ウマ娘プリティーダービー『The Player』 作:K.T.G.Y
あーねんまつまでもうちょい
吐きそう
「…………」
Playerは悩んでいた。かくも残酷な二人の二度目の対峙。この世界がゲームである以上、目標は避けては通れない。
アグネスタキオンが勝ち、マンハッタンカフェが負ければ、マンハッタンカフェの目標が未達成で終わる。
マンハッタンカフェが勝ち、アグネスタキオンが負ければ、アグネスタキオンの目標が未達成で終わる。
二人が負ければ、二人の目標が未達成で終わる。
そしてウマ娘プリティダービーには、原則として同着優勝は存在しない。つまり、どちらかが確実に敗北する事になる。
「…………」
悩んでも答えは中々出ない。空間からコーヒーを出し、一口啜る。上品なアロマが口いっぱいに広がるが、所詮アバターの身。味覚などない。
「どうする……」
二人を同時に幸せにするという大言壮語を放ちながら今更になって悩む。己の無責任を痛感する。
自分の尽力に狂いはなかった。現にタキオンは秋天を二連覇し、カフェは凱旋門賞ウマ娘が二人もいるジャパンカップで勝った。
例え想定の範囲外の出来事が起きても、その都度修正してきた。
だが、この有馬記念だけは、どうする事もできない。
「別にいいだろう。二人だってもう立派なA級どころかUE級のウマ娘なんだ。ノーマルエンドで終わっても……」
…………。
…………。
(本当に、そうか?)
「……駄目だ。自分に嘘は付けない。どうすればいいんだろう……」
決断しなければいけない。どちらかに栄誉を与え、どちらかを切り捨てる真似を。
(断腸の思いとはこのことだな……)
時計の針が動かぬトレーナー室で、Playerは何度も何度も考えた。
「……。…………。決めた……」
空間に、3Dモデリングを映し出す。それは、タキオンだった。
「私は……アグネスタキオンを勝たせる」
タキオンを有馬記念に勝たせ、カフェには『お友だち』に勝ってもらう。
これが悩みに悩んだPlayerの考えた落としどころだった。
そうだ。カフェにとってレースは過程。全ては『SS』という偉大な高みを超えるためのプロセスに過ぎない。
もし有馬に敗北しても『お友だち』に勝てさえすれば、彼女は納得するだろう。
「……すまない、カフェ」
カフェが自分にだけ見せる笑顔を、Playerは頭を回して振り払った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はっ……はっ……はっ……はっ……」
「はっ……はっ……はっ……はっ……」
今日はサポカを用いないシンプルな併走を行った。
もはや二人にとって、格下の相手との友情練習は邪魔でしかない。二人を競い合わせた方が集中できるとPlayerは踏んだ。
(二人ともステータス的に完璧に仕上がっている。後は本番でどれだけの力が出せるかだ)
「タキオン、遅れてるよ。それでは有馬でカフェに勝てない」
「ふぅぃ~、今日のPlayer君は随分と気合が入ってるねぇ」
「……当然です。タキオンさん、有馬で勝負するのは……私なんですよ」
「むぅ……」
「……もっとも、今の仕上がった私に……、タキオンさんが勝てるとは思えませんが」
「図に乗るじゃあないか、カフェ~」
「よし、休憩にしようか」
「ふぅ~疲れた」
「私はまだ行けますが」
二人を併走させれば嫌でも分かる。Playerは現段階では実力ではタキオンよりカフェの方が上回っている事に。
ジャパンカップの強豪に勝利し、自信が付いたのだろう。心身共に充実している。これなら本番は『絶好調』以上のポテンシャルを引き出せるはず。
ましてや有馬記念は長距離レース。カフェの長距離適性はA。タキオンはB。この時点でもう差が付いている。
(……大変だな、これは)
タキオンを勝たせると決めて腹を括ったが、目標の為にはどうすべきか。
まさかタキオンを依怙贔屓する為、タキオンだけに練習を行わせ、カフェにはお出かけしてもらうわけにもいくまい。
唯一の救いはsp。直前のジャパンカップでヴェニュスパークとリガントーナに勝つ為に、カフェには持てるspで多くのスキルを取ってもらった。
対しタキオンの方はspが余っており、これを生かし対カフェ用にスキルを充実させる。
中山の直線が短い事は競馬ファンの間では有名だ。中盤以降の加速力と速度を上昇させ、先行策で早めに最終直線に入り、差しで迫るカフェを振り切る、これが大まかな勝ち筋となるだろう。
幸いタキオンはスピードの成長率がいい。この調子でいけば当日のステータスではカフェを上回れる。
なんだかんだで最後にモノを言うのはスピード値の筈だ。
「……ところで、Playerさん」
「ん、何かな?(まさか、こちらの目論見がバレたか)」
「私……直前のクリスマスには、Playerさんとクリスマスデートしたいです」
「え、あ、ああ。別に構わないよ」
「……よしっ!」
カフェはガッツポーズした。
「はっはっは! カフェも形振り構わなくなってきたねぇ! いや分かる。気持ちは分かる。もうすぐ、別れの時期だからねぇ」
「えっ……タキオンさん、どういうことですか!?」
「どうもこうもないよ。Player君が我々の面倒を見るのは3年間。つまり次の有馬記念が最後のレースになる。これは所詮ゲーム。だとすると、だ……。
この先に待ち受けるのはエンディングとエピローグぐらいしかない、そうだろ? Player君」
「…………」
「そ、そんな! ……Playerさん、あなたは大丈夫ですよね!? 私たちの傍からいなくなりませんよね!?」
「……Player君、君が見た私たちのエンディングはどんなものなのかねぇ? そこに幸せはあったのかな?
なあに、君の頭を詮索する真似はしないさ。だが、悔いは残さないでくれたまえよ」
「……。ああ……」
「……!! ぷ、ぷ、ぷ、Playerさん! 今すぐ既成事実を作りましょう! マスコミに公表しましょう!」
「こらこらカフェ、今から掛かってどうするんだい? そういう事は性の6時間まで取っておきたまえ」
「……タキオンさん、茶化さないでください(ゴミを見る目)」
「はっはっは! もうカフェのその眼付きにも慣れてしまったねぇ! それでは二人きりの時間を作るべく、私はもう一周してくるよ」
「はっ……はっ……はっ……はっ……」
(今のカフェに勝つ、か……それは並大抵の事ではないだろう。私だけではない。Player君もそれを感じている)
聡明なタキオンは分かっている。彼はタキオンにもカフェにも負けて欲しくないのだ。
でもどちらかが勝てばどちらかが負ける。その先にあるのはほろ苦いビターなエンディングなのだろう。
「もはやターフに遺せるものは何もないと思っていたが、カフェとの勝負なら、遺せるものはあるねぇ。頑張らなければ」
……ズキッ!
「……!?」
不意に、左脚が痛んだ。
だが、速度は落とせない。二人が見ている。悟られてはいけないと直感的に判断した。
この痛み、飽きる程に経験してきた「あれ」だ。
まさか、Playerに修復してもらった脚がもう、耐用年数を過ぎているとは……。
(何という事だ……! 私の、12時の鐘が、もう……鳴ってしまっている……!)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
クリスマス当日。カフェは部屋で色々と思案していた。
「……Playerさんとの、クリスマスデート。さて、どうしましょうか……」
(ソリャモウ、(うまぴょい)一択デショ!)
(教エテABC! イッチャエイッチャエ!)
「あーもう……こういう時は、多弁なんだから……」
『ソレジャア、私カラ、アドバイスヲ伝授シヨウ)』
「え……」
『下着ハ新品ヲ使ウベキダヨ。黒ガオススメダ』
「……!!////~~//!!」
『フフフ……』
揶揄うと面白いなあ、と『お友だち』はニヤニヤしていた。
(アノ時ビンタサレタノ、根ニ持ッチャッテルノ?)
(意外ト怒ルト怖イタイプダヨネ)
(トイウカ、カフェ、行ク前カラ掛カッチャダメダヨ)
「……いやいや、落ち着こう。……落ち着こう私。Playerさんは、大丈夫……有馬が終わっても、ずっと私たちの傍にいてくれる……筈……」
ゲームの登場人物? 3年経ったら終了? また次の育成が始まるだけ?
馬鹿馬鹿しい。あの人はこの3年間を無に帰すほど冷徹な……人かもしれない。
だが百歩譲っても、今まで過ごした時間を過去の事だと流すほど割り切れる人ではない筈だ。
カフェは何度も何度も反芻した。大丈夫、大丈夫、Playerさんは、私たちを見捨てる真似はしない、と。
「さて、内容は……、王道、でいこう。お互いにクリスマスプレゼントを交換し、食事をして、私の想いを伝える……」
(告白、ダネ)
「ちーがーうー。……私、アメリカに行ってみたいんです。私と同じ名の、マンハッタンに……。Playerさんといけたらなって、ずっと……考えていたんです」
(ソンナノデイイノ?)
(ナンカテヌルイヨネ)
「……それで、私はいい。Playerさんは……、ラブコメがしたい、わけじゃないから……」
一方、アグネスタキオンは冬の街を重装備で歩いていた。
ネットでサイズもろくに調べないで適当に買うので合ったり合わなかったりで誰かに上げるのが大半なのだが、このコートとズボンとマフラーだけは偶然合っていた。
同室のデジタルには「クローゼットがパンパンなので少し処分してくださいよ。タキオンさんのサインでも付ければ売れるんじゃないですか?」と言われてるんだが、
「ふうむ……そもそも私はなんで服を購入するんだろう。いや、分かってる。服を洗う事すら面倒くさいからだ」
こんなんだからデジタルには度々小言を言われてしまう。
(そういえばこの服、去年のクリスマスにPlayer君とカフェと三人で食事に行った時に着ていたものだなあ。押入れの奥に埋まっていたから何だと引き摺り出してみたが、今思い出したよ)
「…………」
(今頃Player君とカフェは食事中かな? そしてその後は……まあからかうのはよそうか)
冬の寒風が体を冷やす。だが決戦前に、タキオンは一人になりたかった。
黄昏たかった。
「おい、見ろよ、アグネスタキオンだぜ」
「一人でいるのは珍しいな。いつもトレーナーが傍にいるのに」
有名人だからか、何処か視線が熱い。まあ気にしないように……、
「あ、アグネスタキオンさん、お願いがあります! 一枚だけ、一枚だけでいいからサインをお願いできますか!?」
そんな中、勇気を振り絞って声を掛けてきた者が一人……。
「おいおいあいつ空気読めないのか」
「タキオンがファンサービスなんかするはずないだろ」
「……。ああ、いいよ」
「えっ……?」
さらさらさらっと。
「はい、家宝にでもしたまえ」
「あ、あ、あ、あ、あ……ありがとうございましゅううううううう!!!!」
「た、タキオンが、アグネスタキオンが、サインを描いた……だと……?」
「こ、これは大惨事だああああ」
「有馬記念は血の雨が降るぞ!」
「…………」
(……一体何をしてるんだ私は。その時が、あまりに残酷に訪れてしまったからか)
脚の鈍痛はあれから何をやっても取れない。
当然だ。自分の脚は消費期限を過ぎた。
タキオンはそう悟ってしまった。
(無論、Player君に言えばすぐにでも治してもらえるだろう。だが、どうせすぐにでも再発するのではないか……?)
人形なら、糸が解れても簡単に元に戻せる。だが自分はゲームとはいえ、生身のウマ娘。
壊れた人形に、価値はない。
(有馬記念で捨てよう……。今まで培ってきたもの全てを。無責任に……)
「……帰る前に、コンビニのたれに浸かり続けて味が全部同じになったおでんでも買って帰るか」
夜空に星が見える。タキオンはセンチメンタルになってる自分に気が付いた。
吐いた息は、冬らしく白かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
有馬記念当日。中山は寒気の影響で特に冷え込んだ。
「タキオン、カフェ調子はどうだい?」
「万事問題ないよ」
「……同じく」
(Player君に秘密で麻酔は打った。2500m持てばよし。だが、もし駄目なら……)
「……Playerさん、質問いいですか?」
「何だい?」
「……Playerさんは、タキオンさんと私、どっちに勝って欲しいのですか……?」
返答に困る質問ではある。だがカフェはどうしても聞いておきたかった。悪い意味で二股を掛けていた彼が、最後に選んだ相手は誰なのかを。
「それは……」
「私、だろう?」
「タキオンさん……」
ウォーミングアップをしていたタキオンが不意に話に割って入った。
「このところ、Player君の私を見る視線が明らかに集中していた。彼が選んだのは、私だ」
「……。そうですか……」
「不満かい?」
「……いいえ。ならば、奪い取るまでです」
「怖いねぇ。それよりクリスマスはどう過ごしたんだい? 私としてはそちらに興味があるのだが」
カフェが思わず思い出して顔をにへ~と歪ませた。
「惚気ありがとう。言わずとも充分堪能させてもらったよ」
「最終決戦だというのにこんな調子でいいのかな」
「マイペースは今に始まったことではないだろう、Player君」
「レースでは……本気です」
「お互いいいレースをしよう、カフェ」
「……勿論です」
コンコン……。
「アグネスタキオンさん、マンハッタンカフェさん。お時間です。よろしいですか? よろしいのならばレース場まで。あえて私は入りませんので」
「では、最終実験開始といこうか」
「……楽しんできます」
カツンカツン……。
「よお、タキオン、カフェ」
ゴゴゴゴゴゴ……。
「やあやあ誰かと思えば全くレースに出ないで忘れ去られたポッケ君……と揶揄うべきではないな。寒気がするほどのオーラだ」
「私もいるよ」
「ダンツさん……」
「タキオン! カフェ! 待っていたぜこの日を。お前たちを超える為、勝つ為、全てをぶつける為に俺はターフに帰ってきた!」
「例え相手がどれだけ強くても、世界一でも、私は勝つことを諦めないよ」
「ふっ……皆が皆、思い思いの意気込みの中走る……いいねぇ。
「……この四人が集まるのも、今日が最後かも、しれませんね……」
ワアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
「待っていたぞーアグネスタキオン!」
「カフェに勝っておまえこそナンバーワンだってことを証明してくれー!」
「マンハッタンカフェ! 世界一の豪脚楽しみにしてるぞ!」
「年度代表ウマ娘はおまえしかいねえー!」
二人がレース場に姿を現すと、大歓声が上がる。
誰もポッケやダンツの事など気にも留めていない。まるでそこにいないかのようなアウェイ感。
やはり先月の激戦だったジャパンカップが、観客の目を肥えさせ、期待を一段階上げてしまったのだ。
「ふむ、ポッケもダンツも、期待してもらえる観客はゼロか」
「でも二人ともとても落ち着いていますね。背中が大きく、頼もしく見えます」
「それに気付いているのは私たちぐらいだけどね」
観客席からおハナさんとナベさんとフジが見守る。
特にポッケは、レースに出たくても出られない日々が続いた。
おそらく観客も彼女の存在など過去の物になっているだろう。
だが、今はそれでいい。全てはこの決戦にぶつける為。観客に悲鳴を上げさせる為、その刀は極限まで砥いだ。タキオンとカフェにも見劣りはしない。
一方Playerは、
「不安要素は多いけど、後は見守るしかないかな」
出来る手は全て打った。取れるスキルは全て取った。これ以上逆さに振っても何も出ない。
タキオンの勝利。それは必然的に、カフェの敗北を意味する。
『君ハ、カフェニ負ケテホシイノカ?』
不意に、『お友だち』が話しかけてきた。
「どっちにも負けて欲しくないのは噓偽りのない事実だよ。でもカフェには、次がある。このレースの勝敗とは別に、君との決戦がね」
『ダカラ、ココデハ負ケテモイイト?』
「逆に聞こう。今のカフェと君、競争したらどっちが勝つと思う?」
『……私ダ』
「うーむ…………」
「どうしたんですか、戸島さん」
観客席から出走ウマ娘を見ていたベテラン記者は、何か違和感を覚えた。
誰だ? マンハッタンカフェ? ジャングルポケット? いや、違う。
「……アグネスタキオンだ」
「え、タキオン?」
「タキオンの様子がどこかおかしい。間違いねえ。ベテランの勘がそう言っている」
「アグネスタキオンが、ですか。そうは見えませんが」
「このグランプリ、ひょっとしたら荒れるぞ」
『さあ全国のウマ娘ファンが待ち望んでいた年末最後の締め括り、グランプリ有馬記念。今年もファン投票で精鋭が揃いました』
『アグネスタキオンとマンハッタンカフェに票が集中したとはいえ、意地とプライドで出場を決意したウマ娘には頭が下がります』
『さあ一番人気は今や世界一の称号を欲しいままにしたこのウマ娘、漆黒の幻影マンハッタンカフェです』
『彼女の得意とする長距離、満を持しての二連覇はありうるのか』
『そして一番人気こそ譲りましたが、素質は負けていません天才アグネスタキオン』
『宝塚記念では直線勝負で後れを取っただけに、リベンジに期待したいですね』
『三番人気は遂にGⅠに手が届いたダンツフレームです。秋の天皇賞の激走といい、この一年でぐっと力を付けました』
『下剋上を起こせるとしたらこのウマ娘でしょう。実力は負けてはいませんよ』
誰もポッケを見ていない。期待すらしてくれない。
でも、今はそれでいい。レースは結果が全ての世界だ。結果を出してこられなかったウマ娘の扱いなどこんなものだということはポッケが自覚している。
(不思議なもんだな。体の内は既にエンジン掛かってて暖機運転状態なのに、心は静かに落ち着いていられる。変な感じだぜ)
勝利に飢えて焦っているかつての自分は、もはやいない。後はスタートと同時に、ぶつけるだけだ。
「今の俺がどこまで通用するか……ま、ベストを尽くすとするか」
「ふう……冷静冷静、っと」
「ダンツさーん、リラックスリラックス」
「トレーナーさーん」
手を振って答える。
(そうだよね。この大観衆の中、たった一人でも期待してくれる人がいるなら、それで充分だよね)
「……。よし、やろう」
そして大観衆に見守られながら、スターターの旗が振られる。ファンファーレと共に、寒い中山を熱狂が包む。
『さあ私の夢が、あなたの夢が走ります、グランプリ有馬記念、まもなく出走です! 展開としてはどう見ますか?』
『メジロパーマーとダイタクヘリオスコンビが大逃げの奇策に出るでしょうね。
アグネスタキオンとダンツフレームは先行策。マンハッタンカフェはじっくりと前を見ながらの中団に控えるでしょう』
『ここまできたのなら各ウマ娘持ち味を全て出してのレースになりそうですね』
『枠入りが始まっています。おや、アグネスタキオンがゲートを嫌がっています』
『珍しいですね』
「どうしたんだアグネスタキオン」
「こんな事が過去にあったようなないような」
「あーいや、大丈夫だ。せかさないでくれ。ちゃんとゲートには入るから」
(……タキオンさん)
(なんかおかしくねえかタキオンの奴。いつもの余裕が感じられないように見えるが気のせいか?)
『さあ態勢完了!』
(頼む、持ってくれよ。私の脚……)
(……全力を、尽くします!)
(勝負だ!)
(負けない!)
「…………」
「…………」
「…………」
ガコン!!
『スタートしました! 各ウマ娘綺麗なスタート!』
『この大一番ですがみんな集中しているようですね!』
「ヘリオス逃げるよ!」
「パマちんおけまる水産! 観客あっと言わせてやろうじゃん!」
予想通り馬鹿コンビが開幕から久々の大逃げ態勢に入る。後ろは無理についていこうとはしない。
中山の直線は短い。黙って逃がせば逃げ切られる可能性はある。それでも各ウマ娘は、自分のペースは崩さない。
ダンツフレームは四番手辺りで追走。マンハッタンカフェは七番手辺りとなり、ジャングルポケットはその後ろに付けた。
そして、アグネスタキオンは……、
『おおっとどういう事だ。アグネスタキオン! 三番手に付けたと思いきや、ズルズルと後ろに下がっている!?』
ズキ……。
(痛い……)
ズキズキ……。
(痛いよ、Player君……)
やはり生兵法で隠し通せる程軽い状態ではなかった。感覚的に麻酔は効いてはいるが、脚の悲鳴はもはやどうしようもなかった。
「……! どうしたんだタキオン!?」
これにはPlayerも狼狽していた。こんなのシナリオにはない。
いや、違う。どうして、どうして何も言ってくれなかった? どうして隠そうとした?
どうして、脚が痛いのなら自分に相談してくれなかった? すぐにでもいつも通り走れる状態にしたというのに、何故話してくれなかった……?
アバターの顔が蒼白になっていくのを感じる。裏切られたのだ。最後の最後に。自分はアグネスタキオンというウマ娘に裏切られた。
その現実を、受け止めざるを得なかった。
いや、タキオンの心情を考慮していなかった自分にも責任がある。
Playerという立場故、有馬に走らせることは確定していた。だが、走らせるべきではなかったのか……?
「くそっ……!」
そしてタキオンは、とうとう最後尾まで下がり、遂には走るのを止めてしまう。
(済まない。カフェ、ポッケ君、ダンツ君、本当に済まない。もっとも謝って許してもらえる問題ではない事も分かっている)
だが、自分にはもはや、観客の前で最高のレースをする力が残っていない事を悟っていた。
『左手を上げたー! 競争中止の合図だー!』
観客がどよめいた。
「どうしたってんだアグネスタキオン!?」
「まさかアクシデント発生か!?」
「そんな……タキオン様……」
(みんな、私はここまでみたいだ。でも君達には、まだ夢と未来がある。どうか、いいレースをしてくれ。私はお先に一抜けさせてもらうよ……)
「……。ふざけるな。ふざけるなアグネスタキオン!」
しかしタキオンの退場を、カフェは到底許せるものではなかった。
(お互いいいレースをしようと言ったじゃないですか! 本気で勝負するつもりではなかったんですか!?)
タキオンの独断を許容できるほど、カフェは穏健ではなかった。彼女は自分も、ポッケもダンツも、そしてPlayerさえも裏切ったのだ。
この排対行為をとてもではないが許せるはずはない。
「もういいです! こんなレースさっさと終わらせて、あなたの頬を引っ叩きに行ってあげますよ!」
そう決めて、カフェは順位を一気に上げた。
『おーっと、マンハッタンカフェ、一気に先頭集団まで上がっていく。これは作戦か暴走か!?』
『掛かってしまっているのかもしれません。冷静になれればいいのですが』
「わわっ、マンハッタンカフェがもう来ちゃった! こんなの聞いてないよ!」
「やっべーカフェちん来んの早すぎー!」
「すいませんね二人とも。私はもうこんなレースさっさと終わらせたいんですよ!」
「待てカフェ! それは君のスタイルじゃない! 冷静になれ!」
観客席からPlayerが叫ぶ。だが彼女の耳には届いていない。
タキオンの排対行為が原因で誤算に誤算が重なってしまった。これではいくらスタミナお化けのカフェといえど、ラストの直線で捕まるのは必然である。
「カフェちゃん……」
ダンツが上がっていったカフェを心配そうに見つめていた。
「…………」
その様を、ポッケは冷静に見つめていた。
(そうだよな。カフェ、あのタキオンがふざけた真似をしたんだもんな)
(俺だって殴ってやりてえよ。あいつはレースで走るウマ娘だけじゃねえ。トレーナーも、観客全てを裏切ったんだ)
(怒髪天とはこのことだよな。でも……でもよ……)
「このグランプリレースで、ふざけた走り……してんじゃねえよ!」
カフェはどんどんカッ飛んでいって、もはや大逃げに近い態勢になる。既に2番手からは5バ身は離れたか。
もはやPlayerの声も届かない。ただ前に出る事しか考えてない。ペース配分も勿論、ゴール板すら見えていない。
完全に掛かりっぱなしだ。
背後のウマ娘達は思った。
(大ピンチ……絶体絶命だ。でも、言い換えるなら、千載一遇……大チャンスだ!)
カフェは止まるどころか更に速度を上げる。常軌を逸したロングスパート、といえば聞こえはいいが、もはやレースになっていない。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
(やはり……この走りは、無茶が過ぎましたか……)
カフェも今になって、自分の走りの拙さを自覚する。
だが、我慢は出来なかった。タキオンの薄笑いの顔が脳裏に浮かぶたびに苛立ちが募る。
いつも傍で切磋琢磨してきた間柄だからこそ我慢がならなかった。
本気で勝負する気なら、泥水を啜ってでもPlayerに助けを乞うべきではなかったのか?
たった一戦でもいい。そこで最高の勝負をして、そして燃え尽きれば、遺恨は残らなかったのではないのか?
(酷いですよ……タキオンさん……!)
『さあまもなくマンハッタンカフェ、第四コーナーを回り直線に入ります。中山の直線は短いぞ、後ろのウマ娘は間に合うか!?』
「大丈夫……これだけ離したんだ。セーフティリード、の筈……!」
ぞわっ。
「……!?」
異様な気配に、カフェが思わず後ろを振り向く。
そこには、いた。大量のウマ娘が。蹄鉄を響かせながら。
そんな馬鹿な。あれだけ離していた筈だ。もう追い付かれた……?
「パマちん、後は任せたー!」
「おっけーヘリオス! ここでメインはっちゃうよー!」
「ネオユニヴァースも、いるよ……」
「あーもー! トレーナーさん私を走らせたこと絶対恨むからねー!」
「はあああああっ!!」
その中から、抜け出してきたウマ娘がいた。ダンツフレームだ。
流石苦汁を飲め、それでも諦めずに困難に立ち向かってきたウマ娘だ。面構えが違う。
「カフェちゃん、気付いてないの!? ずっと掛かってたんだよ! もうとっくに垂れてるんだよ!」
「……!?」
『ダンツフレームが迫る! ダンツフレーム追い付けるか!? しかし二人の前に中山の急坂が迫る! 勝利の行方はどっちだ!?』
「ここまで来たんだ! グランプリ、取らせてもらうよ!」
「……負けません! 私にも、意地があります!」
だがその横を、一人のウマ娘が並ぶ間もなく駆けていった。
「えっ……」
ジャングルポケットだ。
『外からジャングルポケット! 外からジャングルポケット! ここで差した! 先頭に立った!』
「なっ……!」
「ポッケちゃん!?」
「どうだおまえら! これが俺の脚だ。半年間レースに出ずに、砥げるだけ砥ぎ、鍛えに鍛えた……俺の脚だあああああっ!!!」
「いっけーポッケの姉貴ー!」
「ポッケ、今こそ雪辱を果たせ!」
「ポッケ、いけるよ。勝って帰っておいで!」
大歓声の中から馴染みの声が不思議と聞こえる。こんな五月蠅いのに、応援してくれていた人の声だけははっきりと聞こえる。
「見ててくれみんな! 俺はやってみせる! これが、信じてくれた人たちに報いる俺の走りだ! おまえたちには負けない!」
「私だって負けないよ!」
「……私だって……うっ!」
カフェは完全にガス欠になっていた。あれ程無尽蔵のスタミナを持っていたにもかかわらず、1200を超えた値が、完全に尽きていた。
もはや、前を行く二人を追いかけるのが精一杯。後ろから迫るウマ娘から逃げるだけ。
世界最強の脚はもはや見る影もなくなっていた。それでも意地でバ群に飲まれないのは流石だが、それまでだ。
「見てろ観客の連中! 俺を見ろ! 俺が、この俺が、ジャングルポケットだああああああああああっ!!!!」
『ジャングルポケットだああああっ!!』
ワアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
『勝ったのはジャングルポケット! 大外に持ち出してからの豪脚一閃! 凄まじい切れ味でした! お見事!』
「うおおおおおおおおおおっ!! 俺の……勝ちだあああああああああっ!!!!」
勝利の雄たけびとガッツポーズ。
その瞬間、観客の視線の全ては、ポッケにあった。
「す、凄かった。ジャングルポケット……」
「大外だったから完璧に見えた。一人だけモノが違ったぞ」
「世界最強に勝ちやがった。まぐれなんかじゃねえ。本物の脚だ。凄え!」
観客も唖然茫然。無論これはフロックではない。彼女が実力で掴み取った勝利だ。
「へへっ……有馬に勝つってのも、悪くはねえな……」
「遂にやったのぅ、ポッケ」
「ポッケ、本当に今まで頑張ったね……」
ダンツフレームは二着。
「負けちゃった、かぁ……。カフェちゃんを捕らえた時はいけたと思ったんだけどなぁ」
そしてマンハッタンカフェは、三着に沈んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
(情けない……あんな走りで勝てる程、グランプリは甘くない事ぐらい、分かっていた筈なのに……)
その光景を見て、Playerは手すりをガツンと殴りつけた。
「どうして、どうしてこうなった……。それともこれが、禁忌を犯した者の報いだというのか!?」
アグネスタキオン:最終目標 未達成
マンハッタンカフェ:最終目標 未達成
推しの子最終回騒動を見て、プロだろうとアマだろうと、最後まで書いていい終わり方するって難しいんだなあと心底思いました
え、自分ですか?エターならないことだけが取り柄の作品しか書けません
ていうか才能があったらとっくにプロになってますって笑笑