ウマ娘プリティーダービー『The Player』 作:K.T.G.Y
「おおでかくでたねぇ作者君。もう2ヶ月しかないよ」
「……もうすぐ年末進行だって、言ってたじゃないですか」
「俺はやればできる子なんです」
「素直にさっさと終わらせたいと言えばいいのに」
「長期連載者って、……すぐエターナりますからね」
ワアアアアアアアッ!!!!
『アグネスタキオン完敗! まさかの敗北!!』
『かつての豪脚復活ならず! バ群に飲み込まれ惨敗です!!』
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
(脚が重い……いや、脚が痛い……)
(呼吸も苦しい……息が出来ない……まるで水の中に沈んでいるようだ……)
「ああ……どうやらアグネスタキオンはピークを過ぎたようだな」
「あんなに強かったウマ娘も、峠を過ぎればこんなもんか」
「仕方ない。マンハッタンカフェに切り替えていくか」
「今日は帰ろうぜ」
観客が波が引くかのように去っていく。一人、また一人、そしてとうとう誰もいなくなった。
(終わった……な……)
カチ・・・カチ・・・。
「……はっ! や、やめろ! やめるんだPlayer君!」
カチ・・・カチ・・・。
「自分の持てる全てを注ぎ込んでの勝負だ! 悔いなどない!」
カチ・・・カチ・・・。
「やめてくれ……Player君……!」
ジリリリリリリリリリッ!!
「うわあああああああっ!!」
タキオンはベッドから悲鳴を上げながら目を覚ました。
そこはいつもの光景。アグネスデジタルとの寮の相部屋。
ピピピ・・・ピピピ・・・ピピピ・・・ピピピピピピピ!!
「…………」
けたたましく鳴り響くタイマーを殴るように止める。
「……。ゆ、夢、か……」
今日は誰もが待ちに待った天皇賞秋当日。
ある意味最悪のタイミングで見た最悪の夢だった。
いや、正夢かもしれない。
Playerが敗北した自分を『なかった事にするために』時計を使った可能性もある。
「今日の、未来の私は……負けた、のか……?
分からない。悩んだところで意味がない。問い質しても白を切るのは目に見えている。
「……Player君。君だけは私の味方だろう? 信じているのだろう? まさか、この土壇場で裏切る様な真似はしていないよな……?」
そこに尋ねる相手はいなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
10月第四週。天皇賞秋。
今年最後になるであろう台風は大型となり、上陸以降各地で大きな被害を齎した。
予報では午前中には温帯低気圧に変わるとの事だが、関東地方は朝から雨模様であり、バ場状態は重。天候は不良。
宝塚のカフェとの一戦を考えれば、出来れば晴れて欲しかったが。いかにPlayerといえど自然には勝てない。
無論てるてる坊主を使って晴れにする事はできる。だが残念ながら芝の状態までは回復させるのは無理だった。
『さあいよいよ秋のGⅠ戦線も中頃。今日は府中2000mの物語。天皇賞秋です!』
『注目は連覇を狙うアグネスタキオン。今日も堂々の一番人気です』
『さて今パドックが終わったようです。どうですか細江さん?』
『そうですね。注目のアグネスタキオンですが、今日はどこかそわそわしているというか、落ち着かないような印象を受けました。
むしろダンツフレームの方が落ち着いていて気合十分といった感じでしたね』
『そうですか。アグネスタキオン、ちょっと不安ですね』
『彼女も人の子ウマの娘、やはり緊張する事もあるんですかね?』
『注目と言えばもう一人。今日は二番人気、執念の雑草魂ダンツフレームですかね』
『前哨戦に選んだオールカマーでは5バ身ぶっちぎっての圧勝劇。打倒タキオンに向けて死角なしといったところですね』
『仕上がりという点では、アグネスタキオンをも上回るかもしれませんね』
放送席と観客席が盛り上がりを前にざわつき始める。
それでも観客の多くはタキオンの勝利を信じて疑わない。
今日はマンハッタンカフェもいないのだから、と。
「…………」
タキオンは控室で瞑想状態にあった。いつものような人を食ったような覇気とは打って変わっての静穏。
無論調子は『絶好調』。体調管理も問題なし。本来であればステータスとスキルの暴力で取りこぼすことなどありえない筈だが……。
「……どうしたんですか、タキオンさん? 今日のあなたは、やっぱり変です」
心配になってカフェが尋ねる。
だが、タキオンは何も答えなかった。無視ではない。どこか心虚ろという印象を受ける。
「……Player君」
ふと、タキオンがPlayerの眼をじっと見て尋ねた。
「君は……何もしていないだろうね?」
「ああ、していないさ。まだ、何も」
「まだ、か……。そうか……。疑うわけではないが、その言葉に嘘偽りはないだろうね?」
「ないよ。今からタキオンの連覇をどう祝おうか思案中だけどね」
「…………」
Playerは飄々としていたが、やはりタキオンの異常には気づいていた。
今日の天皇賞に向けて打てる手はすべて打った。文句のつけようがないくらいに。なのに何故このように自信なさげなのだろうか。
「タキオン、君の勝利は、もはや君だけの勝利ではなくなった。それを忘れないでくれ」
「分かっているさ」
そうは言うが、どうにも気が盛り上がってこない。
「Player君。紅茶を冷やしたものをくれ」
「……いいんですか、タキオンさん。走る前から水分取ったら横っ腹が痛みますよ」
「私もたまには気分を盛り上げたいときもあるさ。まあ結果はしっかり出してくるから期待していてくれ」
「…………」
(やはり、いつものタキオンさんとは、違う……)
一方でダンツフレーム陣営の控室は明るかった。
「いい、タキオンは徹底的にマークして。今のあなたなら力負けしないわ」
「はい!」
控室にはダンツのトレーナーは勿論、おハナさんや応援に来たポッケやミラ子もいる。
「オールカマーの時を思い出してください。今のダンツさんなら必ず勝てます」
「ありがとうございます! 勝ちます!」
本来なら緊張して震えているところだが、不思議と表情は明るい。声も自信に溢れている。
「頑張れよダンツ。おまえなら出来る!」
「ダンツちゃんなら勝てるよ。勝てなかったら私は府中の木の下に埋まっても構わないよ」
「うんっ!」
(滅茶苦茶自信たっぷりじゃねえか。まあ当たり前だよな。俺と同じ、血の滲む練習を熟してきたんだ。それが自信に繋がってる)
(もうおまえはタキオンなんかに負けねえよ。タキオンがガッカリ肩を落とすのが見物だぜ)
「それじゃ、行ってくるね!」
「頑張れよダンツ!」
「応援してるねー」
「うん。わたし頑張るね!」
「成長したわね。ダンツさん」
「……正直私は何もしてませんよ。トレーナーとしてはおハナさんに頭が上がらなくなりましたね」
「何を言っていますか。彼女が音を上げそうになった時いつもフォローしていたのはあなたでしょう」
「そうなんですが、育成という点では私は何も出来ていませんでしたよ。ははは……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ワアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
『さあ、注目のアグネスタキオンとダンツフレーム、二人ほぼ同時に姿を現しました!』
「待っていたぞータキオンー!」
「タキオン様、今度こそ光の粒子の先にある勝利をー!」
「応援してるぞーアグネスタキオンー!」
「まるでアイドルだね、タキオンちゃん」
「……ダンツ君」
「……。勝つから」
「……」
「今日は絶対、私が勝つから!」
そう言ってその場を去る。
「……いやはや、後光が差すほど自信に満ち溢れているじゃないか。これは苦労しそうだ」
(いや、実際苦労するだろう。私は11番外枠。ダンツ君は7番だが……)
(展開としては間違いなく彼女にマークされる筈……どうする。思い切ってハナを狙うか……それとも……)
逡巡した後、タキオンは自分のスタイルを貫く事に決めた。
土壇場で下手な小細工は危険だ。今出せるベストとパフォーマンスを引き出せれば自然と結果は付いてくる筈。
最後の直線はおそらく二人の戦いになるだろう。
そこで競り負けなければいい。
(無論、簡単にいかない事は想定できるが……)
一方、Playerは観客席から出走ウマ娘をチェックしていた。
「ツインターボ、マチカネタンホイザ、イクノディクタスといったカノープス組、エアシャカールにゼンノロブロイ……。
まあ2強は揺るがないだろう。総合では小粒な面子といえるな」
「……ポッケさん、出場しませんでしたね。有馬を想定して牙を研ぐ、との事ですが……」
「これ以上負け癖を付けたくないという配慮だろうね。上澄みなんて誤差程度なのに」
「……随分、余裕ですね」
「彼女のステータスは随時チェックしてある。勿論ぐっと力は付けてきたようだが、それでもタキオンとカフェには及ばないよ」
『さあ、まもなくレースですが、展開としてはどう見ますか?』
『ツインターボが間違いなく大逃げ態勢にはいるでしょうが、最後まで持つとは思えませんね』
『やはりタキオンとダンツの2強対決と見ていいでしょうかね?』
『他のウマ娘もタキオンマークに入りたいところですが、ダンツフレームがぴったりマークに入るなら走るのは楽でしょうね』
『もっともこの二人がキーマンになるのは揺るがないでしょうねー』
今日の秋天のレース出走者は11名。タキオンは大外となったが、この番号では極端な不利とはならないだろう。
しかしマークを狙うダンツの妨害の中、内に入れるかどうか……。
歓声が上がる。スターターが走ってくるのが見えた。
いよいよレースが始まる。
旗が振られ、陸上自衛隊の演奏と共に、死滅したはずのオイオイ民が現れ、大歓声が上がる。
ワアアアアアアアアアアアアアッ!!
『さあ始まります今年の天皇賞秋! ギュっと濃縮11名!』
『勢い止まらぬ光の粒子の2連覇か。それとも執念の雑草魂が一矢を報いるのか。番狂わせを狙うダークホースが現れるのか』
『ツインターボがいるのでハイペースが予想されますが、バ場は未だ不良気味。スピードを出すのは難しいかもしれません』
『不用意に内を取ると乱されるかもしれません。実力だけではなく戦術や戦略も要求されるこのレース。果たして誰が栄光を掴むのか!?』
『枠入りが始まっています』
『おや、ツインターボがゲート入りを嫌がっています』
「あーちょっと、ちょっとだけ待って。ターボ別に走るの嫌いじゃないもん」
「しかし……」
一方でタキオンとダンツはすんなりとゲートに入った。
(はてさて、どうなるか)
(やろう。今までしてきたことをここで全て出す!)
ツインターボがようやくゲート入りし、態勢が完了した。
「…………」
「…………」
「…………」
ガコン!!
『さあスタートが切られました。各ウマ娘綺麗なスタート』
『ツインターボが行く。そして、おや、マチカネタンホイザ、イクノディクタスもハナ狙いとばかりに前に出ます!』
「だりゃああああっ!」
「はああああっ!」
「いっくぞーーーー!」
まずは最初のコーナーを回り向こう正面に。だがその前から、ダンツフレームは対タキオンの為に仕掛けていた。
「ちっ、やはり内には入らせてもらえないか」
「今日は一度も中には入れないよタキオンちゃん!」
降着覚悟のうえで肩と体を寄せる。これ以上はないという徹底マークだ。
その光景を、観客席からPlayerとカフェが見ていた。
「……ダンツさん、凄まじいプレッシャーの掛け方ですね」
「マークされるのはいつものことだよ。だが、これは、うーん……」
「ダンツさん、スタートといい、マークといい、まずは最高の立ち回りですね」
「このまま行けば全てのウマ娘がハイペースに付き合わざるを得なくなる。果たしてアグネスタキオンがそれを望むかしら」
ダンツのトレーナー、おハナさんもそれを見守る。
「大丈夫っスよ。今のダンツなら絶対勝てますって」
(一緒に練習してきてわかる。今日の仕上がりはタキオンより上だ。そうだろ? ダンツ)
ポッケも拳を握りしめながら固唾を飲んでいた。
『さあツインターボ、イクノディクタス、マチカネタンホイザ、三名が大逃げ態勢です』
『これはツインターボを生かすような立ち回りですね。後ろを突くことで粘らせようとしているように見えます』
まさにその通りだった。
「どんな相手が凄くてもターボは大逃げするよ!」
「はい。ですがタキオン相手に2000m逃げ切るには失速したら終わりです」
「先頭を譲らない為には、私たちが後ろに付くから、最後まで絶対へばっちゃダメだよ」
「分かった! でもターボが勝ってもイクノもマチタンも後悔しちゃだめだからね!」
常軌を逸したハイペースに全員を飲み込み、脚を使えなくする。これがカノープス陣営の作戦だった。
その為に今日まで意地の張り合いとばかりに練習を積み重ねてきたのだ。
全てはアグネスタキオンに勝つ為に。
そして向こう正面もいよいよ終盤。隊列は完全に縦長に。
三名が大逃げし、二名が張り合い、他がハイペースの中食らい付かざるを得ない状況に陥っていた。
「あーもう、なんなのこのペース、持たないよ」
「くそったれが、これじゃ追い込み策じゃ届かねーじゃねえか!」
ハイペースの中、タキオンとダンツは4、5番手にいた。
無論タキオンも考えている。先程から緩急を使ったペース配分を試みたり前に出るか否か揺さぶっている。
しかしそれを一切させないのがダンツのマークだった。
最後まで食らい付いてやるという凄みを感じるプレッシャー……、
(まさか、これほどとはねぇ……甘く見ていたよ)
だが今不用意に前に出ては駄目だ。最後に一着になりさえすればいい。
(……タキオンちゃんが嫌がっている。まだ続行だ。しびれを切らして前に出たところが最後の仕掛けどころだ)
横目でタキオンの表情を読み取りながら、ダンツはじっと耐えていた。
『57秒7。1000mタイム57秒7!? これは早いぞ天皇賞秋!』
『まぎれは起きるのか注目です!』
「うぎー! うおおおおっ!」
「ターボさん、ここで失速したら承知しませんよ!」
「分かってる! ターボのど根性ー!」
『さあ先頭集団一塊が第四コーナー回って直線に入る! ツインターボ、イクノディクタス、マチカネタンホイザまだ粘っている。必死に粘っている!』
「おいおいこのペースでまだ粘るのか」
「タキオンはどうした! まだ来ないのか!?」
後ろは来ない。もう後ろからは誰も来ない。いや、来られない。あまりに離れすぎた。差しや追い込みでは、もうこの位置には届かない。
「…………」
「「ここだっ!!」」
『きた! きたきた! アグネスタキオン! そしてダンツフレーム! 二人が同時にギアを上げた! 迫る! 先頭集団に迫る!』
『しかしアグネスタキオンにキレがない! ダンツフレームだ! ダンツフレームが来ている! ダンツフレームか!? ダンツフレームで決まるのか!?』
「うあああ、や、やめてくれ!」
「ダンツフレーム少しは手加減しろ!」
観客席からタキオン信者の悲鳴が上がる。
そう、タキオンは最高の走りが出来なくなっていた。ガッチリと食い込んだダンツのマークという病毒に蝕まれ、いつもの走りが出来なくなっていた。
「くっ……!」
タキオンもそれに気付く。まずい。このままでは負ける。二着だ。ダンツフレーム優勝の二着に止まる。
(流石だよ。ダンツ君……、よもや私がこれほど追い込まれるとは)
(きっと血反吐を吐くような練習を重ねてきたのだろうね。その自信と、勢いが、この走りを引き出している)
(このまま君に、勝利をくれてあげてもいいと一瞬思った。君が相手なら悔いはないと……)
(で…でも……でもね……っ)
「私は……こう見えても負けず嫌いでねぇっ!!」
『来た! アグネスタキオンの二枚腰! これで先頭集団が入れ替わる! アグネスタキオン! ダンツフレーム! やはり二人の戦いだ! どっちだ!?』
フッ……。
「えっ……」
その時、タキオンの前がホワイトアウトした。
スローモーションで走っている自分がいて、空中に黒い数式が幾つも散りばめられていて、その先に見えるのは、あの光……。
どれほど焦がれても届かず、見えなかったあの光。己の限界速度の頂点に達した時に、心身が最高の段階に届いた先に初めて見えたあの光。
(み、見えるぞ……! あの光が……! 私が見たかったこの景色の先が……!)
(あ、ああ……ああっ……最高の気分だ。今自分が何処を走っているかわからない。だが見える。どうやら再び潜り込めたようだ。『神の域』に……!』
そしてタキオンが意識を取り戻した時、彼女は既に、ゴール板を駆け抜けていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ワアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
『レコード! 何とタイムはレコード! 1分55秒1! 信じられないタイムです!』
『これ、世界レコード級じゃないですか? とてつもないタイムですよ!』
秋天、勝ったのはアグネスタキオンだった。それも観客が度肝を抜くようなレコードタイムで。
2着のダンツフレームも1分55秒2というレコードタイム。
3着以下のツインターボ、イクノディクタス、マチカネタンホイザも秋天レコードというとんでもないレースになった。
それでも最後の最後に、常軌を逸した大レースの中、最後に勝利したのはアグネスタキオンだった。
「す、凄え……凄すぎだぜアグネスタキオン……」
「こんなレースを観客席から見れたなんて……一生の宝物だぁ……」
「うおおおおおっ! アグネスタキオン! やっぱりお前がナンバーワンだぁっ!」
観客のタキオンを称える声が止まらない。
それほどのレースを彼女はやってのけた。
一方で、ダンツのトレーナー、おハナさん、ポッケは開いた口が塞がらなかった。
「そんな……そん……」
「このタイム……普通のレースなら大楽勝劇な筈。なのに……」
「ダンツ……ダンツよぉ……。おまえあんなに練習してたじゃねえか。滅茶苦茶頑張ってたじゃねえか。それなのに、タキオンには勝てねえってのか……どれ程頑張ればあいつに勝てるんだよ」
「はあっ……はあっ……負けた……本気だったのにな……」
敗れたダンツフレームは悔しさを滲ませた。今やれるベストのレースをした筈。それでも一歩及ばなかった。着差がクビ差というところが全てを物語っている。
「うぅ~げほげほ……負けた~」
「仕方ありません。タキオンとダンツが強すぎでした」
「あんなに頑張ったのにな~。バテずに最後まで走り切ったのにな~」
カノープス三名も悔しい。特にツインターボは最後までエンジンが止まらずに完走した。それだけでも凄い。しかし及ばなかった。
「悔しいけどしょうがないか。タキオンちゃんおめでと……」
ダンツがタキオンに話しかけようとして振り向いた。しかし彼女は、言葉を詰まらせた。
タキオンは、蹲っていた。
「くっ……!」
タキオンは疲れだけではない。ある個所の痛みで起き上がれなくなっていた。もはや倒れているのに等しい。
「ど、どうしたのタキオンちゃん!?」
「触るな!」
駆けよるダンツをタキオンが制する。
観客もザワつき始める。
「なんだ。アグネスタキオンどうしたってんだ?」
「まさかアクシデント発生か!?」
「Playerさん……タキオンさんは……あ、あれ?」
カフェは横にいた筈のPlayerに話しかけようとしたが、既に彼の姿はなかった。
見ればレース場の中に彼はいた。
「大丈夫かい、タキオン」
「……Player君」
トレーナー呼びをするのを忘れるほど、タキオンは疲弊しきっていた。
「ふむ……これは、……よくないな」
Playerはひょいっとタキオンをおんぶした。
「おいおい、Player君。止めなよ。観衆の面々の前だぞ。恥ずかしいじゃないか」
「そう言ってる場合じゃないんだろ、タキオン?」
「それは、そう……だけど……走った直後で汗でべとべとだし……」
「ん? 君も乙女チックなところがあるのかい?」
「そうじゃなくてだね……!」
レース場から去ろうとする二人の前に、マスコミが群がってくる。
「トレーナーさん、アグネスタキオンは一体……」
「すいませんがどいてください。申し訳ありませんが、本日のヒーローインタビューとウイニングライブは中止ということで」
「えええっ!?」
控室にPlayerとタキオンとカフェはいた。
「……タキオンさん。本当に止めてくださいよ。あなたは私ともう一度対戦するんですから」
「いや~男の背中というのはいいものだねぇ。暖かくて、大きくて、居心地が最高だ。カフェが欲しがり屋さんになるのも頷ける」
「そういう事を聞いてるんじゃ、ありません……」
「ふっ……この痛み、忘れる筈もない。私を長年蝕み続けたあの痛みに間違いない」
「屈腱炎が再発した。そう見て間違いないだろうね」
「……っ!?」
「……Player君。すまない。君の言う通りだった……。求め焦がれた光の先……『神の域』は、破滅の入り口だった……」
「そうか。分かってくれればいいさ」
「でも、そうでもしなければ勝てなかった。それほどダンツ君は強かった。ああしなければ、確実に私は負けていたよ……」
「だけど悔いなんてないさ。最高の走りが出せたんだ。これ以上何を求めるというのか。Player君、私は……」
「問題ないよ、タキオン」
Playerの両手に光が集まる。それを患部に当てると、ほのかに温かく、気持ちよさを感じる程心地よいもので……、
「……! 痛みが、引いた……」
「忘れたのかい? 君たちはゲームの登場人物で、私はPlayerだ。回復呪文を唱えたようなものだよ。これで問題は解決した」
「そ、そんな……。Player君! 君はこれ以上私に走ろというのかい!?」
「無論そうだ。まだ年末の有馬がある。そこでカフェともう一度対決させる」
「無理だ……無理だよPlayer君。私の今日はベストでありマストだ。これ以上の走りは出来ない。『神の域』も使えない。私は、カフェに勝てない……」
「やってみなければわからないさ」
「これ以上は、ただの酷使だ!」
タキオンは必死だった。今日のレースは勝ちこそしたが内容では完全にダンツに負けていた。二度目がないことぐらい、直感的に分かっている。
「……マンハッタンカフェルートの、プランBの君は、無期限の活動休止を得た後、最後の最後に現役復帰してカフェと対決している」
「え……」
「君は結局、走りたがり屋さんなんだ。案外、熱血漢なところもあるんだよ。だから苦しくても走るのを選ぶ事だけは止められない」
「…………」
「その望みを叶えるのが私の役目だ。最高の舞台で最高のレースをする。それで負けたのなら、今度こそ悔いはないだろう。何故なら君は、まだとことんやりきってないからね」
「君は……卑怯だ……。君の前では、完全にお天道様の手のひらじゃないか。ずるいよ……」
「じゃあ現役続行という事で決まりだね。シャワーでも浴びておいで」
「……。Player君。頼みがある」
「何だい?」
「もし私が有馬でカフェに勝ったら褒美をくれ」
「褒美か……私にできる事であれば善処するが」
「そうか。じゃあ私が勝ったら……私のファーストキスをもらってくれ」
「なっ……! タキオンさん……最低です……(ゴミを見る目)」
「いいじゃないかあカフェ。私もこう見えても乙女なんだよ。卒業も近いし、本格的にPlayer君をアグネス家に囲っておかなければ」
「私が許しません! ……Playerさん! 私が勝ったら私がキスします!」
「おやおやあ、随分乗り気じゃないかカフェ。君にはまだジャパンカップで凱旋門賞ウマ娘に勝つという目標があるんだよ」
「分かってますよ! タキオンさんには負けません! Playerさんを射止めるのは私です!」
「ハッハッハ! カフェは本当に乙女だねぇ」
(あ~あ、さっきまでの流れが滅茶苦茶だよ)
Playerはなんでこんな話題で盛り上がれるのか、ウマ娘というのはよく分からないなあと思ったのだった。
(大体電源入れないと会話ができない相手と恋愛してもしょうがないだろうに……世のオタクというのは分からないなぁ)
新シナリオ、読めました。
S評価×5してSODに3回突っ込めば勝つる。
でもS×4して最後に取り損ねると泣けますね。
でもスキルpt盛り切れないのがなあ。
まだ最適解じゃないのかなあ……。