非常識に生きる者   作:七福えると

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止められぬ歩み

歩み続けてから何時間経っただろうか。先程からずっと森の中を歩いているせいで時間の感覚が全く無い

 

どれだけ歩いても自分の中に塊の様な悩みのモヤがずっと存在している

 

自分の能力が制御出来ていないのは明らかだ。でなければここまで自分に優しいハズがない

 

自分から他者との交流を避けている自覚はある。もしコミュニケーションを取る時がある場合は、自分が必要だと考えた時だけ。仕事でその人と話さなければならないから話す。自分にとって他者とのコミュニケーションはこの程度のものだ

 

なのにここの住民は無条件と言っていい程に自分に優しい。優しすぎるほどに

 

霊夢に貰った御札を見る。綺麗な字で博麗と書いており、霊夢の綺麗な手先から書かれたのだと容易に想像出来る綺麗な文字

 

こんなものを貰う資格が自分にあるのだろうか?ここまでしてもらえる程に自分は良い人間だと言えるのだろうか?

 

 

「…はぁ」

 

 

これ以上考えても仕方ない。自分だけで考えている以上その答えを導き出そうという意志が自分に無い限りそれは見つからないものだ

 

今の自分は物事を悲観的に考えてしまっている。それのせいでどうしていくかではなく、ただ悪い事を考えて自分を悪く示したいとしているだけだ

 

首をボキボキと鳴らし、腕を何度も回して考えを捨てる様に勢いよく腕を回す

 

足も伸ばして股を開いて関節を鳴らし、指も握ってパキパキと子気味良い音が鳴っていく

 

気持ちを落ち着かせるルーティンを終わらせ、今度は下を向くのではなく前を見据えてしっかりと脚を踏みしめて歩み始める

 

自分はまだそこまで悩める程に大人ではない。そして何でも一人で抱え込んで解決出来る程に優れた人物でもない

 

だからこそ進むべきだ。歩みを止めることなく愚直に進み、やがて解決出来るその時まで歩くことしか出来ないんだ

 

 

「…さて、何処に行くべきだ?」

 

 

地図を開いて何処へ行くかを考えるが、一つ重要な事を見落としていた

 

 

「ここどこぉ…?」

 

 

そう。ただいま絶賛迷子中である

 

当然だ。下ばかり見て歩いてきたせいで自分の位置を把握するなんてことを一切しなかった。自分が何処を歩んでいるかなんて考えもせずに進んできたのだから当然だろう

 

とりあえず辺りを見まわたして地面に落ちている大きめの枝を手に取り、それを垂直に立てて手を離す

 

枝が自分の向いている正面の方向に倒れ、再び枝を拾って倒れた方向へと歩みを進める

 

枝の倒れた方向へしばらく進むと、前を塞ぐ様に巨大な何かが倒れている

 

それはヒグマを思わせる巨体だが、明らかに違う箇所があった

 

黒い毛皮に、トムとジェリーの犬を彷彿とさせる鋭い牙があった

 

やがて自分の視線に気づいたのか体をのっそりと起き上がらせ、こちらを振り向くと三つの目がギロッと開いて赤い瞳がこちらを睨みつける

 

窮鼠猫を噛むなんて言葉がある。これは弱者が絶体絶命の窮地に追い込まれると必死に反撃するという意味だ。この弱者というのは鼠をさしている

 

今、自分は直感的にその鼠でありたいと思っている。何故ならコイツが起き上がってこちらを振り向いた瞬間に勝てないと思ったからだ

 

脳内で警報を鳴らしている。今すぐ逃げるべきだと。だが一瞬でも目を離してしまえばその瞬間にやられてしまう気がして目の前のコイツから目が離せなかった

 

 

「…来いよ」

 

 

何故自分でもその言葉が出たのか分からない。必死に警報を鳴らしているのに、体が恐怖で震えているのに、どうしてもワクワクしている自分がいる

 

同時に丁度良い憂さ晴らしになると考えた。先程から心にしこりとなって残っているこの気持ちを清掃するにはいい相手だと思ったからだ

 

 

クマ?「Guooooo!!!」

 

「へっ。品の無い叫び声だな」

 

 

構えて相手の行動を待っている瞬間、その体格からは想像の出来ない速度で腕を振り上げ、後ろに一歩下がる事で目の前スレスレを鋭い爪が髪を掠めていった

 

クマの連撃は止まらず、バットのスイングを何倍も大きくした音でブオンと腕を振るう音が聞こえ、それを紙一重の所で何度も躱していく

 

後ろに下がって回避を続けていると、後ろに木があってぶつかってしまう

 

振りかぶった爪が振り下ろされ、横に飛んで回避しようとしたが避けきれず、足を爪が掠めてしまった

 

鮮血が足から飛び散り、激痛が足から体に伝っていく。感覚的に骨までは達していないというのが分かり、まだ軽い怪我だったのが不幸中の幸いというやつだろう

 

その様子を見て何処か笑うかのような顔をみせるクマ。それを見てイラっとしたのと同時に更に闘志が湧きあがってきた

 

 

「ホイミ、そしてバイキルト」

 

 

応急処置として先程出来た傷を治し、バイキルトをかけて力を二倍にする

 

相手の攻撃力がどれ程かは分からない。だが先程攻撃した時に木がバッキリと折れ、地面も多少抉れてしまっているのを見ると並大抵の力では無いだろう

 

 

「ヘナトス」

 

 

相手に腕を向けて攻撃力弱体化呪文を唱える。その様子にクマが気づく様子はなく、そのままこちらに向かって走ってくる

 

近づいて二足歩行で立ち上がり、上から覆いかぶさってくるが、それを正面から受け止め、そのまま押しつぶされること無く正面からクマとガッチリ押し合う

 

それにクマが驚く様子を見せた隙を見逃さず、口を開いてそこに気が集まるイメージを練る

 

すると口から少し離れた位置に黄色いエネルギーらしき物が集まっていき、綺麗な球体になるとそこからビームがクマに向かって真っ直ぐに飛んでいく

 

顔にクリーンヒットし、木を何本もへし折りながら後方へと吹っ飛んでいくクマ。今が追撃のチャンスだと思い後を追いかける

 

吹っ飛んでグッタリするクマに向かって跳躍し、落下の勢いを利用して殴りかかろうと拳を構える

 

しかしクマが顔を上げてこちらを向き、口を開いてそこから赤い炎を吐く

 

 

「フッ、フバーハ!」

 

 

ゲームの効果であるダメージ軽減の方ではなく、防御光幕呪文と呼ばれる威力のフバーハをイメージして呪文を唱えた事により、目の前で吐かれたブレスが四方に散って完全に無効化する

 

もしあのまま喰らっていればこんがりと焼き上がっていただろう。先程吹っ飛んでいったが、アイツは自分とは比べ物にならない格上だ。決して油断をしてはいけない相手だというのを再びしっかりと認識する

 

一瞬ステータスを開いて状態を確認すると、KPが15になっていた。自分のKPは蛙を倒した時にアップして75になっていた。そこからホイミ、バイキルト、ヘナトスの三つを唱えたがそれでも60近くは余っていたはず

 

おそらく40近くのKPを消費したのは確実だ。あのフバーハはホントにヤバい時の切り札だな

 

そうこう考えながら地面に着地すると、今度は自分から距離を開けた

 

そして手をクマに向けて真っ直ぐに伸ばし、手のひらから一発のエネルギー弾を顔目掛けて放つ

 

しかしクマはそれを虫を払うかのように弾いて無効化する。しかし払った腕で視界を一瞬だけ塞いでしまい、敵の姿を見失ってしまった

 

キョロキョロと敵の姿を探すクマだが、先程まで敵がいた場所に一本の長い氷の柱の様なモノが立っているのを見つける

 

その先には何があるのだろうと目を上へとやると、空から落下してきている敵を見つけた

 

それを見たクマは迎え撃とうと再び口を開いて炎を放とうと力を溜める

 

だが口を開いた瞬間、冷たい何かが口の中に入ってきて呼吸が出来なくなってしまう

 

そのせいで集中が散ってしまい、口から炎を放つ事が出来なくなってしまう

 

何とか口に入った何かを取り出そうと顔を下に向けて吐き出す

 

それは氷の塊だった。これが自分の口に入って邪魔をしていたのかと理解し、再び敵に向き直って炎を放とうと準備をするが、それよりも早く敵が足を伸ばしながら落下してきて、踵落としがクマの脳天にクリーンヒットした

 

 

クマ「Gooooo!?」

 

 

ゴシャッという音がクマの頭から聞こえ、断末魔の叫び声を上げながらドシーンと音を立てて地面へと倒れ伏す

 

ピチューンと音が鳴り、目の前からクマが消えると脳内でファンファーレが鳴り響いた

 

 

「へっ、へへっ。なんとか勝てたな」

 

 

HP:98

KP:76

BP:520

 

 

まさかのBP120も貰えるという、ボスを倒したようなBPを取得し、レベルアップして全回復したHPとKPの値が段々と減少していくのに気がついた

 

どうやらあの時口から発射した時のエネルギーが強力すぎて、自分の体から少しエネルギーが漏れている様だった。そういえば先程から少しずつ疲れて始めた気がする

 

すぐさま自分の体から力が抜けていく箇所をコルクを指すようなイメージで埋めていく。すると減少していたステータスが減少しなくなり、何とか無事に生き残れたのだと実感する

 

 

「…腹減ったなぁ」

 

 

ぐぐう~とお腹が鳴り、近くに何かないかと辺りを見回すが、戦闘の余波で凍っていたり燃えカスの葉っぱが何とか木の枝に引っ付いていたりと、中々の大惨事だった

 

効果があるか分からないが、地面に手を置いてベホマラーの呪文を唱える

 

すると自分の手を置いた場所から辺りに散布するかのように緑色の優しい光が当たりに飛び、植物に触れたと思えばゆっくりと元の形を取り戻していくのだった

 

その光景に安堵し、再び歩みを進めようとすると後ろに何かが落ちたような音が聞こえた

 

後ろを振り向くと綺麗な桃が落ちており、周りに桃の木なんかない筈なのにそこにポツンと一つ落ちていた

 

疑問を浮かべるが、そんなことを気にせずに桃を拾い、土を軽く払ってそのまま齧る

 

 

「…結構旨いな」

 

 

桃特融の甘みが口内に広がり、果実の食感がしっかりとしていて歯ごたえがある。スーパーとかなら400円くらいで売られてる位のちょっと良い桃だ

 

何故か種がある部分はご丁寧に消えており空洞が出来ていたが、まぁ天からの落ち物とでも考えよう

 

体に少し力がみなぎる様な気がしたが、先程の桃の効力だろうか?それに充足感を覚え、前を向いて今度こそ歩みを始めていく

 

どうにか人里への道を見つけ、後は地図通りに進んで行ってその日は人里の宿屋で休むことになるのだった

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