【ドリトライ×はだしのゲン二次創作】 心の強さと、踏まれる麦と   作:木下望太郎

18 / 18
最終話  ド級のリトライと、ド級の旅立ちと

 

 豪傑がヤクザらを薙ぎ倒し、歩み去った後。

 その背を追って駆けてきた、蒼臼は声を上げた。

「待て! 待ってくれ……大神、夕日……!」

 

 雲間から差し込んだ日の光の中、豪傑――大神夕日は立ち止まる。声に背を向けたまま。

 

 蒼臼は言った。

「あんた…あんた、いったい……」

 

 背を向けたまま、夕日はかぶりを振る。拳に目を落とした。

「俺は……罪を犯した。それを償うための旅を続けている……償い切れる罪ではないがな」

 肩を落とし、ため息をつく。

「いつもこんな荒事をしてるわけじゃないがな……それでも、俺の薄汚れた力、世の中のために振るうとしたら……こうなってしまう」

 

「なぜ」

 ぽつりと蒼臼がつぶやいた。

「なぜ、殺さなかった……あいつらを。どうせまた同じ罪を繰り返す、あいつらは」

 

 夕日はかぶりを振った。

「俺は。殺めたくないんだ、誰も。もう、誰も。……それに、どんな悪人だって罪を償う機会を奪いたくない。……俺自身そうであるように」

 

 蒼臼の方を向き、ほほ笑む。寂しげに。

「罪を犯した者でも、人生は続く……続いてしまうんだ。だから……リトライだ。そうした者なりのリトライができると、思いたいんだ」

 

 蒼臼は口を開けていた。

 そして。気づけば、足を踏み出していた。夕日の方に、歩いていた。

 ――お前はもう立ち上がってる、お前の心は歩き出したがってる――そう、青空は言っていた。

 

 夕日に向かって頭を下げた。

「私も。一緒に行かせて下さい……あなたと共に。私も……罪を犯した。多くの人を、裏切った。その罪を、償う旅に」

 

「……どうしたい」

 

「え?」

 

 夕日は真っ直ぐ、深く蒼臼の目を見た。

「どうしたいんだ、お前は。償うために」

 

 蒼臼の脳裏によぎる、あの村での想い出。村の男たちと拳法を修練した日々。

 

 うつむいた。

「彼らに……謝りたい。私が、裏切った人たちに。……今すぐには無理かもしれない、彼らがまだそこにいるのか、そうしたところで意味などあるのか、分からない、許されるはずもない。けれど……それでも、謝りたい」

 

 そこで、気づいたように目を見開き、顔を上げる。

「そうして、そうだ……彼らから教わった拳法。これを、極めたい……そして、できれば、伝えたい。他の者に、日本に、彼らの拳法を。……それが私の、リトライだ」

 

「……そうか。リトライか」

 それだけ言って夕日はうなずき、歩き出した。

 

 蒼臼もまた、歩き出す。

 

 夕日は顔を上げ、つぶやいた。

「でも、ただのリトライじゃないぞ……ド級のリトライ、ドリトライだ。……だったな、青空」

 

 

 

 

 その少し後。

 青空たち虎威組一行は広島駅のホームにいた。すでに汽車は煙突から黒い煙を吐き出し、出発の時を待っている。

 

 宿で倒れていた組員二人も動ける程度には回復していた。二人は地に額をこすりつけ、夕華や青空たちに何度も詫びていたが。夕華は早々にそれを制し、やめさせている。

今、二人は荷物番を買って出、全員分の荷物を持って先に車内にいる。

 

 ホームで、夕華が元に深く頭を下げた。

「ありがとう、元。……本当に、本当に……感謝し切れない、言葉もないよ。本当に――」

 

 元はさえぎるように手を向ける。

「よしてくれえやおばちゃん、わしが勝手にやったことじゃ。……わしはわしで、竜吉(あいつ)と向き合うこともできた……それにじゃ」

 

 足下に置いていたスケッチブックを取り、鉛筆を走らせる。

荒削りではあるが、素早く描かれていったのは。向かってくる敵の腕、そしてまるで目の前に迫りくるかのような、巨大な拳。

「絵のええ勉強になったわい! 全力で殴ってくる奴をあんだけ間近で観察する機会なんぞ、そうそうないけえのう!」

 

 横から黒崎がスケッチブックをのぞき込む。

「ほおう……大胆な構図じゃのう。ほうじゃが、遠近法はこれで()うとるんか? ほんまにこんな風に――」

 

 元が拳を振り上げる。

「なんじゃと、ほいだらおどれの目でも確かめてみんかいっ!」

 

 顔を引きつらせて身を引く黒崎。

「ムチャクチャ言うなっ! 殴られ過ぎてパーになったんか、わりゃ!」

 

 苦笑した後、夕華が言う。

「元、それに応援してくれたあんたも。……すまない、あたいらはこの地を離れるが。あんたらも極道(やつ)らに目をつけられてる可能性がある、すぐにここを去るんだ。帰り道に気をつけて、決して後をつけられないように――」

 

 隆太が口を開く。

「あ~……その心配はのう、全然いらんと思うんよ。っちゅうのも、とんでもない豪傑――」

 

 ムスビが慌ててその口を塞いだ。

「ア、アホウ! その話はお前――……いや、実はのう、わしらも心配してヤクザの様子をこっそり見とったんじゃが。『東京モンやそっちに味方した奴、応援した奴に手ぇ出すな、絶対に出すな』ちゅう話じゃったよ」

 

 嘘ではない。謎の豪傑がヤクザどもをぶちのめした後、代表の男がそう厳命していた。倒れたままのヤクザたちに、泣きながら。

 

 夕華はけげんそうに目を瞬かす。

「そう、かい……? 何にせよ、気をつけておくれ。……それに、元。礼をしてもし切れないところだが……本当に済まない、今のあたいらじゃ――」

 

 元は手を突き出してその言葉をさえぎる。

「もうその話はええわい。わしはわしの好きにしただけ――」

 

 そのとき。不意に黒岩が顔を突き出した。そのまま黙って、無表情に元たちを見下ろす。

 

 元は顔をこわばらせ、後ずさる。

「な、なんじゃ――」

 

「……虎威ジム」

 ぼそりと黒岩がつぶやく。あさっての方向に目をそらして続けた。

「……もし、東京に来たらよお。俺らの、ジムに寄れ。……そんときゃ俺が、一杯……おごってやるよ」

 

「黒岩……」

 夕華が、青空が生野が、揃って目を見開く。

 

 隆太がはやし立てた。

「やーい、黒岩の兄さんが真っ赤っかじゃ! まるでゆでダコじゃのう!」

 

「……」

 黒岩は無言のまま拳を握り鳴らし、隆太の方へと歩んだ。

 

 逃げ出す隆太と追う黒岩を横目に、青空は言った。

「本当にありがとう、元。……いや、その話はもういいんだったな」

 歯を見せて笑う。

「お前に会えて、本当に良かった。楽しかったぜ、元」

 

 元も笑った。

「おう、わしも楽しかった! 青空さんに、皆に会えて良かったわい!」

 

 二人は、どちらからとなく手を握り合った。

 

 生野が婦人服の入った包みを掲げる。

「土産までもらっちまって、悪かったな。……お前ら、元気で」

 

 ムスビがうなずき、逃げ回りながら隆太が声を上げる。

「ほうよ、皆も達者でのう! ♪さっよなっら三角、まった来って四角♪」

 

 生野が後を受けて口ずさむ。

「♪四っ角は豆腐 豆腐は白い♪ 白いは――」

 

 そのとき、汽笛が鳴った。

 

 口元に手を当て、夕華が言う。

「何やってんだい黒岩、汽車が出るよ!」

 

 隆太の首根っこを捕まえていた黒岩は、無表情のままその背を叩いた。

「……世話になったな、お前ら」

 

 そうして、虎威組全員が汽車に乗り込む。

 

 車掌の笛が鳴り、汽笛が響く。車体が揺れ、汽車が走り出す。

 車窓から身を乗り出し、青空が叫んだ。

「またな元! またなお前らー!」

 

 ホームを駆けながら元が叫ぶ。

「またの青空さーん! またの皆―! 達者でのーう!」

 

 

 

 

 ホームの端で、遠ざかる汽車を見ながら元がつぶやく。

「東京か……皆そこに帰ったら、そこでの闘いが始まるんじゃのう」

 

 黒崎が言う。

「ほうじゃな……東京か。全国から色んな奴が上京して、闘っていくんじゃろうな。拳闘だけやあない、どんな分野でも……芸術でも」

 

「芸術……色んな絵描きが集まって、闘っていく……か。わしも、行ってみたいのう。東京に」

 

 隆太が笑う。

「ほうじゃの、黒岩の兄さんにはたーっぷりとおごってもらわんといけんけぇのう!」

 

 ムスビがため息をついた。

「お前は、ほんっまに食うこととゼニのことしか頭にないのう……」

 

 元は汽車の向かっていく先を見つめ、拳を握り締める。

「青空さん……わしもいつか行くよ、東京に。世界中の人の心を揺さぶる絵描きになりに。心の強さで、あきらめずに。そんときゃきっと、世界チャンピョンの絵を描かせてくれえや」

 

 空を見上げた。どこまでも青い空を。

 

 

 

 

 青空と生野は並んで、車窓から広島の方を見ていた。

 生野がつぶやく。

「さようなら広島の街、さようなら広島の皆、か」

 

 黒岩が鼻を鳴らす。

「いつまでも浸ってんじゃねえぞ、後ろ向いてよお」

 

 夕華が言う。

「そうさね……これからがあたいらの本当の闘い。真っ当なジムとしての再出発さ」

 

 青空は唾を飲み込んだ。

「本当の、闘い……」

 プロとしての拳闘。そこにはいったい、どんな強者がいるだろうか。日本には、そして世界には。

 想像するだけで肩が重く、指先が冷たく震える。

 

 しかし、青空はかぶりを振る。笑ってみせた。

「望むところだ。俺は世界に……自分の未来に挑戦するんだ。負けるもんかよ」

 拳を握り締めた。

「負けねぇよ。踏まれても踏まれても芽を出す麦のように、強くなってやる。ここからが俺らの再出発(リトライ)――」

 

 両の拳を打ちつける。笑った。

「でもただのリトライじゃねぇぞ。ド級のリトライ、ドリトライだ」

 車窓から空を見上げた。後ろではない、前を向いて。

 

 

 

 行く先の彼方、どこまでも青い空を見上げていた。

 青空と元、強き心の男たちは。

 どちらも未だ、物語の途中。

 

 

(了)

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。