???「ここから先は妖怪の山だ。余所者は入山を禁じられている」
そういって白い尻尾と耳を生やした女の子が現れた。手には刀のような武器と盾を持っており、さながら妖怪の山の自警団の様な人物なのだろう
「おや、妖怪の山ってのはここの事なんですか?」
???「なんだ?まさか知らんとでも言うつもりか?」
「その通り知らないんですよ。地図に従って歩いたのは良いけど、何処に何があるかだんて載ってないしね」
???「ったく。いくらなんでも幻想郷の事を知らなさすぎるぞ。ちょっと見せてみろ」
言葉に従うまま地図を差し出し、ポケットからペンを取り出して地図にカキカキと何かを書き始めている
出来たぞという声と共に地図を返してもらい、それを見るとご丁寧に山に丸く円が描かれていた。それを補足するように妖怪の山!と可愛らしくも綺麗な字で書かれていた
???「ここまでが妖怪の山だ。お前が何を思ってここに来たのかは知らないが、これ以上立ち入るんじゃない」
「なるほど。分かりました」
???「…ふふっ。話が分かる人は嫌いじゃないですよ」
そういうとさっきまであった固さが抜けた声になる。正直見た目のギャップもあって大変可愛らしい
「ところで、妖怪の山の上には神社があると聞きましたが…」
???「うん?貴方はあそこに行きたいんですか?」
「えぇまぁ。行く途中で良いトレーニングにもなりそうですし」
???「…変な人ですね。あそこに行くには守矢が作った人里から続く索道があるでしょう?」
「なん…だと…?」
???「…貴方、知らなかったんですか」
「知らなかったらここまで来てないです…」
呆れ顔を通り越して凄い可哀想な人を見る目でこっちを見てくる。正直心が痛いです
「また人里にまで戻らなきゃいけないのか…」
???「はぁ。しょうがない人ですね…」サラサラ
「すいません。詳しく教えていただきありがとうございます」
???「待って。貴方にはもう一つ聞きたい事があるの」
「なんでしょう?」
???「仕事中の烏天狗が一人持ち場を離れてね。確かこっちの方に走ってきたはずなんだけど…貴方知らない?」
「いやー!全く知らないですねぇ~!あ、僕ぅ、用事思い出したんでここらへんで失礼『ガシッ』」
ヤバい。襟をガッシリ掴まれて逃げられない。というかやっぱり妖怪という事であって力が強い
???「まぁ待ってください。ほんの少しだけ貴方に頼みがあるんです」
「あ、でも、僕っ。ホントに、その」
???「聞いてくれたらさっき飛んでいった奴にしてやった事は忘れてあげますよ?」
「やります!やらせてください!」
???「ふふっ。ちゃんと理解を示してくれて嬉しいです」
ヤバい。完全にバレてたらしい。ただアイツ見放されたって事だよな。とりあえず心の中でご臨終ですと言っておこう
???「名乗るのが遅れましたね。私は犬走椛です」
「あ、私は○○〇と言います」
椛「では早速ですがお使いをお願いしたいのです。構いませんか?」
「はい。大丈夫です」
椛「良かった。ではこれを渡しますね」
そういって椛から巻物を受け取った。大きさは片手で握れる程の大きさで、緑色の見た目をしている。なんというか、昔こういう巻物をアニメで見たぞ
椛「これをここから西に2km程移動すると白狼天狗がいます。その白狼天狗にこれを渡してください」
「…2km程度なら椛さんが移動したほうが早いのでは?」
椛「いや、今結構将棋が良いところで…」
「警備サボって将棋してんじゃねーよ!」
コイツ…割と真面目なイメージだったがサボり癖あるな。バッドステータスで正直二番目位に来てほしくない。ちなみに一番は太り気味です
椛「と、とにかく!お願いしますね!」
そういってすぐさま飛び去ってしまった。色々文句はあるがとりあえず頼まれた仕事はやっておくか
地図を見ると山の高低差までは書いていないのでどれ程の距離があるか分からないが、高低差がある以上2kmと言っても実際はもう少しあるだろう。空が飛べるんだったらまた別だろうが
ここの見張りは良いのかと思ったが、確か椛は千里先まで見通す程度の能力だったはずだ。おそらく司令塔のような立場にいると考えるならば少しくらい持ち場を離れても良いだろう
とりあえず地図で指定された場所まで歩くことにした。道すがらで妖怪にでも出くわすことが出来れば良いんだが…
「はぁ~。しかし安請け合いして良かったのかなぁ。妖怪の山を見張る理由は良く知らないけど、自警団がいる以上かなり重要なんじゃないの?」
「それを部外者に頼むとか…セキュリティ大丈夫なのか?人材不足にも程があるぞ」
誰かがいるわけでもない。だが一人でいることが多い以上、こういう独り言が増えるのは仕方のない事なのだ。誰だって一人は寂しいからね
「しかし…ここの土は結構良いな。山の土は結構種類があったハズだが、ここのはサラサラしてるのにしっかりと足踏みが効くし、斜面なのに滑りづらい。ホントに不思議としか言いようがないな」
「栽培マンでも植えてみるか?いや、種も何もないから出現するわけないんだけど…」
一人でいたのが長すぎたのだろうか。自分が少しでも考えた事をポロポロと口からこぼしてしまう。それが能力のトリガーになってしまうと気づいたのは、丁度言い終えた時だった
???「ギギッ!」
「お、おいおい…マジか?」
木の後ろから一体の小さな緑色の化け物の姿が見えた。それは三本の爪に頭が割れそうな形をしている。先ほど独り言で言っていた正に栽培マンそのものだ
栽培マン「ギギーッ!」
「クソッ!格上にもほどがあるぞ!」
視界から栽培マンが消え、どこへ行ったか探す前に後ろへ跳躍してその場を離れる
飛びのいた瞬間、先ほど立っていた位置に栽培マンが地面に手をめり込ませており、円形に地面が凹んでいた。あのままあそこにいたら頭からつぶれていただろうと容易に想像が出来る
地面を殴った衝撃で土や石が自分の顔をいくつも掠め、頬からはヒリヒリとした痛みと冷たい水の様な物が伝っている
速度は確実にコイツの方が上。パワーだってあの時戦った熊より上だ
栽培マンは今の自分にとっては完全に格上だ。BPだけで見るなら二倍以上の差がある(栽培マンのBPは1200。こちらのBPは520)
だが以前熊と戦闘したときに分かった時がある。それは格上だと獲得出来るBPが倍加するという事だ
熊は確かに強敵で勝てないと感じさせる程の強さを感じたが、それでもコイツ程の脅威は感じなかった。だが入手したBPは120という、ボス敵を倒した時の量だった
おそらくアレはあの時の自分と比べて圧倒的に強者だったからだろう。初めの蛙も25なんて馬鹿げた数値だったが、元々入手出来るBPの何倍も増えていたと考えれる。ここに来た時はホントに雑魚だった訳だし
何をもって強者とするか。そして何を持って自分が不利であるとシステムが判断を下すのか。分からない事が多すぎるが、それでも大きな期待が一つ心にあった
コイツを倒したら、俺は一体どれ程のBPを入手出来るんだ…?
「…ふっ」
栽培マン「ギギッ?」
「さっさとやるぞ。経験値」
栽培マン「…ギギッ」
まるで舐めているのかと言っている様な雰囲気で怒る経験値袋。確かにお前は格上なのだろうが、倒したら確実に大量のBPを入手出来ると考えたらモチベーションは爆上がりだ。ここで燃えない方がおかしいだろう
再び視界から栽培マンが消える。考える事さえ行わず、直感で前にローリング回避する
すると後ろでズガンという音が聞こえ、再び地面に手をめり込ませている栽培マンがいた。その顔は驚いた顔を見せたが、次第に真面目な顔に変化していった
額に嫌な汗が流れる。この時を持って栽培マンは目の前の自分を格下ではなく、敵だと認めたのだろう
「ピオラ」
ここからは先程の様に一撃で仕留めようとはせず、確実にこちらの力を削ってくるだろう。まずはその速度に追いつく為に自身に素早さアップの呪文をかける
するとこちらに接近してくる栽培マンの残像が見える様になった。どうやら素早さを上げると相手の動きも分かる様になるらしい
栽培マンの攻撃が顔に向かって飛んでくると予想を立て、瞬間的に頭を下げると、先程まで頭のあった場所に風圧を感じた
しかしすぐさま連撃が体にヒットする。ガードも間に合わず、打たれた箇所が全て潰れている。痛みを明確に認識しながらそのまま勢い良く後方へと吹っ飛ばされた
「オッ…オゴッ…」
栽培マン「ギヒッ、ギヒヒッ」
血が口から吹き出す。内臓がグチャグチャになってしまっているのだと明確に理解出来、視界も少し暗くなってきた。今の状況を考えると気分も悪くなってくる
「フホォー、フホォー…」
あまりの痛みに呼吸が変になる。だが相手は自分が死にかけだと思い、先程まで真面目な顔をして確実に仕留める気概を感じた筈なのに今はコロッと油断をしている。それが命取りだという事を教えてやらなければ
「ベっ、ベホイミ」
栽培マン「ギッ?」
綺麗な緑色の光が体を包み、数秒の時間をかけて自分の傷を癒していく。抉れた肉片までもが再生されていき、それに気づいた栽培マンが何かを考えた様な顔をすると、自分の体力が回復しているのだと理解したようだ
再び爪を立て、こちらに飛び掛かる前に一つの呪文を唱える
「ボミエ」
腕を前に出し、素早さが下がる呪文を相手にかける。それは見事に決まり、今度は相手の動きがハッキリと見える位には相手の速度が遅くなった
今度は少しの余裕を持って相手の攻撃をスウェイで躱す。するとそれに驚いた表情を浮かべた
「どうした?もしかして自分の攻撃が避けられるとは思ってなかったのか?」
栽培マン「ギィッ…!」
「今度はこっちの攻撃だ。覚悟しろ」
相手に接近し、姿勢を低くして掌底を顎に向けて放つ。しかしそれを両腕でガードされるが、それを見て栽培マンがニヤリと笑みを浮かべた。どうやら自分の攻撃が取るに足らないモノだとこの一撃で理解した様だ
だがそれは間違いだと身をもって知る事になるだろう。この距離なら外しはしない
「メラゾーマ」
業火球が栽培マンの体を包み、栽培マンの叫び声が一帯に響き渡る
呪文はほぼ固定ダメージだ。KPは大量に消費するが、決まれば大ダメージは必然だろう
栽培マンを包んだ業火球は空へ浮かんでは地面に着地し、着地した場所から大きな火柱を空へと上げた
以前クマが放った炎と違い、魔法で作られた炎だからか周りの植物へと燃え移る事は無かった。これに関しては少し研究すべきだと思う
KPを見ると42になっていた(KPフルの時は76)。メラゾーマは消費KP12だったが、ベホイミは消費が4。メラゾーマの消費が12だった事からドラクエ3基準だと思ったが、3ならベホイミは5消費だった
このチグハグは一体何なのか。自身の能力に関する理解を更に深めなければならないと思わせる
ここまで考えてようやく火柱が収まり、空から焦げた栽培マンが落ちてくる。ドサッと音を立てて落下して来たソイツは、未だ消えずに仰向けのままに倒れている
「…おい。ホントは生きてんだろ」
栽培マン「……」
返事はない。だがピチュらないのを見ると生きているのは確実だ
おそらくこのまま背後を見せようものならヤムチャしやがって…となるだろう。なので警戒を解くこと無く気配をそちらへやっていると、先程栽培マンが地面を割った攻撃をした場所まで歩いて近づき、地面の一部をズズズと引きずり出して持ち上げる
そのまま栽培マンの方へ近づき、栽培マンが飛び掛かってきても十分回避出来る距離で大岩とも言える地面だったものを栽培マンへと放り投げる
すると先程まで気絶のフリをしていた栽培マンが驚いた顔をして目をカッと開き、バタバタと死にかけの虫の様に体を動かし始めた
落下してくる大岩を広背筋だけで飛んで宙へと逃げる。音を立てて壊れていく大岩の真上で自分を探そうとキョロキョロと辺りを見まわすが、何処にも見つけられないでいた
「後ろだ」
栽培マン「ギッ!?」
どこぞの一子相伝の暗殺拳を使う人の様に背後に周り、栽培マンの背中にピッタリと腕を付けて呪文を唱えた
「メラゾーマ」
栽培マン「ギィィィッ!!!」
再び業火球が生成され、栽培マンを巻き込んで再び空へと浮かび上がる。やがてそれは落下を始め、再び巨大な火柱が空を貫いた
火柱がゆっくりと小さくなっていき、しばらくしてファンファーレが脳内に鳴り響いた。ステータスを確認したらBPが720になっている
ファミコン版ではコイツから入手出来る経験値は20だった筈だ。つまり10倍の経験値を得ていることになる
だが正直もっと経験値を増やせると思う。アレではまだ危機というには程遠い
単純に経験値が10倍となっているのは恐らく戦闘力の差だ。たったそれだけで10倍もの経験値を得る事が出来た
もし自分がメラゾーマなんて大技を使わなければ?もしベホイミで回復なんてせずにそのまま相手を倒していればどうなった?
…いや。それで正しい筈だ。死に怯えるのは普通の事だろう
「はぁ…少し性格が荒っぽくなったか?」
自分の中で起きている何かの変化。これに少しだけ恐怖したが、ひとまず忘れる事にした。自分にはやるべき事があったのだから
再び地図を見直してそこへ向かおうとすると、ガサガサと草木をかき分けて歩くような音が聞こえる。そちらに意識をやると、武器を構えた白狼天狗たちがやってきた
「あ、ちょうどよ「動くなっ!」」
白狼天狗「人間が一体何の用でここに来た!?目的を話せ!」
「…アンタらの上官にこれを渡せと頼まれたから来ただけだ」
そう言って仕舞っていた巻物を取り出そうとすると、それを見て一人の白狼天狗が飛び掛かって来た
しかしこちらに向かう切っ先は震えており、振り上げた剣は途中の木に引っ掛かってその場で動きが止まってしまう
白狼天狗2「なっ!クソッ!」
白狼天狗1「ま、待て!何もいきなり攻撃することは…!」
白狼天狗2「さっきの火柱を見ただろう!?俺達でも苦戦するあの化け物をたった一人で倒したんだぞ!?コイツはここで仕留めなければ確実に悪い影響にしかならないだろう!」
「…黙って聞いてりゃ好き放題言ってくれるじゃねえか。俺がなんかしたのかよ?」
白狼天狗2「黙れ!この人間風情が!」
「……」
何故コイツがここまで人間を嫌悪しているのかは分からない。だけど目の前でここまで言われるのは腹が立つ
白狼天狗が引っ掛かった木から剣を外し、今度は突きの構えでこちらに向かって突進してくる。その顔は必至さだけを感じ、それ以外の感情が何一つ感じられない事に違和感を覚えた
白狼天狗2「死ねッ!」
「やだね」
剣がこちらの制空権に入って来た瞬間を狙い、剣の側面から拳を剣に殴りつけ、バキィンという心地よい音を立てて、剣だったものが白狼天狗の手に握られるだけとなった
白狼天狗2「なっ…!」
驚いている顔に向けて掌底を繰り出し、そのまま顔を掴んで地面へと頭を叩きつける
地面が音を鳴らして土埃が飛び、そのまま叩きつけた奴は気絶した
「…お前もやるか?」
白狼天狗1「…いや。アレはコイツの暴走だ。危害を加えてすまなかった」
「話が分かる様で何よりだ」
そういって先程渡しかけた巻物を白狼天狗へ手渡す。受け取って中を確認すると、ふむふむと軽く頷いて巻物を巻きなおして懐へとしまった
白狼天狗1「事情は分かりました。どうぞ、お通りください」
「へ?」
白狼天狗1「こちらに私達のスケジュールだけでなく、後から追記するように貴方が妖怪の山への入山を許可するという旨が書いてありました。恐らく椛隊長の厚意でしょうね」
「…ありがたい」
白狼天狗1「ここから上に進めば神社へと繋がる階段があります。その階段を昇れば守屋神社に着きますよ」
「ありがとうございます」
白狼天狗1「…お気をつけて」
何かをボソッと呟く様に言った白狼天狗だったが、まぁ大したことでは無いだろう
白狼天狗の指さす方向へ移動する前に、先程気絶させた奴にホイミをかけておく
後ろで白狼天狗から礼を言われたので、手を上げて感謝を受け取った事を教え、そのまま山を登り始め、山頂にある守屋神社を目指すのだった