私が幻想入り
「…何処だここ」
辺りを見まわしても一面木が生い茂っているだけで自分が何処にいるのかさっぱり見当が付かない
自分は確か外出から帰っている途中、急に足元の感覚が無くなって落ちているのは覚えている。そして次の瞬間にはここに立っていた
「…まさか神隠しってやつか?」
「そうなるとこれからどうする?仮にここで立ち止まっていても誰かが助けてくれるわけではない。さらに言うならここが何処かである以上周りの全てが敵だという可能性もある」
ブツブツと独り言を初めて自分の考えを整理しやすくする。人が周りにいる時にすると変人として見られるが、人が一人もいない時は色々言葉に出して吐き出しやすくなるから結構スッキリするんだ
「…とりあえず水場を探さなければ」
耳を澄ませて周りの音を聞き取る
風が吹き抜け、草木の揺れる音に混じって少しだけ蛙の匂いがした
「蛙…いや、この際仕方ないか」
水場に蛙がいるということは、少なくともそこが飲める水場とは限らないだろう。だが水があるということは少なくとも人が近くに住んでいるかも知れない
しばらく匂いを頼りに進んでいると、再び風が吹いて匂いが分からなくなってしまった。せっかくの手掛かりと言うのに最悪だ
再び耳を澄ませると今度は水の流れる音が聞こえてきた。どうやら水源には近づいてきている様だ
「こっちか」
水場に辿り着き、流れている水を少し触ってみる。その水はとても冷たく、直感的に飲めると理解出来る
無意識にゴクッと喉を鳴らし、手に救いあげて飲んでみる
上手いっ!これはまるでいろ〇す!
「じゃない!何で俺は飲んでるんだ!?」
「…だけど、結構旨いな」
喉がそこまで乾いていた訳では無いのに飲んでしまった。ちょっとばかりおかしなことに巻き込まれて自分でも気づかない位に焦っていたのだろうか
「さて、とりあえずはここを拠点にしばらく辺りを散策するか」
辺りを見回し、風が流れている方向を考える。そのまま風に流されるようにその場を離れた
少し足が痛む位まで歩くが、まだ木が続いている。これでは埒が明かないと思い、再び水源のある場所へと戻っていく
「クソッ。少し陽が暮れてきた」
後行動出来るのは少しだろう。夜の寒さがどれ程なのか分からないが、どうするべきか…
「…だが、ここなら大丈夫なんじゃないか?」
宛は無かった。ただ何となく大丈夫。そう思ってしまった
「い、いやいやいやいや!そんな訳あるか!しっかりしろ!」
頭をブンブンと振ってすぐに考えを捨てる。だがこれ以上行く当ても無いのも事実だ
「…木の上に張り付いて寝るか。出来るだけ落ちない様な丈夫な木が良い」
ここには木が大量にあるので何処で寝ても大丈夫だとは思う
体力を早めに温存しようと木の上に登ってそのまま張り付いて眠る。時刻で考えるならまだ午後七時にも到達していないだろうが、正直することが思いつかないので眠る事にした
「せめて目が覚めたら自宅の布団の上とか無いかなぁ…」
そして眠りにつき、夢を見た
場所は自宅。そこで炬燵に入ってのんびりとゲームをしている夢だ
懐かしさを感じる自宅。だがそこに一人の女がいた
誰かは分からない。しかし何処かで見たことがあるが、詳しい名前は全く知らない。確か夢の中で出てくるキャラクターだったのは覚えているのだが…
ドレミ―「こんにちは。私はドレミ―と申します。以後お見知りおきを」
「…夢の中で誰かと出会う事はあったけど、ここまでリアルな声が理解出来るのは初めてだ」
ドレミ―「私は夢に棲んでる者。これくらいは当然です」
「なるほど。で、何の用です?」
ドレミ―「幻想郷に迷い込んでしまった貴方を導いて欲しいとある人からお願いされまして。貴方は運が良いです」
「幻想郷って…そんなちょっと前に流行った幻想入りじゃあるまいし」
ドレミ―「あら、まるで幻想郷を知ってるかの様な言い方ですね?」
「昔ニコニコやようつべで見てたので…」
ドレミ―「…外の世界で私達の事が知られてるのですか?」
「へぇ?確かあんた等は外の世界について詳しいはずでしょう?だったら何でこっちが幻想郷の事知ってるかとか分かるんじゃないんですか?」
ドレミ―「うーん…確かに幻想郷の住民は外の世界がある事を知ってはいますが…外の世界の住民が幻想郷を知っているなんて聞いた事ありませんね」
「…ちょっと整理させてくれ」
ドレミ―「はい。私も少し紫と相談させてもらいますね」
さて、どうしたことか
可能性としては、ここが自分の知っている東方の世界では無いと言う点
例えば霊夢や魔理沙などと言った人物がまだ存在せず、東方の人気投票で上位を独占している者達がいない世界。所謂過去時代の幻想郷
もう一つは、ここは幻想郷であるが、東方projectとしてのコンテンツとして知られていない外来人達の世界に存在する幻想郷ではないか?
個人的には後者の方がありがたい。そっちなら自分の推しと言える霊夢がいるしな。あの貧乏として有名な方かは知らないが
ドレミー「お待たせしました」
「あ、お帰りなさい」
ドレミー「とりあえず相談したんですが、まぁ幻想郷だしそういう事もあるだろうと言う事で落ち着きました」
「それで良いのか…」
ドレミー「と、結構話し込んでしまいましたね」
「え?そんなに時間が経ってると思えないけど?」
ドレミー「いえ、単純に貴方のいる木の下に妖怪が闊歩しているのでちょっと目覚めた方が良いんじゃないかと」
「それを早く言って!?」
ドレミー「まぁ大丈夫ですよ。妖怪と言っても低級ですし、何なら普通の人間でも対処出来るレベルです」
「ホントだろうな…」
ドレミー「さて、そういうわけで目覚めますか?」
「あぁ。頼む」
ドレミー「それでは、良い幻想郷ライフを♪」
そういって景色が遠ざかっていく。手を振りながら遠くへと消えていくドレミーを見送りながら、ゆっくりと現実が視界の中へと入ってくる
「んっ、ふわぁ…」
まだ少し寝ぼけている目を頑張って見開きながら自分が掴まっている木の下を見る。すると子供の半分程の大きさがある蛙がこちらをジッと見つめていた
あまりの大きさとリアルな蛙臭さに思わず嘔吐しそうになってしまうが、ギリギリの所で飲み込む
蛙はジッとこちらを見つめているが、特に動く気配がない。そう思った次の瞬間には舌が伸びて自分の下にある木の枝に張り付いた
そのまま引っ張る様に舌を動かすと、それに引っ張られて木の枝が折れてしまった。それに伴って自分も木の枝と共に地面へと落下する
「うおっ!?」
「な、なんて奴だ…60kgの俺が乗ってもビクともしなかった木の枝を簡単にへし折りやがった」
おそらくこの蛙の武器は強靭な舌。それ以外は今の所不明だが、舌にさえ気を付けておけば大丈夫だろう
すぐさま武器になりそうな物を目星を付ける。先程折れた木の枝はあまりに大きすぎる事もあって武器にはなりそうにない。そうなると河原に落ちている石が主な武器となるだろう
すぎさま河原に向かって駆け出し、手の中に収まる程の小石を幾つか掴んで蛙に向かって投げつける
しかしべちべちと音を立てるだけでダメージは一切入っていない。これでは他の石を投げても無駄だろう
蛙「ゲゲッ、ゲコッ、ゲコッ」
「…気色悪い声だな」
蛙「ゲゴッ!?」
ポロっとこぼした声に反応し、少し怒っている様子を見せる蛙。どうやら人語を理解する程度には知能があるらしい
次の瞬間、蛙がこちらに向かって飛び掛かってきた。しかしそれは普通の蛙と比べて非常に遅く、人がジャンプして飛んでくる程度の速さしかなかった
しかし体積はあるのですぐさま横に転がって回避をする。蛙が地面に着地した瞬間に小石がこちらに向かって幾つか飛んできて、体にヒットしてしまった
「いっつ…!」
蛙「ゲゲッ、ゲゲッ」
まるで笑うかの様に鳴き声を上げる。それにイラっとしつつも、勝つ方法を思いついたので軽く笑みを顔に浮かべる
先程折れてしまった大きな木の枝まで走り出し、その前に立つ
「ほら、さっきみたいに潰して来いよ。このキモ蛙が」
蛙「ゲッ!?」
見るからに怒りを露わにする蛙。望み通りにしてやると言わんばかりに跳躍し、先程よりも高く飛んでこちらに向かって強襲してきた
落下位置は自分の場所だろうと予測をたて、すぐさま後ろにあった木の枝を立てかけて蛙の腹に向かって狙いすます
蛙がそれに焦り、どうにかして軌道を変えようと空中でジタバタするが変わるわけも無く、そのまま木の枝に貫通して刺さる
蛙の体液と血が混じって木の枝に滴り落ち、それでもまだジタバタと動き続ける生命力には少し驚いた
「まだ生きてるのか…」
両手で持てる程の石を見つけてそのまま振り上げる。振り下ろす先は勿論蛙で、動かなくなるまでひたすらに蛙の頭に石をぶつけた
グチャグチャと音を立てて少しずつ原型が変わっていく蛙を一心不乱に叩き、やがて痙攣さえ起こさないレベルまで叩き、ようやく安心を得たと確信を持った
「ふぅ…」
「これがゲームなら経験値が入ってレベルアップとかするんだろうが…そんな訳ないよな」
ボソッと出した非現実的で非常識な言葉。それに答えるかのように何処かで聞いたようなファンファーレが脳内に鳴った
「うおっ!?今度は何だ!?」
すると視界の下辺りに画面が出てきた。HP、KP、BPの三つの単語。そしてその横に幾つかの数字が出ていた
HP:10
KP:8
BP:30
「おぉ~、この画面は確かファミコンゲームの『ドラゴンボール強襲サイヤ人』のやつか…」
「…って、はぁっ!?」
思わず突っ込んでしまった。だがこれが突っ込まずにはいられるか
あまりに非常識な画面。非常識な脳内ファンファーレ(ドラゴンクエスト)の音
様々な事が自身の理解を越え、恐怖が自分を襲った
「落ち着け。落ち着くんだ。落ち着いて素数を数えるんだ」
何処ぞの神父がやっていた方法。意外とこれが落ち着くもので、何度か素数を数えて落ち着きを取り戻す
「…考えても仕方ない。とりあえずはまた寝るか」