ウマ娘プリティーダービー『The Player』   作:K.T.G.Y

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どうだ!この短期間で書いたぞ!
「でも、もう20話目なんだがねぇ」
うっ……。
「……覚えてますよ。15話ぐらいで終われるかな、とか言っていたのを」
うぐぐっ……。
「せめて年内終了の公約ぐらいは達成してほしいねぇ」
……頑張ります。


ライツ博士が可愛すぎて色々溢れそう

 

「えー、では、ダンツ君マイルチャンピオンシップ優勝を記念して……」

「乾杯!」

「かんぱ~い!」

 

パン! パン! とクラッカーが鳴らされる。

 

「うう……みんなありがと~」

ダンツフレームは目をウルウルさせながら誕生日でもないのに目の前のケーキの蠟燭を息を吹きかけて消した。

「いやはや凄かったねぇ」

「……GⅠ勝利、おめでとうございます」

「凄かったよなーダンツ!」

「そうだよーダンツちゃんは凄いんだよー」

「て、なんでミラ子ちゃんがいるの?」

「今日は奢りって聞いてタダ飯食べにきた!」

「ほんっとおまえはマイペースだなぁ……」

 

「マイルチャンピオンシップ、ですか……」

秋天も終わり、次走の目標を模索していたダンツ陣営だったが、ここでトレーナーからマイル戦を走ってみないか、という提案があったのだ。

「はい。おハナさんとも話しました。ここまで来たら、ダンツさんにはせめてGⅠ勝利という栄誉を勝ち取ってほしいと思いまして」

「それで、マイルですか」

「幸い今年の秋のマイル戦線は怪我が原因で出られないウマ娘も多く比較的小粒です。今のダンツさんならいけるかと」

「なるほどー」

「ローテは厳しいですが……いけますか?」

(中2週かぁ……)

「……。分かりました。出場します!」

「了解です。では出走登録しておきますね」

 

「そしたら5バ身ぶっちぎっての圧勝だもんな。しかもレコードで。いやー報われて良かったなあダンツ」

「うん、今まで頑張ってきた甲斐があったよ」

「私もカフェもマイル以下は苦手だからねぇ。マイルなど気にも留めてはいなかった」

「おまえらがマイル路線まで走ったら日本のレース界が崩壊しちまうよ」

「……まあまあポッケさん。今は、ダンツさんを祝いましょう」

「そうだな! おーし店員さん、特大ジャンボパフェ一つくれ!」

「プ……トレーナー君からお金を貰ってきたのでねぇ。今日は皆存分に飲み食いしてくれたまえ」

「……私は、今週ジャパンカップがあるので遠慮しておきます……。コーヒーで充分です」

「そんな事言うなよカフェ、ほらほら、食え食え」

「店員さーん。大盛ポテトフライくださーい」

「ミラ子ちゃん、あんまり食べるとまたトレーナーさんにプールに連れていかれるよ」

 

「……ところでタキオン」

「ん、なんだいポッケ君。祝いの席だと言うのに神妙な顔付きで」

「脚の方、大丈夫なのかよ?」

秋天のレース後に倒れたタキオンの様子、あれは観客席から見ても尋常なものではなかった。

選手生命を左右するほどのものに見えた。ポッケはずっとそれが気にかかっていた。

「ん、なぁに、ただの軽い捻挫だよ。もはや完治して普通に走れる」

「そうか。じゃあ有馬まで待ってろよ。絶対てめえを負かす!」

「ふふ、お手柔らかに」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ジャパンカップ。

 

11月第四週に行われる、日本が誇る唯一の国際招待レース。

かつては世界の圧倒的格差を見せつけられ辛酸を舐め続けた日本陣営だが、近年は盛り返し、ホームである日本ウマ娘有利となっている。

だが根本的な問題がある。簡単、招待しても海外からウマ娘が来ない。

有力なウマ娘が海を渡ることが当たり前になった昨今ではあるが、日本は円安も響いて賞金が安く、旨味がないからだ。

彼女たちが目指すのはむしろ莫大な賞金が掛かったレースや国際レーディングが高まるレース。そうでなければ海を渡る価値がない。

 

それが今年は一転、異様な状態と化した。

なにせ凱旋門賞を勝利したウマ娘が二人も参戦したからだ。

ヴェニュスパークとリガントーナ。世界最高峰のレースで頂点を極めたウマ娘が、現在レーディングで世界最大級のポンドを付けられたマンハッタンカフェに挑戦状を叩きつけた。

カフェが一度も海外のレースに出てないにも拘らずこの評価もまた、異様だと専門家は語った。

 

もし『ウマ娘プリティダービー』にドバイのような海外レースが本格的に実装されたのなら、彼女も今年の春に挑戦していたかもしれない。

もっとも、カフェには遠征適性は壊滅的になく、強制的に絶不調になるレベルなのだが。

 

いや、二人だけではない。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ロシアからも参戦するウマ娘が現れ、『二度と見られない光景』とも評された。

だが、ここにきて日本陣営に新たな課題が降りかかる。

 

「むむむ……」

「予想していたが、やはりこうなったか……」

秋川やよいと佐岳メイは頭を抱えていた。

そう、日本代表ウマ娘のコマ数不足である。

「この面子に勝てるわけないでしょう。うちは降りますよ」

「理事長直々の願いなのは分かりますが、レースは勝利を目指して参戦するものであり、負けが分かってて走れと言うのはたい焼きに泳げというくらい酷かと……」

絢爛豪華な海外ウマ娘、しかもそのうち二人は凱旋門賞勝利ウマ娘、これに勝てるわけがないと出走を拒否する陣営が続出。

タキオンとカフェのレースと同様の現象が起きてしまった。

「乾坤ッ! それでも、今年のジャパンカップは何としてでも日本のウマ娘に勝ってもらわねばならぬ!」

「頼れるのはマンハッタンカフェのみ、か……。でもこの数値差はちょっとまずいね」

ジャングルポケットは有馬まで温存。ダンツフレームもローテ上厳しい。

他の有力なウマ娘を抱えるトレーナーはぶぶ漬け食うて帰りなはれ状態。

それでも二人は諦めなかった。

二人はトレセン学園を走り回り、各チームのトレーナーと何度も何度も交渉した。しかし好意的な反応はほぼゼロだった。

だが蜘蛛の糸は思いがけぬところから垂れた。

一つはトレセン学園最高峰のチーム『リギル』。

「分かりました。うちから彼女に出てもらいましょう」

「おおそうか! して、そのウマ娘は!?」

「決まっているでしょう……。今年、タキオンとカフェの裏でクラシックティアラ路線を走り、見事三冠を手にし、今一番脂が乗ったと私が推す……彼女に!」

 

「初めまして。『デアリングタクト』です」

「君か。噂のトリプルティアラウマ娘は」

「海外レースは興味ありましたし、これを機に胸を借りるというのは悪くありません。是非挑戦させてください」

 

そしてもう一つは、御存知天下の黒子役から主役を目指す面子が揃う『カノープス』。

「そうですね……。イクノさんならきついローテも苦にしませんが、勝算となると……」

「やはり難しいか……」

「ふーん、じゃあさ、理事長さん、私が出てあげよっか?」

「ネイチャさん」

「回らない寿司奢ってくれるってんなら、やる気出してもいいですよー」

「承諾ッ! なんならカノープス全員に焼肉も付けてやる!」

「それじゃ決まりだね」

「オーウ! 何と麗しき舞台……ならばこの『サウンズオブアース』もensemble(アンサンブル)を奏でる為人肌脱ごうじゃないか!」

「じゃあ私も私も!」

「……ロイスさんはまずオープン戦勝利を目指してください」

「うぐっ……手厳しい」

 

こうして四人の日本代表と、海外のウマ娘が東京2400mに集い火蓋を切る準備は整った。

「天運ッ! あとは全てを彼女たちに託そう!」

「こりゃ当日の東京は満員確定だね」

 

 

その日、冬を間近に控えた東京はやや肌寒いながら快晴に包まれた。

まだ第11レースまで二時間以上前だというのに観客席は緊張感に包まれている。

彼らとて日本人、日本勢に勝って欲しいという気持ちは皆一つ。

そしてそんな観客の鼻を明かしてやろうと意気込む海外のウマ娘達。

勿論各種メディア媒体も最前列から出走の時を手汗握りながら待っている。

「……異常ですね、戸島さん」

「まあな」

 

「勝つかな、マンハッタンカフェ」

「信じようぜ。写真集パワーが届くように祈ってるぜ」

 

パドック前のインタビューでは、

 

『マンハッタンカフェさん、意気込みを一言聞かせてください!』

「……。ベストを尽くします。それだけです……」

 

『ヴェニュスパークさん、今日はどんなレースを見せるおつもりですか!?』

「既に東京レース場は分析できました。アウェイ感はありません。全力で楽しみます」

 

『リガントーナさん、今の状態はいかがですか!?』

「ニンニクヤサイマシマシアブラオオメカタメ」

『……は?』

「絶好調……ということだ」

 

 

そして本番間近の控室。

マンハッタンカフェは……やはりPlayerに抱きしめられていた。

「……Playerさん、もう少し力強めでお願いします」

「うん、分かった」

「あと、頭も撫でてください……」

「はいはい」

 

「はっはっは! これだけ元気を充電できれば今日のカフェに敵はいないのではないかねぇ」

「そうでもないよタキオン、先程ステータスを見ただろう。ヴェニュスパーク、リガントーナだけではなく他の海外ウマ娘も日本なら無双できるほどの実力者だ」

そう、今日集まったのは各国代表級のウマ娘ばかりだ。

世界の壁をぶち破れるか、あるいは潰されるか、全てはカフェの華奢な双肩にかかっている。

 

コンコン……。

 

「マンハッタンカフェさん、入ってよろしいですか?」

係員が呼びに来た。いよいよだ。

「Playerさん、行ってきます……」

「ああ。期待してるよ」

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

いよいよ出場ウマ娘がレース場に現れる。そしてカフェが登場すると、多くの声援が浴びせられた。

「頼んだぞーマンハッタンカフェ! もうおまえしかいないんだ!」

「この面子で勝てるとしたらおまえだけだ」

「期待してるぞー」

(……。凄い声援ですね。まあ、ベストを尽くしましょうか)

「カフェさん」

「……ネイチャさん」

「……お互い頑張ろう」

「はい……」

「油断してると、私が勝っちゃうかもよ」

「……。お手柔らかに」

 

「マンハッタンカフェ!」

「……ヴェニュスパークさん」

「お互いベストを尽くそう」

「はい……」

「だが……勝つのは私だ」

「!? リガントーナ……」

「ふふ……」

 

「あの辺りだけオーラが違うな」

「やはり3強かな」

観客席もカフェの周囲だけ何かが違う事に気付く。

だが各国代表も精鋭揃い。誰が勝ってもおかしくはない。

 

『さて、まもなくファンファーレですが、展開としてはどうなりますかね?』

『有力なウマ娘は中団に控えたいところですが楽に走らせれば先団に逃げ切られる可能性もあるので難しいですね』

『注目のマンハッタンカフェ、ヴェニュスパークも中団、リガントーナは後方控えですかね』

『ほぼ間違いないでしょうね。アウェイとはいえ奇策に転じて勝てるほど甘くないと考えているでしょうから』

『なんたって凱旋門賞ウマ娘ですからね。パドックを見ても堂々としてて落ち着いてましたね』

『欧州とは芝の質が違うとはいえ、どこまで適応できるのかも注目しましょう』

 

そしてスターターが現れ、旗が振られる。陸上自衛隊のファンファーレが鳴る。大きな歓声が上がった。いよいよ本番だ。

 

『さあ最初で最後の豪華メンバーのジャパンカップ、いよいよスタートです!』

『欧州出身ウマ娘ズラリの11人。世界を制するのは誰なのか!?』

『今日このレースを生で見に来れた人は幸せものですね』

『日本代表マンハッタンカフェ、この面子で勝つことはできるのか注目です』

『枠入りは順調のようです。アウェイとはいえ皆落ち着いています』

 

(……相手にとって、不足はありません)

(勝負だよ、マンハッタンカフェ)

(この滾る思い……全てぶつける……!)

(番狂わせ(セットアップ)を起こすのは、私だ!)

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

ガコン!!

 

『ジャパンカップ、スタートが切られました! 各ウマ娘綺麗なスタートです』

『誰が行くのか注目しましょう』

 

『さあまずハナを主張したのはロシア代表ドラグノフ。その後ろにドイツ代表ランドムーン。日本代表デアリングタクト、サウンズオブアースはその後ろ。ここまでが先団』

『そこから少し離れてイギリス代表スペンサー。イタリアのドノヴァン。ヴェニュスパークはその後ろ。それをピッタリマークするようにマンハッタンカフェとナイスネイチャ』

『フランスのエルファルファはマンハッタンカフェをマーク。リガントーナは最後方を選択しました』

 

ジャパンカップはホームストレッチ半ばからのスタートとなる。つまりスタートと同時に観客席から大声援が送られる。ここで焦ってしまえば掛かりが起こる。

だが各ウマ娘は落ち着いていた。流石世界を渡って数々のレースを経験してきたウマ娘。異国の地と言えど冷静である。

むしろ日本のウマ娘の方がこの状況に飲まれかねない程だ。

 

そしてまずはハナのドラグノフが第一コーナーに入る。

(予定通りハナは奪えた。だが、ここからだ)

(芝、土、コース、気候、どれも本当に走りやすい。出来ればハイペースで後ろを磨り潰したい)

(だがこのレースにはヴェニュスパークとリガントーナがいる。そして最後の直線は約500mと長い。ここは我慢だ)

ハナを取りつつも、いかない。前には出ない。直線勝負のスローペースをドラグノフは選択した。

 

彼女だけではない。スローペースは織り込み済みだ。

欧州出身のウマ娘も、日本のレース場を走った時、こんなぬるいレース場があるのかと呆れる程だった。

コンクリートの様な固くてしっかりとした芝に、申し訳程度の坂。日本は随分と甘い国なのだな、と。

 

だからマンハッタンカフェはハナから計算に入れてない。勝負する相手はあくまで凱旋門賞を勝ったあの二人。

 

『隊列は思ったより長くなりません。みんな我慢の一手なのか』

『東京は逃げ切る事がとても難しいレース場ですからね。やはり直線までこのダラダラペースでしょうか』

 

第二コーナーを全員が回り、向こう正面に入っても積極的に前に出るウマ娘は現れない。

観客のできれば掛かったウマ娘が出て欲しいという目論見は失敗に終わった。

 

「おいおいみんな最後までこんなペースかよ」

「落ち着きすぎじゃん。一人くらい焦ってほしいけどな」

 

「…………」

「…………」

ヴェニュスパークの背後でジリジリとプレッシャーを掛けるマンハッタンカフェとナイスネイチャだったが、脅しには乗らないとばかりにペースをキープしている。

(うへー、後光が差してるみたいじゃん。これだけ睨みつけると普通動揺の一つもするんだけどなー)

ネイチャがデバフ効けデバフ効けと先程から睨みつけているが、まったくピクリともしていない。

むしろ自分の方が焦っている。

(うーん、この位置ならマンハッタンカフェは積極的に競り合い叩き合いに持ち込んでくると思ったんだけど、当てが外れたな)

ヴェニュスパークは依然マイペースを維持している。先程からカフェが僅かながらじりじりと差を詰めてはいるのだが、真横には来ない。

データではマンハッタンカフェを背負ったウマ娘は委縮してペースを乱される傾向にあると聞いた。

成程、確かに凄いプレッシャーを感じる。背筋が冷えるような嫌な感覚。

しかし修羅場をくぐってきた彼女には通用していない。それはカフェも理解している。

ならば競り合いを選択するという手もあるが、ここで潰しあったらリガントーナに差し切られるのは必然。

(……難しい、ですね。仕掛けるか否か……)

カフェは逡巡したがこの位置をキープする事を選んだ。

 

『1000mタイムは1分03秒4と出ました。やはりスローペースです』

『ペースメーカー不在のこのレース、これが吉兆となるのはどのウマ娘か』

 

隊列も、着順も、何一つ動かない、時間がゆっくり流れているようなレース展開。

観客の方が焦れてくるような団子レースだった。

 

「おいおいほんとに誰もいかないのかよ。もうすぐ第三コーナーだぞ」

「全員直線までお預けってか?」

 

まるで水の中で皆が皆我慢している様だ。先に洗面器から顔を上げた者が負ける。そんなレース展開のまま、先頭はとうとう第三コーナーに差し掛かった。

(まだだ。相手は世界レベル。このレース場は差し有利なんだからな)

(くそっ、いけない! いきたくてもいけない!)

(脚を使ってないのに、使わされてる感覚……これが世界戦か)

 

この時、サウンズオブアースは前に出ようとしていた。だが試みるだけで出来ない。いや、もはや脚は一杯だった。

あれほどのスローペースで脚らしい脚は使っていなかった筈。なのに、何故……、

 

ナイスネイチャだってそうだ。直線までじっと我慢の子を試みていたが、既に息が上がっている。

(あーもう情けないったらありゃしない!)

 

これが『世界』なのだろう。どれだけ慣れ親しんだレース場と芝といえど、相手が違えばこうも違うのだ。

 

(負けません! 例え井の中の蛙であろうとも、これでもトリプルティアラウマ娘なんですから!)

ただ一人、デアリングタクトだけが食らい付いていた。

 

『さあ、どよめきは、いよいよ歓声に変わります!』

実況が声を張り上げる。先頭が遂に第四コーナーを回り、直線に入った。

 

「さあ、鬼ごっこはもう終わりだ!」

ドラグノフがスパートを掛ける。

そして他のウマ娘も、次々に水面から陸地に飛び出す様にスピードを上げる。

 

『先頭はまだドラグノフ! 苦しいけどまだ粘っている! 内からランドムーン、それを捕らえるかドノヴァン! マンハッタンカフェはどうした!? マンハッタンカフェはまだ来ない!』

 

「…………」

「…………」

カフェはまだ脚を溜めていた。脚色は充分。スタミナは潤沢。垂れたサウンドオブアースに前を塞がれたわけでもない。

だが、我慢していた。まだ仕掛け時ではない。

そう、全員が全員、直線を向いた時、その時が勝負だと。

 

「……!」

頃合い良し。カフェは脚に力を込めた。

そして機を一つにスパートを行ったウマ娘がいた。ヴェニュスパークである。

(やっぱり考えることは同じ、か。当然だよね。坂があるとはいえ、この距離なら後ろから捕えようとするウマ娘が有利なんだから)

 

『来た! カフェ来た! マンハッタンカフェ来た! その横ヴェニュスパーク! マンハッタンカフェ! ヴェニュスパーク!

……外からリガントーナ!!』

 

「……!?」

「私を忘れては困るな……」

 

『外からリガントーナ! 外からリガントーナ! 豪脚一閃! あっという間に飲み込んだ! 先頭はリガントーナ!』

 

「カフェ!」

たまらず観客席のタキオンが叫ぶ。

その横にいた『お友だち』は、この時点でカフェの敗北を覚悟していた。

『……頑張レ、カフェ!』

その黒い姿に一抹の希望を託して。

ただ一人、『Player』だけが冷静に戦局を見守っていた。

「大丈夫だよ。カフェなら、ね」

 

そして観客席にいたモンジューもまた、ヴェニュスパークの事は心配していなかった。

「これで終わるほど、ヴェニュスは柔ではないさ。見せてみろ、ヴェニュス。おまえがナンバーワンだということを」

 

「……っ!」

「はああああっ!」

 

カフェが二枚腰で差し返す。

ヴェニュスパークも負けじと追い比べで執念を見せる。

 

「まだ食らい付くか!」

「諦めは悪くてね!」

「……私も、です」

 

『大外リガントーナ! 最内ヴェニュスパーク! その横マンハッタンカフェ! 前は三人態勢だ! やはりこの三人の戦いだ!』

三人以下のウマ娘との距離はぐんぐん離れていく。別に他のウマ娘が遅いわけではない。

ステータスの値だけを見れば、普通のレースならもう楽勝ムードだ。

それ以上に、この三人が強すぎたのだ。

そして三人が三人とも意地を張り合い、お互いを高め合い、更なる走りを引き出している。

これが世界のレースの有り様なのだ。

(……負けません! 私の勝利を見守ってくれる人が、いる限り……!)

(やはり海を渡ってよかった。真の強者の称号にはマンハッタンカフェ、君との勝負が必要だった……!)

(素晴らしい……。滾る……滾るぞ……! この身の種火は、強者との勝負で、何度でも燃えあがる!)

 

『残り100mを切った! ヴェニュスパークやや優勢か!? しかしリガントーナも粘る! マンハッタンカフェも差し返す! 誰だ!? どっちだ!?』

0.1秒ごとに着差が変わるほどのとてつもないデッドヒート。

観客は必死に日本代表マンハッタンカフェを応援するが、彼女の耳にはもはや届いていない。

「頑張れー! マンハッタンカフェー!」

「いけ、ヴェニュス!」

「リガントーナ! 勝ってくれ!」

 

だがカフェは、このままでは『勝てない』事を予感していた。

(駄目だ。これでは足りない……。これでは……届かない!)

ステータスはほぼ互角。スキルも覚えるべきものは全て覚えている。だが、カフェの中距離適性はB。これではあと一歩が足りないのだ。

(何だ……何が足りない……!? ここで限界を超える為には、何が……必要なんですか……!? 『お友だち』……!)

 

その時、ふと、あの『お友だち』との記憶が蘇った。

病弱で、家にひきこもりっ放しだった自分に、光ある世界を教えてくれたあの娘の、『過去の記憶』が。

カフェの頭に割って入るように注ぎ込まれた。

 

 

(なんだこの醜いウマ娘は。見るのも不快だ。これ以上俺に近付けるな)

 

「……!?」

(何、この映像は……)

 

 

(病気から奇跡的に一命を取り留めた、か……)

(きっと、神が起こした奇跡ね)

(神がいたとしたら、何故こんなウマ娘が生まれたかを聞きたいね)

 

 

(これは、まさか、あの『お友だち』の、過去の記憶、なの……)

 

 

(うっ……うう……うう……)

(◆▲●■、今日からあなたはこの施設で引き取るわ。みんなと仲良くするのよ)

 

(あいつか、ドライブ中に父親が心臓麻痺で倒れたっていう……)

(親父さんもお袋さんも死んで、あいつだけが生き残ったんだとさ)

(おっかねえな。あいつは死神かなにかじゃねえのか?)

(あいつも死んでおけばこれ以上苦しむこともなかったのにな)

 

 

(ドウシテ・・・ドウシテワタシダケガコンナメニ・・・)

 

 

(ユルサナイ・・・)

 

 

(ワタシハコンナウンメイヲアタエタモノヲユルサナイ・・・!)

 

 

(カミナンテイナイ! カミナンテコノヨニハイナイ! ツブシテヤル! ワタシノマエニタチフサガルモノハ、ミンナミンナタタキツブシテヤル!)

 

 

「あ……ああ……あ……」

目を疑うような凄惨な光景だった。憎しみと恨みをとことん凝縮した者の、慟哭。

これが、優しくも厳しい『あの娘』の正体だとでもいうのか。

この激しい憎悪こそが、彼女の全てを圧倒するほどの走りのモチベーションだとでも……?

 

 

だが、この映像のせいなのか、はたまた『血』によるものなのか、カフェの背中に『鬼』を宿らせた。

「うっ……ぐぁぁぁぁぁあっ!」

カフェが、吠えた。

その姿を見ていたヴェニュスパークとリガントーナは、一瞬だが冷や汗を一筋垂らした。

「なっ……!? この力は……!」

「なんだこの力は!? まだこんな力を残していたとでもいうのか!?」

しかし両者も負けてはいない。限界を超えるのがウマ娘という生き物の宿命なのだ。

(限界を超えろ! まだ終わっちゃいない!)

(燃やせ闘志を! 血の一滴を沸騰させろ!)

両者、誠に天晴。しかし、しかし、しかし、それでも差は歴然だった。

 

 

最後のゴール板、両者をクビ差で最も早く駆け抜けたのは、日本代表の漆黒の幻影だった。

 

『マンハッタンカフェだぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

 

『勝ったのはマンハッタンカフェ! マンハッタンカフェです! この、日本史上に残るジャパンカップで、凱旋門賞ウマ娘が二人もいる決戦の舞台で、大仕事をやってのけました!』

 

「勝った……勝ちやがった……マンハッタンカフェ……!」

「うおおおおお俺は今猛烈に感動している! このメンバーで勝つなんて凄すぎる!」

「おまえこそが世界最強だ! ナンバーワンだああああっ!」

観客も嬉し泣きする者で溢れ返る。

 

観客席のモンジューは茫然としていた。

「ま、まさか……ヴェニュスが負けるとは……」

だがそれ以前に驚いたのはラスト100mのマンハッタンカフェの姿だ。

自らが走る側だからこそ分かる。あの時の彼女は、まるで『別人』の様だった。

「……神獣(ビースト)でも宿ったのか? あのような形で限界を突破したウマ娘など、見たことがない」

不可解ではある。だがドーピングの類ではない。勝ったのは間違いなくマンハッタンカフェであり、そこに物言いなど付けようがない。

 

「はっはっは! 凄いねぇカフェ! とうとうやってのけてしまった。私とはまた違う形で『神の域』に入ってしまうとはねぇ!」

タキオンも興奮している。そうだ。走る側だから分かる。あのカフェは、カフェとは似て非なる存在になっていた。

「このメンバーで勝ってしまったんだ。世界一の称号は彼女のもの、か……。そう思わないかい、Player君?」

「…………」

「……? Player君?」

「……あ、いや、2着以内ならいいと思ってたが1着とは思わなかった、などと考えていてね」

「ふぅン」

Playerの横にいた『お友だち』は、いつの間にか消えていた。

 

 

「…………」

カフェは憂鬱だった。

勝った。確かに勝った。いや、勝てた。だが、これは自分の力なのか……?

「マンハッタンカフェ!」

「……ヴェニュスパークさん」

「おめでとう、君の勝ちだ!」

「はい……ありがとう、ございます……」

ヴェニュスパークは爽やかに勝者を讃えた。思う所はある。だが全霊を引き出したうえでの敗北なのだ。悔いなどない。

「やはり海を渡ってよかった。レースの世界は、まだまだ可能性に満ちている。異国の地でそれを実感できた。敗れたことは悔しいが、あまり実感はないな」

「……そうですか」

「だが、君に一つ尋ねたい事がある。最後の直線の、最後の最後、あの咆哮と共に駆け抜けた君は、まるで別人の様だった。あれは……何だ?」

 

「……それは私も気になった」

「リガントーナ」

「マンハッタンカフェ……、君はひょっとして、二重人格だったりするのか?」

「……違います」

「そうか……。ではあの時の君は、何だったんだ……?」

「私が……聞きたいくらいです……」

そう言って、カフェは控室がある方向に走っていった。

 

 

「…………」

灯りも少ない控室に繋がる通路の暗がり。そこには確かに『お友だち』がいた。

「……。あれは、あなたの仕業ですか……?」

『…………』

彼女は答えない。

「私を発奮させる為に、あんな映像を……見せたんですか……?」

『…………』

彼女は答えない。

「それとも、私を勝たせる為に……私の体を、乗っ取ったんですか……?」

『…………』

彼女は答えない。

「……!」

 

パァン!!

 

カフェは『お友だち』の頬を思いっきり引っ叩いた。

「ふざけないでください! 私はマンハッタンカフェであって、あなたではない! 私を……巻き添えにしないでください!」

そう言って踵を返してレース場の方に戻っていった。

『…………。ゴメン、カフェ』

 

 

『放送席、放送席、それではジャパンカップ創設以来の大激戦を制したマンハッタンカフェさんです。おめでとうございます!』

カフェはその後、メディアに囲まれインタビューを受けていた。

「ありがとう……ございます……」

『凱旋門賞ウマ娘が二人もいる豪華メンバーでの優勝です。今のお気持ちはどうですか!?』

「……。遠い異国の地からわざわざお越しくださったウマ娘の皆さんと、無理を押して人選された日本のウマ娘の皆さんのお気持ちを考えると、喜びは控えたいと思います……」

『えっ……』

「ですが……、これもまた勝負の世界の厳しさということでしょう。良いレースが出来た、という一言だけを残し、今はトロフィーだけを、受け取りたいと思います」

『おお、随分謙虚ですね』

「……ヴェニュスパークさんとリガントーナさんに、お伝えください……」

『何とですか?』

「……今度は、レース以外の所で会いましょう、と」

 

 

インタビューはヴェニュスパークにも向けられた。

「全力を出し切っての真剣勝負でした。敗れたことは残念ですが悔いはありません」

「だが敗者は敗者でしかない。フランスに戻り、一から鍛え直しだな、ヴェニュス」

「モンジューさん……」

 

そして、リガントーナにも。

「ある意味で……、凱旋門以上の熱く滾る力と力の勝負が出来た……。世界のレベルも飛躍的に上がっている……。イギリスもうかうかしてはいられないということだろう……」

『ですが、これで引退ということですよね?』

「ああ。残念だが、私は一線を退く事になる。だが今後は後進の指導に当たりたいと考えている。そして、凱旋門だけでなく、世界のどのレースにも通用するウマ娘を輩出できれば、と……」

 

 

こうして、二度と見られない顔ぶれで行われたジャパンカップは幕を閉じた。

 

その後、二人がどうなったかというと……、

 

「ヴェニュスー! またホテルの部屋をこんなに散らかしおってー!」

「ふぅぁ? おはよぅございましゅ~、ししょ~」

「ジャパンカップは終わったのだぞ! さっさと帰国の準備をせんか!」

「えー? もう少しゆっくりしていきましょうよししょ~。日本いいところなんですし~」

「やかましいわー!」

 

 

ぷるぷる……ぷるぷる……。

「昨日はふわとろオムライス……今日はカツカレー……」

ぷるぷる……ぷるぷる……。

「日本食……美味過ぎる……。こんなの食べたら、もうイギリスには戻れない……」

 

それなりの時間、日本を満喫していたらしい……。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「…………」

その夜、Playerはトレセン学園のトレーナー室にいた。

 

「……まさに、岐路だな」

思えば、アグネスタキオンとマンハッタンカフェを両方同時に幸せにするルートを探し、この世界に介入したことが全ての切欠だった。

 

だとすると、どうしても避けては通れない課題がある。

それと、遂に直面する時がきたのだ。

 

「選択しなければならない……」

 

そう……、

 

アグネスタキオン:最終目標 有馬記念で一着

 

マンハッタンカフェ:最終目標 有馬記念で一着

 

 

 

 




これにて疑似凱旋門inジャパンカップ終了
さあ次は有馬だ
苦しいけど終わりは見えてきてる。もう一息だ
願わくば、酷いエンディングで終わらない事を祈る
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