ウマ娘プリティーダービー『The Player』   作:K.T.G.Y

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おかしい……。
当初は15話ぐらいで終われるかなー?と考えていた。
なのに、俺は……16話を……{書いている}!?
なにがいけなかったんでしょうかねー?不思議ですねー。


レジェンドレース負けたら相手の服を剥ぎ取れるようにならない?

 

その年の宝塚記念は、歓喜と通夜が交錯するGⅠとなった。

 

結局、ファン投票はアグネスタキオンとマンハッタンカフェが累計の83%を独占するという異常事態。

出走回避する陣営も相次ぎ、走るウマ娘はフルゲートとは程遠い僅か9名。

では実力がないウマ娘ばかりが集まったのか、それは否だ。事実、2強以外の大半が重賞勝利経験があり、実績は悪くない。

 

それ以上に、二人が強すぎたのだ。

 

思えば去年の総評を語るニュース番組では、タキオンもカフェもクラシック期がピークだ、と論理を振りかざす者もいた。

ところがどうだ、ピークどころか、一層力を付け、今まさに脂が乗りきろうとする寸前ではないか。

先が見えない無能な予想屋も、手のひらをクルクル返したのは言うまでもない。

 

 

「タキオン、カフェ、調子はどうだい?」

「絶好調さ」

「……同じく」

控室で、タキオンは落ち着かずに部屋をウロウロし、カフェは静かに座っている。

(この宝塚記念は、どちらも3着以内なら目標条件を達成できる。まあ今の二人の仕上がりを考えれば万が一もないと思うが……)

「しかし、笑って見送ったとしても、どちらかが負けて帰ってくるというのは、トレーナーという立場からするとあまりいい気分ではないね」

「勝負の世界とはそういうものだよ、Player君。目指すべき高みの果て、頂に辿り着けるのは、いつだって一人だけさ」

「……私は負けません。タキオンさんは、強い。……でも、『あの娘』は、もっと強いのだから」

 

「……Playerさん」

カフェが立ち上がり、手を大きく広げ、ハグを要求する。

「それは、カフェにとって必要なのかい」

「……」

無言のまま、指先でクイックイッと招く。

「ハーッハッハ! カフェもいよいよ見境なくなってきたねぇ! レース前に掛かってしまってまともに走れるのか……は、春天で証明してしまったか。ふぅむ……」

結局、二人は控室でハグをし合う。

「はふぅ……」

恍惚とするカフェ。それを訝しげに見るPlayerと、ニヤニヤしながら見つめるタキオン。

「ほほぅ、こんなにも効果があるのなら、是非私もお願いしたいところだねぇ……ぐえっ」

「……」

タキオンは見えない壁、というか、カフェの『お友だち』達の手によって制される。

「私は……手に入れます。タキオンさんとの勝利、そして『あの娘』との決着……。強欲に、全て……」

「ふぅン」

 

バキィッ!!

 

「……あっ」

カフェは力加減を間違え、Playerの腰骨を折ってしまった。バグったように上半身と下半身が分身したかのように表示されるPlayer。

「おやおや、参ったね。アバターといえど、相手の接触次第ではバグの様になってしまうのか。プログラムを改良せねば」

「Playerくぅん、見た目が気持ち悪いから早いとこ直したまえ」

 

コンコン……。

 

「アグネスタキオンさん、マンハッタンカフェさん。お時間です。レース場までお願いします。入っていいでしょうか?」

「あああ、ちょっと待ってください! ええい、強制ログアウトだ。タキオン、カフェ、後で会おう!」

 

ヒュン!

 

「……器用なのか不器用なのか、よくわかりませんね、Playerさんは」

「まったくだ」

 

 

スタンド前。

そこには既にレース場に現れているジャングルポケットとダンツフレームを見つめる、おハナさんの姿があった。

(二人とも、これ以上ない仕上がりの筈だわ。でも、今のタキオンとカフェ相手となると……)

「よう、おハナさん」

「? あ、ナベさん!」

ポッケのトレーナーを務めるナベさんが、横にフジキセキを連れて現れた。

「改めて礼を言わせてくれ。ポッケの奴の育成に関わってくれて有難う。心から感謝する」

「そんな、ナベさんには義理がありますから」

「ほっほっほ、鬼のハナさんも義理なんて使うことがあるのかい」

「もう、揶揄わないでください」

 

「どうじゃ、ポッケの方は?」

「見ての通りです。完璧に仕上げました」

「ほほう……ふむふむ、確かに、少し華奢な所もあったが、いい部分に筋肉が付いている。流石はおハナさんじゃ」

「アウターマッスルの過度な強化は逆に脚に負担を掛けますから。弱点を補うような指導を心掛けました」

「……でも、ポッケの今の心境、複雑だろうね。彼女はがさつに見えて心が特別強いわけでもない。負けに行くと覚悟してレースに挑む……その心持はどうなのかな」

横からフジキセキが見つめ、答える。確かにポッケの戦績は勝ったり負けたりだ。GⅠだけでなく、GⅡ以下の重賞もとりこぼした経験がある。

そしていかに練習しようと、今の状態では二人に追いつけない。それを見越したうえで経験の為にこの宝塚に挑む、正直。気が滅入ってもしょうがないのだが……。

「まあその辺は、ポッケの奴が一番よく分かっているじゃろう。今は黙って応援してやろうじゃないか」

「そうだね」

「そう、ですね……」

 

「…………」

ジャングルポケットは何を想うのか。

あの二人には辛酸を舐めさせられ続けた。なんとかあの鼻をへし折ってやりたい。だが、今は、ぐっと耐えるしかない。

「ポッケちゃん」

「ダンツか」

「今日はさ、……頑張ろう。投票してくれた人の為にも」

「あ、ああ、そうだな。こんな俺たちに票を入れてくれた物好きがいるんだしな」

 

「あー、ダンツちゃんポッケちゃん。今日はよろしくねー」

「……」

「……」

「ねぇミラ子ちゃん。酷い言い方になるんだけど」

「うん」

「……何で、今日出走するの?」

「こっちがききたいよー! ジョークで出走表明したら、上の人がみーんな拒否して私にお鉢が回ってきちゃったんだよー!」

「あはは……」

「自分だって場違いってことは分かるんだけどさー! トレーナーが「関係ない。行け」って言うから……」

「で、出場するわけだ」

「あーでも昨日食べたお好み焼き美味しかったなー。おでんも、串カツも。関西って食べ物美味しいよねー。朝に体重計ったら1kg増えてたけど」

「いーよなー。おミソの奴はプレッシャーゼロで。少しは場が和むってもんだ」

「ポッケちゃん酷いよー!」

 

ワアアアアアアアアアアッ!!!!

 

「お、本命二人組のお出ましだぜ」

 

「来たぞー! アグネスタキオン! おまえを見に沖縄からやってきたぜ!」

「ああ、タキオン様、今日も美しい。乙女汁が流れちゃう……」

「カフェちゃーん、写真集買ったよー。でもやっぱり生のあなたが一番可愛いよー!」

「おまえなら中距離王者タキオンにも勝てるって信じてるぜ!」

 

「……やれやれ、まるでアイドルみたいだな」

「こっちは完全に蚊帳の外だね」

「私はカフェちゃん以上に影だねー」

 

「やあやあ皆様方、今日はよろしく」

「おいタキオン、まさか走る前から勝ったつもりでいるんじゃねーだろうな」

「そんな事はないさ」

「俺は負けねえ。だが勝ち負けに限らず、今日は今出せるベストの走りをする」

「うんうん。いいよいいよ。サンプルは多い方がいいからね。私の脳下垂体を刺激してくれる走りを頼むよ」

「けっ、相変わらず人を茶化すのが得意な奴だぜ!」

 

「…………」

カフェは虚空を見つめていた。そこに『あの娘』の姿があったからだ。

(……時々、恐ろしくなる。どこまで強くなれば、あの娘に追い付けるのか。それとも……私は最初から勝ち目のない戦いをしているのか……)

(でも、諦めるつもりは……ない。あなたはいつだって、超える高みなのだから……)

 

「ふむ……」

ようやく体がくっついたPlayerは今日の出走データを見つめる。

「ジャングルポケット、ダンツフレーム、海外から凱旋のタップダンスシチー、今年クラシック2冠のネオユニヴァース。それなりに実績はある。あくまで、それなりだが」

しかしどれもタキオンとカフェの敵じゃない。ただ二人以外の7人が場をどう引っ掻き回すのか、唯一の懸念点はそこだ。

そして前日から、関西は梅雨の影響で雨が降り、今日も朝から雨は降ったり止んだりでバ場は渋っている。道悪巧者のカフェには有利な状態だ。

スローペースの予想からじっくり脚を溜められるかが焦点となるか。

 

そしてスターターが上がり、旗が振られ、陸上自衛隊のファンファーレと共に、大きな歓声が上がる。

 

『さあ上半期締めの一戦、宝塚記念まもなくスタートです。今日のレース、どう見ますか?』

『この雨ですからねえ。芝の状態は不良なので最後の直線、全員が外に持ち出すでしょう』

『タップダンスシチーが逃げを選択するでしょうが、今日のバ場だとタイムは出ないでしょう。スローペースは間違いないでしょうね』

『後方から来るウマ娘は不利でしょうね。外側を先に取られたら今日の内側は伸びが期待できないでしょうし』

『では注目のアグネスタキオンとマンハッタンカフェですが、先行策を取るタキオン有利でしょうか』

『競り合うウマ娘次第でしょうが、第4コーナー辺りから仕掛けても早くはないでしょうね。私もタキオン有利で見ています』

 

実況解説が今日の不良状態を見ながら分析する。

確かに内側の芝は既に禿げ上がっていてボロボロだ。

フルゲートの半分なので大外枠は特別不利ではないが、やはり皆外回りを選択する筈。

 

『さあ各ウマ娘がゲートにゆっくりと入っていきます』

 

係員に押され、一人、一人とゲートの中に入っていく。

雨の中、燃え上がるように熱い背中の者もいれば、凍るくらい冷たい背中の者もいる。

未来はまだ今日の雲のように暗い。誰に光が差すかはまだ誰にも分からない。

 

(さあ、雨の中の実践サンプル接種といこうか)

(……タキオンさん、勝負です)

(さあて、いっちょやるか!)

(今出来ることをやろう)

(ネオユニヴァースは……交信(コネクト)する……)

 

ガコン!!

 

『スタートしました! 各ウマ娘綺麗なスタート!』

 

カッ!!

 

ゲートが開き、ウマ娘が飛び出した瞬間、上空が光った。雷が落ちたのだ。

 

ドォーン! ゴロゴロ……。

 

「おいおい雷か。結構近かったよな?」

「うわっ、雨強くなってきたぞ!」

 

観客が上空から齎された異変に驚く。成程、確かに雷の直後、雨が一気に強くなった。

 

「うわっ! これは意外な相手の雷光というかご来行だね」

タキオンが顔に掛かった雨をダボダボの袖で拭う。おそらく皆も走り難そうだろう。

 

そして遠い東京のトレセン学園では、エアグルーヴのやる気が何故か下がった。

 

「ふっ……伝わったぜこの熱きPassion! そうか、こうだな! こう走れと天は言うんだな!」

そんな中、逃げを予測されていたタップダンスシチーがスタートから一気に脚を使い二番手以降を引き離しに掛かる。大逃げ策を取るつもりだ。

 

『さあタップダンスシチーが行く。その後ろにアグネスタキオン、その外にピッタリとダンツフレーム』

「ほう、私をマークする気かな」

「そういうこと」

 

そして後方のマンハッタンカフェにはジャングルポケットがガッチリとマークを付ける。

「この位置でレースすんのも久しぶりだな。負けねえぞ、カフェ」

「……関係、ありません。これは、恵みの雨です……」

 

第二コーナーを回り、タップダンスシチーが向こう正面へ入っていく。

「道悪? ALL RIGHTだ。トばしてみようじゃないか!」

後続をグングン引き離し、あっという間に5バ身のリード。

「おいおいタップ前に出過ぎだろ」

「あれじゃゴールまで持たないぞ」

観客席側から見れば掛かりではある。だが気分が乗っている時の彼女は、強い。

 

「くっ……」

(タキオンちゃん、思ったより雨を気にしてる?)

(ならこのまま外側でガード続行だ。外には出させない!)

 

「ふむ、ポッケもダンツもいい位置に付けたな」

「アグネスタキオン、思ったより雨を気にしてるようですね」

「確かにタキオンは晴れた日しか経験していない。むしろこのまま降り続けてくれた方がいいだろうね」

観客席からナベさん、おハナさん、フジキセキが呟く。

 

「…………」

(成程、雨の日〇を付けておかなかったのは失敗だったかな。だが不良バ場を凌ぐだけのスピードもスタミナもある。問題はない)

Playerは冷静に大局を見据える。

 

『さあタップダンスシチーまだ先頭。1000mは59秒2。思ったより早いペースだ』

『快調に飛ばしていますね。楽に逃がさないように楔を打つウマ娘がいないようですから』

『痺れを切らす相手は現れるのか。注目していきましょう』

 

アグネスタキオン、マンハッタンカフェ両名はまだ動かない。ポッケのカフェマークは今のところガッチリ決まっている。

今日の不良バ場なら内は避けたい筈だ。

(まだ動く気配がねえな。やはり直線まで我慢する気かよ。焦ってくれる方が、俺としてはいいんだけどなあ)

「…………」

 

雨が風と共に強くなる。障害物がないレース場でこれは、梅雨というよりもはや嵐に近い。

 

「ふぅン。いいマークだねぇ。でもそうやって私を殺しているうちは、自分も死ぬんだよ。私はともかく、GⅠ未勝利の君がいつまでもこんな調子でいいのかい?」

「いつもの揺さぶり? ごめんね、通用しないよ。意地張ってるだけだから」

「おやおや、嫌われたものだ」

(しかしこのままというのも不利だ。タップダンスシチーを直線で捕えられる自信はあるが、後ろから迫るカフェに対応できない。さて……)

タキオンは、外側を守るように走っているダンツに身を寄せる。

「……!?」

「そんなに外側が欲しいのかい? じゃあ私はいらないよ。ほらほら、ほら」

「このっ……!」

 

「そうだ、タキオン。『パワー』の値でこちらからプレッシャーを掛けてやれ」

Playerはこのままいけばダンツのマークは解けると踏んでいた。

今発動しているのは、おそらく水着時なら標準装備の『アンストッパブル』だろう。

「課題であった中盤時の速度スキルを補っておいてよかった。あの金スキルに付いていくのは、今のダンツでは役者として不足だ」

 

「うひ~、これじゃ風邪ひいちゃうよ~」

「……ネオユニヴァースは……交信(コネクト)しにくい、雨は"苦手"……」

最後方付近にいたヒシミラクルとネオユニヴァースは前に出られない。タップダンスシチーがカッ飛ばしたのもあるが、縦長になった隊列は既に縮まろうという気配がなくなりつつある。

 

『先頭から殿までもう10バ身以上開きました』

『そしてタップダンスシチー、早くも第三コーナーに差し掛かります』

 

「はっ……!」

「あっ……くそぅ……!」

 

『ここでアグネスタキオン仕掛けた。ダンツフレームのマークを外し、二番手に躍り出る!』

 

「むぅ……やはり今のダンツではタキオンをマークし続けるのは無理があったか」

「仕方ありません。彼女は精一杯やってます。タキオンにピッタリ付ける、それがそれだけ困難か」

「競り負けないだけのトモとパワーが必要だね。夏合宿でそこを鍛えられれば……」

 

「タップダンスシチーを抜いてからが本番だ。カフェは必ず、背後から来る……!」

直線に向いてからでは間に合わないと踏んだタキオンはダンツのマークを回避し、じりっじりっと前に出る。

このままコーナーを回り、最終直線の半ばでシチーを捕らえ、そのまま逃げ切る算段だ。

この雨ではカフェも末脚は使いきれないまま終わると判断しての先手打ちだ。

 

「タキオンが前に出た!」

「いつもの後方マークか!?」

観客席も騒ぐ。レースはいよいよ終盤。タップダンスシチーが第四コーナーを回り、遂に直線に入った。

タキオンはその後ろではなく、横に付ける。そして一気に並ぶ間もなく抜き去った。

 

『ここでアグネスタキオン先頭だ! 後続は間に合うか!?』

 

「まだだ。この雨……私に粘れと叫んでいる!」

だがタップダンスシチーは一杯かと思いきや追い比べに持ち込む。タキオンは後ろを見る。思ったより引き離せていない。

「おいおい、元気すぎだろ先輩も後輩も」

そうこうしているうちに後続が一気に間を詰めてくる。

雨でタイムが出ないので直線で間が詰まることは予想していたが、ここまで粘られるとは想像していない。

自分はカフェではない。レコードを出すことに夢見るなど愚の骨頂。ハナ差でも勝てばいいのだ、そう思っていたのだが……、

(皮肉、だねぇ……! 私にとって、雨がここまで走りを重くする材料になろうとは……!)

 

「うおー! ロングスパートだぁ!」

「……ネオユニヴァースは、諦めない。これでも『二冠』ウマ娘だ」

「最後の最後まで、諦めるかぁ!」

「だりゃあああああああっ!」

後続が次々にやってくる。しかし雨で外側を走らされているのだ。間に合わないだろう。

普通ならば。

 

「…………」

 

ギュン!

 

『おーっと、マンハッタンカフェ、なんと剥げてボロボロの内ラチを選択してのスパートだ!』

 

誰も想像していなかった。こうも内側の芝が剥げては外を選択するしかない。しかし外を回っていたら当然先頭の方が有利になる。末脚が鈍る間に逃げ切られるからだ。

道悪巧者だとは噂されてはいた。しかし幾ら得意といっても、この芝の状態で伸びるか……?

「常識外れのスパートだろ……」

「そりゃレースは内側を通った方が早いとはいえ、ありえるのか? こんな走り」

観客も度肝を抜かれている。

 

『外側からダンツフレーム、ジャングルポケットも来る! タップダンスシチーは苦しいか!? そして最内からマンハッタンカフェ! マンハッタンカフェがやってくる!』

 

「カフェっ……!」

「……タキオンさん、見せてあげます。去年の、虚弱だった私は……もう、いないと」

 

カフェが食らい付く。そして遂にカフェがタキオンに並ぶ。

だが脚の差は、明らかだった。

 

『どうか!? アグネスタキオン! マンハッタンカフェ! アグネスタキオン! マンハッタンカフェぇぇぇぇっ!!』

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!

 

『マンハッタンカフェ見事に差し切った! 勝ったのはマンハッタンカフェ! 長距離王者、中距離でも力を見せつけた!』

 

最後の攻防は白熱した展開の中、マンハッタンカフェに軍配が上がった。着差はアタマ差。しかし写真判定など行う必要もない、カフェの実力の勝利だ。

 

「はあっ……はあっ……はあっ……はあっ……!」

タキオンは下を向いて肩で息をしていた。

(そうか……。私は負けたのか……。本気だったんだけどな……)

いつも聞いていたゴール後の声援。その思考回路は理解しがたいものだった。

それが自分に向けられているものではないと分かると、何故か寂しさが込み上げてくる。

嗚呼、これが大多数のウマ娘が焦がれても焦がれても辿り着けなかった栄光の脇の挫折なのか……。

(データの中では、内外からくる刺激が興奮作用を発生させていたことはわかった。しかし敗北のデータは取れていない)

(しかし、言い換えればこれは自分を高める最高のデータとなる筈だ。天皇賞秋と有馬までに、このデータを生かし、ウマ娘の限界の先へ近づいてみせる)

(だから、今日の所は華を持たせてあげるよ、カフェ……)

「…………」

(だが、なんだ……? 脚がすくむようなこの感覚は?)

 

「アグネスタキオンが……負けた……」

「そんな、タキオン様……あああ」

「雨さえ降らなければ、おそらく勝ってたのはタキオンだったんだろうが、レースにたらればはない、か……」

タキオンファンも呆気に取られている。「あの」アグネスタキオンが敗北したという現実を直視できないでいる。

 

「キャー! 素敵よカフェちゃん!」

「アグネスタキオンとの直接対決に勝った! おまえがナンバーワンだ!」

「今世界で一番早いウマ娘はおまえだー!」

逆にカフェファンはお祭り騒ぎ。あんな走りを見せたのだ。雨の有無に関係なくカフェが勝っていたと確信している。

 

(……皮肉な、勝利ですね。タキオンさんに勝ったのは嬉しいですが……、喉奥に骨が引っかかる感覚が抜けない)

『イイジャナイカ。カフェ、今ハ素直ニ喜ビナヨ』

「……!?」

話しかけてきたのは『あの娘』だった。

『ズット、コノ時ヲ待ッテイタ……。今ナラ、カフェハ私デモ届カナカッタ、アノ『先』へ行ケル』

「…………」

今、挑戦すれば、『あの娘』を抜けるかもしれない。

あの夢にまで見た背中を越えて、ゴールの先へと。

「……。すいません。勝負はまた、後日にしてください……」

『エッ……』

「……すいません」

 

カフェは無言のまま、まずは観客席に向けてお辞儀をし、声援に答えると、ヒーローインタビューに向かった。

 

 

「あーもうくそっ、また負けた!」

「頑張ったんだけどね、あんな芝押し退けて普通スピードなんか出ないのに。……完敗だね」

ポッケとダンツも悔しさを抑えられない。

やはり実力の差は明確だった。

「でも、諦める気は、ねぇ!」

「そう! 夏合宿は血反吐が出るまで練習してやるんだから!」

二人はえいえいおーとばかりに拳を雨が降る中掲げた。

 

 

「…………」

観客席にいたPlayerは、思った以上に落ち込んでいるタキオンの姿を見て、少し考えるところがあった。

(結果は上々。カフェとタキオンのワンツーで終えられた。最後に差が付いたのは白でも青でも、金でもなく、緑スキルの差だったか……)

不覚だった。見た目のステータスばかりを重視して脇を固めるスキルの取得を怠った。

カフェの勝利は嬉しいが、タキオンの敗北は嬉しくはない。

とりあえず目標条件は達成できたので、次走には進めるが。

(夏合宿ではスキルの獲得を重視しつつ、全体的なステータスの底上げだな)

(そして次走、タキオンは天皇賞秋で一着、カフェはジャパンカップ二着以内。シニア級だけに条件は厳しくなる。時計の使用も考慮するか)

Playerは冷徹に今後の方針を固めた。彼はPlayerだ。走るウマ娘ではない。

 

 

『さあ今日のヒーロー、見事宝塚記念で優勝したマンハッタンカフェさんです!』

 

ワアアアアアアアアアアアツ!!

 

「……有難う、ございます」

『最後のスパート、春の天皇賞に匹敵する素晴らしい速さでした。その時の走りを振り返ってどう思いましたか?』

「そう、ですね……。これまで……出たことのない速さ……でした。景色が……一瞬変わるかのような……」

『最後荒れた内側を通ってスパートしましたが、これは計算のうちだったんでしょうか?』

「……外回りでは、追いつけない、そう思ったのは、確かです……。賭けであって、自分でも生きた心地が今もしません……」

『アグネスタキオンとの2強と言われる中の勝利でした。勝算はありましたか?』

「私が、別の景色を見れたのは、皮肉にも……タキオンさん……。あの人がいたから……です」

『それは、アグネスタキオンがライバルであるからでしょうか?』

「……。私は嫌ですが、結果的に……そう、なってしまいました」

カフェのインタビューはいつも通り淡々としていた。まるで勝利の喜びを外に出さない様に。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「二人ともお疲れ様。随分濡れたね。タオルをどうぞ。あと服の替えがある。まずはそれに着替えようか」

控室でPlayerはタキオンとカフェを出迎えた。

「その前に、カフェに尋ねたい事がある」

タキオンはカフェの目の前に立ち、真剣な面持ちで尋ねた。

「君は、ほんの足先だけど、届いたんじゃないか? 私が理想とするウマ娘の姿に。

カフェ、教えて欲しい。君は何を見た? 遥か遠くに、一体何が見えた。教えてくれ!」

「……タキオンさん」

「君の顔は見えなかったし、姿も視界に入ったのはほんの一瞬だった。だが君の表情が、どこか普段と変わっている気がしたんだ。何が見えた!?」

「おいおいタキオン落ち着き給え。はい、紅茶」

タキオンは差し出された紅茶に手を付けず、カフェに食って掛かる勢いで尋ねる。その表情は玩具を与えられた幼子の様だ。

「……そう、ですね。ほんの一瞬でしたが、遠く……本当に遠くに、光が見えました」

「――――!!」

タキオンは紅茶を一気に飲み干す。

「……あの光は、とても朧気で、私たちが生きている世界とは、……別世界のもののようでした。春の天皇賞で独走した時ですら、見えなかった……光でした」

「やはりそうか!」

タキオンは劇場版顔になって両手を高々と上げる。

「ウマ娘にとって未知の領域は存在する……! 走って、走り続けて、限界の先に辿り着ければ、誰も見たことのない景色が見られるんだ……!

Player君、おかわり!」

「はいはい」

「私も皐月賞の時、一瞬だが見えた事がある。観客の喧騒が消えて、周囲のウマ娘の気配も自分の息遣いも消えて、ただ先へ真っ直ぐ伸びていく光が……!」

「おいおいそんなの初耳だけど」

「そりゃそうさ。あの時は無意識だった。錯覚だと思ったさ。でも、やはりあるんだよ。領域(ゾーン)? そんな簡単なものじゃない。神の域と断言してもいい先が!」

「……タキオンさん、一人ではしゃがないでください」

「でも見えたのはそれが最初で最後だった。当然だ。正史の『アグネスタキオン』号の物語はそこで終幕しているのだからな。私が幾ら焦がれたって、見えるわけがないんだ……!」

タキオンの顔が苦悶に浮かぶ。衝動、絶望、歓喜、あらゆる感情がぐちゃぐちゃに混じって何処に何があるのか誰にも分からない表情だった。

「私は自らの力で、脚で、プランAを執行していくつもりだった。だが、もうカフェの方が……!」

おかわりを飲み干し、ふっと静かになる。誘蛾灯に惹かれた蛾が燃えて堕ちるように。

「……。決めたよ、Player君。私は……」

「おっと、その先は言わせないよタキオン。私がいるんだから」

「な、何故だい! Player君、分かるだろ! 選ばれたのはカフェなんだ! 私ではなく、カフェなんだ! カフェなら、私の代わりに……なれる……んだ」

「はっきり言おう。ウマ娘にとって未知の領域。それはただの飴玉だ。しゃぶれば終わる儚いものだ。そして……その答えは出ている。ただの……破滅だ」

「……っ!」

「私は君たち二人を幸せにするためにここにいる。タキオンもカフェも、破滅させるような真似は絶対にさせない。私を信じて欲しい」

「……私からも、言わせてください。タキオンさん……私は、あなたではない。そして、あなたの代役を担うなんて……真っ平御免です」

「私がカフェルートのプランBをカフェに託そうとするタキオンの姿を見てないとでも思ったのかい? 全部見てるんだよ。私はそのうえで二人を幸せにすると言ってるんだ」

「…………」

「タキオン……誰に任せるとか、そんな些末な事は言わないでくれ。君なら、辿り着けるさ。そのサポートを全力で行う。それが『トレーナー』であり『Player』なのだから」

「……。そうか。……分かったよ。現役は続行する」

しかしタキオンの表情は晴れなかった。

何かを探求し、渇望し、それに手が届いたと思いきや指の隙間から零れ落ちるような感覚が抜けないでいる。

 

そしてこの出来事が、後のタキオンにとって、ある一つの分岐点となることに、気付いているのは誰もいなかった……。

 

 

ウイニングライブの時間が差し迫っていた。

「……タキオンさん、今日は私の引き立て役になってもらいます」

「いいだろう。勝者の特権だ。横で音頭でも踊ってやるさ」

「……種目が違います」

 

(私は、強くないのかもしれないな……)

(Player君、プランAの道は、私が思う以上に辛い岩道の様だ……)

 

「……タキオンさん。笑顔をお願いします」

「あ、ああ!? あ、ああ……すまない」

「……らしく、ないですね」

「うん、そうだね……」

 

 

その翌日、URA公式サイト「ウマチューブ」にて宝塚記念のレースの行方が公開された。

 

それを一人のウマ娘が暗いゴミだらけの部屋で頭から布団を被りながら見ていた。

「マンハッタンカフェ……、素晴らしいウマ娘だ。あなたと凱旋門で対戦できなかったのが残念だよ」

スナック菓子を頬張る。

「……戦ってみたい。彼女と」

 

彼女の名は『ヴェニュスパーク』。後にその年の凱旋門賞を制覇するウマ娘である。

 

 

 




というわけでタキオンVSカフェはカフェの勝利で終わりました
書いてる側も、どっちにも勝って欲しいしどっちにも負けて欲しくないので迷いました

しかし夏も終わりだと言うのにプライベートがどんどん忙しくなるのは何故なんですかね?
育成をさせなさーい!(拡声器
シーザリオの汗で握ったおにぎりを食べて頑張ります
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