日差しが窓から部屋へと入り込み、顔に光が照らされて目が覚める
眠い目を擦りながら窓を開くと、既に人々が外で活動を開始していた。まだ朝になってからそこまで時間が経っていないと思うのだが、幻想郷の住民は皆朝が早いらしい
「…さて、そろそろ文屋の報告があれば良いんだがなぁ」
「だけどアイツに俺の場所言ってないしなぁ。分かるかねぇ…」
文屋「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン。どうも!清く正しい射命丸文ですよー!」
突如上から落ちてくるかのように文屋が姿を現した。窓から人里の景色が見える場所の部屋を取るんじゃなかったと若干後悔する位には声が五月蠅い
「良くここが分かったな」
文「博麗神社にいたからてっきりあのまま神社にいるかと思ったのに、まさかたった一人で人里まで歩く何て思わなかったですよ…おかげで霊夢さんからボコボコにされましたし、しばらく探し回ったんですからね?」
「あぁ。悪かったな。それで、情報は?」
文「ちゃんと聞いてきましたよ!異界に招かれた人に関する事!」
「お、それじゃあ早速だけど教えてくれ」
文「…うーん」
「うーん?」
文「やっぱり普通に教えても面白くないですよねぇ」
そういって不敵な笑みを浮かべる文。やはり一日放置しているのを怒っているのだろうか
「…じゃあ、何を対価に教えてくれるんですか?」
文「お、口調が優しくなりましたね。ちゃんと立場を分かっているようで関心関心」
「ぬっ…」
いけない。ちょっと朝だからといって気を抜きすぎてたな
文「条件と言うのはですね…ちょっとだけで良いから取材させて欲しいんです」
「…へ?」
文「貴方の事をパチュリーさんに話したんですよ。そしたら私達の知る外の世界とは別の外の世界から来た可能性があると言われまして」
文「ならですよ!私達の知る外の世界とはまた違う外の世界を聞くことが出来るかも知れないと思ったんです!ならばそれを取材しなければ記者として非常に勿体ないと思うんですよ!」
「お、おう。分かりましたからグイグイ近寄らないで下さい」
文「おっと。これは失礼」
そういってフヨフヨと浮かびながら窓から離れていく。正直いきなり美少女が急接近してくるのは心臓に悪い
「でも外の世界って言っても内容は阿求に教えちゃったよ?」
文「大丈夫です!それは記録として聞いただけでしょう?記者はその話を広めて誰もに認知してもらう事を目標にしていますから!」
「あぁ。つまり流行る様な事を教えろと」
文「さっすが!話が分かりますねぇ!」
「なら外の世界の記者の事でも話そうか?」
文「おぉ!外の世界の記者ですか!それは私も聞いたことが無いので是非聞いてみたいですね!」
「それじゃあね…」ニヤリ
文に自身の知っている限りのマスコミに関することを話す。勿論内容はネタにされる程に色々な扱いを受けてしまっているモノをメインに話した。そっちの方が因果応報という言葉をハッキリと実感出来るだろうとの考えだ
話しを聞いている文の顔が青い顔から暗い顔になっていき、途中で逃げ出そうとしたが、そこは能力を利用して逃げ出さないようにしておいた。逃げられなくて驚いている文は中々見ものだったな
文「も、もう分かりましたからぁ…それ以上言わないで下さい…」
「ととっ。やりすぎたか」
文「一瞬新聞記者を辞めようかと思いましたよ…」
「それは困る。お前が新聞記者でないと悲しむ人間が多い」
文「えー?そんな人いるんですかぁ?」
「…お前、それ自分で言ってて悲しくならんのか」
文「…ちょっとだけ」
「まぁお前が新聞記者じゃないと困るのは本当だ。ここは娯楽が外の世界と比べて少ない方だし、お前の薄い本が少なくなるからな」
文「…なんでしょう。薄い本が何か分かりませんが唐突にセクハラされた気分です」
「気のせいだろ」
新聞購読者を増やそうと
「さて、それじゃあ情報を教えてください」
文「えーっ!?さっきのでおしまいですかぁ!?」
「ネタは提供しましたよ?まぁ自分がネタになるわけですが」
文「いやだー!そんなネタで記者の品格を落としたくない―!」
「お前…中々酷い事言うな。中にはちゃんと良いネタだって提供したでしょう」
文「少ないですよ!9:1で悪いネタしかないじゃないですか!」
「悪事千里を走るという言葉があってですね…」
文「説明になってなーい!」
「といっても僕の知るネタって幻想郷にはない技術位しか心当たり無いんでこれくらいしかないんですよ。ここで話したとしても正直ネタになるかと言われたらうーんって感じですし」
文「うっ…」
「ほら、そういう訳ですから早く情報プリーズ」
文「…分かりました」
何処か騙されたと言わんばかりの表情だが、それでも律儀に教えてくれる辺り良い性格してくれてると思う
文から得られた情報は以下の通りだった
1.魔術で異界から何者かを呼び出すことは可能。だけど完全に別の外の世界から来たというのは、それはもう別次元であるので普通の方法では移動など出来ない
2.何かを召喚するには相応のエネルギーが必要。具体的に言うなら呼び出した者がこちらまで通れる道を作るのに使う力。穴を通れる程の大きさと、こちらに辿り着くまでの長いトンネル作りが出来る程のエネルギーが必要。これが足りなければ召喚は成功しない
3.召喚した者が力が無い者であったとしても召喚する過程で力を与える事は可能。ただしそれは魔力や筋肉といった、明らかに見て分かる能力のみに限る。私達の様な能力を与えるというのは聞いたことが無い
「………」
文「しかし、そんなに重要な事なんですか?」
「…文。ちょっと俺の目を見てくれ」
文「は、はい?」
「文、今から聞くことに正直に答えてほしい。頼む」
文「その真剣な表情…真面目な事なんですね」
「あぁ。すまないがふざけることなく答えてほしい」
文「はい。分かりました」
文の顔はキリッとした表情に切り替わる。真剣な眼差しでこちらの話す言葉を一言一句聞き逃すまいという迫力を感じる程だった
「お前は、俺の事をどう思う?」
文「…へ?」
「俺は、そんなに魅力的に見えるのだろうか?」
文「……はぁっ!?」
顔を真っ赤にし、手をブンブンと目の前で振る。その顔は恥ずかしさだけでなく、戸惑いの要素も見受けられた
「頼む文。大事な事なんだ」
文「えっ、いやっ!あのっ、えっと!いきなりそんな事を言われても心の準備があってですね…!」
「だがお前しかいない。お前じゃないと駄目なんだ」
文「はっ、えっ!?」
「お願いだ。どうか答えを聞かせてくれ。そうじゃないと俺は不安で仕方ないんだ」
文「えっ、えっと、その…!私達は出会って少ししか経ってません!まだ互いの事を殆ど知らないのにいきなり恋人になるのはちょっと怖いって言うか…!」
「…お前は何を言っているんだ」
文「…はい?」
「俺はただ自分が他人から見てどうなっているか聞きたいだけなんだけど…」
文「……あっ、なるほどぉ…」
何処か不機嫌そうな、しかし自分の羞恥心が暴走しているのか、顔を真っ赤にしながらとても怒っているように見える。その視線はしっかりと自分を向いているが、自分が何かしてしまったのだろうか?
「で、どうなんだ?」
文「…まあ、はい。悪い人では無いと思います」女たらしを除いて
「…なるほど」
文「でもどうしたんですか?そんなことを聞いて」
「いやなに。個人的な事だよ。どうしても確認したくてね」
文「おや。てっきり女性にモテたくなって質問したのかと」
「モテたいって考えたことは無かったなぁ」
文「ふむ。近い内に外来人さんの事も色々取材してみたいですね」
「幻想郷で知名度が上がるような事でも起きれば来てくれ。その時はちゃんと取材に答えてやる」
文「…言いましたね?約束ですよ?」
「あぁ。約束だ」
文『ふふふ…今度は私の番ですね…』
「何か言ったか?」
文「いえ何も。取材の約束、忘れないで下さいね」
「分かってるよ」
それではっ!と元気な声で飛び立っていく少女。そして視界から少女が消えた時、一人下を向いて考える
先程文に質問を投げかけた際、自分は嫌われていると思いながら文と会話をしていた
しかし文は何の対応も変えることなく、普通に私に接してくれた。想定では能力によって完全に嫌われているから多少は行動に変化が訪れると思っていた。しかし何も無かったのだ
もしかしたら自分の能力は常時発動しているわけではないのだろうか?だがそうなるとステータスの説明がどうしてもつかない
ステータスによって自身が強くなっているのは分かる。だがそれは能力によって生まれた力のハズだ。つまるところ、能力が常時発動していなければ自分の強くなったという感覚が何処かで必ず抜け落ちる筈だ。そうなると考えられる事は一つしかなかった
能力とステータスは別物であるということだ
そうなるとこのステータスは一体だれがくれたのだろうか?自分の予想では幻想郷自体がステータスという概念を持った世界であり、この世界の住民全員がステータスを認識しているという事になる
だがこれは人に聞いていないので不明だが、もし仮に自分だけだった場合、誰かからこのステータスの能力を貰ったという事になる
こんなことをして喜ぶ奴など全く思い当たらないし、こんなことをさせる奴の目的も分からない。全くの謎だ
だがもしこの幻想郷の住民が自分と同じステータスを持っている場合、この幻想郷自体がステータスの概念を持った世界なのだと思おう
…まぁこの後街行く人に聞いたら何言ってんだお前って顔をされたので、その考えは否定されたのだが
「さて、次は何処に行くかな」
これ以上考えても仕方ない。早いとこ次の予定を立ててもっと強くならないとな
「紅魔館はまだ危ない。だけど妖怪の山なら領域内に踏み込まなければまだ大丈夫なはず…ついでにあそこも神社があるし寄ってみるのも良いだろう」
「…ただ、危険度は下手したら紅魔館より危ないんだよなぁ。紅魔館は命の危機が目に見えて分かるが、妖怪の山はサバイバル的な意味で危険だし…」
「まぁ準備しておけば問題無いか。とりあえず買えるだけの準備はしておこう」
残金はまだ二十万程残っている。幻想入りした時から身に着けているお気に入りの汚れた赤いショルダーバッグの中に幾つかの飲み物と食料を詰め込んで出発する
…ん?そんなバッグを持ってる描写なんて一度も無かったって?
クトゥルフでは普段から身に着けている物は省略されて描写がされるんだぞ?要はそれと一緒だ
画面の向こう側にいる皆さんに説明した所で次の目的地に向かう場所へと足を向ける
明るい日が昇る午前。風に導かれる様に妖怪の山へと歩き、人里を出て森から山に差し掛かる途中で川が流れていたのでそこで一休みをする
靴と靴下を脱いで川に足を浸ける。冷たくも気持ちよい水の感触が足を通っては流れていく。まるで自分が川に置かれた一つの石となっているようだ
そうやってパチャパチャしていると喧噪が聞こえてきた。どうした事だろうと思い川から出て足をタオルで拭いたら更に声が近くなってきて、急いで先程脱いだ靴下と靴を履く
音が近づいてくる方向を警戒していると、そこから人が走って来た。しかし普通の人にしてはおかしな羽が背中から生えていた
「おい、山の天狗がここでどうしたんだ?」
烏天狗「なっ、人間!?どうしてここに…って、今は気にしてる場合じゃない!今すぐここから逃げろ!」
「は?」
何を言っているんだコイツはという顔で見つめていると、烏天狗が走って来た方向から木々をへし折る音がこちらへと近づいてくる
それを聞いてヒイッっと情けない声を出して逃げ出そうとする烏天狗の首を掴み、いざという時の肉盾として逃がすまいと襟を握って逃げられないようにする
やがて音の原因が近づいてきてそのまま待ち構えていると、巨大な蛇が姿を現した
全長は約10Mを越えているであろう体。胴体の太さだけでも自分の背丈より大きく、確実にヤバい存在だというのが理解出来た
烏天狗「ヒイィィィ!!!」
「おい、お前一体何やったんだ?」
烏天狗「は、腹が減ってだな…その、祠にお供えされていた握り飯を食べて…」
「おーい蛇。コイツ食って良いぞー」
烏天狗「やっ、やめてくれ!ていうか力強っ!?」
男の襟をがっしりと握り、蛇に向かって放り投げて男を渡す。すると蛇は器用に男の襟を的確に口で挟み、そのまま自身の体をブンブンとハンマー投げを行う選手の様に回し、男の涙が遠心力でこちらまで飛んでくる程の勢いになると、パッと襟を離されてそのまま男は空の星になっていった
おそらくこの蛇による仕置きが終わったのだろう。しかし先程の話を聞くとコイツは飯が食えていなかったとの事らしいので、人里で買っておいた竹皮で包んだ握り飯の一つを蛇に差し出す
「アイツのせいで飯食えなかったんだろ?食うか?」
それを蛇が見るとしばらく固まっており、こちらにゆっくりと近づいてきたと思えば同時に体が少しずつだが縮んでいったのを見てちょっとビックリした
握り飯の二つあった内の一つを竹皮の上に置き、自分がもう一つを手に持った
やがて握り飯とほぼ同じサイズになった蛇が握り飯の目の前まで辿り着き、それを見て自分もいただきますと言い、蛇もそれに合わせて握り飯の周りをグルっと一周したと思えば握り飯を丸呑みし始めた
自分が半分も食べない内に蛇は完全に丸呑みを終了しており、ぷっくらと蛇の体の一部が大きくなっていた
御馳走様と言わんばかりに先程置いた竹皮の周りをもう一度周り、そのまま山へと帰っていくのだった
それを見送って自分も握り飯を食べ終え、立ち上がって軽く服に着いた土を払う
目指すは山頂。まぁ途中で止められるだろうが、その時に立ち入り禁止区域でも聞いておけば良いだろう
???「待ちなさい!」
いざゆかんと脚を決めたのに、どうやら出鼻をくじかれてしまったようだ