ウマ娘プリティーダービー『The Player』   作:K.T.G.Y

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これより超光速のプリンセスの伝説は始まります
無期限の活動休止?知らんがな


古戦場ではなくチャンミから逃げるな

「ん……」

気が付けばアグネスタキオンは四肢を鎖で拘束され、手術台のような場所にいた。

天井の照明は輝いているが、それ以外の所は黒い沁みと得体の知れない紋様で描かれている。

しかしタキオンは動じない。

「私の夢に不法侵入とは、中々興味深い被検体(モルモット)だねぇ」

どこからともなく黒い影が現れる。

その主は銀の鏃が付いた矢を手にしていた。

そしてそれを、タキオンの心の臓に突き立てる。

痛みはない。しかし常人なら恐怖で幻痛がしただろう。

肌が溶けていく。淦と碧が混ざった体液が流れる。

「さしずめ私は、拘束された吸血鬼といったところかな?」

銀の鏃が複数回、タキオンの身に突き刺さる。これは、破魔矢のつもりなのだろうか。

「私の目指す先……ウマ娘の走りの向こう側は、ただの化物である、と……」

黒き影は問いには答えない。

「ふふっ……」

タキオンはほくそ笑んだ。

「化物、大いに結構じゃあないか。好奇心なき科学者などいるか。人もウマ娘も、将来なんて闇一面のお先真っ暗だ。

私は見たいのさ、運命のその先を……それがゲームと言う箱庭の世界だろうとね」

 

むくっ。

タキオンは目が覚めた。

今日は皐月賞当日。その日に見るにはあまりに最悪で、あまりに最高で、ハイになれる夢だった。

「ふぅン。彼はPlayer君ではなさそうだねぇ。彼ならこんな回りくどい事はやらないし」

カーテンを開ける。昨日降り続いていた雨は止み、吸血鬼なら煩わしい程の快晴だった。

「私は進んで見せよう。全身に矢傷を負っても止められはしない」

心躍る冒険譚も、心焦がれる恋愛物(ロマンス)も、誰かがやらねば始まらないのだ。

 

「私は賭博(ギャンブル)はしない。遊戯(ゲーム)もしない。ただ、この欠陥だらけだった脚を持って、現実(リアル)を切り開くだけだ……!」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「出走メンバーは、ミホノブルボンを始め、ライスシャワー、マチカネタンホイザ、ジャングルポケット、スペシャルウィーク、セイウンスカイ、ゴールドシップ……。

つくづく時系列滅茶苦茶だな。まあ、ifをやるには最高の面子だな」

控室でPlayerはメンバーとパラメータを見ながら呟いた。

傍にはカフェもいる。分かってはいるとはいえ、この大舞台をただ見てるだけなのは辛いだろう。

 

「…………」

その中、アグネスタキオンは勝負服に着替え、目を閉じ、瞑想状態にあった。

(見える……見えるぞ……誰が何処をどう走るかが……まるでお天道様の視座の様に……)

 

「タキオンさん、ナイーヴになってるんでしょうか……?」

「いや、集中しているだけだ。作戦はもう頭に叩き込んである。後はそれを粛々と実行するだけだよ」

 

ガチャ!

 

「アグネスタキオンさん、時間です。レース場までお越しください」

 

「分かった。それじゃあ行ってくるよ」

「タキオンさん……、ご武運を……」

「大丈夫さカフェ、私はレースに勝つんじゃない。レースを支配してくるのさ!」

 

 

『春の日差し爽やかなここ中山レース場。いよいよクラシック三つの冠を賭けた、皐月賞の舞台が幕を開けます!』

『最も「はやい」ウマ娘が勝つという皐月賞! 成長を見せつけるのは誰になるんでしょうか?』

 

既に中山は大入り満員。場のボルテージは走る前から最高潮だ。ファンも、記者も、トレーナーも。

 

「いやー晴れて良かったな。見物するには雨は厳しいからな」

「でも見ろよ。バ場状態は『稍重』だぜ」

 

『一番人気は勿論ここまで無敗『ミホノブルボン』! 正確無比なラップタイムが彼女の持ち味です!』

『陣営も三冠を獲らせる覚悟で厳しい練習を課してきました。その夢の一冠目を手に入れる事ができるか、注目ですね!』

 

皐月賞当日、下馬表の人気順はミホノブルボンを筆頭に、ジャングルポケット、アグネスタキオンの順だった。

やはり前哨戦をしっかり勝っているウマ娘に支持が集まったといえる。

 

『さて、パドックを見てどのように見えましたでしょうか細井さん?』

『そうですね。注目のミホノブルボンなんですが、私にはちょっと追い込み過ぎのようにも見えましたね。緊張などはしてない様ですが、やや疲れているのかな、と感じました』

流石はウマ娘を見て十数年、その眼力は正しい。

そう、Player陣営も知っていたが、この時のミホノブルボンは『不調』。本来の力を発揮するには難しい状態だった。

全ては三冠を獲る為。その想いで猛練習に耐えてきたブルボンだが、体は限界に達していた。

前日もろくに休まず坂路を熟し、寮の帰宅時間ギリギリまで自分を追い込んでいたのだ。

表情こそ出さないが、状態は決してよくない。

むしろ下剋上を起こそうと燃えている下位人気のウマ娘の方が調子がいいくらいだ。

「頼むぞーミホノブルボン! 久々の無敗三冠見せてくれよー!」

「勝負服エロくて昨日ヌいちまったぜー!」

「おい貴様! ウマ娘にR-18はNGだ!」

「げげえっ!? ウマしこ警察だ!」

 

『さて、展開としてはどうなるんでしょうか?』

『んー、やはり、ミホノブルボン、セイウンスカイ、この辺りがハナの取り合いになると思うんですけどねー』

『アグネスタキオンやスペシャルウィーク辺りも先団をキープしつつのレースになるんじゃないでしょうか。ジャングルポケットは脚を溜める後方策でしょうか』

『ただ中山、という事を考えると、後方からの大捲りは厳しいかもしれませんね』

 

中山は直線が短い。そして18頭のフルゲート。序盤の位置取り争いは苛烈となる。

実力のあるウマ娘も大外枠を引き当ててしまい本来の実力を発揮できずに終わることは幾度となくあった。

 

レース前の抽選会。ミホノブルボンは逃げには有利な内枠3番を引き当てた。有力視されたウマ娘も二桁台の外枠。

唯一、アグネスタキオンだけが7番を引いている。

この時点で運も味方したと言う評価があり、ミホノブルボンに死角なしと判断した者も多かった。

 

果たして、栄光を掴むのはどのウマ娘か……。

 

 

小太りのスターターが旗を持って車に向かう。

陸上自衛隊吹奏楽部のメンバーがトランペットを構える。

車台が上がり、旗が振られ、生演奏が響き渡る。

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

そして、観客席から大きな声援が上がる。

 

『春の到来とともに今年も大きなドラマと感動が脳裏に響きます! 

勢い止まらぬ逃げウマの逃走劇か!? 新時代を告げる天才か!? それとも、積み重ねた努力が結実した者が栄光を掴むのか!?』

『クラシック戦線第一波。皐月賞。いよいよ開幕です』

『近年の皐月賞はミドルペース、あるいはスローペースになっていますが、今年はどうなるのか?』

『ペースメーカーが逃げウマだけに、久々のハイペースの予感もしますね』

 

「さてさて、どうしたものかな~」

「ついてく……ついてく……」

「なるんだ。日本一のウマ娘に」

「負けねえ!」

「皆無垢な子供のように瞳をキラキラさせているねぇ」

「……ミッションを遂行します」

 

『枠入りが始まっています』

『おや、セイウンスカイとゴールドシップが嫌がっています』

 

「いやいや大丈夫ですって。背中押さないでくださいよ~」

「えーこれどうしても入らないとダメか? 蹴り飛ばして開けてもいいか?」

 

一方タキオンは堂々と、ブルボンは冷静にゲートに入る。

(……さて、どうなることやら)

(…………)

 

『各ウマ娘、ゲートに入りました。さあ態勢完了!』

 

(…………)

(…………)

(…………)

(…………)

 

ガコン!

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

『スタートしました! 各ウマ娘綺麗なスタート。まずは先行争いは!?

やはりミホノブルボン! ミホノブルボンがハナを主張しにかかる! そして外からセイウンスカイ……いや番手に付こうとしているウマ娘がいる。アグネスタキオンだ!』

 

そう、内枠からスタートしたミホノブルボンの背後に、アグネスタキオンはピタリと付けた。

「よろしく頼むよ。一番人気君」

「……関係ありません。私は私の走りをするだけです」

 

それを見て、先手を伺っていたセイウンスカイは、

「……おやおや、これなら二人で潰し合ってくれた方がいいかな? じゃあセイちゃんは三番手辺りにつきましょうかね~」

 

一方、ライスシャワー、スペシャルウィークは中団。ジャングルポケットは更に後方、ゴールドシップは最後方を選ぶ。

大歓声を浴びながら、各ウマ娘がまずはゴール前の坂を駆けあがる。

 

『さあ先頭を行くミホノブルボンがまずは第一コーナーに向かいます。それをピタリとマークするのはアグネスタキオン』

 

「これが、作戦……ですか?」

「ああ。一応ね。タキオンの実力なら正攻法でも勝てると思うけど、念には念を、ね」

観客席にいたカフェとPlayerが呟く。

「ミホノブルボンの武器は正確無比なラップタイム。でも逃げウマというのは、尻を突かれるのは弱い。現実の『馬』でもね」

「そういうもの……ですか……」

「人もウマ娘も、楽な方楽な方に流れたがるものさ。まずは楔を打たないと」

「…………」

「ふふ……そのマーク、軽視しない方がいいよ、ミホノブルボン」

 

『さあ各一団、第二コーナーを通り過ぎ向こう正面へと入っていきます』

『中山は向こう正面も坂だらけですが、各ウマ娘どう凌ぐか』

 

「はっ……はっ……」

「ついてく……ついてく……」

 

「……。そろそろ、毒が全身に回る頃かな?」

Playerが口元を緩めた。

 

「おい、なんか、ペース速くないか?」

「え、気のせいじゃ……」

「いやそんなことない! 明らかに例年より速い!」

周囲の観客も『異変』に気付き始める。

 

「何をやっているブルボン! お前の持ち味は正確なラップタイムだろう! アグネスタキオンに惑わされるな!」

観客席にいたブルボンのトレーナーである黒沼も声を張り上げる。

だが、この位置からではブルボンの耳には届かない。

 

そう、ブルボンは戸惑っているのではない。自分はいつも通りのペースを走っていると思っている。

思えば、ブルボンはこれまで圧倒的なスピードで他を凌駕してきた。

最初から先頭に立ち、正確なラップタイムを刻み、その末脚で誰も近付けないまま勝つ。

競争するウマ娘としては最も理想とされる走りを体現してきた。

 

しかし、それは『誰も付いて来れない』ケースしか経験していなかったからにすぎない。

 

『こ、これは……1000mタイム57.7秒という超ハイペース! ミホノブルボン、掛かってしまっているのか!?』

『分かりません。ですが、この状況を作り出したのは、間違いなく背後にピッタリ付いているアグネスタキオンでしょう』

 

そもそもこの異常なタイムは、本来ならミホノブルボンが2位以下を10バ身は引き離した独走大逃げのようになっている筈。

それにタキオンがピッタリ付いてマークした結果、最後方のゴールドシップの1000m通過タイムが、

前年の皐月賞の先頭を走っていたウマ娘の1000m通過タイムとほぼ同じというとんでもないレースになっていた。

 

「な、なによこれ、脚が、全然溜められない……」

「む、むり~。もうむり~」

この凶器のハイペースにより第三コーナーに差し掛かる前から首が上がり始めるウマ娘が続出。

一人、また一人と、まるで怪我をしたかのようにずるずると後退していく。

 

「…………」

(何故です。どうして、こうなったんです……マスター……!)

そしてとうとうミホノブルボンも自身の時計の針が狂ってしまったことを自覚した。

思わず背後を振り返る。そこには、タキオンがいた。

汗だくの顔に悪魔のような笑みを浮かべながら。いや、悪魔だ。このウマ娘は悪魔だ。

体調は不調だった。もう体力が持たない。脚は痛い。全身から酸素が指の間から砂が零れ落ちるように落ちていく感触が伝わる。喉はカラカラだ。

もはやガス欠寸前。それでも走らなければならない。

(私は、なると決めたんです。三冠ウマ娘に。その覚悟は、このレースの誰よりも大きい……!)

 

『さあ第四コーナー回ってミホノブルボン直線に向かう! いよいよレースも終盤だ!』

『このとてつもない消耗戦、中山の短い直線は吉と出るか凶と出るか、目が離せません!』

 

背後の蹄鉄の足音が増えていく。生き残りを賭けたサバイバルレースを凌いだウマ娘がブルボンの背中に迫っていくのを感じる。

もはやブルボンも気力だけで走っている。そして一度先頭を譲ったら、緊張の糸は完全に切れ、もはや差し返す力はない事は分かっていた。

「はあっ! はあっ! はあっ!」

「はっ……はっ……はっ……!」

「ぜぇ~ぜぇ~ぜぇ~ゴルシちゃん限界~」

ブルボンも苦しい。他のウマ娘も苦しい。みんな苦しい。

 

『さあ先頭は変わらずミホノブルボン! まだ苦しいけど粘っている!』

『しかしここから中山には地獄の傾斜がある。果たして上り切ることができるのか!?』

 

「甘く……見ないでください。私が今までどれ程の坂路を熟してきたか!」

ブルボンが勢いのまま傾斜を駆け上がる。

「ミッション、傾斜を上がり切るを遂行。はああああっ!」

(これを登り切れば……!)

この空っぽ状態のスタミナで、この坂を上がり切るのは瞠目に価した。

しかし……、

 

ザッ……!

 

勝ちを意識した瞬間、ブルボンの緊張の糸は切れてしまった。

刹那の間、ブルボンは重心を崩した。そしてその隙を、タキオンは見逃さなかった。

「……!?」

「上がるのは得意でも、下るのは苦手みたいだねぇ」

 

「……マンハッタンカフェから貰った『登山家』、ダイワスカーレットから貰った『鍔迫り合い』、そして『直滑降』。合わせて3点盛りだ。まあこの坂で直滑降は発動条件ではないけど、ね」

Playerはこの時拳を握りしめ、勝ちを確信した。

 

『抜けた! 抜けた抜けた! アグネスタキオン先頭! アグネスタキオン先頭だ! ミホノブルボンを躱し、先頭に躍り出た!』

その脚は最後まで止まらなかった。そして差すウマ娘は、もはやターフに残っていなかった。

『アグネスタキオン今一着でゴーーーーーーーーール!! とてつもない泥仕合となった皐月賞を制しました!』

『勝ったのはアグネスタキオン! 皐月を制し、三冠の一角を手に入れました! 中山2000m、まずは道を繋ぎました! アグネスタキオンまず一冠!』

 

ワアアアアアアアアアアアアアッ!! ワアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

タキオンは声援に答えるように、長い袖の先を振り振りした。

「……皐月賞に勝つというのも、悪い気はしないねぇ」

 

 

「凄え……凄えよアグネスタキオン!」

「完全にレースを支配していた。こんなレースされたら、他のウマ娘はお手上げだ」

「先の弥生賞は手を抜いていたのか……? このレースをする為に?」

 

「ミホノブルボン殺し、これにて結実だ」

観客席のPlayerはほくそ笑んだ。

「凄かったです……」

隣のカフェも感嘆した。策士策に溺れるとは言うが、まるでそんな事はない。着差以上の完璧な勝利だった。

「インタビューが楽しみだね」

「Playerさんも求められるでしょうか……?」

「いや、多分、言いたい事はタキオンが全部言ってくれると思うよ」

 

 

「はあ……はあ……はあ……」

勝敗は決した。

一着はアグネスタキオン、二着は流石のスタミナで何とか凌ぎ切ったライスシャワー。三着は差し脚届かずのジャングルポケット。

ミホノブルボンは最後完全に撃沈し、五着入賞が精一杯となった。

逃げウマはハナを取れているうちは強いが、抜かされるとモロさを露出し、もう浮かんでは来れない。

誰もがチムレで感じた筈だ。今や逃げは最強脚質ではなくなった。要求されるステータスが増えたが故に。

「こんなレースになるなんて……」

「あーもうくそっ! 後でパフェのやけ食いでうさ晴らしだ!」

 

「はあっ……はあっ……はあっ……はあっ……うっ!」

ミホノブルボンは呼吸が整えられずその場に倒れ込んだ。

「……! ブルボンさん、大丈夫!?」

ライスシャワーが駆け寄る。

「だ、大丈夫、です……くっ!」

(全然大丈夫そうじゃないよ!)

「肩貸すから、控室行こう!」

「申し訳……ありません……」

(こんな消耗した……ううん違う、こんな落ち込んでるブルボンさん、見た事がないよ……)

 

 

そして、アグネスタキオンのインタビューの時がやってきた。

ウイニングランは断固拒否した。

優勝レイを肩に担ぎ、トロフィーを手にし、お立ち台に上がったタキオンは上機嫌だった。

『それでは、本日の皐月賞を見事制したアグネスタキオンです!』

 

ワアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

「いやはや、疲れていると応援してくれる客の声援も耳障りになって困るね」

『おそらく誰も予測しなかったレース展開でした。これは作戦ですか?』

「作戦、か……。まあ周囲にはそう見えたかもしれないが、それは誤解だ。私は体の一部を使って当たり前の事をしただけだよ」

『体の一部、ですか?』

「そう。頭だ。我々人の頭の中には脳という部位が存在する。使えば使うほど磨かれる素晴らしき器官だ。私のような体躯の持ち主を一線級に引き上げてくれるほどのねぇ」

タキオンの演説は更に続く。

「ただがむしゃらに走るなど愚の骨頂だ。ウマ娘のタイプと脚質やコース取りからレースの傾向は見えてくるものだ。それを踏まえ戦略的な展開を見据える事が肝要だ」

『あの、ええと……』

「そもそもウマ娘のレースの本質とは何か。多くの者が瞬時にそれを答えられない。何も考えずに走っては勝てない。それでは駄目だ。

皇帝を討ち、アイドルを平伏せ、天衣無縫に打ち勝ち、稲妻を砕き、空を飛ぶものに鉄槌を下す為に何をすべきか? 君は分かるかい?」

『え、ええとですね……』

「それは五感を研ぎ澄まし、勝利に直結する動きを少しでも増やす為確率の高いプレイングをあらゆる局面で行っていくというものだ。

今日のレース、17人は練習の為の練習をした。私だけがレースの為の練習をした。その差がこの結果を招いた。ただそれだけだよ」

『…………』

「以上。独演終わり。私は控室に戻る」

『え、あの、ちょっと……あ、今日のヒーロー、アグネスタキオンでしたー!』

 

「…………」

「…………」

「…………」

観客もタキオンの演説にあっけにとられて唖然呆然だった。

 

タキオンが示したもの、それはウマ娘のレースとは頭のスポーツである、という事だ。

ウマ娘のレースの世界も近代的になってはいたが、所詮才能が全て、そう考えるウマ娘が大半だった。

 

果たしてタキオンの理論は、光明か、あるいは悪魔の入り口か……。

 

 

一方、大本命とされていながら惨敗したミホノブルボンは、

「申し訳ありませんマスター、負けてしまいました」

「…………」

黒沼トレーナーはただ佇んでいた。

「全ては私の失態です。不甲斐ない結果になってしまい申し訳ありません」

ブルボンは頭を下げた。

「違う!」

しかし黒沼は声を張り上げた。

「レースは勝てばウマ娘の栄光、負ければトレーナーの責任。ただそれだけだ! そうでなければ、ウマ娘は報われねえ!」

「マスター……」

「俺が課した猛特訓におまえは一度も音を上げなかった。嫌だと一言も言わなかった。そいつが責められるいわれはどこにもねえ……どこにも、ねえんだ……!」

黒沼は控室の壁を拳で殴りつけた。

「全ては俺の責任、そう思え!」

「……。マスター、私は必ず雪辱を果たします。次のダービーで」

 

 

しかし、未来を話すならば、その時は来なかった。

ミホノブルボンは体を酷使し過ぎた反動で練習すらままならぬ状態となり、強制入院の措置が取られ、やがて人々の記憶からも忘れ去られていく……。

 

代償は、あまりにも、あまりにも……大きかったのだ。

 

その報を聞いたライスシャワーは、

「……ブルボンさん。ライス、ブルボンさんの分まで走るよ。そして、ブルボンさんが間違っていなかった事を証明するよ……!」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「おめでとう、と言っていいのかな?」

控室に戻ってきたタキオンをPlayerは出迎えた。

「……う~ん、結果だけを見れば悪くはない。検証実験と合致する点は多く、その為の準備という仕込みも盤石だった。しかし……」

タキオンは眉間に皺を寄せた。

「レースと言うのは結果じゃない。自分が満足できる過程を言うんだ。故に、まだまだ足りない部分も多かったね」

「それでいい。科学者は貪欲でなければいけない。神に叛逆し、運命を捻じ伏せてもらわなければ協力した私が困る」

「まあ有効なデータは取れた。さぁて、帰ったら早速研究に入りたい。いつまでも目先の勝利に浮かれてはいけないからね」

「タキオンさん、おめでとう……ございます……」

「どうだいカフェ。君には悪いがお先に行かせてもらったよ」

「……いずれ追いつきます。必ず」

「そうこなくては。今の私は光で君は影だ。しかし太陽はやがて沈み夜は影が主役になる。果たして最後に、どちらが輝く側になるか、競争しようじゃあないか」

「はい……」

 

ぽん!

 

「まずは労いの紅茶といこう。タキオン、召し上がれ」

「ふぅン。それもいいが、Player君、角砂糖を出してくれ」

「……?」

 

がりがりがり! ぼりぼりぼり!

 

タキオンは出された角砂糖を口に頬張り、強引に歯で噛み砕き、紅茶で流し込んだ。

(タキオンさん……疲れてるんだ……)

「ぷはーっ! うむ、生き返った。さぁて、ウイニングライブの準備をしようかな。面倒くさいが」

 

クラシックレースお馴染みのwinning the soulを熱唱し、タキオンは大きな歓声を浴びた。

そして帰宅後、理科準備室に戻り、実験を開始しようとして、すやすやと寝息を立てて寝落ちした。

 

その姿を見届け、Playerは静かに毛布を掛けてあげた。

(お疲れ様、タキオン……)

 

 




水着タキオン強いのに何故中山舞台のチャンミやLoHが最近ないんだ
誰か教えてクレア
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