【ドリトライ×はだしのゲン二次創作】 心の強さと、踏まれる麦と   作:木下望太郎

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第二話  芸術と、踏まれる麦と

 

 中岡元は何度も何度もその言葉をつぶやきながら、砂利道を歩いていた。

 

「遠近法、遠近法、遠近法……デッサン、デッサン、デッサン、遠近法遠近法、デッサン……」

 

 中岡元には夢があった。最近のことではあるが、見つけた夢。目の前の生活のことではなく、戦争や原爆への怒りでもなく。見つけられた、生涯を賭けるべき夢。

 それは絵を描くこと。世界中の人間の魂を揺さぶる絵描きになること。

 『芸術に国境はない』その言葉が元を、その魂を揺さぶっていた。

 

 出会った画家、天野星雅(せいが)。絵の具を買えず絵を完成させられない彼に、元は縁ある絵描き――原爆の放射能を受けた後遺症で亡くなった――から託された絵の具を譲った。

 そのときに、感謝の言葉と共に聞いたのだ。『芸術に国境はない』、その言葉を。

 

 そうして今、元は下駄で砂利道を踏み締めつつ、中尾工社の屋外作業場を目指して足早に歩いていた。

 看板の製作を請け負うその会社に、縁あって元と天野星賀は勤めており――そもそもは同社で作っていた看板を元が壊してしまい、それを天野が描き直して詫びた、といった経緯だったが――、ともかくも絵の勉強を兼ねて働いている。

 

「芸術に国境はない……そうじゃ、わしは国境なんてケチな垣根を絵の力で取っ払える男になりたい。世界に平和を描き出せる絵描きになりたい」

 夢見るような熱を頬に帯びて、そうつぶやいたとき。

 水を差すように、横合いから足下に小石を投げつけられた。

 

 見れば、革のジャンパーを羽織ったチンピラ風の男が二人、道の脇に積まれた丸太に腰かけていた。

 ニタニタと笑いつつ二人の片方、帽子をかぶった男が言う。

「わりゃ、中岡元という奴か」

 

「そ、そうじゃ。それがどうしたんなら」

 戸惑いつつも元が答えると、男たちは互いに目を見合わせてほくそ笑んだ。

 

「わしに何の用があるんじゃ」

 元がそう聞く間に男たちは前に立ち塞がる。そうして、折り畳みナイフの刃を起こした。見せつけるように、大きな音を立てて。

 

 帽子の男が言う。

「用は、おどれの腕を切り落としてもらうことよ」

 

「な、何を言やぁがるこのバカタレが」

 さすがに元は顔を引きつらせ、後ずさったが。

 

「やかましい!」

 帽子の男は一喝すると共にナイフを突き出す。その刃が元の肩をかすめ、わずかに学生服を裂いた。

 

 もう一人の男がナイフを振りかぶり、元は反射的に両腕を防御の形に構えたが。

 男はぴたりとナイフを止め、代わりに蹴りを放ってきた。革靴のつま先が固く元の腹へとめり込む。

 

「げぇ……っ」

 元がうめき、エビのように身を折り曲げる間に男はナイフを打ち下ろす。刃ではなく柄を、元の後頭部へ。

 

 硬い衝撃を受けて地面に伏した元へ、さらに何度も男たちの足が踏み落とされる。革靴の硬いかかとが、何度も何度も肉に食い込む。

 

 

 ひとしきり蹴りつけた後、頭上から男たちの声が降る。

「まあ、腕はさすがに死ぬわな……指の二、三本で堪忍(かんにん)しといたらぁ」

 

「わしらぁワレに恨みはないがのぉ、ワレを恨んどる奴がおるんじゃ。恨むんならそいつを恨めや」

 帽子の男が身をかがめ、元の右手を取ろうとする。

 

 そこへ。両手両足を地面につき、元は飛び込んだ。頭から、まるで突き刺すように――しゃがんでいた男の、股間へ。

 

「ぎゃあああぁ~!? ギ、ギギギギ……」

 

 悲鳴を上げて倒れ、股間を押さえてのたうち回る男に下駄で蹴りをくれて。元は立ち上がった。

「腕だの指だのくれくれ言われてのう、ホイホイとやるアホウがおるかっ! アメでも欲しいんなら米兵(アメ)ちゃんにギブミーでもゲボミーでも言うとけっ!」

 

 もう一人のチンピラが歯を剥き、ナイフを突き出す。

「おんどれが……ようもやってくれたのう。もう容赦せん、殺っしゃげたるわい!」

 

 元は拳を構える。

「こっちのセリフじゃ……おどれらシゴウしたる、わしゃ鍛え方が違うんじゃ!」

 

 

 

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