ウマ娘プリティーダービー『The Player』 作:K.T.G.Y
まさかのアグネスタキオン新衣装! 誰これ!?
その感動と興奮のあまりモチベーションとアドレナリンがドバドバとダダ洩れし、
突貫工事で書き上げました。
トレセン学園に夏休みはない。
一応サマーウォークと呼ばれる夏期休暇はあれど、建前上は研修旅行。
されど人間の世界も夏の休みは甲子園しかりインターハイしかり、スポーツ関係の行事はこの時期に集中する。
学園のウマ娘もこの時期は海の見える場所で合宿が催される。力を付けるのにまたとない好機。
楽しみな者。不安な者。そしてマイペースな者……。
「青い海、白い雲、蒸せかえるような暑さと湿度、ん~、私のような繊細なウマ娘にはこたえる夏合宿になりそうだねぇ」
アグネスタキオンは海を見つめながらさてどうしたものかと頭をかいていた。
「あそこの山からは上等のベニテングダケやツキヨタケが採取できる気配を感じる。こっそりマジックマッシュルームを作っても探求心の前には障害にすら……」
「おい、アグネスタキオン」
タキオンがハイライトのない瞳をキラキラさせていると、不意に声をかけられた。
「……おや、生徒副会長。何か用かな?」
「貴様のところのトレーナーが提出した合宿のスケジュールについてなんだが、聞きたいことがある」
エアグルーヴはいつものキッとした目つきでタキオンを見つめている。
「ん~、飯、風呂、寝る、とでも書いていたのかい?」
「違う。マンハッタンカフェについてだ」
スケジュール表をパシパシと叩く。
「この合宿、マンハッタンカフェは帯同しない、という認識でいいんだな?」
そう。Playerの提出した書類にはカフェの名がない。
「まあね。カフェは先に北海道入りする。前半は私の指導を中心にし、後半は札幌で2つのオープン戦に出場する」
このサマーシーズン、全くレースが行われないわけではない。新潟、福島、函館、札幌といった地方レース場が賑わいを見せる時期でもある。
「トレーナー君によれば、カフェは遠征適性がまるでないらしい。合宿と北海道を行き来していたら体を壊してしまう、その為にこのような措置を取ったそうだ」
「そんな手段を用いて大丈夫なのか? ほったらかしというわけにはいくまい」
「ああその点に関しては抜かりはないよ。何でもとっておきの秘策があるそうだ。彼にしかできない、とかなんとか、ねぇ」
「…………」
「やあタキオン、お待たせした」
「遅いぞトレーナー君。では早速山に行ってスズメバチの巣から上等の蜂蜜と蜂の子を採取しよう。研究に使いたい」
「ついでに高く売れるカブトムシも採ろうか」
「それもいいね」
「……。おい、貴様」
エアグルーヴはPlayerをキッと睨みつける。
「おまえは、危険だ……」
「そのくらいの気骨がなければタキオンのトレーナーは務まりませんよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さて、ここでダービー以降の出来事について幕間を挟もう。
ダービーが終わって一週間後、カフェの体重はようやく下げ止まりを迎えた。
あとはじっくりと体をつくりつつ、本来の適性体重に戻すだけだ。
「やあやあめでたい。ところでカフェ、とっておきの太り薬を開発したのだが」
「……。いかにも怪しいんですが……」
「何を言う。痩せさせるのは難しいが太らせるのは簡単なんだよ。君の好きなコーヒー味にしてみた。さあ。さあ。さあ。さあ」
「……。Playerさん、試飲お願いします」
「了解」
……。……。ぼこん!
「おお、腹だけが相撲取りのようになってしまったぞ。ベルトがはちきれそうだ」
「ん~、どこで失敗したかな」
(……。もしあれを飲んだら……)
「見て、カフェさん妊娠してる!」
「相手は誰!? やっぱりトレーナーさん!?」
「キャー、スクープだわー! スキャンダルだわー!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛……」
「まだまだ改良の余地があるねぇ。次は全身を満遍なく増量させる薬に……」
「……もういいです」
「そう世の中都合よくできてないよね」
Playerはアバターの体を元に戻した。
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一方でPlayerである。
実はダービー後、マスメディアとひと悶着あったのだ。
「怒らないでくださいね? たかが少女の徒競走に夢やドラマや幻想抱くなんて、馬鹿みたいじゃないですか」
カフェが菊花賞で負けたらトレーナーを引退する宣言をした際に出たこの言葉が、メディアに悪意ある切り取られかたをされて報道、批判の声を浴びたのだ。
いつの世もマスコミなんてこんなものである。
「どうするんだいPlayer君、私は別に気にしないが、これを気にする繊細なファンも世の中には多々存在するんだよ」
「まあ予想はしていたよ。情報を食うことしかできない人間には刺激が強すぎたかな?」
「私も気にしません。毅然とした態度でいればいいかと……」
「……。でもねえ、大した力がないのに喧嘩を売ってくるとはね。これは一つお灸を据えてやろうかと思う」
「誰に逆らったのか、それを思い知らせるまたとない好機だ」
『今、武田トレーナーが学園から出てきました』
Playerは結局、申し開きという建前で報道陣に質疑応答をすることとなった。場所はトレセン学園しょうもん……正門前。
「どんなコメントするかな?」
「何とっても記事の中身は同じだろ?」
「まあな。デスクがバッシングの方向でいけって言ってたからな」
報道陣も醜悪な打ち合わせに余念がない。
「あの、トレーナーさん……」
「ああ、たづなさんは気にしないでください。大丈夫。学園の看板に傷をつけるようなことはしませんから」
そしてPlayerを報道陣が取り囲む。
『武田トレーナー、例の件ですが、本当にあなたはウマ娘のレースをただの徒競走だと思ってるんですか?』
マイクを口元に充てられる。
「……。その前に、こいつを見てください」
Playerは小脇に抱えたノートPCを開き、動画を表示する。
「私はそうは思いません。古くから、コダマ、メイズイ、タニノムーティエ、メイショウサムソン……三冠を目指し届かなかったウマ娘は多い。中にはその後精彩を欠いた走りしかできなくなった者もいる。
三冠はウマ娘にとって夢かもしれませんが、同時にウマ娘を縛る楔でもある。トレーナーのエゴに付き合わされて破滅した場合、果たしてそのウマ娘は幸福と言えるのでしょうか?」
「トレーナーにはスカウトという背景もある。ですがトレセン学園のトレーナーもピンキリです。勝てば自分の手柄、負ければウマ娘の責任。……そういう者も少なからず存在する。
取って駄目になった時どうするのか、そこまで責任が持てるのか、考えているのか。トレーナーというものはその娘の人生背負う覚悟で声をかけなければならない。私はそう考えています」
それはあの時の『全』インタビューの一部始終だった。
当然Playerにねっとり絡んできた記者の姿も映っている。
『こ、これは……!』
「まさか、私が何の用意もなく応答をすると思っていたんですか。全て録画していました。胸ポケットのペンはマイク、ネクタイピンはカメラになっていたんですよ」
『ど、どこのスパイ映画ですか……』
当然これはテレビで全国中継されている。これを見れば陰湿な記者がPlayerに対しべっとり絡んできたように見える。
「……さて、これで私の発言が悪質な切り取りであることは証明できた。……のですが、これでは私の怒りは収まらないんでね。皆様には少しお仕置きをしなきゃなりませんねえ」
「え……」
「あーそこの女性の方、須藤さんという名前の人」
「え、わ、わたしですか?」
「あなた一昨日年収1億の振興企業の若社長と6回もSEXしてシャワーも浴びずに会社に来たそうですね。臭っていると噂されてますよ。こちらが証拠の、あなたがその社長とラブホテルに入っていくところの写真です」
「!??!?!!??!?」
「次にそこの石井さんという髭の方、酔っぱらって風俗に行ってキスしかできなかった上に指名した娘に暴力ふるって出禁になったそうですね。ソープの名はムーンラビット。指名した娘の名前は沙織、ですか」
「ひゅぃぎぃ!??!!??」
「で、そこの腹をパンパンに膨らませたあなた、安倉さんですよね。大久保町の立ちんぼとSEXして淋病とクラミジア感染されたそうですね。こちらが主治医の診断表の写しです」
「んぎょぃぁっ!?!!!!??」
「あー、そこの永田さんって人は都内の女子大生と認知裁判を起こされそうになってて示談金に苦労しているそうですね。既に妻にバレてて離婚を突き付けられている、と。大変ですね」
「ぶぁぁぁぁあばぁばばぁぁぁっ!?!?」
「あとは……」
「もういい! もういいですから!!」
「おい、ここのカメラ、勿論撮ってないよな!?」
「ああ、無駄ですよ、頭上にドローンがあるでしょう? あれで今の部分はしっかり記録してネット上に生放送してますから。動画って消されても誰かがアップロードするから永遠になくならないんですよねー」
「あわわわあわわわああ……」
「皆さん私のことをなめたらいけませんよ。私は報道機関の全ての人間の一挙手一投足全てを調査してるんですから。まあ、これに懲りたら、私の敵になるような真似はしないでおいてくださいね。ふふふ……」
「…………」
「はっはっは! いやー、あれは痛快だったなー!」
「君はPlayerでありハッカー。言わばゲームにとっては開発陣の次に神の視座。君にとってはそこらのモブを調べる事なんて造作もないんだろうねぇ」
「映画やドラマ等でよくある「復讐なんて虚しいだけ」なんてセリフが出てくるがあんなのはいい子ぶったタワゴトだ。完膚なきまでの復讐ほど気分爽快、ストレス解消かつ自己の尊厳を回復させるものはない。
……そう言ったのはラーメンハゲこと芹沢達也さんだったかな」
「……あんな真似されたら、もう誰もPlayerさんを悪く言う骨のある人間はいませんよ……」
「必殺仕事人があるように、日本には復讐ものが好まれる土台が確立しているんだ。でも私は命まで取るより、苦しませて放置する方が好みだけどね」
「下品です……」
この事件があって以来、マスメディアはいつ彼に見られているかわからない、と疑心暗鬼になったという。
自業自得だろう。
そして合宿に向かうトレーナー専用のバス内。
「おい、武田さんよお」
「先の件だけど、余りにやりすぎじゃないかしら?」
沖野トレーナーとおハナさんが食って掛かる。
「……復讐とは完膚なきまでにやらないと相手に復讐され返され無間地獄になるんです。やると決めたら一片の骨も残さないくらいまでやらないと意味がありません」
「…………」
「ああちなみに、先代の理事長が作った、かつて八百長に加担していたウマ娘が記録された極秘ファイルを入手したんですけど、見ます? 拝観料は取りますけど」
「いらねえよ」
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「おお……おおお……」
カフェは函館の朝市に来ていた。
「Playerさん……、蟹です。生きた蟹が動いています……」
「うん。でもそれタラバガニじゃなくてアブラガニだね」
そして合宿の直前、マンハッタンカフェはトレーナー室に呼ばれ、今後のスケジュールについて話した。
「札幌の二つのオープン戦、ですか……」
「うん。史実のマンハッタンカフェも夏期札幌で二つのオープン戦を走って勝った。それを踏まえて、札幌日経オープンと丹頂ステークスに出てもらう。
タイムの出ない洋芝の札幌で、いずれも2600mの長距離。調整にはぴったりじゃないかな?」
「では……、合宿は前半だけで……」
「いや、7月から北海道入りしてもらう。合宿には同行させず独自の方向で行く。幸い函館レース場を貸してもらえることになった。前半はここで調整する」
「えっ……!?」
これにはカフェも驚いた。力を付けるには絶好の機会をわざとスケジュールから外すというのだ。
「だ、大丈夫です! 合宿から移動すれば……」
「いや、カフェ、君は長距離は得意だが遠征適性はない。まるでない。間違いなく戻しつつある体重が減る。だから最初から北の大地で調整する」
「…………」
「なに、合宿だけが練習ではない。最後に菊花賞に仕上げればいい」
カフェは逡巡したが、こうなったらこの男は梃子でも曲げないことは知っている。
それに言う通り体重も懸念される。ならば涼しい北海道で調整した方がいいかもしれない。
「……わかり、ました。しかしそうなるとタキオンさんはどうするんです……?」
「こうする」
パチン!
Playerが指を鳴らすと、アバターが瞬時に二体に増えた。
「「これでタキオンのお目付け役とカフェのトレーナー役の二つができあがるわけだ」」
「……器用ですね」
さて、そういった経緯で早くから北海道入りしたカフェとPlayerは慰労もかねて旅行中というわけだ。
傍から見ればデート……かもしれない。後ろの「彼ら」の皆も不安&不満そうに見つめている。
「雲丹やホタテのような貝類もいっぱいいます。さすが港町ですね……」
「タキオンのお土産は、よいとまけとロイズのチョコレートでいいかな。温泉で一服するのもいいね」
「……湯の川温泉、ですか?」
「いや、違うよ。少し離れた、市内にある大衆浴場」
「そもそも私は函館にしろ登別にしろ温泉の存在には否定的だ。連中はPRになるとは言うが、源泉の数は限られているのに近辺にホテルを建てまくっているから全てに行き渡らない。
当然沸かしたお湯を混ぜ、文字通り「水増し」しているわけだ。効能なんてたかが知れてる。家のお風呂と大して変わらない。
おまけに近辺のホテルは築数十年でとうに老朽化していて、部屋は古くて汚い上に、和室は煎餅布団で背中が痛くて眠れないしたまに南京虫も出る。お話にならないよ」
「…………」
「旅行でいい思いをしたければ、多少高くても新しいホテルに泊まるに限る。最近は開発でいいホテルがどんどん建っているしね。最も慢性的な人手不足の業界だから部屋の掃除はミスが多いけど。
新しいならビジネスホテルでも問題ない。コスパはいいし、繁華街の近くだから近辺のお店も充実している。食料と酒はコンビニで買えば全く問題ない」
「…………」
「おお、ここはいいな。市内から離れの温泉だけど浴場は広いし露天風呂にサウナ、しかもロウリュウまであるのか。うんうん。こういうしっかり金を掛けてる風呂に入りに行くべきだね。高い金を毟る温泉街の日帰り入浴とは大違いだ」
(……。め、めちゃくちゃ早口だ!)
「随分詳しいんですね……」
「私は北海道出身だ」
「……。北方領土(ボソッ」
「!!??(ピクッ」
「あ、やっぱり……北海道の人ですね……」
「スターリンてめえ……北海道を火事場泥棒しようとしたこと末代まで祟ってやるからな……!」
かくして、カフェの単独の夏合宿が始まった。
比較的、あくまで比較的涼しい北海道とはいえ、夏場は暑い。それでもトレセン学園の夏合宿よりは負担は小さいだろう。
そんな夜、カフェとPlayerは函館山にロープウェイで昇り、夜景を見た。
「綺麗ですね……」
「……昔はもっとネオンが輝いていたんだがな。寂れたものだなこの街も。100万ドルどころか精々50万だ。まあ山の上から街全てが見渡せるような街に将来性があるはずもないか……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おめでとう」
Playerはトレーナー室でタキオンに言った。
「なんだいPlayerくぅん。藪から棒に」
「君の新衣装が決まったよ。実装以来初めての事だ」
「???」
Playerは空中にモニターを映し出す。
「……『Lunatic Lab アグネスタキオン』だ。いやあめでたい」
「……。ぷれいや~く~ん、これは、水着、ではないかね?」
「そうだ。水着だ。ソーシャルゲームに衣装違いはお約束じゃないか」
「つまり、私のほかに水着で走るウマ娘がいると?」
「そうだ。他にも、ウェディング衣装、ハロウィン衣装、ダンス衣装、クリスマス衣装、正月衣装、季節ごとに衣装違いは沢山あるよ」
「……人に水着を着させてレースを走らせる……運営くんは馬鹿なのかね?」
「そう言うな。集金には通常版より性能が高い衣装違いを実装するのは育成モノとしてはかなり戦略的な試みだと思うが」
「……………」
「で、その水着衣装がこちらになります」
ぽん!
虚空から水着が登場した。ちゃんとマネキンに着せてある。
「私は着ないよ。今は、ね。夏合宿の時のレクリエーションでは可能性はあるが。……はっ! まさかぷれいや~君は私の生着替えをご所望と!? いかん、いかんぞPlayer君! それは『うまぴょい(隠語)』と同義だ!」
「何一人で興奮してるんだい?」
「……おほん。というか、私はそんな話をしにわざわざトレーナー室まで来たんじゃない」
「では、なにかな?」
「私の秋のレースについてだ」
「……。おお、おおお……」
Playerは目から赤黒い血を流して感動した。
「あの気まぐれなタキオンが、自らレースを選ぼうとするとは……これは赤飯ものだね」
「茶化さないでくれ。私のプランAは自らの脚をもって挑む道。研究と同じ、日々挑戦だよ」
「それで、選ぶレースは何を?」
「秋天」
「ほう……」
Playerは今度は青緑色の汗を流した。
「今年の秋天に出るとは、それ相応の覚悟が必要だね」
そう、今年の秋の天皇賞はシニア級大決戦。オグリキャップを筆頭に、タマモクロス、スーパークリーク、イナリワン、メジロアルダン、ヤエノムテキ、サクラチヨノオーといった面子が一堂に集結することから、史上稀にみる秋天と言われている。
ここにクラシック級ではもはや敵はいないとすら評されているタキオンが割り込めば、俄然面白くなる。
「偉大な先輩方には並走で随分世話になった。そのお礼を、私の走りで返したいんだ」
「殊勝な心掛けだね。……いいだろう。その代わり、夏合宿はビシバシスポ根で鍛えるからそのつもりで」
「分かった。では話はこれで終わり。紅茶をいれて肩を揉んでくれ」
シリアスなのは制限時間がある、いつものタキオンだった。
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かくして合宿入りしたアグネスタキオンだったが、砂浜を走り、海を遠泳する他のウマ娘の気も知らず、マイペースを保っていた。
「ふんふふ~ん♪ ふふふ~ん♪」
ビーチで練習するウマ娘をタブレット越しに観察したり、山に入って研究材料を探したり、海の家で高くて不味い料理を貪ったり……、
「ねえタキオンさんあんな調子で大丈夫なの?」
「さあ……あれを咎めないトレーナーもトレーナーよね」
「ねえ聞いた? タキオンさん菊花賞を回避する代わりに秋天に出るって」
「マジ!? 今年の秋天に!? 勝てるわけないじゃん!」
「あんな調子じゃねー……」
「キー!」
「おやおやキー君、君も練習したいのかい?」
「キーキー」
「いやいや愛らしいモルモットがまた増えたねぇ」
「アグネスタキオン……!」
「おやおやエアグルーヴ副会長、何か御用かな?」
「なんだその奇怪な生物は?」
タキオンがキー君と呼んでいるのは、小さな大根に目と口を付けたような、極めて胡散臭い生物(?)だった。
「これはキー君さ。山で見つけた研究材料を錬金術の如し技法を持って作り上げた私好みの特定外来生物……かもしれない」
「キーキー!」
キー君と呼ばれた生物はエアグルーヴに向けてニッコリ笑顔で会釈した。
「見たまえこの今にも怨裂の叫び声をあげて全ての生物を破滅に追いやろうとする愛らしい顔を! ふふふ……このようなものを生み出してしまうとは、自分の才能が怖いねぇ」
「……トレセン学園はペット禁止だ」
「ああ大丈夫。普段はホルマリンの中に漬かって保存するつもりだから。蛙と一緒さ。害はないよ」
「キーキー!」
エアグルーヴは一瞬可愛いなと思ってしまった自分を恥じた。と同時に、関わってはいけないということも悟った。
「勝手にしろ……!」
そう言って踵を返して立ち去った。
「ああ勝手にするさ。いやはや、まさか山で何気に引き抜いた草がマンドラゴラで、叫び声をあげた瞬間心臓が止まり、あやうく死にかけた所に零した薬品が突然変異を起こしこのような姿に、……とは口が裂けても言えないねえ」
「言ってるじゃないか」
「はっはっは! 九死に一生を得たリスクでこのようなものを手に入れたのは僥倖というものさ。ああ……早く学園に戻ってこの子を存分に研究したい……!」
「キーキー!」
そして夜、近所で夏祭りが始まり多くのウマ娘がそちらに行っている隙を突いて、タキオンは月は輝き星は瞬く砂浜の下にいた。
「タキオン、準備はいいかい?」
「ああ、いつでもいいよPlayer君」
念のため右を向き左を向く。誰もいない事を確認してから、タキオンは懐からある薬品を取り出し、一気に飲み干した。
「…………。ぐっ……! ぐああっ……! うぐ……ぁぁぁっ!」
タキオンが呻き声を上げる。全身の筋肉が限界突破するほど脈動し、同時に反動からくる神経への苦痛が全身を襲う。
それは毒でなし、されど栄養剤でもなし。
「大丈夫かい?」
「問題……ないさ……! さあ、トレーニングを始めよう!
「よし、じゃあ砂浜ダッシュ2400m」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
タキオンが飲み干した薬品、それはドーピングとは似て非なるもの。
全身にとてつもない負荷をかけ、自身の限界を強引に引きずり出しステータスを莫大に引き上げる荒療治。
いわばブートキャンプメガホンとアンクルを同時に使って練習するようなものである。
サイヤ人が重傷を負った後復活すると戦闘力が上がるのと同じ、と言えば分かりやすいか。
だが言うまでもなく体力消費は激しく、怪我の確率も上がる諸刃の剣でもある。
これを行う為に、タキオンは昼間はサボっているように見せて体力を温存し、夜間に練習を集中させていた。
理解っているのだ。今のままでは仕上がったシニア級のGⅠ取って当たり前とされるほどの猛者には勝てない事を。
育成期間だって一年のハンデがある。この途方もない差を埋めるためには、この夏合宿に賭けるしかない。
だが普通の育成(やりかた)では勝てない。ならばどうするか? 行きついた先がこの練習方法だった。
(全身が悲鳴を上げるような猛練習は誰にだって出来る。だがそれは彼女たちが既に通ってきた道だ。それだけでは勝てない)
(だから私はこの修羅の道を選んだ。先輩方に勝つ為に……!)
「……タキオン。君が科学者気質に見えて、根性派だということは私も分かっている。潰れないでくれよ」
Playerも七色のメガホンを片手に鼓舞する。このダッシュが終わったらタイヤ引き、そして夜の海の遠泳だ。
根性育成ではスタミナが確保できない。よって遠泳は欠かせない。
(……。頑張れ、タキオン)
こうして瞬く間に夏合宿は終わった。
タキオンは見事この猛練習を乗り切り、潜在能力の覚醒とでも言うべきステータスを一気に引き上げた。
マンハッタンカフェもまた、札幌のオープン戦に2連勝した後、菊花賞トライアルのセントライト賞に勝利、盤石の状態で菊花賞の出走権利を手にする。
そして季節は過ぎ、二人にとってもっとも長いようで短い10月を迎える。
ちなみにタキオン新衣装は80連目で出ました
その後90連目でもう一体出し女神像でとりあえず☆4に
次回のチャンミで使いたいですね
ポッケ君用の石が余ったので出たら引きに行きます