「それじゃあ慧音さん。数日の間お世話になりました」
慧音「お前は行くところが無いんだろう?私の下を離れて何処へ行く気なんだ?」
「紫さんの依頼を受ける為にも幻想郷を周りながら過ごします。こう見えても隠れるのは得意ですし、何でしたら少しくらい戦えますよ」
慧音「しかしだな…」
「大丈夫です。何かあればここまで逃げてきますから」
慧音「…分かった。絶対にまた生きて帰って来いよ」
「はい。必ず」
着物を着た女性「すみません。こちらに○○○さんはいらっしゃいますか?」
寺子屋の入り口に立つ女性。その人物の声に慧音と共に振り向き、自分だと名乗り出て女性に近づく
着物を着た女性「阿求様が貴方様に会うとおっしゃっています。今からお会いにならなければまた数日程待ってしまわれる事になりますが、今大丈夫でしょうか?」
「えぇ。大丈夫です」
着物を着た女性「分かりました。では早速ご案内致します」
慧音「気を付けて行って来いよ」
「はい。慧音さんもお元気で」
慧音に見送られながら寺子屋を後にし、女性の後をついて行って稗田の表札が立てかけられた屋敷に辿り着く
女性が大きな扉を叩き、中から出てきた人にお客様を連れて来たと言うと扉がギギギと音を立てて開かれる
こちらへと引き続き案内され、綺麗な模様がある襖が開かれ、その中は何畳あるか分からない大きな部屋だった。こちらでお待ちくださいと言われて座布団が敷かれている場所で正座して待つ
しばらくすると襖が開き、正座してこちらに一例する女性が見えると、その後ろから小さな少女がやってきた
紫のショートヘアーに紫色の目。黄色い着物に花柄があり、赤色の膝下まである長いスカートの様なものを身に纏っている
???「ようこそ。○○○さん。私は稗田当主である
「ご丁寧にどうも。外来人の○○○と申します」
阿求「それで、私にどういったご用件でしょうか?」
「確か貴方は幻想郷の歴史や外の世界の歴史を記録していると聞き及んでおります。その知識で私が幻想郷に来た経緯を解き明かしたいのです」
阿求「ふむ。そういう事でしたら協力出来ると思いますが…幻想郷にやってきたのならば貴女がたまたま幻想郷にやってきてしまっただけではないでしょうか?」
「一つ、言い忘れておりました。私は外の世界に住んでいましたが、幻想郷の存在を知っています」
その言葉に阿求がピクリと反応し、少し考えを巡らせる様な顔をする
阿求「…なるほど。つまり外の世界とはまた別の世界からやってきたと言う事ですね」
「ご存じなのですか?」
阿求「はい。私の記憶に別世界に存在する人が違う世界にやってきたという資料を見た記憶があります。しかしそれに関する資料は本一冊にもならないものでしたので、詳しい事に関しては私も分かりかねます」
「ふむ。そうなんですね」
阿求「なんでもその人物は外の世界に住む不思議な生物に誘われてやってきたのではないかとの事でした。そしてその世界に置ける価値観が完全に違う世界から来たようで、非常に生きづらかったのでは無いかと言われています」
阿求「すいませんが私が知る内容は以上となっています。お力になれたでしょうか?」
「えぇ。十分です。貴重なお時間を頂きまして誠にありがとうございます」
阿求「いえいえ。外来人がやってきたからには協力しようと決めているのです。何も知らない外来人に幻想郷は生きずらい場所ですから」
「ははは。そうですね。自分も運が良くなければ人里にすら来れなかったでしょうし」
阿求「…少し私も幾つか聴いて見たい事があります。それを資料として保存したいのですが、構わないでしょうか?」
「えぇ。良いですよ」
阿求「ありがとうございます。では早速なんですが…」
そうしてしばらくの間阿求による質問が続いた。内容は自分がやってきた外の世界について。そしてその世界ではどういった形で幻想郷の事が知られているのかという内容だった
自分の知る内容を伝えると、時には顔を赤くして恥ずかしがったり、技術発展している内容に興味津々な顔をしたりと、話を聞いている姿は何処か楽しそうだった
阿求「ありがとうございます。おかげで知見を広めることが出来ました」
「こんな事でよければ何でも答えますよ」
阿求「さて、そろそろ夜も近づいてきましたが宿はおありですか?」
「えぇ。なので心配しないでください」
阿求「分かりました。また何かあればいらしてください。その時はお力にならせて頂きます」
「はい。色々とありがとうございました」
そういって阿求に一礼し、屋敷を出て夜の人里を歩く
夜にもやっている屋台を見つけ、そこでラーメンを頼んでその日の晩御飯を終える
そのまま人里を出て、慧音に貰った幻想郷の地図を頼りに幻想郷を歩くことにした
街道に出て、しばらく歩くと街道が途切れる場所までやってきた。しかしそんな事を気にせず雑木林を歩いていくと、少し開けた場所に出た
月明りが綺麗にそこを照らし、手頃な岩を見つけ、そこに座ってステータスを確認する
HP:60
KP:42
BP:201
ファンファーレが鳴った記憶が無いのだが、それでもHPとKPが増えているのに驚いた。BPも最後に見た時から40程増えており、人里での経験がおそらくBPに加算するに値すると判断されたのだろう
メラで火をつけて地図を見ていると、辺りをガサガサという音が鳴り響く
地図を仕舞って辺りを警戒していると緑の体に棍棒を持った妖怪?が草葉の陰から現れた
所謂ゴブリンであり、ゲヒゲヒという気持ち悪い声を上げるのが印象的だった
ゴブリン「グギャギャギャ!」
「おーおー、きったない声だねぇ」
ゴブリン「ゲヒッ」
こちらを見てニヤッと笑い、嫌な予感がして目の前のゴブリンから距離を取ろうとバックジャンプをする
すると自分の腰に何かがぶつかり、後ろを振り向くともう一匹のゴブリンがいた
思わず後ろ廻し蹴りをゴブリン2に向かって放つと、突然の出来事に避けきれずにいたゴブリン2の顔が陥没し、後方へと吹っ飛んでいった
ゴブリン「ギッ!?」
「びっ、びっくりした…」
ゴブリン「グッ、グギャギャギャ!」
天を仰いで咆哮するゴブリン。その声に呼ばれて周りの草むらからガサガサという音が聞こえ、何匹ものゴブリンがやってきた
数は優に十を超え、手にはこん棒や石の斧といった中々に殺意マシマシな様子が伺える
咄嗟に仲間を呼んだゴブリン1に向かって走り出し、そのまま顔を蹴り飛ばして包囲される前にその場から離脱する
しかしそう上手くいかないのが現実で、後ろからゴブリンたちがゲヒャゲヒャと言いながら月明りが照らす森の中を追いかけてくる。正直滅茶苦茶怖い
しばらく走っていると、後ろの声が心なしか増えてきている気がする。チラッと後ろを振り向くと、先程は十程度だったのが三十程になっており、全身から血の気がサァッっと引いていくのが理解出来た
「ウッソだろ…」
このまま逃げ続けたら更に数が増えるだろう。そう考えた自分は走りながらヒャドの呪文を唱えて氷の壁を作っていく
ある程度の長さのある壁を作れたら、目先にある一際大きい木に氷の壁を引っ付けて完成させ、その木をグルッとUターンし、先程壁を作った逆に壁を作っていく
イメージとしては上空から見ると円錐の形になる様に生成し、初めに壁を作った所まで氷の壁を作る
KPの値は10となっており、おそらく決めるならここしかない。ミスれば処理できなかったゴブリンたちが一斉に襲ってくる。チャンスは一度キリだ
ずっと後ろを付いてくるゴブリン達に向き直り、自分が知っているあの呪文を唱える
「ベギラマッ!」
ほとばしる炎が円錐の壁内を埋める様に飛んでいき、先程まで後ろを追ってきたゴブリン達を焼き払う
ゴブリン達の叫ぶ断末魔の叫び声が鳴り響き、それと同時にファンファーレが脳内で快音を鳴らす
レベルアップと同時にステータスの値が更新され、先程まで消費していたKPも全快した
BPの欄を見てみると230となっており、思わずハァッ!?と叫んでしまった
「何で!?数だけなら30匹近くいた!30は越えていなかったから30以上BPが増えないとはいえ、これじゃあ一匹当たり1のBPを取得したって事になるぞ!?」
「まさか生き残りが!?それならこの数値にも納得が…!」
急いで先程焼き払った現場に向かう。しかしゴブリンの姿は一匹も見当たらず、声さえも聞こえない。気配も感じなかったので、どうやらあのベギラマで全員焼き払われたらしい
どうしてここまでBPの取得率が低いのか?しばらく考えを巡らせていると、一つの結論に行きついた
「…まさか、危機じゃなかったから?」
確かに囲まれている時は危ないと感じた。しかしいざ逃げてみると結構距離が空いたままだったし、初めてゴブリンを蹴っ飛ばした時もまだ完全に囲まれていたという訳では無かった
「…強くなるのなら危機に自分を追い込めって事か」
そうと決まればやる事は決まった。手頃な獲物がいないか辺りをキョロキョロと見まわすが、先程の騒ぎに引き寄せられて様々な方向から視線がこちらに向けられているのが理解した
流石に多勢に無勢すぎるのでその場からすぐさま離脱する
不思議な事に誰も追って来る気配は無かったので、しばらく走っていると、少し疲れたので適当な木の根元で休む事にした
木に登って掴まりながら目を閉じる。眠気にまどろんでいると、やがて遠くから景色が段々と近づいて来た
ドレミー「や、こんばんは」
「お久しぶり…って訳でも無いですがこんばんは」
ドレミー「今日はちょっとした耳よりな情報を話に来たんだよ」
「耳よりな情報?」
ドレミー「うん。貴方の能力に関してちょっと知り合いが詳しそうで話を聞きに行ったの」
ドレミー「まぁ話を聞きにいった人がお姫様でゲーマーなのに中々に取り合ってくれなくて、面倒だったから貴方を引き合いに出してようやくって感じなんだけどね~」
「…なんかとんでもない事に巻き込まれた気がする」
ドレミー「まぁまぁ。何でも修行すれば爆発的に強くなったりする事もあるって話でね、それのお手伝いになれたらなって思ったんだけど」
「…どうしてそこまでしてくれるんですか?」
ドレミー「君は拾った犬を責任も持たずに捨てるのかい?」
…どうやらかなり大事に思われているらしい。偶然とはいえ、この人に助けてもらって本当に良かったと思う
「…ありがとうございます」
ドレミー「気にしないで。私がしたくてやってる事だからさ」
ドレミー「さて、それじゃあ早速修行だけどやってみる?」
「はい!お願いします!」
ドレミー「ふふっ。それじゃあ良い夢を♪」
ドレミーが指パッチンしたかと思うと、目の前に巨大な犬が洗われる
勿論普通の犬ではない。頭は二つあり、尻尾も二本ある。その体はまるでカメレオンの様に黄緑色をしており、全長は軽自動車くらいの大きさだ
そして何より…体の所々が溶けておりグロイ。バイオハザードのボス敵として出てきそうな奴だ
「うえっ、気持ち悪い見た目だな」
ドレミー「…普通の人はこれを見ただけでもうちょっと驚くと思うんだけどね」
「いや、足見てくださいよ。ガクガク震えてるんですよ?」
ドレミー「あら、ホントだわ」
足がガクガクと震え、その震えが腰にも伝わって尻餅をつきそうになる
だが体は震えているのに、心には闘志が宿っているのが分かる
今にも消え去りそうな揺れている火だが、決して消える事は無い様な力を感じていた
覚悟を決めて目の前の敵へと向き直る。目の前の犬が開戦の合図と言わんばかりの咆哮を上げて戦いの火蓋は切られた
犬が姿勢を低くし、二つの頭が牙を剝きだして飛び掛かってくる。挟まれたら一撃で死にそうなので跳躍して犬を飛び越えて回避した
あまりの跳躍力に驚き、バッとドレミーの方へと振り向いた
「…なぁ。ここって身体能力がアップしたりするのか?」
ドレミー「いいえ。それが今の貴方の力って事よ」
「なるほど。それは良い事を聞いた」
自分が外の世界に居た頃は軽自動車を飛び越えられる程の跳躍は出来なかった。しかし、先程のジャンプは建造物の二階に容易に届きそうで、本当にここに来て成長したのだと感じた
「来いよ」
心に少し自信が付き、犬に言葉が通じているのか分からないが挑発をする。それを犬が理解したのかは分からないが、先程よりも少し威圧感が増した様に感じる
再び犬が嚙みついて来ようとしたので、今度は正面から受け止める
一頭の牙を握って耐えていると、もう一つの頭が横から自分を噛みついて来ようとしたので、牙を握っている腕を回転させ、片方の頭を軸にして犬を回転させる
犬の体は一つなので、先程噛みつこうとしてきた頭も体の回転に引っ張られてそのまま宙を噛んだ
犬はそのまま体を一回転させて態勢を立て直そうとする。その瞬間を狙って腕を伸ばし、犬の腹に向かって呪文を唱える
「メラミ」
メラの数倍の大きさを持つ火の玉が出現し、そのまま火は犬へと真っ直ぐ飛んでいく。犬はそれに気づいて回避を行おうとしたが、すぐさま反対の腕でヒャドを唱える
メラミが飛ぶよりも早く氷が犬の足に向かって飛んでいき、足を凍らせた。凍った足で滑ってバランスを崩した犬は回避が出来ず、そのままメラミが直撃した
ツインヘッド犬「ヴォォ!?」
「おぉ…犬の出す声じゃないな…」
ツインヘッド犬「アオォォォ!!!」
犬が自分を奮い立たせるかのように遠吠えをすると、二つの頭から弾幕がこちらに向かって飛んできた
「ウッソだろお前!」
思わず飛びのいて回避をする。先程までいた場所は野球ボールが勢いよくめり込んだかのような跡が付いており、途轍もない威力だと言う事を簡単に想像させた
「当たれば一撃…いや、耐えれてニ撃って所か…」
痛みに耐える訓練はしてこなかった。おそらく一発当たれば痛みで何も出来なくなり、二発目でお陀仏だろう
だが弾幕の速度は100kmのピッチングマシン程の速さ。そして威力重視なのか一発しか飛んでこない。何処かのキャラクターが言っていた、当たらなければどうという事は無いという奴だ
犬に向かって駆け出し、それを好機と思った犬が再び弾幕を生成し、こちらに向かって飛ばそうとする
犬が弾幕を放つタイミングを予測し、弾幕が放たれるタイミングに合わせて一歩左に移動して弾幕を回避した
この犬は弾幕精度が良すぎる様で、狙っている場所さえ分かってしまえば簡単に避けられる
二発、三発と続けて弾幕を発射してくるが、ことごとく躱して懐へと入り込む
そのまま右ストレートで左の頭をぶん殴り、それを見ていた右の犬がこちらに向かって噛みつこうとするが、左手でメラの呪文を唱え、開いた口目掛けて火の玉を飛ばす
口の中に火の玉が入ると、犬が声にならない声を上げて体をジタバタと動かす
痛みに耐えかねているのか口をしっかり閉じているのをチャンスと思い、左の頭に向かって両手を向けて呪文を唱える
「ヒャダルコ」
片手だけで放っていた呪文と違い、明らかに威力が増した呪文が犬の口をゆっくりと凍らせていく
やがて凍り付く範囲は顔だけに留まらず、体の左半身を完全に凍らせてしまった
「おぉ…ここまでの威力があるのか。こりゃ人に向けて撃てないぞ?」
そう呟くと、残った右の頭が自分に向かって噛みついて来た
完全に油断していたので左腕を思い切り噛みつかれてしまい、尋常ではない痛みが体を襲った
「うっ、あぁぁぁ!!!」
牙は骨まで達し、左腕を嚙み砕こうとガリガリという音が鳴り響く。自分の叫び声が空間にこだまし、反響しては再び自分の耳に入ってくる
普通に抜けば自分の片腕を諦めなければならない。しかしどうすれば良いか痛みで全く頭が回らず、ただガリガリという音が辺りに響いた
後数秒で自分の腕は食いちぎられる。そう自分の体が直感的に理解し、意識せずに自分の右腕が自身の頬へ向かって飛んできた
その痛みで一瞬だけ平静を取り戻し、苦し紛れに呪文を唱える
「メッ、メラミッ!!!」
そう叫ぶと左手が火で燃やされたかのように熱く感じる。どうやら左手で上手くメラミの呪文が発動したようだった
火は燃え盛り、そのまま炎が犬の口の中で爆発する様に外へと飛び出し、僅かに開いた犬の口から何とか腕を引っ張り出す事に成功した。しかし、自分の腕から体に伝って炎が焼いていた
体の溶けている穴から火が噴出しており、絶叫するかの様な声が辺りに響き渡っていくのだった
「ベ、ベホイミ…!」
ズタズタになっている左腕に右腕を向けてベホイミを唱える。するとみるみるうちに傷が塞がり、ステータスを見るとHPの値が13だったのがみるみると回復していった
しかしまだ火は消えていないので、片腕をヒャドの呪文で凍らせて火を消化したのち、再びメラの呪文を唱えて氷をゆっくりと溶かしていった。一応温度の変化が激しかったので、最後の処置としてホイミを腕全体に掛けておいた
「あっ、あぶねぇ…もうちょっとで死ぬところだった…」
ドレミー「おぉ。結構簡単に倒したね」
「最後の油断が無ければね…」
ドレミー「ちなみにあれで幻想郷の最底辺妖怪から一歩進んだ敵ってレベルだよ。あれに油断してダメージ食らってるんじゃこの先辛いかもね」
「へっ。まだまだこれから上を目指せばいい話だ。それに普通の人間が勝つには少し難しい敵だろ?」
ドレミー「まあね。にしても貴方って興奮するとちょっと野性的な話し方になるんだね」
「おっと」
軽く咳ばらいをして一呼吸置く。その様子におかしそうにクスクスと笑うドレミーだった
ドレミー「あ、一応傷は回復したみたいだから言わないで良いかと思ったけど、これってリアルな夢だと思ってくれた方が良いよ」
「つまり…どういうこと?」
ドレミー「目が覚めたら痛みがあるかもしれないって事。勿論、夢だから現実では肉体は傷ついてないけど、そのショックで少しの間腕が痛いかもね」
「幻肢痛ってことですね…」
ドレミー「ま、貴方は結構精神タフそうだし大丈夫だとは思うけどね。そろそろ目を覚まそうか」
「はい。今日はありがとうございました」
ドレミー「それじゃ、頑張って生きていくんだよ。応援するからね」
やがて景色が遠ざかっていく。手をこちらに優しく振ってくれているドレミーに心の中でお礼を言いながら朝を迎えるのだった