あの娘』に勝つ為には、タキオンさんくらい手ごたえがある相手じゃないと……」

「そうか……。なら、仕方ないな。本人の希望にこたえるのもトレーナーの役目だ。早期から出走を表明しておこう」

「もぐもぐ……あ、そうだPlayer君、鮭児って出せるかい? あれ一度食べてみたいと思ってたんだ」

「……あんな脂ばかりのもの食べたら、胃がもたれますよ」

 

 

アグネスタキオンとマンハッタンカフェが早期に宝塚記念出走を表明したことで、早速メディアが取材にトレセン学園を訪れた。

今はPlayerが応対している。

散々叩きのめした甲斐があって、今日は礼儀正しい人々しか来ていない。

『どうですか、二人の状態は?』

「まだ3割といったところですね。6月末までは意外と長いですし、じっくり調整していければ、と」

『担当のウマ娘が二人、勝敗を分ける形になります。思う所はあるのでは?』

「そうですね。どちらにも勝って欲しいし、どちらにも負けて欲しくない。複雑な思いがないと言えば噓になりますね」

『どちらが優勢と見てますか?』

「中距離2200なら、6:4でタキオン有利と捉えています。しかしカフェの成長も素晴らしい。彼女が覆しても不思議ではありません」

『もはや他のウマ娘は眼中にないと?』

「そうは言いません。驕りや慢心は禁物ですから、でもどうせ終わるなら二人のワンツーフィニッシュで終えたいですね」

 

 

「陣営、強気だな」

「番狂わせなどありえないと断言したも同然だな……」

「…………」

帰り際、ベテラン記者戸島は学園敷地内だというのに煙草を吸い始めた。いつも止めようとは思っているが、きちんと納税してるんだからいいじゃねえかと開き直っている。

「戸島さんはどう思います?」

連れの若手記者が尋ねる。

「……強いウマ娘がいるのはいい事だが、強すぎるウマ娘となると逆につまらなくなっちまうもんだなあ」

(俺は春天でカフェはないと見たが、考えが浅かった。レースに絶対はねえ。ねえが……絶対をやれるウマ娘がいたとしたら、そいつこそ最強だろうなあ……)

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

パシャ! パシャパシャ!!

「はいオッケーですカフェさん。次は空を見上げるような視線でお願いします」

「……はい」

「うひょ~、カフェさン、めんこいなあ」

「初めてだってのに、案外堂々としてるじゃん。センスあるね、彼女」

カメラの裏側では、帯同してきたユキノビジンとゴールドシチーもいる。

 

事の経緯は、こうだ。

「……グラビア、ですか?」

春天で一躍常識を覆す走りを見せたマンハッタンカフェ。ファンの数は連日ストップ高。グッズは瞬く間に売れ、増産しても追いつかない状態だった。

そしてこの度、そんなカフェに目を付けた大手グラビア雑誌が、ファッション雑誌と共同で是非カフェの写真を撮らせて欲しいと三顧の礼とばかりに願い出てきたのである。

 

出された名刺は、人間もウマ娘も、服やグラビアに興味がない人でも知るほどの超大手のものだった。

「テーマは『初夏の彼女』というものでして、毎年恒例の企画なんです」

「しかもマンハッタンカフェさんは、ビューティー安心沢氏が手掛けた和装衣装が大変好評で、結果を出しました」

「私どもとすれば、是非この企画を成就したいのです! 刷って刷って刷りまくります! 報酬も破格とします! ご協力をお願いできますか!?」

 

「…………」

とはいえカフェとすれば、心底気の乗らない案件だった。

そもそもの問題として、カフェは人に見られるのが好きではない。晴れの日の光も苦手だし、周囲にはいつも『お友だち』がいて時々悪さもするので写真写りははっきり言って最悪。

自分は『影』であり、『光』ではない。華やかな世界とは無縁でありたいというのが本音だった。

できれば丁重にお断りしたい。

しかし大の大人にここまで頭を下げられて、無下にするのも悪い事をした気分になって嫌な気分になりそうなのも確か。

(……でも情や見栄に拘って、承諾したらしたで、厄介な案件になりそうなんですよね……)

 

「いいじゃないかぁ~、カフェ。カフェは自分の美しさに無頓着すぎるんだよ。ほら見てみたまえ、『マンハッタンカフェ かわいい』で検索するとこんなに……」

「……タキオンさんに褒められても、嬉しくありません」

 

(マルデ『アイドル』ミタイナ扱イダネ!)

(ヤラナイカ、ッテ頼ンデルンダカラ誘ワレルママホイホイ着イテイッチャオウ!)

「だーかーらー、私の黒歴史を、これ以上増やしてどうするの? ……もう」

 

「……。プレ、いや、トレーナーさんは、どう思いますか?」

「そうだね。いいんじゃないかな。何事も経験だし、カフェは自分が思うよりしっかりしてるから大丈夫だと思うよ。カフェは可愛いし」

「……!」

(か、可愛い……? 私が、Playerさんから見て、可愛い……!?)

 

「……。やります」

「ほ、本当ですか!?」

「……至らない所ばかりで、ご迷惑をお掛けすると思いますが……私なんかでよければ」

「あ、あ、有難うございます!」

「……その代わり、条件があります。当日は、トレーナーさんを帯同させる事。そして、雨天決行はせずに一日勝負でお願いします。私も忙しいので……。もし流れたら、この件はなかった事に……」

「勿論です! では早速日取りを決めてすぐに連絡をいれますので!」

 

「ぷっ……クックック……! ハッハッハ……!」

「……タキオンさん、何笑ってるんですか? 不気味なので止めてください……」

「あ、いや~、このデータは解析したら素晴らしい結果が出るだろうな、と思ってねぇ」

 

 

「それで、私のところに来たってわけ?」

「……はい」

承諾はしたものの、話が終わった後もカフェは不安だった。同室のユキノビジンは「シチーガールみてぇだぁ」と喜んでくれたが、

素人が大手雑誌の表紙を含めたグラビアなど、簡単にいくはずもない。下手を打てば編集部と各方面の人々に傷を負わせることになる。

「……どうすれば、いいでしょう?」

「うーん、そったら、シチーさに相談してみンのはどうです?」

現役モデルのゴールドシチーなら何かアドバイスが貰えるかもしれない。藁にも縋る思いで彼女のところに相談にやってきた。

「そうだなぁ……」

彼女もまた、仕事とレースの二足の草鞋を必死に奮闘してきたウマ娘だ。ちなみに彼女のトレーナーはシチーが乗ってる車を走って追跡出来る程の色んな意味でスーパーマンである。

「この条件だと、屋外での撮影になるだろうから、日焼け止めは自分で塗る事」

「……分かりました」

「あと、写真を撮られる際は体は静止する事。勿論尻尾も。勝手にアドリブは厳禁」

「……了解です」

「それから撮られた先、向こうっていうのかな、実際出来上がったものを見た人がいいなって思えるような表情をする事かな。空っぽな人形を撮っても誰も喜ばないからね」

「……はい」

「当日は私も付いて行ってあげてその都度アドバイスするからさ、気楽にやりなよ」

 

かくして、海が見える片田舎に向かった一行は、晴天にも恵まれ絶好の撮影日和となった。

カフェがチョイスされたのは露出度の極端に低い黒の勝負服とは相反するような、露出度の高い純白のワンピースに麦わら帽子という出で立ち。

最初は流石に恥ずかしく顔を真っ赤にしていたが、Playerに凄く似合ってると言われ、緊張も幾許か和らいでの撮影となった。

 

しかし好事魔多しというか、ハプニングはよく起こるもので……、

「おい、見てみろよ、これ。なんか薄気味悪い物が写ってるぞ」

「あ、ほんとだ。まるで心霊写真みたいだな」

(……! もう! あの子たちったら……!)

 

(イエーイ!)

(ピースピース!)

 

「マンハッタンカフェを撮ると、やばいものが写るって噂は本当だったんだな」

「どうする? これじゃ使えないぞ」

(やばい! やばいやばいやばい! ……このままじゃ、わたしのせいでスタッフさん達を困らせて……)

 

ゴゴゴゴゴ……!!

 

「……あなた達、少しおいたが過ぎるんじゃない?(タキオンを見るときのようなゴミを見る眼)」

(ス、スイマセン……)

(……モウシマセン)

 

『……全ク、カフェノ晴レ舞台ダトイウノニ、ミンナニハ困ッタモノダネ。私ハ遠クカラ見守ルトシヨウカ』

(ツイ出来心デ……)

(許シテ)

『ダメ。許サナイ。君達ハオ説教。サア、コッチニクル!』

(ヒイイイイ!)

(オタスケー!)

 

 

「さあ、次は海岸に降りて砂浜からのパートいきまーす。各自、移動の準備してー」

「了解っすー」

「……トレーナーさん。私たちも向かいましょう」

「そうだね。しかし、海岸、か。ひと悶着あるかもね」

「ええ……。海には、地元の……いけない子がよくいますから」

 

 

海岸に舞台を移し、引き続きで撮影準備が行われる。

しかしカフェは、只ならぬ気配を感じ取っていた。

 

ピタ……ピタ……ピタ……。

 

誰もいない筈の砂浜に、湿った足跡。その『主』が、そろり、ぬらり、ぴたりと近付いてくる。

「……Playerさん」

「ここは私に任せてくれ」

「…いえ、私もやります。こういうのは……慣れてますので」

 

「……!」

バチィッ!!

 

『……!?』

 

「「ジャマヲ スルナ……!」」

『…………』

 

気配は去っていった。

「これで大丈夫そうだね」

「……凄い、気迫でした。Playerさん、……そういう事も、出来るんですね」

「何事において万能。そうでなければPlayerにはなれないよ。まあ、気配の主には悪いが、少し黙っていてもらおう。なに、少しだけ場を借りるだけだ」

「……瞬時に、分かりました。あの『主』は、危険……だと」

 

「マンハッタンカフェさーん、まもなく本番です。打ち合わせがありますのでこちらへ」

「は、はい! ……ではPlayerさん、行ってきます」

「うん。いい画を期待してるよ」

 

 

こうして撮影は何とか滞りなく行われ、無事に終了する事が出来た。チームもいい画が取れたと喜んでいる。

夜の打ち上げに、Playerとカフェは欠席した。これから門限まで軽く走るので、と。

 

 

そして遂に発売されたマンハッタンカフェが表紙を飾る雑誌は、通常の三倍刷ったのにも関わらず瞬く間に売り切れ。

一部転売ヤーが悪さをしたようだが、Playerの手によってキツイ『お仕置き』を食らった挙句、雑誌を回収されると適正価格で売られるようになった。

編集部も「予想はしていたが、まさかここまで売れるとは思わなかった」と、いい意味での冷や汗をかき、増産は一ヶ月を跨ぎ、次号が並ぶ日付でもまだ書店で平積みされるほどだった。

 

「ハーハッハッハ! やあやあめでたい。これでカフェも一流のグラビアアイドルだねぇ」

「……タキオンさんに言われてもからかわれているようにしか、聞こえません」

「で、どうなんだい? 率直な感想は。後悔しているのかな?」

「私が見せたい人は、一人だけ……とだけ言っておきます」

「ふぅン。そうかそうか。彼も喜んでいたようだし、守備は上々と言えるのかな」

 

 

「この度は有難うございます。こちらが報酬です。現金では渡せないので小切手にしました」

「……。あのー、これ……桁が違いませんか?」

「いやいや、これほどの売上では上乗せするしかないでしょう。我々が手にした金に比べれば安いものですよ。はっはっは」

「…………」

 

(引退した後、本気で考えてみようかな……この道……)

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ここは都内にある大手広告代理店。

「……というわけで、中間発表は、アグネスタキオンとマンハッタンカフェが得票数の全体の7割弱を占め、完全な2強の気配。あまりの差に面白みがないとの噂もちらほら……」

「ふうん……」

デスクは脚を組み、面倒くさそうに話を聞いている。

「あまりの得票数に、この二人に勝てるはずがないと出走を拒否する陣営も出てきており、当日は出場者が10名を切るのではないかという有様です」

「ふうん……」

「……で、こちらが張り出されるポスターの仮案なんですが……、これでOK出ますかね?」

男はポスターを机に置き、デスクがそれを見る。

「……。……。あー、オーケーオーケー」

ひょいっと投げ返す。取れずに仮案のポスターが床に落ちた。

「いいんですか? こんなんじゃ他のウマ娘が怒りませんかね?」

 

「怒れば更にオッケー!!」

 

宝塚記念2週間前から貼り出されるポスター。

それは、アグネスタキオンとマンハッタンカフェが横を向いて睨み合う、光龍黒虎決戦の時とロゴが書かれた代物だった。

タキオンの所には、主な勝鞍:ホープフルステークス、皐月賞、日本ダービー、天皇賞秋、大阪杯と書かれ、

カフェの方には、主な勝鞍:菊花賞、有馬記念、天皇賞春と書かれている。

更には超光速のプリンセスVS漆黒の幻影等と兎にも角にも両者を引き立たせるという、完全な依怙贔屓。

他のウマ娘は及びでないむしろ引き立て役になれという身も蓋もない、まるでボクシングの世界王者が対戦する系のポスターである。

 

『いやー、これはその、あまりというか何というか……』

『でも現状、レース中に怪我でもしない限りこの二人に勝てるウマ娘がいるというと、中々……』

『二人が強すぎて出走を回避する陣営も続出するのでは?』

メディアもこの挑発的なポスターには口元を濁さざるを得ない。

宝塚記念がファン投票で出走者が決まるようになって数十年経つが、ここまで極端な得票率はありえなかった。

まだ中間発表の段階とはいえ、最終結果はおそらく7割弱から下手すれば二人で8割取ってしまうのではとSNSでは囁かれている。

 

 

事実、出走回避は相次いだ。

「票を入れてくださったのは有難いですし、それを少しでもレースで返したいのですが、担当するウマ娘を晒し者にするわけにはいかないので……すいません」

 

 

しかしこのポスターに微塵も納得いかないウマ娘がいた。ジャングルポケットである。

「な、な、な、なんじゃこりゃああああああああああああああっっっっ!!!!!!!」

 

びりびりびりびりくしゃくしゃ!!!!

 

ポッケはポスターを木っ端とばかりに引き裂き、ゴミ箱ではない所に投げ捨てた。

「いやー仕方ないでしょ、ポッケの姉貴」

「二人がぱねぇって事は対戦した姉貴が一番よく分かってるじゃないですか」

「うるせえ! 俺は逃げねえぞ! 宝塚記念で引導を渡してやるからなー!」

 

(くそっ……! だが今の段階で勝てねえのは事実だ。タキオンもカフェも、シニア級になって一層強くなってやがる。どうすりゃいいんだ……?)

 

走っても走っても遠のく背中。事実、クラシック級では勝てそうな気配は少なからずあった。しかし今、可能性というパーセンテージは上がるどころかむしろ下がっている。

もはや他のウマ娘がマークしたところで、試行錯誤の上の作戦を企てたところで、二人には通用しないだろう。

 

「……苦労してンな」

「!? あ、あんたは……」

「おっす」

話しかけてきたのはエアシャカールだった。ヤンキーの見た目とは裏腹に徹底した理論派であり、ここまでGⅠではないが重賞勝利経験もある。

「あんたは宝塚出るのかよ」

「まあな。5着以内なら出走手当が出るからな」

「……出る前から負ける事考えてる馬鹿がいるかよ」

ポッケは不機嫌になる。

「別に俺は馬鹿じゃねェ。レースはロジカルとデジタルだ。数字の強い方が勝つ、それだけだからな。まあ、これを見ろ」

そう言うと、シャカールは普段持ち歩いているシールをベタベタ張った黒いノートPCを開く。

「普段なら人様にデータを見せる真似なんかしねェ。だが、あいつらに突っかかりてェと考えてるおまえさンなら特別だ」

「……どういうつもりだよ。そんな危ねえクスリキメてるみたいな外見のくせに優しいじゃねえか」

「よし、その喧嘩買ってやンよ」

 

モニターに、棒グラフや円グラフなどが表示される。

「これは、レースを走るウマ娘がどンだけ全身を使って走っているかを纏めたデータだ。まず、ジュニア級の連中が、これだ」

「67.8%、か。まあヒヨッコならこんなもんだろうな」

「次にこれが、ホープフルステークスを走ったアグネスタキオンのデータ」

「……76.6%、か」

「既にこの時点で大器の片鱗を見せていやがる。70超えれば御の字と言われるジュニア期でこれだからな。次にこれが、クラシック期以降のウマ娘の全体平均」

「81.7%? ……思ったより低いな。まあ上から下まで全部の平均値ならこれぐらいになるか」

「で、これがアグネスタキオン」

エアシャカールがEnterキーを押す。そこには驚愕の数値が表示された。

「……!? は、89.2%だと!?」

「ちなみに、シンザン、セクレタリアト、リボー、アニリン、シーバード、キンチェムといった世界の名立たるレジェンドは90%を超えていたと言われていンだよ」

「つまり、タキオンの野郎はもはやレジェンド級ってことかよ……!?」

「だが単純に数値=結果とは限らねェ。それより、スタートを決める、好位置を取る、他のウマ娘に揺さぶりを掛ける、勝負所を見誤らない、そういったことがレースにおいては重要だからだ」

「…………」

「それを奴はレースにおいて完璧にこなしている。生粋の試合巧者だ。それがあいつの強さの本質だ。

あいつは、レースは頭脳のスポーツみたいな言い回しをしているが、本番で脚以外に頭使って走れなんてそうできるもんじゃない」

「まあ俺も、レースの時は頭空っぽにして叫びながら走る事が多いけどよ。あいつはそこまで……」

 

「つまり上半身と下半身をバランスよく鍛えて走ればいいのか?」

「アホか。それじゃ精々50点の解答だ。タキオンの強さの秘密は別にある」

「それも教えてくれるってか? 随分と気前がいいじゃねえか」

「褒めてもなンにもでねェよ。確かにタキオンとカフェには才能がある。しかしそれを引き出したのはあの胡散臭いトレーナーの資質だ」

「……ナベさんの悪口を言うんじゃねえ」

「誰もそうは言ってねェよ。あいつが度々インタビューで答えてるだろ。『ウマ娘に怪我のリスクを負わせる練習はさせない』ってよ」

確かにそれはポッケも聞いたことがある。あの二人の練習は極端な負荷を掛けるような危険なものではない。絶対に怪我だけはさせない、それは徹底されている。

だから一番に練習に来ても、一番に帰るケースを何度も見ている。量ではなく質で考えるタイプなんだろうなとはポッケでも大体察することはできる。

古くから最強、怪物、そう言われたウマ娘が、志半ばで壊れ、消えていったことか。無事是名バとはよく言うが、二人の練習はその信念に基づいたものなのは間違いない。

「でもよ、あいつらに追いつくには奴らの何倍も練習しなきゃいけねえんじゃねえか?」

「そうだな。しかし奴らの練習量で何故これほどまでに他のウマ娘と差が付いたのか、俺なりに分析してみた。練習風景を見学したりしてな。すると、ある事が分かった」

「お、どんなだどんなだ!?」

「一緒に練習する奴が多い。端的に言えばこう言える。あいつらはジュニア期から当たり前のように現役バリバリのウマ娘と一緒に練習していた。

奴らは早くからその水に慣れ、スポンジのように吸収し、己を磨いてきたんだろう。名付けるなら、『トレーニング効果』ってところだな」

この時のシャカールの分析は皮肉にも正解している。ゲームにおいても、『トレーニング効果』の数値は非常に重要だ。

友情トレーニングが起きたとしても、その場所に1人では大きな効果は得られない。時として3~4人いた時の通常トレーニングの方が上昇の期待値は高い。

なんで毎週光っているのにちっとも上振れしないんだ!? という時は、妖怪1人で光るだけが続くことが多い。そこのパラメータは上がっても、上昇量は雀の涙だ。

 

そしてPlayerはチートによって4凸のサポートカードを自在にセットし、毎回高いトレーニング効果による練習をジュニア期から確立させていた。

併走にしろ、筋トレにしろ、勉強に至るまで、そこにはいつだってパートナーがいた。故にゲージが上がるのも早く、スキルも貰った。友情トレも早かった。

それがこのパラメータの差を生んでいる。既にタキオンもカフェも、スピードの値は1200を超えているのだ。

 

「レースにたらればはねェ。だが二人は実力があって、かつ隙がねェ。それがこの結果を生み出してンだろうな」

「…………」

「ま、後はてめェで考えな。あ、拝観料代わりに飲み物買ってきてくれ。にんじんラムネ」

「パシリかよ!? ったく、しょーがねーなー」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「う~ん……う~ん……」

(つまり、ガチに強え奴と練習しろ、って事だよな)

「ポッケの姉貴、何考えてんすか」

「さっきからうんうん唸ってばっかりっすね」

「っせー! 今考え事してんだよ!」

 

(……少なくとも、こいつら三人じゃあ悪いが力不足だ)

(ナベさんの伝手を頼るか? でも一流どころとなると相手がOKするか分からねえ)

(フジ先輩なら……、あーでも現役を退いてる人に無理はさせたくねえな)

(いっそ頭下げてタキオンの野郎に頼むか? データをこっちから提供するのは癪だが餌としては悪くねえよな)

 

 

考えは纏まらない。しかしこういう時はまずトレーナーと相談だ。そう思い、ポッケはナベさんの元に向かった。

 

「……ふむ、成程のう。だがアグネスタキオンもマンハッタンカフェも宝塚当日は完璧に仕上げてくるじゃろう。今から一朝一夕の特訓を行っても間に合わんじゃろうな」

「そうだよなあ……」

「だが指を咥えて向こうの勝利を見ているのも癪じゃ。そうじゃな……よし、フジ」

「何か用かな、ナベさん?」

「トレセン学園の、おハナさんと連絡を取ってくれんか?」

「おハナさんに?」

「うむ。相談したい事があるんじゃ」

 

 

それから数日後、

「……ジャングルポケットです。これからしばらくお世話になります。宜しくお願い致します!」

ポッケは、チーム『リギル』の合同練習に参加することになった。

 

事の経緯は、こうだ。

ナベさんはおハナさんに、ポッケを『リギル』に預け、特訓させる事にしたのだ。

「……有難う、おハナさん」

「フジ……。ま、ナベさんのお願いじゃ断れないわよ」

 

かつて、フジキセキはチーム『リギル』に在籍し、そのキャリアを始めた。

トレセン学園で最高峰にして頂点のチーム『リギル』。そのメンバーは、将来を確約されたも同然な程の精鋭揃いである。

彼女たちはトップレベルのウマ娘と共に己を徹底的に磨き上げ、その素質を開花させていく。

 

しかしフジキセキには脚部不安があった。このまま走り続ければ、日本ダービー、いや、下手をすれば皐月賞まで脚が持たないかもしれないと医師から言われていた。

 

そこに助け船を出したのがナベさんだった。

「どうじゃ? ワシにフジを預けてみんか? 今ならベテランのトレーナーが、己の私欲に権力を用いウマ娘を強奪した挙句、一人のウマ娘を駄目にした、ということにできる」

「そ、そんな……!」

「チーム『リギル』はトレセン学園の看板じゃ。そこに泥を塗ることになるのは、おハナさんとしても何かと不都合じゃろう?」

「で、でもそれじゃ……もしフジキセキが志半ばで壊れてしまったら……」

「ぜーんぶワシの責任、ということになるじゃろうな。なあに、このご老体に未練なんぞこれっぽっちもないわい」

「…………」

 

そしてフジキセキは4戦4勝。弥生賞を最後に、皐月賞に出る事なくそのキャリアを終え、学園の寮長に就任した。

ナベさんはその責任を全て引き受けるという名目で、マスコミの批判の中、学園を去った。

真実に全て蓋をし、口を塞ぎ、真相を闇に蹴り飛ばして。

 

以来、頭の上がらないトレーナーと、一線を退いた元トレーナーに付き人の様に接しているウマ娘と、そのウマ娘を慕うポッケという構図が出来上がったのだ。

 

「でも、いいわね? ジャングルポケット。あまり言いたくはないけど、今から特訓しても、おそらく宝塚には間に合わないわ」

「分かってます。今はそれでいいっす。目標は秋シーズンでもなく、年末の有馬。それまでに仕上げろとナベさんに言われてます!」

「遠い道程よ。果たして、どこまであの二人に肉薄できるか、頑張りなさい」

「ウッス!」

 

そしてもう一人、打倒タキオン&カフェに闘志を燃やすウマ娘がいた。

「ポッケちゃんばかりずるーい! 私も私も! お願いします!」

「あなたも? ……まあいいわ。うちは厳しいわよ」

「やったー!」

正史の宝塚記念勝利ウマ娘、ダンツフレームである。

彼女も出走を表明した今、何としてでもあの二人に勝ちたいと思っていただけに、強引な要望だがなんとかなった。

 

 

「はい、今日はここまで」

「はぁっ……はぁっ……しんどー」

「わたしもへとへとだよ~」

おハナさんは二人を故障のラインギリギリまでしごき、練習を終えさせた。

「二人ともお疲れ様。それじゃ、私は二人のデータを取りつつ、明日以降の練習内容を煮詰めておくから」

「アリシャ~ス」

「ありがとでーす」

 

 

「…………」

おハナさんはトレーナー室に戻り、早速PCを叩きながら二人のデータを回収し、練習内容を模索した。

(二人も才能はある。だけど、トレーナーとして、あの男には負けるわけにはいかないのよ……!)

彼女にとって、今やPlayerは目の上のたん瘤にして乗り越える仮想敵となっていた。

Playerに勝たずして、ポッケとダンツが勝てるわけがない、と。

 

(……懐かしいわね。あの頃を思い出すわ)

 

それは、おハナさんにとって昔の出来事……。

 

一人のウマ娘がいた。

彼女は溢れんばかりの素質と才能を持ちながら、新人時代のおハナさんの所でキャリアを始めた。

何故自分なのか? 他にももっと優れたベテランのトレーナーがいる筈なのに……。

やがてそのウマ娘はレースにおいて十分すぎる結果と功績を手にし、誰もが敬い、模範となるような実力の持ち主となっていった。

そして彼女が、インタビューに答えるときはいつもこう言った。

「私が活躍できるのは、トレーナーさんの支えあってこそです」

しかしおハナさんは複雑だった。自分は何もしていない。何もできていない。彼女が凄いだけだと。

彼女が彼女なりのプライドを保つ為には、自分なりの努力と勉強が必須であった。

それこそ三日も寝ずに机に向かう事もあった。世界中からあらゆる指導法を輸入した。絶対にこの娘の支えになって見せると強い信念をもって。

数年後そのウマ娘は引退したが、彼女の活躍に憧れておハナさんのいる『リギル』の門徒となる優れたウマ娘が増えた。

そのウマ娘がレースで活躍し、またそのウマ娘に憧れ『リギル』に入ることを望む。その相乗効果と連鎖反応により、『リギル』はやがて、トレセン学園で最も優れたウマ娘が集う名門となったのだ。

(……あの娘、今どうしてるかしら?)

室内にある『あの娘』と自分がGⅠを勝った時の写真を除くように見る。元気にしているだろうか。たまにはこちらから電話を掛けるのもいいな、等と考える。

「だからこそ、預けられたウマ娘に恥をかかせるわけにはいかないのよ。見てなさい、あの武田とかいう男……!」

 

宝塚記念は、間近……。

 

 

 

「Plyaerくぅ~ん、カフェばっかりずるいよ~。私にも何かお仕事をくれ」

「ふむ……では、ASMRとかどうかな?」

「何だいそれは?」

「Autonomous Sensory Meridian Responseの略さ。簡単だよ? ヘッドマイクを付けて、いつものように囁くだけさ」

「そんなのがいいのかねぇ。私には理解に苦しむねぇ」

 

「というわけでデジタル君。台本を頼む」

「ひょひょひょひょえええええっ!? こ、こ、このデジたんがタキオンさんのASMRの台本ですとぉっ!? だ、だめ……もうだめ……思い浮かべるだけで耳が幸せ過ぎて逝っちゃう……」

 

「そ、それじゃ、本番行きまーす!」

「ふぅン。『アグネスタキオンASMR。今日から君もモルモット』か。まあこの通り喋ればいいだけだから簡単か」

「効果音は後で付けておくから気楽にやってよ、タキオン」

「しょうがないなぁ……」

 

 

DLsiteでランキング1位を取った。

 




バラエティパート:春川さんが相変わらずおもしれー女でした。あれを素でやってるのだとしたら雛壇芸人が務まります
ライブパート:生粋のプロライバーが勝手に声出して盛り上げてくれるのでわざわざ声を張り上げなくてもいいのがよかった。私は素人なのでお手を煩わせずに適当に合わせてました

結論から言うと、すごくすごい楽しいイベントでした。彼らは今年全国行脚するのでしょう。私は無理ですが彼らがいる限りウマ娘は安泰ですね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。