ウマ娘プリティーダービー『The Player』 作:K.T.G.Y
タキオン「ふぅン。私の出番も多そうだから楽しみだねぇ(既にキャラメルポップコーンを頬張っている)」
カフェ「……映画館は暗くて、私は好きです」
Player「もう虹結晶は貰えるんだっけ。何に使おうかな」
ダンツ「みんな楽しみなのはいいけど、マナーは守ろうね」
『暑い夏も一段落し、過ごしやすい季節になってきましたね』
『そうですね。私も今年の夏は甲子園やインターハイの取材で奔走させられました』
『さあ、人間の舞台が終わった後は、ウマ娘の舞台です』
『今日は直前に控えた中山1200mの電撃戦、スプリンターズステークスの特集です』
10月。いよいよ秋のGⅠ戦線の幕が上がろうとしていた。
アグネスタキオン、天皇賞秋に出走決定。この報は大きく扱われた。
同時にそのレースを走るウマ娘にも注目が集まる。
「オグリキャップはこれまで2度一番人気になりながら勝てていない。このジンクスは今年も健在だろう」
「ならば昨年の優勝者スーパークリークか。それともタマモクロスか」
「ヤエノムテキの仕上がりも100点の仕上がりだぞ」
「なるかアグネスタキオン、一番人気!?」
注目の争点はやはり天皇賞秋に集中していた。
いかに力があっても、クラシック級ではシニア級には適わない。この常識が天才によって覆されるのか。
「彼女とは一度走ってみたかった。楽しみだ」
心躍らせる者。
「ええで、受けてたったる。そんでボコボコにしたるわ!」
闘争心剝き出しの者。
「当然連覇を狙いますよ~」
朗らかな態度に決意を漲らせる者。
「最高の研究になりそうだねぇ」
そして、いつも通りの者。
皆が皆、目の前のレースに向けて練習を重ねていた。
注目度の高いウマ娘は並走で何度か顔を合わせており、手の内はほぼ出し尽くしている。互いが互い苦しいレースになる筈だ。
報道陣も毎日のように学園内のレース場を見つめている。他のウマ娘やトレーナーの邪魔にならない程度に。
「うーん、どのウマ娘もいいな。こりゃ当日荒れるぞ」
「おいおい、秋華賞や菊花賞もあるんだぞ。そっちもちゃんと記事書けるように調べておけ」
「その前にスプリンターズステークスだっつーの」
「……戸島さん」
「んー?」
「どうです、ベテラン記者から見て秋天は」
戸島と言われた男は、禁煙だと言うのにタバコを咥え吹かしながら剃ったばかりの顎鬚を摩った。
「100点を付けられるウマ娘はいねえな。有力なのが先団でゴリゴリ互いを牽制して消耗し合うだろうからスタミナ勝負になる。後ろに控えるやつが楽になるから、どのウマ娘にもチャンスはある」
「アグネスタキオンはどうですか?」
「んー……んー……俺はあいつ好かねえな。何というか、愛想がないんだよ。強くてもスター性がない奴は駄目だ。それを認めさせるレースを出来るのかは、興味があるがな」
「そういえば、マンハッタンカフェどうなるんですかね? 札幌入りから3連勝中。春の重賞も合わせれば4つです」
「……。そう言えば、こんな話がある」
「なんでしょう?」
「あの胡散臭そうなトレーナーだよ。札幌のオープン戦に帯同していたんだが、学園の夏合宿にも普通にいたそうだ。知り合いから聞いた」
「ええ……? ひょっとして、双子の兄弟だとか……」
「知らねぇよ。まあ俺ぁ秋天よりもマンハッタンカフェが出場する菊花賞を記事にしたいけどな」
吸い終わったタバコを灰皿に入れ、戸島は回れ右して編集部に戻っていった。
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一方でマンハッタンカフェである。
菊花賞を控えた一週間前の日曜日。つまり秋華賞の当日、休みを出されデイキャンプに行こうとしていた。
今はその電車の中。横にはユキノビジンの姿もいる。
「……あンの~、カフェさん」
「……なんでしょうユキノさん」
「菊花賞もうすぐだってのに、休んでほんどにええんですか?」
「……トレーナーさんからむしろ休めと言われてますので。秋華賞の結果はラジオで聞きましょう……」
「んん~大丈夫なんだべか。心配でぃす」
「ユキノさんが気にすることではないですよ……走るのは私なんで」
「けンども……」
カフェはかねてからユキノビジンにちょうど紅葉の季節だし何処か行きましょうと誘われていた。
そこでこの日曜日、彼女を誘って大自然の中で一緒にコーヒーを飲みましょうと提案した。
最低限の荷物だけ持ち、二人で山へ。
(誘ったのは私ンだけど、これでカフェさんが負けたらどうすんべ……)
ユキノの心中は複雑だった。
二人は山の麓の川辺に来た。
紅葉狩りもいいが、どうせなら軽く食事でもしようということになり、小さな折り畳み式のバーベキューコンロを持ってきていた。
「紅葉……綺麗でしたね」
「ええ。それじゃ、次はわたしに任せてくだせぇ」
「……では私は炭をおこしておきます」
「さぁて」
ユキノはさらさらと流れる渓流前で岩魚を狙っていた。
この近辺が禁漁区ではないことはあらかじめ調べてある。
何より秋の川魚は冬の冬眠を控え食い気が強い。だからこそ禁漁にする地域も多いのだが。
愛用の釣り竿を用意する。ユキノはルアーもフライもできるが、今日は王道の餌釣りだ。奮発して餌は筋子を用意したので釣れてくれないと困る。
「……。あのあたりだべか」
岩魚はその名の通り大きな岩の隙間を根城にして上流から流れてくる餌を狙う。言い換えれば、いない岩の間に幾ら餌を流しても意味がない。
ある人は言った。岩魚は脚で釣る、と。相手に警戒心を悟られないよう慎重に動きながら、ここ、という所に仕掛けを流す。
……ヒュッ!
後ろの木にうっかり糸を絡ませないようにしながら釣り糸を流す。
下流に流れていく糸を回収。アタリはこなかった。もう一度流す。しかし糸は反応せず。
「けンど、長年のわたしの勘があそこだって言ってるンすよなぁ」
三度目の正直。上流に向けて放った糸は、ゆっくりと流れ、狙いの大岩の間にすぅっ……と入り込む。
……。グイッ!
「きた!」
喉奥に針を飲み込ませないよう口元に針の返しを引っ掛け、ゆっくりと手繰り寄せ、網で回収する。
「うは! いきなり尺岩魚だべ! こんな大ぎかったらカフェさんも喜ぶなぁ~」
魚籠に岩魚を入れると、元気にビチビチと跳ねている。
「さぁで、もう2、3尾……」
「カフェさん、おまたぜしました」
「……お帰りなさいユキノさん。炭……火が通ったようですよ」
成型炭なので火が付くのも簡単である。凝って備長炭なんぞ持ってきた日には全然火が付かなくて大変なのだ。
「はい、腸と鱗取りました。バーベキューっぽく割り箸に刺していただきましょう。
ユキノは手慣れた手つきであっさり岩魚をさばいてしまった。後は両面焼いて塩を振れば完成だ。
「岩魚さんに悪いンで、枯れるほど釣り上げるような真似はしませンでした」
「十分です……」
「…………」
ユキノはカフェが淹れてくれたコーヒーを目の前に固まっていた。
(んンん……。"シチーガール"はブラックで飲むらしいけンど、どうすンべ……)
「どうします? ……一応砂糖もミルクも持ってきてますけど」
「……いえ、せっかくカフェさんが淹れてくれたもンだ。ブラックでいただきます!」
そうしてユキノビジンは緊張した面持ちで、コーヒーをそっと口に運んだ。
「……。……ん、んン、美味しい」
「分かりますか……!?」
「ええ、最初は苦いのにそこから香りが口いっぱいに広がって、飲み込ンだのが胃袋から香ってくるみてぇで、甘露って感じだ」
「……そうですか。それなら頑張って淹れた甲斐があります……」
「コーヒー飲むためになして登山? って思いましたけンど、これならまた来てぇな~♪」
「……気に入ってくれてよかったです。……ユキノさんが美味しいと思うなら、いつでも淹れてあげますから……」
「それじゃカフェさん、こっちもどうです? 今年の新茶の玉露なんですが」
「有難う……ございます。頂きます」
「お、そろそろ岩魚も焼けたみてぇだ。食べましょ」
「はい……」
カフェもまた、緊張した面持ちで岩魚を一齧りしたが、こんなにも川魚が美味しいとは思わなかったと舌鼓をうった。
ラジオで秋華賞が流れてきて、テイエムオーシャンが勝利したと伝えられた。
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そして、遂にマンハッタンカフェにとって初めてのGⅠである菊花賞当日を迎えた。
「…………」
控室でカフェは目を閉じ瞑想していた。泰然自若のタキオンとは違う。緊張は隠せない。
普段『みんな』に囲まれてきたカフェでもこれから先の『未来』は誰にも「見えない」。
そして傍にはタキオンとPlayerの姿もある。
「調子は絶好調。ステータスも問題なし。……だが掛かればこの長期戦不利になる。冷静さを保つように心がけるんだよ」
「…………」
カフェは答えない。
「ちょっと、ナーバスになりすぎじゃないか? テンションを上げるように指示した方がいいんじゃないかねぇ?」
「いや、大丈夫だよ。集中している証拠だ」
今日、カフェは初めて勝負服に袖を通していた。彼女のイメージカラーに合わせた『黒』の勝負服。
それがレース場で通り過ぎる様は、まるで「漆黒の幻影」のように見えるだろう。
コンコン……。
「失礼します。マンハッタンカフェさん、時間です。レース場まで」
「…………」
カフェは答えない。答えない代わりに、ゆっくりと体を起こし、ゆっくりと目を開けた。
「カフェ、君がこのレースで何を「見せ」て、何を「魅せ」るのか、観客席から拝見させてもらうよ」
「……。いってきます。みんな……」
『さあ秋のクラシック最後の冠、菊花賞、まもなくファンファーレです』
『今年はアグネスタキオンが二冠を取ったため、皐月賞ウマ娘も、ダービーウマ娘もいません』
『暑い夏が終わり、その間に力を付けたウマ娘達が、もっとも強いウマ娘が勝つといわれる菊花賞芝3000mに臨みます』
『一番人気に選ばれたのは前哨戦をきっちり勝ったマンハッタンカフェです。どうですか細江さん?』
『そうですね。走るのを控えていた春先からようやく自分のペースで走れるようになってきたという感じですね。アグネスタキオンとは正反対の脚質で頭脳的なレース運びもありませんが、それでもきっちり結果を出しているあたり、現時点ではいい状態にあると思いますね』
そんなカフェを睨みつける視線が複数。
一つはカフェとかち合う事を拒否しながら神戸新聞杯で1着を取ったライスシャワー。今日は二番人気に推されている。
(負けない……! スタミナ勝負ならライスでも分がある!)
観客席からは負けたらトレーナーが引退するという発言を信じている報道員。
(負けちまえ……負けちまえ……負けちまえ……負けちまえ……!)
そして、ゴール板前佇む、ある「お友だち」。
(…………)
そして共に走るライバル達。
それぞれの思惑が交錯する中、スターターが旗を振り、ファンファーレが鳴り、大歓声が京都レース場に響く。
「……Player君、今日の対戦相手はどんな感じだい?」
「いつも通りだよ。ライスシャワー、マヤノトップガン、マチカネフクキタル、ヒシミラクル、ナリタトップロード、菊花賞馬目白押しだ」
「……勝てそうかい?」
「今のカフェの実力なら、数合わせに過ぎないさ」
『さあ枠入りが始まっています』
『係員に背中を押され、各ウマ娘がゲートに入っていきます』
「……!?」
一人の係員が背中を押そうとした瞬間、思わず手を払った。
カフェの背中は、まるで氷のように冷たかった。それだけではない。見れば力を全く入れていない。脱力している。そして亡霊のようにゆっくり、ゆっくりとゲートに入っていく。
(なに!? この娘、なにー!?)
『さあ各ウマ娘の態勢完了しました』
(ライスは、勝つ……!)
(菊花賞は、私が取ります!)
(開運グッズのおかげでフルアーマー! 今の私は大大吉です!)
(…………すぅ……)
ガコン!
『スタートしました。各ウマ娘揃って綺麗なスタート!』
『さあ誰がどの位置に付けるか注目しましょう!』
まずはマヤノトップガンが積極的にハナを奪う。ライスシャワーは4番手。マンハッタンカフェはかなり後ろ15番手あたりか。
「んん? 少し下がり過ぎじゃないか? これじゃ追い込み策と変わらないじゃないか」
「大丈夫。控えたんじゃない。飲み込むウマ娘を増やすための後方策だよ」
『さあまずはウマ娘達が最初の淀の坂を駆け抜けます』
(やっぱり走ってみると想像以上にキツい坂だ)
(これを二回なんだから脚溜めないと途中でダウン確定だ……)
『マヤノトップガン、快調に飛ばしています』
『どうでしょうね。掛かっているのでしょうか』
「ふふ……マヤのぺースに付いてこれるウマ娘はいない。つまりチャンスなんだよね~」
互いが互いを牽制しつつ、レースは一周目ホームストレッチに入る。大歓声が走るウマ娘を後押しする。
そんな中マヤノトップガンは一切手を緩めず後続から5バ身のリード。
観客席からは一か八かの大逃げ策かという声が聞こえ始める。
だが……、
『ん、1000mタイム1:2秒5。これは、予想以上に遅い!?』
『全然飛ばしていません。むしろ2番手以下は控えすぎてどん詰まりだ!』
「……よし!」
マヤのトレーナーちゃんは策の成功を確信した。控えるウマ娘が多いことは事前の情報で分かっていた。だからこそのかっ飛ばし作戦、『逃げて控える』である。
「今日のレース、極端にキレる脚を持つ娘はいない。捕まえられるものなら捕まえてみろ!」
「んん~、これはマズくないかい」
タキオンは横のPlayerをチラ見する。しかし彼は全く動じていない。むしろ策を弄してくれて有難いとでも言いたげだ。
「策を弄してくれて有難いね」
本当に言った。
「カフェを見てごらん。もう中団まで上がってきてる。さあ、これからだ」
「うっ……なんですかこの感覚……」
「き、気持ち悪い……。控えていたはずなのに、スタミナが……」
カフェの固有スキル、「アナタヲ オイカケテ」発動。レース後半に中団から『お友達』を追って速度を少しずつ上げ前方のウマ娘をちょっと萎縮させる。
更に「リラックス」で持久力を回復し、「スタミナグリード」で前方の持久力を奪う。
狙われたものはブラックホールの如く持久力を吸われ、やがて自滅していく。
「…………」
カフェにスキルを使っているという自覚はない。だが周囲のお友だちが何かやらかしているという確信はある。
(みんな、困った子たちだね……)
二度目の淀の坂も「登山家」でバフにし、軽々と走り抜ける。じわじわと先行策を取っていたライスシャワーに迫る。
「負けない……! ライスは……ライスは……長距離で負けるわけにはいかないんだ!」
流石はスタミナお化け。このプレッシャーにも全く動じていない。
『さあレースも終盤! ハナを進んでいたマヤノトップガンが第四コーナーへと差し掛かります』
『まだかなり差があるぞ。後ろの娘たちは追いつけるのか!?』
「大丈夫だ。マヤの緩急を付けた逃げで後ろは掛かりっぱなしになっている筈。今更スパートをかけても手遅れだ」
マヤノのトレーナーはハナを突き進むマヤの勝利を信じていた。
されど、レースは往々にして上手くはいかない。
ましてやここはGⅠであり、勝負の場であり、アプリゲームである。
成程「逃げ」は強い。モブにブロックされることもない。位置取り争いもする必要もない。スタミナが枯れなければこれほど楽な脚質はない。
事実、ウマ娘初期に逃げが強かったのもそこにある。
そこに幾多の調整が入って、今がある。
そして菊花賞イベは仕上げる難易度が高いことを除けば逃げが強いのが伝統だ。
しかし最後に勝敗を分けるのは、結局ステータスとスキルの有無だ。
チャンミを見よ。LOHを見よ。UEどころかUDも現れる魔境を見よ。
それが、現実だ。無情で、冷徹で、理不尽で、不条理で、同じゲームとは思えない仕上がりを見せるどうしようもない現実があるのだ。
『さあマヤノトップガン! ハナのまま最終直線に向かう!』
「いけー! マヤノー!」
「大丈夫。ここから粘るよ! 誰もマヤの前には行かせないんだからあっ!」
『しかし泥沼を掻き分けるようにスパートを仕掛けるウマ娘がいる! ライスシャワーだ! そしてその後方にはマンハッタンカフェ!』
「ライスのスタミナを……なめるなぁぁぁぁっ!」
ライスシャワーが咆哮する。事実、その差はぐんぐん縮んでいく。
しかし、その後方にはカフェがいる。彼女が後ろにいる、それがどれだけ恐ろしいか、二人はまだ知らない。
「さあストレートだ。ノンストと垂れウマを積んだカフェの最終直線の伸びを見せてあげよう」
Playerはもうこの時点で勝ちを確信していた。
課題である終盤加速、それを積むことに成功していたのだから。
「……っ!?」
「ひっ……!」
ニ ゲ ル ナ……ニ ゲ ル ナ……!
「はあああああああああっ!!」
長距離で直線勝負とはいえ、スピード値は潤沢なのだ。そのうえ根性もある。負い比べたら今のカフェに敵はいない。
『きた! マンハッタンカフェ! マンハッタンカフェ! マンハッタンカフェだ! 抜けた抜けた! 差し切ってゴールイン!』
『直線一閃! 狙いすましたかのように差し切った! 見事1番人気に答えました!』
ワアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
着差は僅か1バ身。しかしその勝ち方は余裕たっぷりだった。
「おいおい、あそこから差すか?」
「アグネスタキオンとは全く違うけど、彼女も凄いぞ」
「好位からの一気って感じだったな。明らかにモノが違ってたな」
観客もワイワイと騒ぐ。
「ふぅ……」
カフェは汗を拭いながら大きく息を吸い、そして吐いた。
そして声援を浴びながら、観客席に向けて大きくお辞儀をした。
ゴール板前の「お友だち」は、いつの間にか姿を消していた……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『では、今日のヒーロー、マンハッタンカフェさんです!』
「…………」
報道陣に囲まれたカフェ。人込みは苦手だが、そうもいっていられない。自分の実力をこの脚で示したのだ。何も文句はない。
『最後の直線、素晴らしい伸びでしたね』
「有難う……ございます……。走る前は、タキオンさんの代役……そのような評価で、あまりいい気分ではありませんでしたが……勝ててよかったです……」
『マヤノトップガンが緩急を付けた逃げで相手を翻弄しましたが』
「何かやっている、……そんな感じはありました。自分を見失わないように心掛け、……最後に賭けました」
『初のGⅠ挑戦、どんな気持ちでレースに挑みましたか?』
「……緊張は、少なからずありました……。だけどここまできたら、その緊張を楽しむように考えました……。それなりにいい走りはできたと思います……」
カフェのインタビューは、淡々としており、それでいてボソボソと喋るので、嬉しい、という感じが全くなかった。
しかしカフェをよく知る人からすれば、
タキオン「見てみたまえ。あんなに頬を上気させて。お風呂にでも入ったのかねぇ」
Player「前髪の両側の眼をあんなにくりくりさせてるよ。やはり嬉しいんだろうね」
ユキノビジン「ぴょこっと伸びた白いところがあンなにピコピコ跳ねで、ふふっ……」
なお、ウイニングライブだが、いつも以上に見えてはいけないものが大量に映っており、編集には苦労したそうな……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…………」
激闘を終えた菊花賞の2日後、カフェは深夜の学園のレース場に来ていた。勝負服を着て。
体調に問題はない。むしろ闘争心が沸き上がるほどだ。
そして、隣には、『あの娘』の姿がある。
ここに至るまで色んな事があった。
Playerとの出会い、極端な体重減、爪割れ、復調したサマーシーズン、そして遂に手が届いたGⅠ勝利。
あの頃とは違う自分がいる。事実、力は付け、成長もした。
今ならいけるのではないか……? そんな予感がカフェの中にはあった。
そして勝負を挑み、今、彼女も快諾した。芝2000一本勝負。深夜の本気の戦い。
「…………」
「…………」
ザザッ!!
二人はまるで測ったかのように同時のスタートを切った。
ドンッ!
「……!?」
スタート直後、「お友だち」はカフェに体をぶつけてきた。
衝撃を受け、バランスを崩しそうになるカフェ。体幹を鍛えていなかったらそのまま芝に倒れていた。
(……こんな荒々しいあの娘、初めてだ……!)
彼女が、「本気」になったんだ。本気で私を倒そうとしてくれているんだ。カフェはそう思った。
それはカフェにとってなにより感謝すべきことであり、望むところであった。
レースはいつも通り「お友だち」が先手を奪う形で進む。相変わらず体が柔らかい。コーナーでまるで減速していない。
(あの背中……今まではただ見ているだけだった……ただ差を付けられるだけ……でも!)
ただ追うので精一杯だった過去を振り切り、あの娘を追い抜くという決意を持って今はマークする意識で背後にぴったり付く。
「…………」
カフェは無意識のうちに数々のスキルを発動させていた。速度、加速力、位置取り……。
それでも追い抜けてはいない。
でも疑念が確信に変わるのはいつだって無意識だ。
最後の直線、互いがスパートをかける。
『あの娘』のとてつもない、圧倒的なスパート。
しかしカフェも負けてはいない。決して離されず、虎視眈々と背中を負う。
(……ここだ!)
カフェが更にギアを上げる。
菊花賞でも見せていない二枚腰。
そして遂に、あの娘の背中に手が届く位置まで辿り着く。
「よし、抜け……!」
『…………』
くんっ!!
「えっ……!」
その時、お友だちもまた、ギアを上げた。
それもとてつもない速度だった。届きそうだった背中は、みるみるうちに闇の向こうに溶け込むように遠のいていく……。
「そんな……そん……」
カフェの無念を他所に、お友だちはゴール板を駆け抜けた。その差3から4バ身。完全にカフェの力負けだった。
そして振り返ることもなく、夜の闇へ姿を消していった……。
「……はぁ……はぁ……はぁ……っっ!!!!」
(あの娘、ずっと手加減してたんだ……! ……私が自信を失わないように、わざと手を抜いて走ってたんだ……!)
追いかけ続け、いつか超えたいという目標の存在は、今の全霊を持ってしても勝負にならないほどはるか高みにいた。
カフェは屈服するかのように芝に膝をつき、目の前の現実に向き合う余裕もなく、ただ涙を流した。
(大甘だった……! たかがGⅠを一個勝ったぐらいで、……あの娘の領域に届くなんて、無理……だったんだ……!)
拳を痛い程芝の地面に何度も叩き付ける。血が滲むどころか、血の気が引いていく感覚がカフェの全身を覆っていく。
「くそっ……! くそっ……! くそっ……! くそっ……! うっ……うううぅ……うぅ」
周囲にいた他のお友だちも、とても声を掛けられる状態にないカフェの姿に茫然としていた。
いつしか、夜の空から、カフェの涙雨が流れていた……。
ポッケ「いやー面白かったな!挫折を味わってからの復活!王道だよなー!」
タキオン「もっとも君それ以降一度もレースで勝ててないけどねぇ」
カフェ「でも……私の菊花賞の描写、少し淡泊じゃありませんか?」
Player「あとただ叫びながら走るだけというアニメ3期の問題点を踏襲してしまっているのも首を傾げるところかな」
ダンツ「私が勝つのは宝塚だから完全に引き立て役だなぁ……」
ポッケ「ま、次の特典目当てでまた見にこよーぜ」
タキオン「コナン見に来た客の方がどう見ても多かったけどねぇ」
カフェ「あ、Playerさん……。ウマ娘声優、函館に来るみたいですね……」
Player「そう。私の故郷。たまには里帰りするのもいいかな」
タキオン「よいとまけが食べたいねぇ」
ダンツ「あれは苫小牧だってば」