ウマ娘プリティーダービー『The Player』 作:K.T.G.Y
ジャンプだったらとっくに見限られてるぞ作者!?
チュンチュン……チュン……。
「む……」
朝早く、アグネスタキオンは目が覚めた。
こんな時間に目が覚めるのは珍しい。
いつも門限ギリギリまで旧理科準備室で研究を続け、皆が授業を受ける時間に起き、授業をサボって研究に勤しむというのに。
「……」
頭をポリポリと搔きながら時計を見る。5時半前だ。
意識は未だ半覚醒といったところ。二度寝してしまおうかと思ったが、二度寝すると頭が痛くなるのでできればやりたくない。
(あれは、夢だったのか……)
昨日、旧理科準備室を訪ねてきた、自らを『Player』と名乗るトレーナー志望。
手品のようにファイルを出し、『馬』のホログラフィーを見せ、我々はゲームの登場人物に過ぎず、自身を単なるアバターと言い放った男。
だが意識が鮮明になるにつれ、あの奇妙な出来事は現実のものだということを思い知らされた。
(ああ、そして誓ったんだっけ。私とカフェは彼を受け入れレースを走るウマ娘としてデビューする事を……)
「……と、いう夢を見たんだ、となれば綺麗にオチもつくんだがねぇ」
愚かな事だ。どうせ自分の脚は使い物にならな……、
「……!?」
タキオンは目を開き、左脚をさすった。
間違いない。
(脚の……脚の違和感が……ない……!)
あれほど長年左脚に付き纏っていた自身の欠陥が、綺麗さっぱり消失していたのだ。
「……!!??」
力を入れてみる。ストレッチをしてみる。叩いてもみる。だが、何も起こらない。
彼は確かこう言った。
(おまじないをかけたのさ。君がもう一度輝けるように)
その効果は、あったのだ。
「…………」
ドタバタドタ……。
タキオンは洗面所に行き、頭から水を被って強引に寝癖を直す。
歯を磨き、水を飲み、ジャージに着替える。
「ふぇ……タキオンさん、朝からどうしたんですか?」
同室のルームメイトである、アグネスのヤベー方こと、アグネスデジタルが目を覚ましたようだ。
「ちょっと外を走ってくるよ」
「はあ……朝からお元気ですねえ……お気を付けて」
「……。……え!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝露の残るトレセン学園の整備されたターフ。
そこをアグネスタキオンは走っていた。
「はっ……はっ……はっ……はっ……」
タキオンは左脚の感触を気にしつつ走ってみた。
しかし違和感はない。完全に治っている。
(やった……やったぞ……!)
「もう一度走れるんだ……。やり直せるんだ……」
幾度となく試した研究でも払拭できなかったあの違和感がない。走れる。これ程嬉しいことはない。
(これだけで、君に付いて行く価値があるというものだよ。トレーナー君。いや、Player君……!)
「なんであんたまで付いて来んのよ!」
「うっせーな! おまえが朝練するってドタバタするから目が覚めたんだろうが!」
「ふんだ、あんたが大いびきするから煩くて眠れなかっただけよ!」
「んだとぅ!?」
朝から痴話喧嘩をしているのは、ウオッカとダイワスカーレットだ。
ちなみにデジタルの中でも生粋の推しであり、デジタルは妄想だけで二人の会話をトレースする事ができる。
二人がギャーギャー言い合う光景はしょっちゅうで、学園内でも微笑ましく見られている。
「ん、なんだ? 先客がいるじゃねえか。朝だってのに、ご苦労なこった」
「嘘……」
「ん、どうした?」
ダイワスカーレットはターフに向けて指を指す。
「タキオンさんが、走ってる……?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アグネスタキオンとマンハッタンカフェ。
どちらもトレセン学園内では噂される程の常識人と変人の狭間にいるウマ娘であり、学園にいながら未だに専属トレーナーも付けず、デビューも先送りになっていた二人。
その二人が、数か月後にメイクデビュー戦を行うという噂はたちまちのうちに広がり、学園内でも多くのウマ娘達に伝わる事となった。
僅か三日の事である。
「聞いた? アグネスタキオンさんとマンハッタンカフェさんのこと」
「ああ、聞いた聞いた! あのテコでも動かないと言われた二人がデビューだなんて、どういう風の吹き回しかな?」
「余程いいトレーナーに巡り合ったのか、それとも退学勧告を受けて尻に火が付いたのか……」
「どんな走りするんだろうね? 気にはなるけど」
「私この前見たよ。すっごい速かった!」
「マジー!?」
「失礼します……」
マンハッタンカフェがいつもの旧理科準備室に現れた。
「……もぐもぐ」
「……」
タキオンは食事中だった。
Playerにお弁当を食べさせてもらっている。
「Player君、次は卵焼きをくれ」
「はいはい」
タキオンはご飯を口に運ばせてもらいながら器材をカチャカチャさせている。研究の真っ最中だ。
「……素直に食堂に行けばいいのでは」
「いやー、あそこの雰囲気はどうにも苦手でねぇ。あ、Player君、次はたこさんウインナーをくれ」
「はいはい」
マンハッタンカフェは思った。そして素直に口に出した。
「まるで……介護する人と、介護されてる人ですね……」
「いやー、照れるなあ」
「褒めてません」
カフェは尋ねる。
「走らないんですか……?」
「勿論走るよ。今日はいよいよPlayer君に練習場に出てもらう予定だ。無論、カフェもね」
「……分かりました」
食事と研究もひと段落したところで、プレイヤーは打ち合わせを行う事にした。
「さて、まずは二人に現在のステータスを見てもらおう」
プレイヤーは虚空にゲーム画面を映し出す。そこにはタキオンとカフェのパラメータが載っていた。
「ウマ娘のパラメータは大まかに5つ。スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さ、この5つだ。
走り込みを行えばスピードとパワーが上がり、水泳を行えばスタミナと根性が上がる。勉強をすれば賢さが上がる。
これに、各ウマ娘の『適正』と成長補正を組み合わせたのが、大まかなステータスとなる」
「ふむふむ……」
「あの、スピードとスタミナはある程度想像つくのですが、パワーから先がよく分からないんですが……」
「パワーは相手を追い抜く力、パワー練習を行えばスタミナも上昇する。根性は追い比べや競り合いに強くなり、練習するとスピードやパワーも上がるが上昇量はやや少な目。
賢さは後述するスキルの発動率や出遅れ、掛かりの発生率が低下するといった具合だな」
「続いて『適正』の話に移るよ。
適正とは芝やダート、距離、走りの3つのタイプに分けられる。
GからAまで存在し、Aに近づく程その適正が高いことになる。二人とも基本、ダートの適性はないからダートを走ることはないな」
「……なんかわたし、適正狭くないですか?」
「そうだね。カフェ、君は不器用なウマ娘だ。ダートも走れないし、短距離もマイルも苦手だ。しかし長距離なら、メジロマックイーンやライスシャワーを超える生粋のステイヤーになれる」
「私は先行タイプ、カフェは差しタイプか」
「そう。カフェ、君はお友だちに追いつこうと強引に距離を詰めようとしたね。それでは君の力は充分に発揮できない。後方から徐々に番手を詰めていく方が適性に合っているよ」
「知りませんでした……。いつもあの娘に追い付こうと、離されないようにしていましたが、脚質は違ったんですね……」
「最後にスキルについて解説しよう。
スキルとは名の通りキャラの走りに補正を付けられる貴重なものでね。各キャラ固有の物と、金、白、青、緑の4つに分けられる。
特定の条件を満たせばレース中に速度や加速力が上がったり、持久力が回復したり、特定のレース場や雨の日のような不良バ場で強くなったり、様々だ」
「覚えるためにはどうすればいいんだい?」
「練習やレースでスキルポイントを稼いでそれを消費して覚えるんだが、中には貴重なスキルも存在する。
それを覚えるために役に立つのが、サポートカードの存在だ」
プレイヤーが虚空に数々のサポートカードを映し出す。
「サポートカード……ですか」
「うん。その名の通りウマ娘の育成をサポートするサポートカードは自前で5枚、フレンドから借りられるもので1枚、計6枚をセットできる。
だが、残念なことに複数ガチャで引いて4凸を目指さないと真の効果が発揮できないものが多い。SSR、SR、Rとあり、レア度が高いものほど効果が強い代わりに揃えるのが困難になる。
多くのプレイヤーがそこでなけなしの現ナマを消費しては泣きを見ていった……」
「やはり、ガチャは悪い文明ですね……」
「排除しなくてはねぇ」
「でもその点は安心してくれ。私は複製技術によってSSRのサポートカード4凸を幾らでも手に入れられるし、状況に応じてセットし直すことが出来る」
「チートではないのかね?」
「君たちを勝利に導くのなら何だってやるさ。これが運営にとって不正行為に当たるかは知らないがね。
まあいきなりステータスをMAXにするようなドーピング紛いのチートも可能かもしれないが……それは君たちにとっては受け入れ難いものだろう」
「当然だね。そんな白ける行為で栄光を掴むような真似はしたくないよ」
「これから君たちの練習の間には多くのウマ娘が邂逅することだろう。彼女たちの持つ力を大いに参考にして、その技術を盗むよう努めてほしい」
(普通、サポカを取っ替え引っかえしてたらいつまで経っても友情トレーニングはできない。普通なら……)
(だが、ゲームは2週間スパンに対して自分の指導は1日単位……。量では引けを取らない。しかも好感度は持ち越すことが出来る)
(しかも常時4凸をセットできるなら初期ステータスは最初から高い……)
(ジュニア期なら無双できるだろう。クラシック期以降からが勝負になるかな……)
「さて、大まかな解説はこんなところかな。それじゃあ練習場に行こうか」
「いや、まだ必要な事があるよ」
「何かな?」
「ティータイムだ」
「コーヒーブレイクです……」
「プレイヤー君、今日はアッサムティーという気分だねぇ」
「私は試してみたいブレンドがあるのですが……。コーヒー豆は思った以上に酸化しやすくて、味がすぐ落ちてしまうので……」
「やれやれ……しょうがないな」
Playerは茶葉と豆を、ぽん、ぽん、と出して見せた。
「あと肩も揉んでくれると嬉しいんだがねぇ」
「中挽きなので……時間が掛かります……」
マイペースな二人だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
中央トレセン学園の練習場は非常に広い。
芝、ダート、坂路にウッドチップ、申請すればゲートも借りる事が出来る。
筋トレ用のジム室の用品は時間制なので多くのウマ娘はトレーナーと共にここを中心に日々を過ごす。
「んん~~」
「ふっ……ふっ……」
タキオンとカフェが軽くストレッチを行う。
「準備できたよ。プレ……トレーナー君」
「何やら視線を感じますね……」
「大方、あそこからじゃないかねぇ」
観客席には双眼鏡を持ったアグネスデジタルが「ふへへ」とにやけながら二人を見つめている。
「いや、それ以外からも……」
言われてみれば確かに、学園のトレーナーやウマ娘も視線を送っているように見える。
「なに、物珍しいだけだ。一時間も経てばすぐ消えるだろう」
Playerは動じない。一部のトレーナーが、自分に視線を送っていることを理解した上で言っている。
「ふむ。では、まずはどうするんだい? コースを軽く1周してこようか?」
「いや、もう少しだけ待とう」
「……。何か狙いでも?」
「ああ……。セットしたサポートカードが効いてくる頃だ……」
「おう、アグネスタキオン、マンハッタンカフェ」
振り返った先には、タマモクロス、オグリキャップ、スーパークリークがいた。平成期に名を上げたウマ娘である。
「聞いたで、遅れながらデビューするんやってな」
「……別に君たちに教えたつもりはないのだが」
「なんや、知らんのかいな。新聞部の連中が号外バラ撒いとったんやで。今学園内でも二人の話で持ち切りや」
「二人がどんな走りをするのか、純粋に興味がある」とオグリキャップ。
「わたしたちでよければ、お相手しますよ~」とスーパークリーク。
「まあ、先輩としてうちらが胸貸したろと思ってな」
タマモクロスがちんまい胸を前に突き出す。しかしちびすけと侮るはなかれ、彼女は『白い稲妻』と言われる程の実力者だ。
「ふぅン……。どうする、トレーナー君?」
「こちらとしてはむしろ有難い。是非併走に協力してもらいたい」
「決まりやな。さあ、うちらとやろうや!」
「はっ……はっ……はっ……はっ……」
まずはタキオンが芝2000mを想定したコース1周。オグリとクリークの後ろにピタリと付けて走る。
前の二人は学園でも屈指の実力者。腕を計るには充分すぎる相手だ。
だが、タキオンにはもう一つ別の狙いがある。
(さすが実力者だけあって力強い走りだ。前傾の角度、筋肉の律動、下半身の駆動、大いに参考になる……)
タキオンが理想とする走り。それは突き詰めていけば『走りの最適解』だ。
体をどう動かせば最も理想的な走りが出来るか、その為には何処を鍛え何処の筋肉使えばいいのか、何をしたらミスになるのか。
(焦りや緊張はスタミナを浪費する。常に自己のペースを保ち、いかにして立ち回るか……。私には実戦経験がないからねぇ)
「見られてるな」
「観察されてますね」
オグリキャップとスーパークリークも背後のタキオンの気配に気付く。
((プレッシャーのかけ方は、既に一流……))
「はああああっ!!」
「やああああああっ!!」
「おっと、置いて行かないでくれたまえ。仕方ない。こっちもペースを上げようか」
続いてカフェとタマモクロスの番。
カフェは脚を溜める感覚でスローペースのまま走る。
一方タマモクロスは更に後方からカフェを追いかける。
(……。見える。前方に『あの娘』の姿が……。だがまだ駄目だ。今は追いつけなくてもいい。今は……)
そんなカフェにギラギラしたプレッシャーをかけているのが背後のタマモクロスだ。
「ほう、やるやないか。うちのプレッシャーに動じないとは。……けどそれだけじゃレースには勝てんで!」
「……!」
タマモクロスが一瞬でカフェを追い抜く。そして更に差を広めていく。
「くっ!」
カフェも慌てて追いかけるが、やはり実力差はいかんともしがたい。
「やはり強いな、タマは」
「タマちゃんのプレッシャーは凄いですからねー」
「最後方から全てのウマ娘を視界に入れておいて強烈な威圧感を与えながらレースを展開し、全てのウマ娘を追い抜いて勝利する、か……流石だね」
「タキオン、参考にするんだ。これが『白い稲妻』と言われるタマモクロスの走りだよ」
「分かってるさ。プレ……トレーナー君」
(焦ってはいけない。わたしもカフェも走りの道は始まったばかりなんだ)
(今は皆から走りを吸収させてもらおうじゃないか……)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「ふぅ……」
「結局、7周も走らされてしまった……」
「実力に秀でた人たちの併走は、予想以上に体力を消費しますね……」
「二人ともお疲れ様、はい、タオルとスポーツドリンク」
「分かっているだろうねトレーナー君、わたしのドリンクは」
「袋二つ分だろ? 大丈夫。甘く仕上げているよ」
「……タキオンさん、その年で糖尿病にならないでくださいね……」
「ふぃーっ、走った走った! 二人とも中々やるやんけ。まあうちらの方がまだまだ上やけどな」
「いい走りをする。いつかはレース場で戦えればいいな」
「お疲れ様でした~」
「三人とも今日は有難う。これで二人の力も向上した。また相手をしてくれると嬉しい」
Playerが三人にお辞儀する。
そして三人にもドリンクを差し入れる。お礼の印だ。
そして懐のスマホを取り出し、状況を把握する。
(ふむ、オグリキャップからは『コーナー巧者◯』のヒントLvを貰えたか……)
(あとはタマモクロスから『十万バリキ』、そしてクリークからはやはり『円弧のマエストロ』が欲しいな……これはさすがにすぐには無理か)
「この後は皆さんと食事会とかどうですか~? カレーを作ってあるんですけど」
クリークが提案する。
「……あー、わたしは遠慮しておくよ。辛いのは苦手でねぇ」
「甘口のもありますよー」
「それなら食べてみようかな」
「クリークのカレー……ごくり」
ぐぅ~~~きゅるるるぅ……
「ちょ、オグリ! おまえ一人で平らげるんやないで!」
「ではご相反に預かります……」
「じゃあ私はトレーナー室に引きこもるとするよ。次の練習のスケジュールを考えなくてはいけないからね」
Playerはそう言って、その場を立ち去った。
「またね、Player君」
「は、プレイヤーってなんや?」
「!!?? あああ、いけない、こっちの話さ!」
「ん~?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
学園所属のトレーナーには専用の部屋が設けられる。事実、既に部屋はある。
トレセン学園内のトレーナーに自身を登録する際、ハッキングで専用の部屋を手に入れていた。抜け目はない。
「ふむ……」
Playerはタキオンとカフェ、二人のパラメータを開く。
彼にとってウマ娘の能力などパラメータ、数字の羅列に過ぎない。
「やはり併走とはいえ、Lv1の練習での増加だとこんなものか……」
数字は思ったより上がっていない。
「とはいえ、いきなり彼女たちにLv5の練習をさせるのは禁物だ。こういうのは段取りが重要だからな」
目の前のPCを叩き、体力ゲージとケガ率を逆算し、何を練習させ育成するかを模索する。
「タキオンもカフェも中距離以上を走るウマ娘なんだ。バクシン育成はできない。
どこでスタミナ練習を入れるか、どこで休みを入れるか、それともやる気アップのためにお出かけを入れるか……」
三女神の因子継承イベントがないのが難しいところだな、などとブツブツ言いながらPCとにらめっこする。
所詮ウマ娘の育成に優秀なトレーナーなど本来は必要ではない。
必要なのは金に物を言わせたSSRのサポカと上振れを祈るだけ。だが今回は一発勝負なのである。失敗は許されない。
二人が同時に幸せになれるハッピーエンドに導く、その為に自分は禁忌を犯してでもここに来たのだ。
「タキオンはメイクデビュー後、ホープフルステークスに直行させ成果を出す。問題はカフェだ……」
ゲーム準拠で言えばマンハッタンカフェのデビュー後の目標は一定期間中にファン4000人以上。しかしタキオンとはまだかち合わせるには早い。
必然的にオープン戦かGⅢ頼りになる。しかしカフェの場合ジュニア期重賞レースの大半はマイルレースの為そこには出すことができない。
「ゲームなら一人一育成だからホープフルだ。ゲームなら、な……」
となると、11月後半の京都ジュニアステークスか年明けの京成杯で重賞初挑戦というのもいい。
「何にせよ、課題はスタミナだな。明日は水泳を取り入れてみるか……」
こうして考えると、ウマ娘の育成というのは、頭を使うが楽しいものだ、Playerはそう思った。
泰然自若なタキオンと本当は繊細なカフェ。両極端な間柄だからこそ、二人と接するのは楽しい。
だが、今は美少女ウマ娘とお近づきになりたいという欲望は捨てる。
全ては、二人のハッピーエンドの為に。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから数日後、アグネスタキオンは生徒会室に呼び出された。
正確に言えば、シンボリルドルフに。
「アグネスタキオン、私は正直驚いている」
「何だい、藪から棒に」
紅茶を啜りながらタキオンは相変わらずのマイペースで茶菓子を口に運んでいる。
「あれほど梃子でも動かないと言われていた君が、退学勧告さえ無視していた君が、走る事を選んだという噂を耳にしたときは半信半疑だったものだ」
「…………」
「君を口説き落としたトレーナーは、余程の口八丁手八丁だったのかな?」
「ははは、わたしのような変人を選ぶ人間なんて普通はいないさ」
「しかし、その事で一つ疑問に思っていることがある」
「私は一度見た人間の顔は忘れないという特技があってね、学園内の全てのウマ娘の顔すら完璧に覚えている」
「ほほぅ……」
「だが、この間見た……君のトレーナーは、随分個性的な外見だが、一度も見たことがないんだ」
「外部の人間なのか、そう思って学園のトレーナーの資料を改めて見てみたよ。そうしたら確かにあったんだ。いる筈がない人間の資料が」
「ふぅン」
(プレイヤー君め、学園の資料にまで介入したな。抜け目のないことだ)
「その名を見た時、私は戦慄したよ。そこにはこう記されていた。……『武田 文吾』と」
「聞いたことがないねぇ」
「当然だ。随分昔の人間だからな……」
「かつて、まだ中央トレセン学園が今より小規模で、関東と関西に二分化されていた時代……東西で追いつけ追い越せを展開していた時代……関西には一人のウマ娘がいた」
「名を『シンザン』。戦後初のクラシック三冠ウマ娘にして史上初の5冠を達成した、最強の戦士と言われた伝説のウマ娘。そのトレーナーが武田 文吾という名だった」
「すまない、歴史の授業はさっぱり聞いてないんだ」
「そのトレーナーと同姓同名という事が判明した時、私は流石に目を丸くしたよ。これは偶然なのか偽名なのか、と……」
「わたしにとって、誰がどうかとか名前がどうかとかは気にしないさ」
「では、君はあのトレーナーをどう思う?」
「そうだねぇ……」
「彼はわたしにとって大変貴重なモルモットにして……」
「ただの、子供だねぇ」
おまえはいい加減自分のウマ娘SSにシンザンの名を出すのをやめろ、とか知ってる人からは言われそうですね
仕方ないじゃない。一番好きな馬なんだもの
JRAの有馬投票お礼カレンダーに彼の名があった時は感動しました