ウマ娘プリティーダービー『The Player』   作:K.T.G.Y

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目標未達成で終わったからURAファイナルズは書きません。
しかしそれ以上のターニングポイントを今回は書きました。

ああひたひたと這い寄るジャスト年末進行……!
気持ち的には12月に入る前に終わらせたかったけど駄目みたいですね……(諦め


伝説の血という激流を昇った果て

 

「くっ……」

Playerは大歓声の中、奥歯を噛み締めながら唸った。

歓声がジャングルポケットに向けられている。アグネスタキオンでもなく、マンハッタンカフェでもなく。

 

全てのシナリオが狂った。

タキオンの造反、カフェの暴走、その結果がこの有様だ。

「……まだだ。まだ終わっていない……!」

Playerは控室に向かった。

そうだ。目覚まし時計を使えばいい。そしてこの結果を「なかった」ことにし、タキオンの脚を治し、もう一度やり直せば……。

「あきらめる」コマンドを使わなくても、やりようはあるはずだ。

 

バン!

 

乱暴に開けられた控室の扉、中には、タキオンが座っていた。

「……やあ、Player君」

「タキオン!」

恨み辛みがないわけではない。今は全てを飲み込もう。

「……目覚まし時計を使うつもりかい」

「……」

「やめたまえ。そうやってこの時間軸を捻じ曲げ、何もかもなかったことにする気かい」

「……どうして、……どうして何も言ってくれなかった……」

「……。運命を、受け入れた。……それだけだよ」

「止めろ! 君ほどのウマ娘が、科学者である君が、運命などと軽々しく口にするものじゃない!」

Playerは激高した。

「……Player君。私はね、君には感謝している。ここまで走らせてくれた。神の域も見れた。……それだけで私は救われた。もう悔いなんてない。幸せな競争バ生活だったよ」

「タキオン……」

何故そんなやりきった顔をするんだ? あんなにも泰然自若で、いつも人を煙に巻いていた君が、どうしてそこまで悟れる……?

Playerは分からなかった。

「君にしてみれば残念な結果だろうね。でも、いいんだ。……これで、いいんだ」

「よくは……ないだろう……」

 

「タキオン!!!!」

背後から怒声が響いた。

ジャングルポケットがやってきたのだ。ヒーローインタビューも無視して。

背後にはダンツフレームも、マンハッタンカフェもいる。

「やあやあポッケ君。見ていたよ。凄まじい豪脚だった。有馬記念優勝おめでとう」

「……! ふざけんじゃねええええええっ!!!!」

 

ドゴォッ!!!!

 

Playerの静止間に合わず、ポッケの怒りの鉄拳がタキオンの顔面を抉った。

壁に吹っ飛ばされるタキオン。折れた奥歯が、カラリと地に落ちた。

「てめえ! あと100発ぐらい殴らせろ!!」

「ちょ、ちょっと! ポッケちゃん! 乱暴は駄目だよ!」

ダンツフレームが暴れようともがくポッケを静止する。

「うるせえ! てめえ……俺が今日までどんなに辛い練習に耐えてきたか、お前たちを超える為にどれだけ苦しい思いをしてきたか、それを知らねえで勝手な事しやがって!」

「……タキオンさん。今回ばかりは、私も許すわけには、いきません……!」

カフェが鬼の形相で睨む。

 

ズルッ……。

 

「…………」

タキオンは答えない。いや、答えられない。

ポッケの一撃で壁に叩きつけられたタキオンは、ぐったりとしていて意識がない。後頭部からはどくどくと血が流れている。

「えっ……」

その惨状を見て、ポッケもようやく頭に昇った血が少し下がった。

「おい、タキオン……、え、え、ちょ、ちょっと待て。俺はそこまでしたかったわけじゃ……」

「……やってしまったね。ジャングルポケット。タキオンからは生命反応がない。今すぐ治療しないと、タキオンは助からない。いや、もう手遅れかも」

Playerが横から語りかける。

「た、タキオン……」

「タキオンちゃん……」

「タキオンさん……」

三名が青ざめる。やってはいけない事をした、その自覚が、ポッケを現実に戻した。

「……仕方がない。貸し一つということにしておくよ」

Playerが意識のないタキオンの横に歩み寄り、両手を翳す。そこから淡い光が漏れ、タキオンを包み込んだ。

「……。…………。……! はっ……!」

「大丈夫かい、タキオン?」

「……Player君、君がやったのか。いやはや、死後の世界とは本当にあるものなんだねえ、実際に三途の川が見えたよ」

「それだけ減らず口を聞けるなら、もう大丈夫みたいだね」

 

「おい、おいおい、おまえ、タキオンに何をした!? おまえ、魔法使いか何かなのか!?」

「回復魔法を唱えた、なんてことじゃない、よね?」

ポッケとダンツが狼狽える。

「……Playerさん、そういう事を人前では……て、もう手遅れですね」

カフェが答える。

「仕方がないよ。タキオンは生死の狭間にいた。それに、もはや手の内は隠す必要がなくなってしまったしね」

 

パチン!!

 

Playerが指先を鳴らす。

その瞬間、その控室だけが「刳り貫か」れ、時空から別の場所に移動した。

「じきに報道陣もここに向かってくるのだろう。だから、時間を止めさせてもらった」

「は?」

ポッケが思わず口をあんぐり空けた。ふと外を見る。追いかけてきた報道陣が、まるでストップモーションの様に立ち止まっていた。

「おいおいおい、なんだよこれ。おまえさん、まさかお化けとかじゃ……」

「……ああ、ポッケさん、お化けの類、苦手でしたね」

「べ、べ、べ、別にビビッてねーし!」

「ポッケちゃん、もうバレてるんだから隠さなくていーよ」

 

「そうだな。勝者の褒美……というわけではないが、君達だけには話しておこう。他言無用で頼むよ」

 

 

Playerは、話した。この世界の全てと、今日に至るまでの全てを、包み隠さず、ありのままに。

「Player、だと……」

「私たちが、ゲームの登場人物……」

「信じるか信じないかは勝手だよ。だが私とカフェは間違いなくPlayer君に導かれて、ここまでこれた。それは事実さ」

タキオンが話に割って入る。

「……へっ、ようはチートを使っていたってわけかよ。そりゃ勝てねえわけだぜ」

「ステータスをいじったわけではない。私はあくまでトレーナーという視点で「育成」を行ってきた。その成果が結果として出ていた。この有馬だけは計算がずれたけどね」

「うーん、つまり、Playerさん……の世界ではウマ娘なんてのは……」

「存在しない。ゲームの為に作られた、架空の生物だ」

ダンツの質問にPlayerは答えたものの、ダンツは分かったような分かってないような、そう顔を歪ませた。

「ちなみに、これが実際の『馬』だ」

Playerが空間にホログラフィーを表示させる。一頭の馬がいた。

「随分奇抜な動物だな。牛でもねーし豚でもねーし、どっちかってーと鹿か?」

「あ、よく見ると可愛いかも」

「……気性が荒いのもいるらしいですけどね」

 

「これに乗ってレースをするのが我々の世界で言う『競馬』だ。そのレースを擬人化したウマ娘が走る、その違いでしかない」

「つまり、あんたの世界では、その、『馬』のジャングルポケットやダンツフレームも……」

「いたよ」

「うぐぐ……」

ポッケも分かる様な分からない様な気持ちで頭を抱える。

 

「だが、私は目標を達成できなかった。タキオンにも、カフェにも、この有馬記念を勝たせることは出来なかった。この場を借りて、君達にも、全てのウマ娘にも、謝罪したい」

そう言い、Playerは躊躇いもなく膝を付き、土下座した。

「馬鹿いえ、おまえさんに謝ってもらってもしょうがねえんだよ! この落とし前、どうつけるつもりだ!」

「やめようよポッケちゃん、この人だって必死だったんだよ。これ以上追い詰めたら駄目だよ」

「おまえは黙ってろダンツ! ああ、どうするつもりだてめえ!」

「……やめてください、ポッケさん」

「カフェ……」

「……どんな形にしろ、私はPlayerさんのおかげでここまでこれました。この人に導かれ、救われたんです。これ以上、この人を侮辱するのは、許しません……」

普段のカフェとは思えない積極性だった。巷では、カフェはトレーナーに好意を抱いているという下世話な噂もあるが。

「……ちっ、分かったよ。俺はおまえは好かねえし信用もしてねえが、今はカフェに免じて百歩譲って水に流してやるよ。百歩譲ってな!」

「…………」

「けっ、ほんと虫の好かねえ野郎だぜ。まあとりあえず時間を元に戻しな。報道陣の前で喜びを露にする素振りをしてくるからよ!」

「分かった……」

 

Playerが指を鳴らすと時間軸が元に戻った。

 

 

「さて、マスコミの連中に喜びを露にしてくるか。あー興が削がれてめんどくせー」

「ポッケちゃん、素直に喜ぼうよー」

 

集まったメディアの前で、ジャングルポケットは吠えた。

最強に勝ったんだから俺が最強ってことでいいよな、と。

舎弟から胴上げも受け、見守ってくれたナベさん、おハナさん、フジ先輩に祝福され、笑顔でトロフィーを掲げた。

 

ダンツフレームは、ベストの走りをしました。負けたけど悔いはありませんと答えた。

 

マンハッタンカフェは、応援してくださった皆様に恥を晒すような走りをしてしまい申し訳ありませんと謝罪した。

 

そしてアグネスタキオンだが、最初はPlayerが自ら限界寸前だったところを強行出場させたと答え彼女を庇うつもりだったが、タキオンの口から事のあらましを全て伝えた。

「では、トレーナーには黙っていたと……?」

「ああ。どうしてもこのグランプリには出たかったんだ。でも、やはり無理だったみたいだね」

「そうですか……」

「そういうわけで、アグネスタキオンの物語は今日も持ってビターエンドとさせてもらおう。応援してくれた人達、これまで本当に有難う。そして、済まないね」

最後までタキオンはタキオンらしくターフから姿を消すという旨を伝えたのだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

そして、年が明けた。

だがここからは、育成するPlayerにとってはどうでもいい時期だろう。

なにせ最終目標を達成したら、URAファイナルズだが、どうやらその開催はないらしい。

故にタキオン達にとっては、退屈この上ない時期だった。

 

年度代表ウマ娘にはマンハッタンカフェが選ばれた。

有馬記念での暴走が問題点になると思われたが、宝塚記念でのタキオンとの勝負に勝ち、そして何よりジャパンカップでの凱旋門賞ウマ娘に勝利した事が高く評価された。

会見でカフェは「……有難うございます。でも私は、もう走りません。正式に引退とさせていただきます」と答えた。

 

本当に、本当に終わってしまったのだ。

タキオンとカフェが、Playerと駆け抜けた3年間が。

 

だが、カフェにはまだやらなければいけない事がある。

いや、これこそ、カフェが研鑽の果てに辿り着かなければならない、有馬記念で一着以上の最終目標が。

 

 

それはトレセン学園の冬休みの最終日、1月7日の夜に行われる事になった。

これは演習ではない。観客はいない。固唾を飲んで見守る者が数名いるだけ。

 

ひゅ~。

 

「ううぅ……冷えてきたねぇ。厚着しても寒いとは。早いとこ終わらせてほしいものだ」

「なら寮に戻ればいいんじゃないかいタキオン?」

「Playerくぅ~ん、こんな世紀の大イベントを見逃すほど私も薄情ではないさ」

「あれか? たまにカフェが言ってる『お友だち』ってのは」

 

ポッケとダンツも友人という事で興味が湧いたので見に来た。

 

そう、皆の眼には『お友だち』の姿がはっきり写っていた。

顔は見えない。しかしその出で立ちはカフェと酷似している。

カフェの姉か、カフェの妹か、それともカフェの母親なのか、詮索は尽きない。

「あそこまで存在感を顕にするという事は、彼女も本気で勝負するということなのかな?」

「ああ、間違いない。そしてカフェにとって超えるべき最強の高見となる。正直どちらが勝つか、私でも分からない」

「そ、そ、そ、そうなのか。あ、で、でもあれってお化……」

「ポッケちゃん震えてるのは寒いから?」

「べべべべ別にビビッてねーし!」

傍には勝負服に着替えたカフェの姿もある。夜の帳に二人が溶け込んで、まるでそこにいないかのような錯覚に陥る。

「…………」

『…………』

二人は一言も交わさない。もはや言葉は不要と互いが感じたのだろう。

 

勝負は芝2400mに決定した。ダート大国で育った『彼女』にとって芝は不向きだろうか。

否。そんな事で走りが揺らぐほど、『彼女』の走りは甘くはない。

 

「二人とも、準備はいいかい?」

「……はい、大丈夫です」

『……(コクッ』

「芝2400m一本勝負。目覚ましは使わない。ホームストレッチから始まり、一周して先にゴール板を駆け抜けた方が勝ちだ」

「……はい」

「では二人ともゲートへ」

 

ヴェニュスパークとリガントーナが現代の最強格なら、『お友だち』は米国の至宝でありレジェンド。タキオンの言葉を借りるなら「常に神の域に定住しているウマ娘」。

BIG RED級とまではいかないが、間違いなく歴史に名を残す『馬』だ。

そんな相手に、カフェがどこまでやれるか……。

 

(……長かった。あなたの影すら踏めない日々、でも今は違う。Playerさんとの二人三脚……その集大成を、見せます……!)

(カフェ、君ガドコマデ強クナッタカ、試サセテモラウヨ)

 

スターターはいない。しかしゲートはある。その中に入り、二人が構える。

 

「…………」

『…………』

 

ガコン!!

 

二人が出遅れることなく、最高のスタートを切った。流石熟練者、慣れている。

いや、こんなところでもたついてはカフェは『お友だち』に勝つなど夢のまた夢だ。

 

『……!』

開始早々、『お友だち』がカフェに強引に体をぶつけてきた。潰す勢いで。

しかしカフェは負けじと弾き返す。

(……こう仕掛けてくるのは、分かっていました)

 

「お互い、いいスタートだな」

「頑張れーカフェちゃんー!」

 

(……凄い気迫だ。でもこれで全然本気じゃないんだよね)

(…………)

 

カフェは無理して序盤から競り合わない。

黙って楽に走らせれば追い付けないかもしれない。だがカフェは最初から後ろに控えると決めていた。

「ふぅン。カフェはマークする気だねぇ」

「背後からプレッシャーをかけようという算段かな」

「Player君は通用すると思うかい?」

「カフェ次第、かな」

 

まずは『お友だち』が第一コーナーに入る。そこから少し遅れてカフェが入っていく。

「なんだありゃ。コーナーだってのに全然減速してねえ。それどころか速くなってんぞ」

「ほんとだ。もうこの時点で只者じゃないってわかるよね」

「そういうウマ娘なんだよ。カフェが今まで一度も勝てなかったのも分かるだろ」

第二コーナーを回り、向こう正面に入る頃には、カフェとは3バ身程差が付いたか。

「カフェ、追いかけるんだ。黙って逃がせば逃げ切られるぞ!」

「大丈夫だよタキオン、カフェを信じよう」

 

レースは向こう正面の中ほどを過ぎる。

カフェはまだ仕掛けない。黙って『お友だち』を先に行かせている。これではマークにならないのではないか?

否。カフェの背後から掛けるプレッシャーは既に『お友だち』をじわじわと蝕んでいる。

カフェにとってこの距離はいつも通りだ。そして一度も追いつけたことはなかった。

かつてのカフェなら、このまま成す術なく終わっていただろう。だが、今夜はどうか……、

 

「……」

そして『お友だち』が第三コーナーに入る。先程見せた最高のコーナリングが再び二人の差を開こうとする。

「カフェ、追いかけろ! このままじゃ直線でも追いつけねえぞ!」

ポッケが発破をかける。いや、既にコーナーに入っては手遅れか。二人の差は広がり……、

「はっ!」

カフェがここで初めて仕掛けた。コーナーに入った直後、『お友だち』以上の完璧なコーナリングでその差を詰める。

(……!)

「……あなたの走りは、大いに参考にさせてもらいました。私がもっとも模倣したかったもの、それがこのコーナリング……。

これを土台に、あなた以上の『モノ』に仕上げるまで、どれだけ時間を費やしたか……私の努力と、Playerさんのご指導の賜物です」

 

差は詰まった。だがまだ足りない。そして『お友だち』が直線に入る。カフェも遅れて、直線に、その差はおよそ2バ身か。

「いけー! カフェー!」

「カフェちゃん頑張れー!」

ポッケとダンツの声援が、深夜の練習場に響く。その声は、確かにカフェの耳に届いていた。

 

(……!)

「はああああっ!!」

『お友だち』は満を持してスパートを掛ける。差は、拡がらない。むしろ詰まっている。

「いけるぞ! カフェ!」

タキオンも声援を送る。その走りを録画する事を忘れ、研究も忘れ、ひたすらカフェを応援する。

 

「まだまだああっ!」

並んだ。遂に二人が、並んだ。

(……!)

だが『お友だち』には余力があった。貫禄の二枚腰。カフェを引き離しにかかる。

「ウッソだろ。まだ速度があがるのかよ!?」

ポッケが驚嘆する。カフェの『お友だち』の走りを見るのはこれが初めてだが、これが国内なら十分に無双できるレベルだ。

 

しかしカフェも負けてはいない。こちらも二枚腰で対抗する。

拡がる筈だったその差は、もはや殆どない。クビ差程度か。

(コ、コノ脚ハ……!)

「……『お友だち』、あなたは凄い。こんな走りができるんだから……。でも、あなたの背を追いかけてきた私だからこそ分かる。

あなたは……『負けるのが怖い』! あなたもまた、どれだけ強くても、等身大のウマ娘に過ぎない……」

(……!)

「私は、負けてきた……。何度も、何度も……あなたに。でも、その度に……強くなってきた。私だけじゃない。タキオンさんがいた。Playerさんがいた。

ポッケさんやダンツさんのようなライバルだっていた。数えきれない相手と競ってきた……。そうやって培ってきたものが、この走り……!」

 

(イケ、カフェ!)

(頑張レ、カフェ!!)

(勝ツンダ、カフェー!)

背後を押してくれる『みんな』がカフェに活人の力を授ける。

「見てください『お友だち』、これが今の私、マンハッタンカフェの走りですっ!!」

かつて見た光の一筋が見える。そこを辿って行けとカフェを導く。その脚を踏みしめていくたびに、まるで花でも咲くような錯覚に陥る。

もはや土と芝の感触すらもない。だが前を行く『お友だち』は、完全にカフェの勢いに飲まれていた。

(……!)

「……!」

刹那、カフェは『お友だち』を追い抜き、先にゴール板を駆け抜けていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「カフェの、勝ちだ……」

タキオンは確信した。一瞬ではあったが二人の間には1バ身の着差が付いていた。

「おっしゃあああカフェの奴勝ちやがった!」

「カフェちゃんおめでとー!」

ポッケとダンツも本人のように喜ぶ。

「ふっ……はっはっは、Player君、どうやら君がカフェを導いてきたこと、決して無駄ではなかったようだね」

「そのようだね……」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

(か、勝った……)

疲労困憊の体を起こす。周りの『みんな』に祝福され、カフェはようやく笑った。

弟子が師を越えたその瞬間だった。

「はっ……。そうだ、お友だち……!」

 

パチ、パチ……。

 

カフェの背後で、『お友だち』はカフェの勝利を祝い、拍手をした。

始めてみた。彼女の全身像も、表情も。

 

その姿は、カフェに酷似していた。黒く長い髪も、頭の流星も、服装も。

予想はしていたが……、

(……まるで、私の「お姉さん」みたいだ)

カフェが彼女に駆け寄り、そしてその姿を抱きしめる。

「……有難う。私の最高の『お友だち』……。あなたがいたから、私は……ここまでこれた。本当に、有難う……」

『……』

「……お願い。本当の意味で、私の『お友だち』になって。私はあなたに、ずっと傍にいてほしい……」

『……』

彼女は、首を横に振った。

次の瞬間、彼女は淡い光に包まれ始めた。

「……えっ、これ……!」

カフェははっとした。

「……! ま、まさか、役目を終えたから消えるというの!?」

『……』

「そんな! やめて! 私にはあなたが必要なの! お願いいかないで! お願い!」

『……』

「どうして!? これじゃ折角勝ったのに……いや、やめて……!」

 

『ゴメン、カフェ……』

 

そして『彼女』を捕まえていたカフェは、感触を失った。

『彼女』は光に包まれながら天に昇り、蛍の様に複数の淡い光の塊となり、そして霧散、やがて小さな粒子となり、とうとう完全に消失した。花火のように。

その最期の表情は、とても穏やかなものだった。

 

「あ……ああ……あああ……そんな……」

その光景を、皆が見ていた。

そしてカフェは愕然とした表情で膝を付き、やがてめそめそと涙を零し始めた。

「どうして……、どうしてあなたは、いつも自分勝手に事を終わらせて帰ってしまうの……」

「カフェ……」

「カフェちゃん……」

 

「……こんな事なら、勝たなければよかった……」

「カフェ、それは違うよ」

「……タキオンさん」

「気配というか感覚で理解る。彼女は君に自分を越えて欲しかった。それを千秋の想いで待っていた。君は目標を達成したんだ。悲しむことはない。むしろ誇りたまえ」

「だからって……う、うう……」

 

「カフェ……」

「Playerさん……」

「…………。君たちに、一つ……昔話をしよう」

 

 

「その『馬』は生まれた頃、極めて体が貧相で脚は曲がっており、鼠色であったことから、「あんな酷い馬は見たことがない」「目にするのも不愉快だ」と散々罵られた。

気性も荒くてね、とにかく多くの人間の手を焼いた。しかも幼少時、ウイルス性の腸疾患にかかり、幾度となく生死の境を彷徨うも奇跡的に一命を取り留めた。並みの馬ならこの時点で死んでいただろう」

 

「だがいざセリに出すとその見栄えの悪さから買い手がつかず、結局牧場の経営者が所有する事になった。しかも帰りの道で運転者が心臓発作を起こし死亡。

馬運車に入っていた他の馬も死んだ。唯一、その馬だけが重傷の中生き残った。周りは彼を「死神だ」と嫌悪するようになった」

 

「しかし、そんな地獄すら生温い環境が、その馬を強く、逞しく成長させた。後に人は、「あいつはその境遇からくる怒りと憎悪を目の前の馬にぶつけることで結果を出していった」と語る。

彼は走る馬だと分かると、周囲もその評価を一変させた。負ける事もあったが、2着以内は死守し続けた」

 

「3歳になり、クラシック戦線に殴り込むと、当時稀代の良血統馬イージーゴアとの死闘を2勝1敗と勝ち越すと、その後も勝ち続け、日本で言う年度代表のエクリプス賞を受賞する。

翌年も勝ち続け、脚部不安が発覚するまで一度も3着以下にならなかった。通算成績14戦9勝2着5回。いわゆる連対率100%を記録したままレース場を去った」

 

 

「しかし、彼の伝説はそこで終わらなかった。その馬を種牡馬として買いたい、という日本人がやってきて、彼は日本にやってきた。

するとどうだろう、たちまちのうちに勝利馬、重賞勝ち馬、果てにはGⅠ勝利と活躍馬が次々に輩出され、彼の栄光に華を添えた。

種牡馬に与えられる賞ともいえるリーディングサイアーを13年連続保持した。勿論その活躍馬は国外にも存在し、世界にその馬の名は響くようになった」

 

「そして彼の血を受け継いだ馬もまた、引退後種牡馬となり、その血を後世に語り継いでいく。彼の血は文字通り日本競馬界を一変させ、その血が流れる馬は今も活躍し続けている。

彼は現役時から引退後に至るまで、一流であり続け、数々の伝説を築き、歴史に名を残す馬となった……」

 

 

「その馬の名は……『サンデーサイレンス』。世界史上、最も神に叛逆し、最も神を捻じ伏せた名馬だよ」

「サンデー……」

「……サイレンス」

 

「サンデーサイレンスの血を継いだウマ娘はこのトレセン学園にも多いよ。

サイレンススズカ、スペシャルウィーク、フジキセキ……」

「え、フジさんも!?」

ポッケが横から割って入る。

「あとはマーベラスサンデー、アドマイヤベガ、エアシャカール、ゼンノロブロイ、孫も含めればナカヤマフェスタ、ゴールドシップ、スマートファルコン、キタサンブラック、サトノダイヤモンド……」

「おいおいどれも一線級のウマ娘ばかりじゃないか。サンデーサイレンスというのは化け物かい?」

「文字通り化け物なんだよ。……そしてアグネスタキオン、マンハッタンカフェ、君たち二人もまた、サンデーサイレンスの血を受け継いできた者なんだ」

「私たちが……」

「サンデーサイレンスの血を……」

「君たち二人が凸凹コンビに見えて何故かウマが合っていたのは、その体に流れる血が同じだったからかもしれないね」

「つまり私とカフェは……」

「異母姉妹みたいなもの、ってことですか……。世間は狭いですね……」

 

「彼女がその偉大なる血を持ちながら、この世界から存在を埋没されたのは、その影響が強すぎたからなのだろう。

だから、サンデーサイレンスは『お友だち』としてカフェの前に現れ、君を導こうとしたんだ」

「…………」

 

「……それでも」

「カフェ……」

「……それでも私は、あの『娘』にいてほしかった……。ずっと傍に、傍に……!」

「カフェ……」

「カフェちゃん……」

「うう……ふええ……うぅ……」

カフェが零した涙の露が、夜の練習場の芝を少しだけ濡らした……。

 

 




サンデーサイレンスの名を出す事はこのSSシリーズの構想時点で決めてました。
運営が意図的に語る事を封じている名を使うのは、『ウマ娘 プリティダービー』を扱ううえでむしろ必須と思ったからです。
何よりもカフェが『お友だち』に勝つことは最終命題であり避けては通れない道だとも思いました。拙い表現ではありますが、ようやくここまで書けたなあと思います。
でも、カフェにとって、それは良い事だったのか……?
それはまた次回に書こうと思います。

多分あと2話です。
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