しかしながら、艦これとの二足の草鞋を履いている状態ですので、次回の投稿も遅くなると思われます。コチラは不定期で投稿されますので、思い出したら見る程度に留めて頂けると宜しいかと思います
「……」
『…』サッ
『まだ若いのにあんな恰好してて…恥ずかしくないのかねぇ』
『ママー!変な格好の人いるー!』
『しっ。みちゃいけません』
「…心が痛い」
命蓮寺でお世話になって数時間。自分の買い物以外に命蓮寺の買い出しとバイト探しを行っているのだが、さっきから人里の人達からの視線がとても痛いのだ
理由は明白で、どうやら自分の格好が町中を痛い恰好して歩いている不良やオタクの様に見えているらしい。その証拠に周りからはヒソヒソ声がとても良く聞こえてくる
これではバイトを探しても恰好で落とされそうなので、今回は買い物だけに集中しようとメモに書かれた地図を頼りに指定の店まで足を運ぶ事にした
店と言ってもスーパーの様な所ではなく、商いをしている商人達が存在している所での買い物となっている
だが侮るなかれ。そこは家族に良い物を食べさせたいという想いで、激戦すらものともしない歴戦の主婦達が集まる場所なのだ
一度タイムセール中らしかった店を目撃したのだが、アレは最早普通の人がいていい場所では無い。修羅が集まる戦場だった
タイムセールの時間は決まっているらしく、時間はなんと僅か二十分。忙しい現代人では考えられない程の短な時間であるが、ここは幻想郷である。常識に囚われてはいけないのだ
さて、何故わざわざ自分がここまでの前フリをしたのかというと
主婦A『そこぉ!』ガッ
主婦B『そうはさせん!』バシッ
主婦C『痛いじゃない!』バゴッ
…ドラゴンボールかな?
目の前ではタイムセール中の品と思われる食品が主婦の手から手へと奪われては取って取り返されの繰り返しが行われている。その過程で明らかに拳や肘を使ってのカウンターも行われており、完全な大乱闘となっている
先ほど主婦Aの顔に主婦Cの肘がめり込んだのだが出血すらしておらず、ただほんの少し顔が赤くなっていただけだった。頑強にもほどがある
幻想郷の女は強いと思っていたが、ここまでとは思わなかった。その様子を見て里の男達は若干引いている
今からあそこに飛び込まなくてはならないのか。そう考えると震えが止まらない。強さで言うなら恐らく自分に勝てる者はいないだろうが、それでもあの気迫ではビビってしまう
やはりここは一撃離脱。狙いの品物だけを取ってすぐさま会計だ
だが困った事が一つある。それもこれが理由で一撃離脱はかなり難しいだろうという事だ
店主 チーン
店主が死んでいる。ご丁寧に口から魂が漏れていて、何処からか台車を運ぶ様な音が聞こえてきた気がする
恐らく主婦達の戦いに巻き込まれたのだろう。何とも可哀想な事だ
まず自分がしなければならないのは二つある。一つは狙った商品を買う。もう一つは
ここで大切なのは物事の取捨選択が出来るかどうかだ。物品を狙えば物は取れるだろうが、肝心の店主がアレでは購入が難しい。かといって店主を優先すれば物品が他の主婦達に奪われる可能性だってある
ならばどうするか?物品を取りつつ店主を復活させるか、或いは両方してしまえば問題ない
店は大体8畳間程の広さ。1畳間に約3種程の食材が置いてあり、人の通れるスペースは約2人分程の広さがある
カウンターは店の少し奥。店主も直ぐ側で気絶し、店前には主婦達が大乱闘。狙いの品もそこにある
頭の中で作戦を立て、二・三度脳内でシュミレーションを実行したら少しの自信と勇気が持てたので行動を開始する
店主に向かって走り出し、一瞬だけ手をかざしてホイミを唱える。だが目を覚ましたかの反応をみる前に踵を返して商品の方を向く
狙うは米、人参、じゃがいも、玉ねぎの計四つ。そして商品の位置はどれも前に立てば何処からでも手に届く距離だ
だがそこには暴徒と化した主婦達がいる。なので前には立たず、能力を使用して商品を取る方が良いだろう
主婦達が壁となって外からコチラの様子は伺えない。ならば能力を使うのなら今しかない筈だ
まず商品の位置につむじ風の様な風を起こし、そこから商品をコチラに向かって吹き飛ばす。そして飛んできた物をすぐさま手で優しく掴み、腕の中で抱きかかえるようにして大切に持つ
最後に米を狙おうとしたが、距離は約3メートルある。しかも主婦達を越えての位置だ
これでは前を横切らないと米が取れない。もし今前を通ってしまえば手に持っている食材に目をつけられ、主婦達から的となってボコボコにやられてしまうだろう
だから放り投げた。手に持っていた食材を全て。レジらしきカウンターの場所へ、大きな弧を描いて食材を放り投げた
手から食材が離れた瞬間に行動を開始。商品の棚に隠れるように身を低くして目的の米へと向かう
食材が一番高く宙へと上がる頃、それと同時に米を取得し、すぐさま踵を返す
降下を開始してレジのカウンターに直撃するまで後数センチ。そのタイミングで落ちてきた食材を掻っ攫う様に腕を使って受け止める
そのタイミングで机に手をつけてゆっくりと体を起こした店主の前に商品を出した
店主「うぅん…あれ?なんで自分は…」
「店主。会計を頼む」
店主「え?あ、あぁ!すいません!ただいま!」
その声と共に主婦達の視線を背中で感じる。ビシビシとした力と隠れた怒りの様なモノが混じってる気がするのは、おそらくめぼしいものを幾つか取ってしまったからだろう
だがそれも一瞬の出来事。店主の会計が済んだ瞬間、まるで興味が失せたかのように何も感じなくなった
ここにいる彼女達は敵であったが、終わってしまえばただの主婦。家族の為にあくせく働く人なのだ。家族以外の都合にホイホイついていけるほど暇ではない
買い物を袋に詰めてもらい、勝ち取った商品を持って店から出ると、視界の端にみすぼらしい子供が映った
それだけなら見送っただろうが、微かに体の向こう側が見えた気がして思わず目を擦って見返した
自分の横を走り抜けてすれ違った子供の方を見ると、未だ争う主婦達の横を通ってリンゴのある棚に移動して、飾ってあったリンゴを手に取ってかじろうとしたが、かじる直前で顔が罪悪感に染まり、そっと懐にしまった
懐に隠したリンゴは見えない。先ほど透けたように見えたのも気の所為だったのか、ハッキリとした姿が見えていた
店主が呆れ顔に近い表情をして主婦達を眺めている隙を狙って店から飛び出す子供
完全に店から飛び出した瞬間、その子の目の前に立って進路を妨害する
背後を気にしながら走っていたせいか、ぶつかった瞬間に対応が出来ずに尻から地面へと着地する
リンゴが懐から地面へと落ち、慌てて懐に隠そうとする子供より先に拾い上げて子供を睨みつけた
目はウルウルさせ、ガクガクと体を震えさせながら顔は恐怖で強張っている。これだけ見たらぶつかってガンつけてる怖い人になってしまうので、すぐさま睨みつけるのを辞めた
「店主。リンゴ転がってたぞ」
店主「あぁ。すみません。よくあるんですよ…」
「苦労してるな。これ買わせてくれ」
店主「え?落ちたやつですよ?」
「こんなにも新鮮なリンゴなんだ。多少転がった位で味は変わらんよ」ほら、代金
店主「ま、まいど」
未だ転んだままの子供の側へと向かい、手を出して立ち上がれる手助けをする
自分より遥かに小さな痩せこけている手を握り、立ち上がるペースに合わせて子供を立ち上がらせる
軽い。存在の重さというべきか。それがあまりに感じられない
まるで絵に描いた人間の様な、生身の人間がいる気がしなかった
「ほらよ。これが欲しかったんだろ?」
少女「ご、ごめんなさい!お腹が空いて…我慢出来なくて…!」
「僕がお金を払ったから大丈夫だよ。だから気にせず食いな」
少女「…ありがとう、ございます」
「ところで君のお母さんやお父さんは?今後こんな事しちゃ駄目だってことを叱ってもらわないとな」
少女「…いないんです」
「え?」
少女「ずっと前に急にいなくなってしまって…」
「…すまん。嫌な事を聞いた」
少女は首をブンブンと横に振る。先ほどの出来事も、少女は悪い事であったことは分かっているように思えた
「君の家は何処だ?」
少女「ど、どうして?」
「お詫びに飯でも作ろうかと。リンゴ盗む位にはお腹空いてるんでしょ?」
少女「だ、大丈夫です。もう盗みもしませんし、お腹だって空いて『ぐぅ〜』」
「ほら、やっぱり空いてる」
少女「う…」
「大丈夫だよ。ご飯作ったらすぐに出ていくから」
「それに、君がまた悪い事をしないとも限らないからね。せめてここにいる時までは見張っておこうと思って」
少女「…分かりました」
言葉巧みに少女の家へとついて行く不審者の様だが、断じてそんな事は無い。自分に子供趣味はあんまり無いからだ
そんな事を考えながら家へと案内してもらったのだが、買い物した物が邪魔なので、画面を呼び出してそこに物を入れる
するとモニターに物が吸い込まれ、ドラクエの道具欄の様な画面に『買い物袋』と名の付いた道具名が表示された
これでRPGあるあるネタのふくろが出来た。今後は荷物に困らないだろう
少女「こちらです」
「こっちは…人里のはずれじゃないか」
少女「はい。コッチに家があるんです」
道はまだ何とか整備されているが、それでもホウボウに生えた草が歩くたびにクシャッと潰れていく
まさか自分は妖怪にでも化かされているのではないか。そう思いながらも少女を握る手を潰さない様にいると遠くに家らしきものが見えた
少しボロくなっている家。そう表現するのが正しい家であり、しかし所々に修繕の跡を見られて痛々しいとも言える、ちょっと怖さも感じる雰囲気であったが、何よりも子供が一人で済むには大きすぎると思った
少女「あそこが私の家です」
「…里の人は頼れなかったのか?」
少女「で、出来ません!そんな迷惑がかかってしまうことなんて…!」
「迷惑なぁ…流石にそうとは思えないけど」
少女「大丈夫です!一人になってもここで過ごせてましたから!」
いかにも平気ですと言わんばかりの顔に、ちょっとだけ寂しさを感じさせる声で応えられた
流石にこの娘を一人でこんな所に住ませる訳にはいかない。けど子供を預ける孤児院のような物が幻想郷にあるかは知らないし、一体どうするべきか
そんな事を考えながら少女に手を引かれて家へとおじゃまする。そして中の光景が目に入ると、思わず体が硬直してしまった
少女「私の家へ、ようこそおいでくださりました。今お茶を準備いたしますので少々お待ち下さい」
「…あ、あぁ。お構いなく」
少女「いえ。そういう訳にはまいりません。母親からお客様がいらっしゃった時は精一杯のおもてなしをしなさいと言いつけられていますので」
「…分かった。ならそれに甘えさせてもらうよ」
少女「はい!」ニッコリ
トテトテという擬音が似合う程に可愛らしい駆け足でキッチンらしき所へ向かう少女。その足は移動しただけで少し汚れてしまっていた
外で風が吹くと隙間風が入り、中のホコリが少し舞い散る。壁は軋み、床板は剥がれそうになるが、それでも柱だけはしっかりとこの家を支えていた
少女「家の柱、かなり丈夫でしょう?父が家を建てた時、とても喜びながらこの柱の事を自慢していたんです」
少女「この柱は父の意思が込められてるんです。絶対に何があっても負けない様にと、おまじないが込められているんです」
「…そうか。だから君は」
少女「はい。私もこの柱を見習って、絶対に何があっても挫けないと決めたんです」
「その割には商品を盗もうとしてたみたいだけどな」
少女「あ、あれはぁ…えっとぉ…」
「次からはしないこと。守れるか?」
少女「は、はいっ!守れます!」
「良い子だ。しかし、一体今まで何を食べてきたんだ?外に畑らしきものも無かったけど」
少女「い、いえ。食べてないんです」
「へ?」
少女「私が食べようとすると燃えてしまうんです。なので食事は一度もした事がなくて…」
…そうか。この子は恐らく…
しかし、それだと合点がいかない事がある。どうしてあの時は食べ物が燃えなかったんだ?
それに台所。そこは何度も使われているのかやけに綺麗だし、何故そこだけが綺麗なのか理解出来なかった
「それなら周りの大人にどうするか相談して頼るべきだ。食べないってのは辛いだろ?」
少女「…いえ。駄目なんです」
「だ、駄目?」
少女「その、そう教わったんです。何をするにしても頑張るのは一人でないと駄目だって。周りの大人に頼るのは甘えだと」
「…そんなわけ無いよ。僕だって大人だけど、周りに頼る事なんていーっぱいあるよ」
少女「そ、そうなんですか?」
「そんな事誰が言ったの?まさかお父さん?」
少女「いえ。旅をしてる僧侶の人に教えてもらったんです」
「僧侶?」
少女「私には罪があると言っていました。けど、僧侶の言うとおりに生きればきっとその罪は消えると」
「……」
少女「…父も母も、私を育てる為に一生懸命働く人達でした。私はそんな家族を誇りに思っています」
少女「けどある日、働いている父と母が急にいなくなったんです。周りの人に聞いても仕事中に忽然と消えたって」
少女「その時は博麗の巫女さんにもやってきてもらいました。でも、それでも見つけられなくて…」
少女「そんな時です。僧侶さんが私の家を訪ねてきて、父と母に会う方法を教えてもらったんです」
少女「一人でこれから過ごしていき、一ヶ月過ぎれば家族に会えると教わったんです。そしてその間、僧侶さんが訪ねてきた時には米を使った料理でもてなすようにと」
「…それが罪と何の関係が?」
少女「…私がいけないんです」
少女「私がいたから父と母はずっと働く必要があり、私を育てるのに疲れたからいなくなって、今は二人で暮らしているんだと」
少女「だから、その分私が一人で頑張る事が出来れば…きっと家族はお前とまた一緒に暮らしてくれるって教えていただいたんです」
少女「私の罪は何もしなかった事。だから母も父もいなくなってしまったんです。一人で出来る様になればきっとこの罪だって拭えるんです」
そうポロポロと零すようにして話す少女の肩は震えていた。声にも哀しさを隠しきれない程に、話す内容は幼い少女にとっては酷な事ばかりであった
この娘はどれだけ一人でいるのが辛かったのだろう。まだ十にも満たないであろう子供なのに、悲しさを抑えるだけで決して見せようとはしない
少女「お兄さん?大丈夫ですか?」
「…っ。あぁ、大丈夫だよ」グイッ
少女「でも、今にも泣きそうです」
「いや、目にゴミが入っただけだよ。大丈夫だから」
拳をギュッと握り、涙すら素直に流せないこの娘を見て、悲しさを感じずにはいられなかった
そこでここへ来た当初の目的を思い出し、先程ふくろへ仕舞い込んだ買い物から一部を拝借する
聖さん、後で買って返すんで許してください
「さて、そんじゃ料理といきますか」
少女「あ、あのっ、今更こんなことを言うのは何ですが、やはり悪いです」
「気にするな。俺はただ腹が減った奴に食わすだけだ。まさか飯を食べるのも誰にも頼るな。何て言うヤツが居たら俺がぶっ飛ばしてやるよ」
少女「で、でもっ、私はご飯が食べられないし…」
「それについては考えがある。心配しなくて良い」
少女「あ、えっと…はい…」
だがどうするか。今回自分が買った材料は命蓮寺で肉抜きのカレーを作る予定であった。その為、それぞれ単品ではあまり旨い飯は作れない
こんな時こそ能力の出番である。今回紹介するのはアポート。超能力の一種である
詳しい詳細についてはピンク色の髪にピンのアクセサリーを着けているψ能力者の漫画かアニメを見て欲しい。ちなみに自分はアニメと一部の漫画しか知らない
つまりベースもψ能力者のアポートである。ちょっと価値が前後する物が対象であるので、分からない人は等価交換のちょっとした上位互換だと考えて欲しい
今あるのは米、人参、じゃがいも、玉ねぎの計四つ。これだけではちょっと寂しく思える
どうしたものかと頭を悩ませていると、換気を行う為であろう近くの小窓から蛇がスルッと顔を出した
丁度良い。せっかくだから持ってた事にしてこっそり入れてしまおう。切り分ければ分からないだろうし
少女から見えない様に自分を壁にし、蛇をサイコキネシスで締め上げる。これもベースはψ能力者である。ちなみにKPの消費が地味に厳しいです
毒があるかは分からないが、頭を下にして首を切断し、皮をビリビリと剥ぐ。念の為消毒の意味も込めてキアリーを蛇肉にかけておき、準備は整った
「ここに積んである薪木。幾つか使っても良いか?」
少女「は、はい。構いませんよ」
「ありがとう」
少しだけホコリを被っている薪木を手に取り、火をつけてかまどへと放り込む。そして鍋を置き、能力でサッと綺麗にしてかまどの上に置いた
呪文で水を出して鍋に溜めて火にかける。ちなみに呪文で出した水は飲んでもお腹が痛くなったりしないので、いざという時の緊急手段としてかなり重宝している
まずは米を手の平に乗せられるだけ乗せる。コレで約一合と言ったところか
これ一つの値段は幾らか分からないが、とりあえず何かと交換してみよう
目の前の米が消え、手元にはリンゴが残った。これはさっきもあげたので別のにしたい
二度目のアポートで変化したのは青黒く固まった何かの物体。それは肉塊というに相応しい見た目をし、ピクピクと鼓動の様な物を感じたので速攻でアポートした
次に変化したものは大根。あの黒塊が何かは分からないが、大根一本分になるとは思わなかった。何にせよこれで良いだろう
包丁は持っていないので
皮を剥き終えたらそのまま輪切りにしていき、小さな一口サイズへとカットしていく。それに続いて玉ねぎを薄切りにして蛇肉を切り分け鍋へと投入する
材料を鍋に入れると、システムウィンドウが目の前に出現する。そしてあのゆっくりボイスが聞こえてきた
システム『出番?』
「頼む」
システム『はいはーい』チッ、チッ
ウィンドウにMMOゲームで良くある料理のタイマーが出現し、時間は30秒と出ている
直感的に素早く出来るイメージで突っ込んでみたが、上手くいったみたいで何よりだった。コレは今後も使えそうだが、正直便利すぎるので封印案件かも知れないな
少女「誰かとお話してるんですか?」
「いや。ちょっと料理が早く出来る魔法をね」
少女「え?でもまだお鍋に材料を入れてから一分も経ってないし…」
「ふっ。それはこれを見てから言ってもらおうか」
鍋の材料をお椀に入れて少女の目の前に差し出す。中にはしっかりと火が通った食材に、野菜の煮た匂いが心地良い香りを運んでいる
部屋の中央に置かれているちゃぶ台の上にお椀と箸を置き、料理から立ち上る湯気がそれを完成された料理だと物語っていた
驚きで顔を一杯にし、料理の匂いで少し顔をほころばせる少女の顔は可愛らしく、何処か泣きそうでもあった
「食べられるか?」
少女「い、いただきます!」
お椀を手に取り、箸で食材を掴んで口へと運ぼうとすると、箸で掴んだ食べ物が燃え始めた
驚いて箸を床へ落とし、やがて手に持っていたお椀も燃え始めて両方とも床へと零してしまう
床にこぼれた料理も燃え始め、やがてそもそも存在しなかったかの様に、零した床に汁一つ残す事なく燃え尽きてしまった
少女「あっ…」
???「駄目ですよ。君は食べられないんですから」
その声と共に扉が開き、そこには僧侶らしき男が立っていた。というのも僧侶だとは思えなかったからである
髪は坊主、僧侶とは言うものの、体格はプロレスラーを彷彿とさせる程の肉体で、身長は2メートルを超えていた
だがそれは見た目だけの話。眼前の僧侶からは僧侶らしからぬ嫌なものを感じていた
「…あんたは?」
僧侶「その子の面倒を見ている人間…とでも言いましょうか。昼頃にその娘がいなくなってしまって、今の今まで探し回ってたんですよ」
少女「…」
僧侶を見るなり怯えた顔で体を震わせている。これが本当に面倒を見てくれている人物を見る顔だろうか?
「…あんた、僧侶なんだってな。なら聞きたいことがある」
僧侶「なんでしょうか?」
「この娘は何で存在している?いや、正確にはどうして餓鬼に見せかけているんだ?」
僧侶「…」
「この家に来た時からおかしかった。この娘はここに住んでいると言っていたのに埃が溜まりに溜まっていた。人が生活しているのなら大なり小なり埃は降り積もるが、幾ら何でも床全体に埃が溜まってるのはおかしいだろ?」
「そして俺がここに来た理由。それはこの娘の飯を作るって目的でやってきたが、それなのにこの娘は自分が飯を食べようとすると燃えてしまって食べられない。それを知っていた筈なのに、この娘は始めて会った時にここへ飯を作るって名目で招いてくれた。それっておかしいよな?」
「そして何より…この娘はもう死んでいる」
家に踏み入れた瞬間、中の光景を見て硬直した
床は埃だらけで人が歩いた形跡が無く、床はボロボロになっていた
外から見た光景では想像出来なかった酷い場所。外観とは裏腹に、中は完全な廃墟であった
荒れに荒れている家。唯一つ少女が自慢していた家の柱だけを除き、他は残骸と言っても良かっただろう
そして部屋の端にある小さな埃被った布団、そこでガリガリに痩せて横たわった子供の死体がここに住んでいた事を示唆していた
「この娘は助けを求めてたんだ。自分の置かれている現状も薄々知っていたんだろう。だから助けを求めて人里まで来たんだ」
「この娘を使って何をしようとしているんだ?答えろ」
僧侶に尋ねてみるが、その顔は変わらずに相手を諭すかのような物言わぬ顔であった
しかしその顔も笑みに変わり、その顔からは滲み出る悪意が出ていた
僧侶「その娘が助けを?それは違いますよ」
少女「や、やめてっ!」
僧侶「その娘はただの餌。寄せ餌なんですよ」
「餌…?」
僧侶「貴方みたいに霊感の強い人間…その娘を見る事の出来る人間をここに呼び込む事。それがこの娘の存在意義。役割なんです」
僧侶「知っていますか?貴方みたいに霊感の強い人間を食べれば妖怪としての力が上がる事を。だから私はこの娘を使って人を集めようとしているんですよ」
「…そういう事か。お前の正体は妖怪だな?」
僧侶「如何にも。といっても、明確な名前なぞ存在しない、ただの妖怪ですがね」
少女「えっ…?」
幻想郷に住む妖怪の大多数は名前が存在しない。明確な名前の付いた妖怪はごく一部とされ、大多数はその他大勢というグループである
つまりコイツはその他大勢に入る妖怪。下級妖怪とでも言うべきか
「君も知らなかったのか?」
僧侶「えぇ。この娘の前では人間として振舞っていましたから。ホントに良くしてくれましたよ」
僧侶「ここに来るだけで食事が出る。何もしなくてもね。それにこうして人間も運んできてくれるんですから、ホントに使える娘ですよ」
少女「じ、じゃあ!お母さんとお父さんと会えるっていうのは!?」
僧侶「嘘に決まってるでしょう。第一、ホントに親が生きてるとお思いで?」
少女「……」
僧侶「あぁそれと、貴方のご両親を殺したのは私です」
少女「えっ…」
僧侶「とても怯えた顔で命乞いをしてきてね。面白かったのでよ~く覚えていますよ」
僧侶「娘がいる。だから助けて欲しい。もし私達がいなくなればあの娘は一人ぼっちになる」
僧侶「それだけ聞いても何とも思いませんでした。ここまでなら良くある自分が助かりたいだけの常套句でしたからね」
僧侶「でもここからが面白いんですよ。この娘のご両親。何と私に片腕を渡してきたんです。手に持っていたナタで腕を切断してね」
僧侶「ご両親はホントに貴方が大切だったんですねぇ…。それをやるから命だけはと、娘大事さに自分のした事で直ぐに死ぬかも知れないのに」
僧侶「まぁ、結局殺したんですけどね。最後まで貴方の事をずーっと呼んでいましたよ。私に喰われる最後の時まで…ね」
少女「い、いやっ…!いやっ!」ギュッ
体を丸くして必死に耳を塞ぐ少女。その様子をニタニタと愉悦の笑みで見ている僧侶が、如何に腐り果てた妖怪なのかを語っていた
「…ここは幻想郷。人間と妖怪が生きる場所。そこで妖怪が人間を襲うのは至極当然だ」
「だけどな、その娘を泣かせるのは何でだ?妖怪は人間が恐れてこそ存在が出来る。だがこれは幾ら何でもやりすぎだろ」
僧侶「何故って、そんなの楽しいからに決まってるじゃないですか」
僧侶「こぉ~んな可愛い娘が私の為に。もう存在しない両親に会いたい一心で必死に努力してた様をこうして崩される様は最っ高に、面白いじゃあないですか」
僧侶「ご両親だってそうです。あ〜んなに楽しませて貰えるなんて、親子揃って最っ高に良い人間でしたよ」
愉悦に酔っているかのように嬉々として話す僧侶の姿をした妖怪。人の姿をして喜ぶ顔は只管に汚く、そして気持ち悪く感じた
「…分かった。もう喋らなくていい」
「お前は殺す。今からあの世に行く準備でもしておくんだな」
僧侶「…ぷっ。ただの人間が粋がるじゃないですか!」
僧侶「そんな人間はね…うっとおしくて大嫌いなんですよぉ!」
俺も大嫌いだよ。お前みたいなクズはな