ウマ娘プリティーダービー『The Player』 作:K.T.G.Y
その代償は大切なものを失うことでした。
個人的に女の子を曇らせるのは好きです。
でも甘ったるい救いを用意してしまうのは偏に私の人情ですね。
「…………」
カフェはユキノとの相部屋で目を覚ました。
気遣いからかカーテンは閉まっているが、外は清々しいほどの晴れのようだ。
「……。私、一体、いつ部屋に戻ってきたんだろう……」
ズキッ!
「うっ……」
寝過ぎの頭痛が頭と目元に出ている。気付けば勝負服のまま寝ていたらしい。どうりで寝苦しいわけだ。体も汗でベトベトで気持ち悪い。
根性練習Lv5タイヤを引き摺ってるくらい重たい体を無理やり起こし、ふとテーブルを見る。
『カフェさんへ。
大丈夫ですか? 昨日の夜死んだような眼をしたまま戻ってきて何も言わずに倒れるように寝てしまったので心配です。
テーブルに温かいお茶を淹れておきました。目を覚ましたら飲んでください。ユキノ』
「……。ユキノさん、……有難う、ございます」
とりあえず何もしたくないのだが無理して起きることにする。
歯を磨き、薬箱から鎮痛剤を取り出し、飲む。服を脱ぎ、熱めのシャワーを浴びる。
制服に着替え、ユキノの淹れてくれたお茶をゆっくり飲んで落ち着く。
「ふう……」
お茶は美味しいが、口から洩れるのは溜息ばかり。
(……本当に、本当に……いなくなってしまったんですね……)
周囲に『みんな』の気配はあるが、あの『娘』の気配だけが綺麗さっぱり消失している。
普段なら例え近くにいなくても気配というか何かを感じ取れるのだが、念じても空気を掻き混ぜるような感覚ばかりで何も掴めない。
サンデーサイレンスは、本当に消えてしまったのだ。
「…………」
そう思うと、また泣きそうになってしまう。心にぽっかりと穴が空いたとは、まさにこの事だ。
(カフェ、大丈夫?)
(元気出シテ)
「……ごめん、みんな。今は一人にして……」
そう言うと、他の子たちの気配までなくなってしまった。
着ていた勝負服を学園内のクリーニングコーナーに出したいが、正直部屋を出たくない。
どうせ酷い顔と死んだ眼をしている。誰にも見られたくない。
結局立ってられなくなってベッドに突っ伏してしまう。
「はぁ……」
心のどこかで、今もあの娘が存在してふらりと戻ってくる事を未練がましく期待している自分がいる。それを自分で認識し、また落ち込む。スパイラルである。
目標は達成した。『お友だち』に勝つ。積年の夢だった。
そして夢は現実になった。されど現実の先にあったのは、虚無と絶望が支配する無情の世界だった。
「……。お姉ちゃん……」
ふと、口にする。悪い気はしない。そんな間柄でもよかった。
その後、3学期の始業式を終えたユキノビジンが部屋に帰ってきた。
ベッドで死んだようになっているカフェに、ユキノは言いたくないなら言わなくてもいいですけど、と前置きした後事の顛末を訪ねた。
お茶のお礼もあって、カフェは状態を起こし、ボソボソとした口調で答えた。
「……そぅですか。あの娘、いなくなっちまったんですね」
「はい……」
「うーん……うーん……でもカフェさん、あんまり悔やまんでください。きっと時が解決してくれますよ」
「そう、ですね……」
こういう時は本当に気が利くいい娘だ。その想いが痛い程に。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
3学期が始まっても、カフェは授業にも出ずに部屋に引きこもった。
正直、今は人前に出るのも精神的に辛い。単位は取ってるし、授業日数は足りてるから少しぐらい休んでもいい筈だが。
見かねた寮長ヒシアマゾンにせめて飯の時間には来いと小言を言われた。
食事量はあからさまに減った。お腹が鳴ることはあっても、もう気にならなくなった。
あまりの落ち込み様に周囲のウマ娘も気にしていたが、怖くて何があったかは尋ねられなかった。
旧理科準備室にも一度も足を運んでない。タキオンは出入りしているらしいが、自分は行く気になれない。
何よりPlayerがあの夜以来、一度も姿を現してないらしい。
使っていたトレーナー室はもぬけの殻で、人が出入りした形跡すらない。
もっとも、彼の場合ログインという形で空間からひょいっと姿を現すのだが。
つまりサンデーサイレンスの激闘を終えて以来、彼は一度もこの世界にログインしていない事になる。
見捨てられたのか? そう邪推したくなる。
いや、彼にとって「育成」が終わった以上、もはやこの世界は用済みだ。
時間軸を捻じ曲げ、また一から、真っ新の状態のアグネスタキオンとマンハッタンカフェに会いに行ったのかもしれない。
「……。もう、いいです。全てが、どうでもいい……」
このまま何処までも堕ち、朽ちていくのか……。本人もそれを覚悟していたのだが……、
救いは、あった。
それは何気ない一日の放課後、皆が練習場に集まりトレーニングを始める頃の時間帯だった。
「すいませーん、カフェさんいますかー?」
ドアがコンコンと叩かれ、カフェに似た黒髪とエクレアみたいな流星を持つボブカットのウマ娘がひょっこりと現れた。
「……何でしょう」
カフェは相変わらず死んだような眼をしていた。きちんと応対しなければと思いはするが、心と体が付いてこない。
「わたしの事覚えてます? 以前カフェさんに指導してもらった者ですけど」
「……そういえば、そんな気も……」
心当たりはある。だが、名前が思い出せない。自分はこんなにも他人に無関心だったのか、と自己嫌悪する。
「実はですね、カフェさんにどうしても会いたいって人が今練習場に来てるんですよ。それでじゃんけんに負けたわたしが呼びに行くことになってー」
「……はあ……」
「お願いします。ちょっとわたしに着いてきてくれませんか?」
「…………」
心底気の乗らない要望だった。だが後輩の願いを無下にすることもできない。カフェはこう見えて義理堅いのだ。
「……ちょっとだけですよ」
カフェは後輩に連れられて、練習場に来た。ここに来るのはあの夜サンデーサイレンスと勝負して以来だが、もう何年もここに来ていない錯覚に陥る。
「みんなー、連れてきたよー」
「…………で、お客さんとは?」
「あーカフェさん、今併走中。今向こう正面にいるのがその人」
ふと、向こう正面を見る。必死に食らい付こうとする後輩のウマ娘の一方で、悠々と走っている。
「……え? ……えっ!?」
カフェの瞳孔が開いた。見えない筈がない。そして見間違えるはずもない。
向こう正面を過ぎ、第三コーナーから凄まじいスピードとコーナリングでかっ飛ばして帰ってくる、黒い長髪と白い流星の、私服のウマ娘……。
「……サンデー……サイレンス……!」
それは間違いなく『お友だち』、サンデーサイレンスの姿だった。
『ゴール♪』
サンデーサイレンスがゴール板を通り過ぎる。
それにかなり遅れて後輩のウマ娘がやってくる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「よう、お疲れー」
「こてんぱんって感じだね」
「いやでもあれに付いていくのは正直無理でしょ」
「そんな……どうして……どうして、あの娘が……!」
カフェは震えていた。再会と戸惑い、あらゆる感情が入り混じってどう自分を表現していいのか分からない。
「ねえカフェさん、この人カフェのお姉さんなんだって?」
「アメリカにいて、カフェさんに会いに来たって。で、来るまで併走でもしようかって提案されたけど、滅茶苦茶早いの!」
「わたしたちじゃ勝負にならないよー。カフェさん、助けて~」
『やあカフェ』
サンデーサイレンスが笑顔でカフェの前に来た。
「……!!!!」
思うより早く、カフェはその娘を抱きしめていた。
「……会いたかった……! ずっと、ずっと……! もう会えないかと思った……!」
カフェはサンデーの胸に顔を埋め、気持ちを爆発させる勢いで泣きじゃくった。
『ハハハ、カフェは泣き虫だなあ。心配させてごめんね』
「で、でも……どうして……」
『うーん、話せば長くなるんだけど』
サンデーサイレンスは事の顛末をゆっくりと解説した。
実はあの夜のカフェの勝敗に関係なく、自分は消滅しかかっていたらしい。
長年カフェの傍にいたものの、耐用年数は切れかかっていて、あの夜の実体化は最後の力のふり絞りというやつで、最早自分の存在を保つ事が極めて危うい状態だった。
しかしカフェが勝ち、そしてPlayerが自分の事を解説してくれたおかげで、皆が自分の存在を「認識」し共有できるようになった。
その為実体化が許され、気が付けばアメリカのかつていた牧場の芝生の上で寝ていたそうだ。
来日が遅れたのは、偏に準備に忙しかったためであり、悪意があったわけではない、とのこと。
「うーん……分かったような分からないような……」
『まあ口で言うよりこうした方が分かりやすいかな』
「ねえ、その人本当にカフェさんのお姉さんなの?」
『そうだよ。改めまして皆さん、私はサンデーサイレンスです。以後よろしくね』
「えー!? サンデーサイレンスって、チョー有名人じゃん!」
「カフェさんのお姉さんだったの!?」
『……ほら、こんな感じ』
口にする事すら許されない筈の『名馬』の名が、皆に「認識」されている。憧れは「現実」のものとなっていた。
『あーそれでね、私が来日した理由なんだけど、カフェ、私とアメリカに来ない?』
「え……私が、アメリカに……?」
『カフェにはもっと外の世界を知ってもらいたいって思ってさ。どうかな?』
「……。すいません。即決はできかねます」
『うん、そう言うと思った。あれ以来、『彼』に会えてないんだろう?』
「どうして、それを……」
『ん、なんとなくかな。まあ、全てにけじめを付けたら会いに来て。それまで日本食を堪能しながらホテルで待ってるから』
「はい……。卒業式までには……」
カフェの顔に、ようやく笑顔が戻った。朝が来ない夜はないのだ。
(そうだ。私に残された時間は少ない。……でも最後に、……Playerさん、あなたに会いたい)
その後もサンデーサイレンスはトレセン学園に数日おきにやってきた。
学園にとっては部外者であり、本来は立ち入り禁止なのだが、たづなさんからは何故か許可が出た。レジェンド特権である。
そして正史の息子達に、気楽に会いに行ってたらしい。
「あなたといると、なんか故郷のお母ちゃんを思い出すんですよね」
『お父さんのほうだったりしてね。ハハハ』
「なンかあンたとは他人って気がしねえンだよな」
『遠い昔の親戚だったりするかもよ』
「マーベラス♪」
『マーベラス♪』
「この小説なんてどうです? 面白いですよ!」
『うん。借りてホテルで読もうかな。なあに、期限までには返すよ』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やあやあカフェ、お久しぶりだねぇ」
旧理科準備室で久々にコーヒーでも淹れようと思ってたが、嫌な顔に出くわした。
「…………」
「そんな顔をしなくてもいいじゃないか~。我々のマイファザーはあっという間に学園内の噂で持ち切りだよ」
「……タキオンさんには、関係ありません。それに、あの娘を父扱いしないでください」
「ハッハッハ! まあそんなことよりも、だ。ちょっとまずい話がある」
「……何も聞こえません」
カフェは耳を折り畳んだ。
「いやいや、君にも重要なことなのだよ。つい先程副会長がやってきてねぇ」
「エアグルーヴさんが?」
ガラッ!
「おいアグネスタキオン」
「おやおや副会長様、わざわざご足労ありがとう。実験中の薬ぐらいしかお出しできないがゆっくりしていってくれ」
「そんな暇はない。この部屋、旧理科準備室について話をしに来た」
エアグルーヴの話は一つ。おまえたちの卒業と共に私物化していたこの旧理科準備室を開放しろ、という事だ。
つまり立つ鳥跡を濁さず、綺麗さっぱり掃除しろ。物が多いなら引越し業者を呼んだっていい。とにかく真っ新な状態に戻せ、と。
「……ふぅン。エンディングが近いということか」
「どういう意味だ?」
「いやいやこっちの話だよ」
「それと後、お前たちの専属トレーナーだったあの武田文吾という男も、貴様らの卒業と共にトレーナーを辞任するそうだ」
「プレ……トレーナー君が来たのかい!? 今何処に!?」
「いや、手続きは全て書類で済ませてあって気付けば生徒会室に置かれていたそうだ。彼が使っていたトレーナー室も手続きが終わり次第、後任のトレーナーに貸し出す予定だ」
「そうか……」
「分かったらさっさとパソコンの電源を落とせ。たわけ」
「そうですか……」
「君の私物を勝手に動かすと大変な事になる。だから君にも許可を貰いたい。もっとも私は触れる気は毛頭ないが」
「……しかし、これ全部ですか」
改めて室内を見る。約三年間散らかすに散らかし、ありとあらゆる私物を置きまくった室内は、それはもう個人の手には負えない有様だった。
「Player君がいれば、指をパチンと鳴らすだけで片付いたんだがねぇ」
「……Playerさん、来ますかね?」
「来るとしても、おそらく本当に最後の最後だろうよ。彼は義理堅い男だ。挨拶一つ交わさずに消えるほど薄情ではないと思う」
「……いずれにせよ、これは私たちの手で、片付けなければならないみたいですね……」
「この部屋ともお別れ、か。そう思うと、少しセンチメンタルになるね……」
「えーと、この研究資料はこっちのバインダー。このレシピはここに挟めて、と」
「……そんな紙束になんの価値があるんですか」
「いやいや、科学者にとって将来的にいらないものであっても自身の作ったレポートというものは我が子の様なものなんだよ、カフェ」
「……理解できません」
「実家が太いと、私物を置く場所が増えていいねぇ」
「……私の家では、無理ですね。ゴミ屋敷になってしまいます」
「それら、どうするんだい?」
「一部はリサイクルセンター、一部は、……そうですね、サインでも書いてメルカリにでも出しましょうか」
「ゴミを逸品ものにするとは、考えたねぇカフェ。転売されないように価格は釣り上げるんだよ」
「……それでも駄目なら、世の為人の為、……チャリティーオークションにでも出しましょうか」
「それでは、こちらご実家の方に」
「ああ、頼んだよ。お母さまからは許可が出ている。所定の部屋に積んでおいてくれ。荷ほどきは実家の連中にやらせる」
「……結局、優勝レイとトロフィーが一番いらないゴミになりましたね」
「これを捨てたら三女神か誰かから罰が当たるだろう。しょうがないさ」
「お互い年をとっても勝負服は着れる体型でありたいですね……」
「えー、現役終えたのなら少しぐらい太ってもいいじゃないか~」
「……タキオンさんの場合、肥満以上に糖尿病が心配です」
「は~ようやく終わった!」
タキオンは何もなくなった部屋にゴロンと寝転がった。
旧理科準備室は広々とした空間に戻り、あるのは中央テーブルと二人の愛用のティーカップとマグカップ、そして茶葉と豆が少々、淹れるための簡単な器材だけとなった。
「……タキオンさん、部屋を掃除したわけではないから汚いですよ」
「いいじゃないか~。もうさすがに疲れたよ~」
「……じゃあ、終了を祝って温かいものでもいれましょうか」
「おっ、いいねぇ。たまにはカフェの淹れたコーヒーでも飲んでみようかな」
「……どういう風の吹き回しですか。……まあいいです。特別に、ですよ。苦いからといって吐かないでください」
「苦いよ~カフェ~」
タキオンのやる気が下がった。
「……だから言ったじゃないですか。無理して飲もうとした方が、悪いんです。……全部、飲んでください」
「さて……」
タキオンがカップを置く。
「いるんだろう、Player君」
「えっ……」
ヒュン!
「お見通しというわけかい、タキオン。君に冗談は通じないな」
「久しぶりだねぇ、Player君。もう随分と長い間会ってない気がするよ」
現れたのは、確かにあのPlayerだった。二人に会うのは、カフェがサンデーサイレンスと勝負したあの夜以来となる。
まるで現れるタイミングを図っていたような登場の仕方だった。
「で、今更何を話すんだい? 君の役目は終わった。最後の挨拶というのなら聞いてあげよう」
「……Playerさん」
「…………」
Playerは何も言わず、ただその場で深々と土下座をした。
「……済まなかった。あれだけ大言壮語をほざいておきながら何たる失態、何たる有様か……。
私は……君達二人を幸せにできなかった。よいエンディングに辿り着くことが出来なかった。本当に……申し訳ない」
「……ふぅン」
「結局私も、あの時ああしておけばという人間の時の性から逃れることが出来なかった。これだけ用意周到に事を張り巡らせ、万全の準備の元この世界に現れておきながら、このザマだ」
「……」
「全ては私の責任だ。本当に、本当に……済まなかった!」
「……Player君。顔を上げ給え。君は子供だと思っていたが、案外大人なんだねぇ。自分に非があると思ったのなら即座に謝れる。それは人として正しい行為だと思うよ。謝れない大人ばかりの社会で、ね」
「そうです……。Playerさん、あなたのプラン通りではなかったかもしれませんが、……私たちは私たちなりに、この結末に満足しています……」
「勘違いをしてもらっては困るな。私たちは別に100点の結果を望んでいたわけではない。君が望むのは200点の結果だろうが、そう簡単にいけば誰も苦労はしないだろう」
「……あなたは、人です。神では、ありません……。たとえ神に限りなく近くても、神にはなれないんですよ……」
「それに、謝罪というのなら、もっと他にやる事があるだろう? 私たちの幸せを考えるというのなら、ねぇ」
「…………」
「私は君のおかげで走ることが出来た。正史の先の世界を見ることが出来た。それは厳しく困難な道ではあったが、ウマ娘の無限の可能性を垣間見るには充分だった。
プランAは半ばかもしれない。でも悔いなんて何にもない。本当に幸せで充実した学園生活だった。そしてそれは、君の尽力あってのことだ」
「タキオン……」
「それに、私は見ての通り誰かの支えがなければ生活が破綻するほどのダメ人間でねぇ。引退後と言っても君が介入できる余地は幾らでもあるのだよ」
「私は、君のパートナーになれる、と……」
「ああそうさ。Player君、もう君のいない人生なんて考えられない。何処にも行くな。ずっと私の傍にいてくれ」
それはタキオンなりの真摯な願いであり、人によってはプロポーズにも聞こえるものだった。
「……タキオンさん、ビシッと決めたつもりみたいですが、顔が真っ赤ですよ」
「え、ええ!? え、そ、そうかな……?」
「……次は、私ですね」
カフェが一歩前に歩み寄る。ちなみにこの時、廊下の扉越しにサンデーサイレンスと他の子達がこっそりカフェを見守っていた。
「……Playerさん、私は当初、あなたを大変胡散臭い人だと思いました。こんな人についていったら、それこそ、地獄の始まりだと……」
「だろうね。私でもそう思う」
「……でも、『お友だち』に、サンデーサイレンスに……追い付くには、あなたの力を借りる他ないと思いました……。だから、とことん利用してやる、と……。
でも付き合っていくうちに、悪意もなく、それでいて私を導いていくあなたの姿に、特別な感情を持つようになりました……」
「カフェ……」
「……だけど、いつか別れの時が来ると思うと、こんな想いは持ってはいけないと戒めるつもりでした。でも……気付けば駄々洩れになってました……」
「言うのかい、カフェ、薄々気付いてはいたけど」
「はい……。Playerさん、あなたが……好きです」
「……」
「やっと……言えた……」
カフェは顔を赤くしながら、恥ずかしそうに横目で部屋の壁を見た。
マンハッタンカフェ、一世一代のラブコールである。
「さあPlayer君。私たちの想いの丈はぶちまけた。それに対して、男である君はどう答えるのか、聞かせてもらおうじゃあないか」
「……Playerさん」
「…………」
「…………」
「…………」
「……。気持ちだけ、受け取っておくよ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここで君たちの好意を受け止めてしまえば、この物語はウマ娘の育成からただの下世話な三流ラブコメに成り下がる」
「ふぅン」
「……」
「私は、ただ君たちに歩むべき道を歩んでほしかっただけだ。それは今も変わらない」
そう、Playerは二人に対し欲望たっぷりに接してきた。単に人が向ける欲望の向く先が違っていただけに過ぎない。
これは『ウマ娘 プリティダービー』というアプリゲーム。いつかはサービス終了と共に夢は終わり人は現実に帰っていく。
Playerの試みは真似出来るものではない。タキオン風に言わせれば究極の実験だ。それに失敗した今、自分はこの世界にいるべきではない。そう弁えている。
「君たちが夢を見たように、私もまた、いい夢を見せてもらった……。そうやってこの物語を終えたいと思う」
「…………」
「…………」
「済まない……」
「ほほぅ、で、じゃあ君は今後どうするつもりだい? それも聞かせてもらおうじゃないか」
「……。私は、『ウマ娘 プリティダービー』の世界から、引退しようと思う」
「引退……ですか」
「ああ。ゲームもアンインストールし、グッズも全て捨てる。君たちの世界には二度と介入しない。再度育成もしない。二度目はない。……それが、自分にできる最低限の禊だと思う」
「そうですか……」
「願わくば、外部からこのゲームが10年先も続き、繁栄している事を、元1ユーザーの身で祈っているよ」
「成程ねぇ……」
「…………」
「確かに、君みたいな生真面目で優等生を演じたかった者からすれば、それがケジメ案件と言えるのだろう」
「…………」
「……。でもねぇ……」
がばっ!!
次の瞬間、タキオンとカフェはウマ娘の俊敏さを生かしPlayerを押し倒した。
「……!?」
「何勘違いしてるんだいPlayer君。私たちが君ほどに便利なサンプルをハイ分かりましたと手放すとでも?」
「……意地でも私たちのものになってもらいます」
「えっ……えっ……ちょっ、ちょっと待て、タキオン! カフェ!」
「駄目だ。待たない」
タキオンとカフェはPlayerの両頬にキスをした。
「まったく君は乙女心というものが分かってないなあ。よし、カフェ、服を脱がせろ!」
「ん~……固いですね。引き千切りましょうか」
「ああもう皮膚に張り付いているようで脱がしにくい服だなあ!」
「……Playerさん、(うまぴょい)しましょう」
「ああもうまったく!」
ヒュン!
Playerは瞬間移動して二人から強引に離れた。
「あ、こらPlayer君逃げるな!」
「……また捕まえますよ」
「あのねぇ……」
「タキオン、カフェ、私は道を間違えた者だ。そんな人間に、戻ってこいと?」
「当たり前じゃないかぁ。君だって少しぐらい欲を出してくれてもいいんだよ。私たちは君を許す。だから君もここにいていいんだ」
「……Playerさん、私が本気で好きになった唯一の異性……あなたにいてもらわないと、困ります……」
「……。仕方ない。私はPlayerであり、君たちのトレーナーでもある。最後まで面倒を見ようじゃないか」
「そうこなくてはねぇ」
「……嬉しいです」
カフェはPlayerの所に歩み寄り、ハグを求めた。Playerはそれを受け入れた。
「ずっと一緒です……Playerさん」
「無論、私もだ」
やがて卒業式が行われ、二人は学園を去った。沢山の人たちの輪の中で。
これから先はアプリにはありえない、二人だけのエピローグ……。
次回でいよいよ最終回です。
もうここまできたらやりたい事書きたい事全部ぶちまけます。
下手したら今までで最長になるかもしれませんが、もう知ったことかよ。
はよ終われはよ終われと言われ続けたこのシリーズもようやく幕が引けそうです。
後書きでは愚痴と反省会を面面と書いて終わるつもりです。付き合わされる身には酷ですが、どうか最後までお付き合いください。