ウマ娘プリティーダービー『The Player』   作:K.T.G.Y

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うまぴょい中のナリタトップロードさんは「凄く凄いです!」しか言わなさそう

……すいません、本編とは全く関係ない事を口走りました


新シナリオは武インパクト豊ですって。凄いわね

 

宝塚記念が終わり、トレセン学園にも夏休みという強化合宿の期間がやってきた。

Playerは既に練習予定を立てている。昨年はカフェの体調を想い搦め手を使ったが、今年は真っ当に行うつもりである。

「さて、二人に合宿のローテを渡しておこう」

「……ふむ、君にしてはまともで変わり映えのしない内容だねぇ」

「……タキオンさん、合宿はサボる場ではありませんよ」

 

「まず前提として、タキオンには秋シーズンには天皇賞秋、カフェにはジャパンカップを目指して力を付けてもらいたい。スキルptも溜まっている、ここらで新たな力を付けてもらってもいいだろう」

「どんな力が付くのか、私たちには自覚がないのだけれどねぇ」

「……私もです」

「そういうものさ。スキル取得はPlayerにとって任意だからね」

「芝2000m……。確かに私にとっては得意とする距離ではあるが……」

「ステイヤーと言われる私にとって距離は長ければ長い程いいので2400m、と……」

「…………」

(二人がもう一度有馬記念で相対する事になるのは、今は黙っておいたほうがいいだろうな)

 

そして本年度は、秋川理事長からの大量の差し入れが届いた。

「応援ッ! 今年もトレセン学園の畑は大豊作である!」

「にんじん、にんにく、じゃがいも、トウガラシ、イチゴは学園の生徒たちによって大量に収穫する事が出来た!」

「振舞ッ! 今年は皆にこの食材を使い、大いに料理に励んでもらいたい!」

 

「こ、こんなに沢山!?」

「これ、食べきれるのかな……」

「意地でも余らせないように使えという圧力を感じるよね」

 

なおタキオンは食事当番では間違いなく怪しげな薬を一服盛ると思われたので強制的に外された。

「……日頃の行いですね」

「はっはっは! 褒めても何も出ないよ」

 

暑い真夏の中、水分補給をしつつ各自のトレーニングが始まった。

広い砂浜は全てが練習場だ。ただ砂浜を駆けるだけでも、普段の学園のレース場とは格段の差が出る。

トレーナーも額に汗しながら選手に付き添わなければならない。

 

ではタキオンとカフェはどのようなものなのか……。

 

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!

 

「はっ……はっ……はっ……はっ……」

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

トレーニングの負荷と効果を高める為、かつてタキオンに使われたアンクルトレーニングを行っていた。

「ひぃ……ひぃ……あーキツイなこれは。トレーナーく~ん、炎天下でこれはキツ過ぎるよ。せめて日が落ちてからにしてくれ」

「ダメ。そんなんじゃカフェに置いて行かれるよ」

「ううぅ……。それを言われると弱いなまったく。君がここまでスパルタするとは思わなかったよ。繊細な私の体には毒だ」

「……トレーナーさん。次は遠泳に、行ってきます」

「ああ。くれぐれも水子の霊には注意してね」

 

 

「タキオンさんとカフェさん凄いよね」

「あれが一流のトレーニングかぁ。私がやったら体がもたないよ」

「もう秋のGⅠに向けて調整してるってことだよね」

 

しかし、今年の合宿において一番目立つのはタキオンとカフェではなかった。

「うぎぎ……! ふんぬー……うおお……!」

「ふぬぬー! ぬん……うああ……!」

ポッケとダンツが、本来根性トレーニングに用いる、引き摺って動かす筈の超巨大タイヤを、必死に持ち上げようとしている。

「もっと腰を落として! 指先だけではなく全身に力を込める感じで!」

「ポッケ、持ち上がらんと思うな! これを持ち上げる力がなければタキオンには勝てんと思え!」

「二人とも、ファイト」

おハナさんとナベさん、そしてフジが、檄を入れる。他の『リギル』のメンバーは、既に長距離遠泳に行っている。

 

「うっわ何してんのあの二人」

「あれ普通引き摺るやつだよね。持ち上がらないでしょ」

 

「ふんぬー! うおおお!!」

「てりゃー……! うあああっ!」

 

「え、マジ!? 上がってる!?」

 

「ぐっ……もう無理……!」

ドーーーーーン!

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

「うう~腕がガクガクしてる……!」

「二人とも休む間はないわよ! 3分休憩したら、後8回!」

「「はい!!」」

 

「凄いなー。今年の夏合宿、やっぱ目立ってるのポッケさんとダンツさんだよね」

「タキオンさんとカフェさんを倒すための、鬼の猛特訓ってわけか」

「でもあんなの体がもたないんじゃ……」

 

「……ダンツちゃん、頑張ってるな~」

その光景を見つめながら、ヒシミラクルは海の家の焼きそばを貪っていた。

「まあ私はいつも通りマイペースで、これ食べ終わったら次はかき氷と焼きもろこしと……」

「ミ~ラ~ク~ル~」

「ひょええっ! と、トレーナーさん? いきなり現れないでくださいよ!」

「……おまえまた腹が出たな」

「ぎくっ!」

「このままでは相撲取り一直線だな。よし、今から遠泳やるぞ。この通り泳ぎを促すためのカンカンも持っている」

「そ、そんなぁ~。嫌だ嫌だ! スリザリンと泳ぎは嫌だぁ~!」

「関係ない。やれ」

「誰かお~た~す~け~!」

 

 

夏合宿が始まる前、ポッケとダンツはおハナさんに呼び出された。

「え、これから5kg太れっていうんスか!?」

「ええ」

「そんな、そんなに太ったらただでさえ酷い私のぷにぷにボディが……」

「夏合宿は苛烈を極めるトレーニングを用意してるわ。でも今のままじゃ最後まで持たない。だから今のうちに太って体重に余裕を持たせておきなさい」

「うーん、わ、分かったっス」

 

「ばくばくばくばく!」

「はぐはぐはぐはぐ!」

こうして、体重を増やすべくオグリ級の大量の飯を必死に食らい付こうとする二人の姿が食堂にはあった。

「しかし太るっつーのも難しいな。これでも栄養や管理が完璧に行き届いたメニューだし。流石はおハナさんだぜ」

「わたし太るのは大得意なんだよねー……。あとポッケちゃん、知り合いじゃないんだからおハナさんじゃなくて東条さんって呼ぼうね」

「お互い腹出した勝負服だもんな。ぽてっとしてたら直ぐにバレちまう」

「だから私レース前は節制してたんだけどねー。ミラ子ちゃんみたいに夜でもバンバン食べるの見てると羨ましいなーと常々思ってたよ」

「おっ、それもらい!」

「わ、ポッケちゃんずるいよー」

こうしてウエイトを大幅に増やしたところで、脂肪を筋肉に変えるべく鬼トレに励んでいるわけである。

「打倒タキオン! 打倒カフェ!」

「ふぁい、おー!」

「見てろよタキオンもカフェも! 絶対土付けてやるからな!」

「私だって負けないんだからー!」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

今夜の合宿の食事には、カレーと麻婆が振舞われた。炊事班がヒイヒイ言いながら作った甲斐があるというほど大量に。

「ご飯にカレー掛ける人はこっちきてー。麻婆の人はあっち側にー」

「お、美味しい!」

「そういやさっきニシノフラワーさんとヒシアケボノさんが作ってたの見たよ」

「やっば、うめぇ! プロになれるわ!」

人参とじゃが芋は大きめのゴロゴロで煮崩れしないように煮込み、トウガラシは目一杯効かせた、暑い夏には最適の二品。

皆、昼間の練習が終わり、くたくただというのにスプーンが進んで進んで止まらない。

「私おかわりする!」

「わたしも!」

「まだ残りある!?」

食事場は完全に鉄火場と化した。

 

じゅ~じゅ~。

 

一方でタキオンは、あんな辛いもの食べたら体に毒だと外に出てバーベキューを楽しんでいた。

Playerが出した最高級霜降り肉を食べながら。

「いや~日が落ちるのを眺めながら肉を頬張るのはいいねぇ。Player君がいれば合宿だろうと食事には困らないし」

「炭に火が付くのは時間が掛かるけど、ゲームなら一瞬だからね」

「……うん。美味い。ジューシーとはこういう肉の事を指すな」

「それにしてもカフェの姿が見えないな。本当に水子の霊にでも引っ張られたのか……」

 

……ザバァッ! ……ベチャ……バチャ……。

 

「カフェ!」

「……すいません、Playerさん。遅くなりました」

日が落ちる直前の海から、カフェがぬうっと姿を現した。

「おいおいカフェ~、遠泳に出ると言って、本当に世界一周でもしてきたのかね?」

「……いや、興味をそそられる無人島がありまして、何処かは分かりませんが、ついつい……」

「ほほぅ。どんな所なんだい?」

「……海岸に、鉄屑の残骸が、多数散らばっていました……。多分、戦時中に海底に沈まなかった艦の残骸かと……」

「それはそれは、変わったところに行ったね」

「……付近には死者の無念が、多数……残留思念として残っていまして……、私が鎮めておきました」

「それは重畳、と、いえるのかね? みんな成仏していったのかな?」

「全て……ではありませんが、ある程度は」

「ハッハッハ! やはりカフェは理屈では測れないウマ娘だ。だから私も傍にいて研究したいと思っているのだが、中々実験体になってくれなくてねぇ」

「……いつも、断っているじゃないですか」

 

ぽん!

 

「カフェ、とりあえずお疲れ様。タオルを出したから体を拭くといい」

「ありがとう……ございます」

「でもこの時間じゃ夕食にはありつけそうもないね。着替えたら、こっちにおいで。いい肉を用意して待っているよ」

「……分かりました」

 

 

「……。カフェは、強くなったね」

カフェが合宿所に向かった時、タキオンがぽつりと呟いた。

「春の天皇賞に勝ち、宝塚記念では私にも勝った。心身ともに今が最も充実しているだろう。この合宿で更に力を付ければ、もはや敵などいないかもね」

「どうしたんだい急に?」

「なあPlayer君。史実の『マンハッタンカフェ』号は、……どうなったんだい?」

「……ふむ。マンハッタンカフェが、か。彼は……春天に勝った後、その年の凱旋門賞に挑戦した」

「凱旋門に? 随分夢を膨らませたものだね」

「だが、結果は13着惨敗。しかも屈腱炎まで発症し、引退を余儀なくされた。時期が違えど、君と同じ末路を辿ったよ」

「そうか……」

 

「…………」

「…………」

(やはり宝塚の後から、タキオンの様子がおかしいな……)

「……Player君」

「何だい?」

「……私は、ウマ娘の持つ無限の可能性を探求してきた科学者だ。レースはその一環でしかない。勝ち負けにも頓着していなかった」

「そうか」

「でも、勝ち続けるうちに、自身が最高の被検体となってしまった。完璧になり過ぎてしまった。でもね……」

「……(何を言い出すつもりなんだ?)」

「あの感覚が、どうしても湧かないんだ……! 走り続けた先に見える筈の輝かしい白い光の道が、どうしても! どうやっても! 見えないんだ!」

「落ち着いてくれタキオン。君がどうしてそこまで感情的になる」

「なのにカフェの方が先に辿り着いてしまった。そして自分はもはやその遥か後方と悟ってしまった時、言いようのない恐怖が自分に絡み付いた!」

タキオンは体を震わせながら、Playerにしがみ付いた。

 

 

「いやー楽しみだなー。ちょうど腹八分だと思ってたんだ」

カフェはポッケとダンツをバーベキューに誘った。いい肉がある、と。

もし食い足りないのならどうぞ、そう言ったら、行く行く! と賛同された。

「なんか急に太れって言われて爆食いしたら、胃が大きくなっちゃった感じがするんだよねー」とダンツ。

「……そうですか。じゃあ、食べられるだけどうぞ」

「俺としてはパフェも食いたいが、流石に合宿中に売ってる所はないだろうなあー……ん、待て、二人とも!」

「どうしたのポッケちゃん」

「静かに! 耳を澄ませろ!」

言われるままに、三人は耳を澄ませる。対象は、ビーチのタキオンとPlayer。

ウマ娘の聴覚が、トレーナーを抱きしめるタキオンに集中する。

 

 

「……怖いんだ。負けるのが、怖いんだ」

 

「……えっ」

「なっ……!」

「うそ……!」

三人は確かに聞いた。タキオンの口から洩れた弱音を。

 

 

「……私は完璧だったからなんだろうな。強ければ強い程、勝ち続ければ勝ち続ける程、負けた時に失うものが大きくなる。

私は、誰よりも強いが、誰よりも弱い。負ける事を、決して受け入れられなくなってしまったのだから……」

「タキオン……」

Playerも驚愕する。あのタキオンが、いつもふてぶてしいタキオンが、こんなにもか弱く小さくなる姿を人前に見せるとは。

おそらくこんなアグネスタキオンは、どのPlayerも見たことがないだろう。

カフェシナリオで無期限の活動停止を表明し、裏方に回り、自分を押し殺してまでマンハッタンカフェを導こうとしていた時よりも、今のタキオンは弱弱しい。

劇場版の時だってそうだ。本当は彼女は走りたかった筈なのだ。だが運命は、彼女に可能性を自分の脚で踏み越えていく道を許さなかった。

最後の最後で申し訳程度に復帰したが、走るシーンそのものはなかった。ただうまぴょいが流れただけ。それまでの胸中は如何ばかりだったか。

 

「…………」

Playerは今この時に、ある種のフラグメントが立った事を察した。

ここから先に語る言葉は重要になる。言葉を選ばなければならない。

タキオンルートの流されるだけのトレーナーではなく、自分にしか言えない『Player』という立場で。

 

「……タキオン、どうして君は闇を恐れるんだい? 生きること自体、お先真っ暗だというのに、だ。人も、ウマ娘も、そこは何も変わらないよ」

「Player君……」

タキオンは顔を上げる。その瞳は、仄かにうるんでいた。

「あの時ああしていたら、これは人生において腐るほど経験する事だ。でも過去には戻れないし、未来が塞がっても、受け入れるしかない」

「…………」

「タキオン、君の人生のこの先は深い闇に包まれているかもしれない。だけどね、私は……Playerは、その松明係になれるんだよ」

「……松明、に……」

「私を信じて欲しい。そして頼って欲しい。私に勝るモルモットなど、この先世界中何処を探してもいないのだから」

 

Playerは、極端な鼓舞をせず、かといって巧言にも頼らなかった。

誰もが皆、等身大の存在であり、身の丈を越えて振舞えば必ず転がり堕ちる事を知っていたからこそ、タキオンを優しく元気付けた。

自分は今はPlayerではあるが、それ以前にトレーナーであり、大人なのだ。若者を導くのは大人の役目、今までだってそうやってきたのだから、何も変わりはしない。

 

 

「……。有難う。Player君。少し、落ち着いた」

「そうか。じゃあバーベキューの続きにしようか。もうじきカフェもやってくるしね」

 

 

「タキオン!」

ビーチにポッケの轟音が鳴り響いた。

傍にはカフェとダンツがいる。どうやら、カフェが二人を誘ってきたらしい。

「ん、やあやあポッケ君じゃないか。相変わらず騒がしいねぇ」

タキオンはいつも通り振舞おうとする。

「聞いてたぞ。てめえの事」

「……! 聞いていたのかい!?」

 

「…………」

「……私を、非難するのかな? 君は」

「……。別に。ただ、てめえも案外、人の子なんだな、って思っただけだよ」

「そうか……」

「さあさあ肉を焼こうじゃないか。まだまだあるから皆も付き合ってくれ」

Playerが間に割って入る。今は二人に喧騒をさせない方がいいと判断した。

 

ぽん! ぽん!

 

「ほら、ポッケ君。パフェをどうぞ」

「……え、おまえ今何した? 空間からパフェが出たように見えたんだが」

「イリュージョンだよ。ほら、どうぞ。本物だよ」

「……そ、そうか? んじゃ、もらうわ。あ、美味え!」

「そうかそうか。良かった良かった」

「……プレ……トレーナーさん、あまり人前でああいう行為はしないでください」

「大丈夫だよカフェ。証拠も残らなければ証明だってできっこないのだから。さあカフェも食べよう。タキオンも、ダンツ君も、みんなでね」

日が完全に落ち、月と星空が見えるようになる。その間、カンテラの灯りとバーベキューの炎だけが辺りを照らしていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

その夜、タキオンは夢を見た。

PCの前で、虚ろな目でキーボードを叩きながら、紅茶を片手にデータを見ている。

紅茶の中に入れられた角砂糖は適当に入れられており、その一部が床に散乱していた。

部屋はゴミだらけで、綺麗に整頓されていたはずの理科準備室は見るも無残な光景となっている。

(……。これは、私だ。プランBを遂行しようとした、私のifルートの私だ……)

夢を見ていたタキオンは即座に理解した。

その眼に映った自分は、何を探しているのかも、何を求めているかもわからない程酷く憔悴している。

おそらくこのタキオンは皐月賞に勝った後無期限の活動休止を宣言したのだろう。そして、復帰を模索し試行錯誤するも結局は五里霧中。もはや自分は何をやっているかも分かっていない様子だ。

(こんなにも弱弱しいのか……。Player君が現れなかった私は)

 

「……もう、あなたに、興味はありません。私は……私の目指すべき道を行きます」

カフェが言う。

 

「併走も付き合ってくれねえのかよ。ほんとおまえ、終わっちまったんだな」

ポッケが言う。

 

「タキオンちゃん……。私は待つつもりでいたけど、もう待たないよ」

ダンツが言う。

 

皆が皆タキオンの元を離れていく。

月日が流れ、季節が変わり、レース場が賑わっているのに、自分は……自分は……、

(……。まるで、廃人じゃないか)

 

Player君が現れなかったら、拡がった筈の可能性はあっさりと収縮し、残るは搾りかすだけだったということだ。

(終わった天才というものは、かくも無惨なんだねぇ……)

彼には感謝しなくてはいけない。走るというウマ娘の宿命に道を繋いでくれた彼には。

 

しかしどうやって恩を返そうか。考えてもとてもではないが功績が大きすぎてぱっと思いついた案では足りない。

まあ彼はレースで返してくれればそれでいいと、いつもの顔で言うだろうが。

 

 

がばっ。

タキオンは目が覚めた。

悪夢、ではある。怖い夢を見たのは間違いない。

「……。ちょっと外を歩いてこようか」

タキオンは皆を起こさないようにそっと布団から出た。

 

夜。星と月の光だけの中、砂浜は波が引いていく音が静かに流れていた。

(私がこんなにセンチメンタルになるとは。いやはや……)

弱音を吐いたことはカフェにもポッケにもダンツにもバレてしまった。誰が聞いてるかわからない所であんな事を言うものではないと後悔するが、もはや後の祭り。

「カフェには夢がある。彼女のイマジナリーフレンド……とんでもなく速い『お友だち』に勝てばそれで満願成就、ハッピーエンドだ」

では自分はどうだろう。どんな夢がある? 思いつかない。別に惰性で走っているわけではないが、特別な目標があるわけではない。

プランAはマンハッタンカフェという友人によって大きく躓いた。雨の中とはいえ、あの時の自分は本気だった。それでも負けた。

「…………」

時折、自分はここまでなのかと怖くなる。潮時かも、とも思いたくなる。だがPlayer君がいる以上、滅多なことはできない。

彼は初めて会った時に行ったのだ。自分とカフェが同時に幸せになれるエンディングを目指す、と。

その為ならどんな禁忌だって犯す。純粋真っ直ぐな子供だ。いい意味での世間知らずだ。社会人ではあるらしいが。

「Playerくぅ~ん。……流石にこの時間では出てこないか。でも出てきて欲しいねぇ。ここに君以上の幼稚な子供がいるのだからね」

ウマ娘の無限の可能性。自分はそこに辿り着きたい。

だがその為には、もう一度あの景色が見たい。あの光の路が。何処までも自分を連れて行ってくれそうなあの輝かしい光が。

「もう一度だけ……。もう一度だけでいいんだ……」

果たして天皇賞秋であの光は見れるのだろうか。それはまだ、タキオンにも分からない。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

合宿も後半。タキオン、カフェ、ポッケ、ダンツの四人は併走していた。

アンクルを付け、タイヤを引き摺りながら。

「はっ……はっ……はっ……はっ……」

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

炎天下の中でのこの斤量のダッシュは相当キツい。四人ともダウン寸前まで自分を追い込んでいる。

周りのウマ娘はちょっと引いていた。

「よし、そこまで。休憩しましょう」

「はぁっ……はぁっ……や~っと休憩かよ」

「もうヘトヘトだよ~。うぅ、ちょっと吐きそう」

ポッケもダンツも、一旦重石を全て外し、ドリンクを飲み干すと砂浜に突っ伏す。

「ふぅ……いつも鍛えているから、いや、鍛えさせられているからか、筋肉痛にはならないねぇ」

「……昨日は、自由行動を許されましたからね。いい休憩になりました」

一方昨日お休み&お出かけを許されたタキオンとカフェは体力ゲージも回復し少しだけ余裕がある。

 

「お疲れ様、タキオン、カフェ、ドリンクをどうぞ」

「うん、頂こう。~~~くぅ~~、体に染み渡るとはこの事だ」

「タキオンさん、……大袈裟ですよ」

「そういうカフェはまだ余裕がありそうだね」

「……かくいうタキオンさんも、なんか気合が入ってませんか?」

「ん? んー、……うん。努力してるのさ。あの景色をもう一度見る為には、妥協の二文字はないからね」

「……私に、追いつくつもりですか」

「違うな。追い抜くんだよ」

 

 

「……どう思います、ナベさん。ポッケもダンツも流石に限界だと思うのですが」

おハナさんとナベさんは打ち合わせをしていた。

「ワシもそう思う。これ以上追い込めば致命傷となる程の怪我に繋がるじゃろう。だが、ここで妥協を二人が素直に受け入れるか、となると些か疑問符が付くのう」

「ハナさん。もし二人が、妥協した結果負けるくらいなら、練習を強行する道を選ぶんじゃないかな?」

「フジもそう思うのね。私も二人をマッサージしたりケアはしているのだけれど……」

「東条さん、もう持ってきた湿布の数は底を付きました……。トレーナー的にはあまり賛成はできません……」

とダンツのトレーナー。

 

夏合宿はステータスを上げるには最高の2ヶ月だ。

しかし四人とも宝塚記念に出た為直前のお休みは取れていない。

4ターン強行のポッケとダンツ、お休みを入れてでも怪我率が上がる練習はさせないPlayerのスケジュールに支えられるタキオンとカフェ。

上昇量だけを見ればポッケとダンツが有利だ。練習を失敗しなければ、の話だが。

 

二人の推定怪我率はおそらく30%を超えているだろう。リスクを取ってボタンを押すか、トレーナー側は悩ましいところだ。

「うーん……じゃあ、こういうのはどうかな?」

フジキセキが挙手し、提案をする。

 

「夏祭り、スか?」

「うん」

フジは今日はもう上がっていいと言った。当然二人は断ったが、その代わりに提案したのが今日近所で行われる夏祭りだ。

「気分転換にはいいと思うよ。普通に息抜きしろと言っても君たちは断るだろうから、落としどころとしてはいいかなー、と思ってね」

「俺はいいですよ」

「私もさんせいー」

「こんなこともあろうかと、浴衣を持ってきてたんだ。聞いたらダンツのトレーナーさんも持ってきてるってさ」

「わあ、トレーナーさん変なところに気が利くんだから」

「というわけで今日は上がり、ね」

「うっす。へへ、夏祭りかぁ……楽しみだな」

 

 

着付けてもらった浴衣に身を包み、ポッケとダンツはフジキセキに連れられて祭りに参加した。

後で時間になったら花火も上がるらしい。

「祭りの出店の食べ物って高いのに何故か美味しく感じるよね~」

そう言いながらダンツフレームはにんじん焼きを頬張っている。

「あ、それは分かる! 何喰っても美味いよな。このジャンキーなところが何ともいえねえんだよな」

ポッケも上機嫌でたこ焼きを食べていた。

「はい、二人とも。飲み物をどうぞ」

付き添いのフジがラムネを買ってくれていた。

「あ~久々のしゅわしゅわだ~。おハナ……東条さんに炭酸はダメって言われてたからなー」

「このことは秘密、ね?」

「勿論、黙ってればバレねえっすよ」

 

「やあやあ御三方。奇遇だねえ」

「……タキオンさん、分かってて話しかけましたね」

 

「んだよタキオン、ウマ子にも衣装ってか?」

「はっはっは! トレーナー君が着付けてくれたのさ。でも一人では寂しいのでカフェを連れてきた」

「……私は、いい迷惑です」

 

「おい、おまえは今年例の場所に行くつもりか?」

「ああ、あれか。例の穴場で一緒に花火を見たカップルは幸せになれるってあれか?」

祭りも後半、屋台を練り歩いていたタキオン達にふと地元の人間らしい二人の会話が聞こえてきた。

「あーあー、独り身は辛いよなー。ま、花火なんて何処から見ても一緒だしなー。俺は浜辺から見るさ」

「ウマ娘でもナンパするか?」

「やめとけって。張り倒されるぞ」

 

「んん~、ほほぅ、そこの二人、その話詳しく聞かせてもらえるかい?」

 

 

「おいおいタキオン、本当にここでいいのかよ。嘘付かれたら洒落になんねえぞ」

「大丈夫さポッケ君。こういうのは地元の情報が一番役に立つんだよ」

五人は祭りから少し離れた森の中にいた。

しかしふと上を見渡すと、成程、確かに森の中だというのに夜空がぽっかり空いている。

「みんな一応足元に気を付けてね。あっちの方は崖になってるみたいだよ」

ダンツが言う。

「……そろそろですね」

カフェが時計を見る。定刻通りなら、花火が上がる時間だが……、

 

ヒューーーーーーードォォォォォォォン!!

ヒューーードォン! ドォン! ドォン!

ドーーーーーン! バラバラバラ……。

 

「おっ……」

「おおっ! すげーな!」

「穴場って本当だったみたいだね」

「……素敵です」

「綺麗だねー」

 

ドーン! ドーーーーン!! ドーーーーーーン!

 

「いいぞ~もっと上がれー!」

「ポッケ君。叫んでも花火の数は変わらないよ」

「……こんなに素敵なら、プレ……トレーナーさんと一緒に見たかった……いや、なんでもないです」

 

「願わくば、ここにいる可愛い後輩たちに幸せがありますように……」

フジが目を閉じて空に祈った。

 

「さーて、そろそろ帰……」

「ん……あぁん。……はぁん……」

「へ?」

花火がひと段落した所に突如聞こえてきた嬌声。五人は本能的に息を潜め、気配を殺し、そっと叢を除いた。あくまでそっと……。

 

「はぁん……。あぁ……ケンジぃ……」

「へへ、気持ちいいかぁ、オルハ……」

「もう、どうしてこんなこと……はぅっ……家まで待てなかったのぉ……」

「オルハだって知ってるだろ。ここで花火を見たカップルは幸せになれるって」

「うっ……んん……花火なんて……あぁっ……見る気なかったじゃ……なぁい……あん」

「いいじゃねえか。家より外でやる方が興奮するんだよ」

「そんなことぉ……ひゃあん! あっあんっはぁっああんっ」

 

「「「「「!!???!?!?!??!???!!?!??!」」」」」

(おい、おいおいおい、こ、これはまさか……!)

(えっ、じょ、冗談だよね……これって……)

 

(((((うまぴょい)じゃないか……!)))))

 

「あっあんっ! ああっんんっ!」

「はぁはぁ……マナミ……」

 

「ああっ……だめぇ……ひゃぅ……はぁっ……」

「どうだ、ヨウコ、突きながらのクリ責め、好きだろ」

 

(おいおいおい、なんだここは!? スケベな奴ばっかじゃねえか! うっ……興奮して鼻血が……!)

(落ち着いてポッケちゃん! 見てない見てないよ私! なーんにも見てない!)

(ほほぅ、いいねぇ。後学の為にもう少し見物させてもらおうか)

(タキオンさん! そんな事言ってないでさっさと逃げますよ……!)

 

「ああんっ! はぁん! ああっ! いい……いいよぉ……もっとぉ……もっとしてえ!」

「くぅ~。締め付けやがる。流石ウマ娘、鍛えてるだけあって下半身の締りも最高だぜ。ウマ娘がこんなにエロいとは。掘り出し物だったぜ、なあレトゥーちゃん」

「だ、だってぇ……ずっと練習漬けで……あぁん! た、溜まってたんだもん……あっ! ああん! はぁっ! いいよぉ!」

よく見たらナンパされたウマ娘もヤっていた。

バンブーメモリーさん、風紀が乱れてるっスよ。

 

(こ、ここ、こんなところにいたら巻き添えを食らいかねない! 全員、息を殺しながら合宿所に向かって前進!)

(らじゃー!)

フジの号令の下、五人は逃げるようにその場を立ち去った。

 

みんなはちょっとだけ大人になった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

こうしてウマ娘各陣営の想いが積み重なった夏合宿は終わった。

 

ポッケとダンツはなんとか踏みとどまり怪我もなく合宿を終えた。

その努力は周囲のウマ娘からも称賛された。

「ふぃ~、ギリギリだったぜ。マジきつかった」

「私まだ筋肉痛だよー……」

 

一方でタキオンとカフェも力を付けた。

「さて、後は実践あるのみ、か……」

「……弱音を吐いてる暇はないと思ってくださいね」

 

 

季節は9月。いよいよ秋のGⅠシーズンが幕を開ける。

 

だが、ここでとんでもないニュースが日本に舞い込んだ。

それは遠い海の向こう、凱旋門賞が行われたフランスから訪れた。

 

今年も日本勢は果敢に勝負を挑んだが、世界の壁は厚く完敗。悲願達成はならなかった。

優勝したのはフランス代表、ヴェニュスパーク。あの20世紀最後の欧州最強ウマ娘と称えられたモンジューを師に持つ実力者である。

そのヴェニュスパークが、優勝後の記者会見でとんでもないスピーチをしたのだ。

 

それは、日本に対するまごうことない『挑戦状』だった。

 

「世界最高峰のレースである凱旋門賞を勝てたのは、とても嬉しい。ここまで色々な事があったし、私は多くの人々に支えられてここまで来れたと思う」

「私を支えてくれたトレーナー、師匠であるモンジューさん、フランスのトレセン学園にいる多くの競い合えるライバル達、全てに感謝したい」

「だが、これで私は世界最強になったのか……、と周りは褒め称えるかもしれないが、それは違うと思う」

「もし凱旋門賞に勝った時、決めていた事がある。その悲願を成就させる為、私は海を渡り、真の世界最強の座をかけて勝負をする!」

 

 

「その相手は……日本のマンハッタンカフェだ! その為に私は日本に行き、ジャパンカップに出場する!」

 

 




すいません。15話あたりどころか20話以上かかるかもしれません……
こんな誰も見てない作品ですが、もう少し生ぬるい眼で見ていただけると幸いです
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