キラがカガリを引っ叩く話になります
私の太腿を枕に寝ていた彼が飛び起きるように立ち上がった。その様子に呆気にとられていたが、サイーブの通信機が音を立て、周囲から警笛が鳴り響く。
何が起こったのか分からないが、何かが起きたのは分かる。
「どうした!?何が起きた!?」
通信機に怒鳴るように聞くサイーブ。
「空が燃えてるっ!タッシルの方向だ!」
「空が……空が燃えてるっ!」
見張り台に居た男が叫ぶ。その内容に聞いたレジスタンスが動き出した。出撃の準備、救援をしようとしているのだろう。
「ダメだ!通じん!」
無線でタッシルとの連絡を試みていた男が、ノイズを吐き出すばかりのスピーカーに苛立ち、通信機を置いている机を乱暴に殴りつけた。
皆が口々に怒鳴り合いながら行き交い、車を急発進させる音が響く。
「弾薬を早く!」
「あいつら〜……!お袋は病気で寝てんだよっ!」
「早く乗れ!モタモタしてっと置いてくぞ!」
急ぎタッシルに駆けつけようとするレジスタンスの前にサイーブが出て、その動きを止める。
「待て!慌てるんじゃない!」
「サイーブ、ほっとけっていうのか!?」
熱くなっているのか、冷静な判断が出来なくなっている。
「そうじゃない、半分はここに残れと言っているんだ!落ち着け!別働隊がいるかもしれん!」
彼らの動きを見ながら、マリューは隣にいる男に声を落として囁きかける。
「―――どう思います?」
「う〜〜〜ん、『砂漠の虎』は残虐非道――なんて話は聞かないけどな〜。でも、俺も彼とは知り合いじゃないしね〜?」
いつも通り緊迫感の欠片もなく、答えもない回答と態度に呆れ、眉を顰めた。
やはりここは一番頼りになる男をと見ると、胸ポケットからタバコを取り出して、一本口に咥えて火をつけようとしていた。
敵将との交流もあり、彼を部下として使ったこともある男だ。何かしらの考えを聞ければ。
「いかが思われますか、キリュウ一佐?」
チラリと私の顔を見てから一息吸ってから白煙を口から吐き出した。
「士官は差し迫った危機以外は冷静な判断をしないといけない。今この瞬間、ここに危難があるなら話は変わるが別の場所なら冷静になって考える必要がある。」
彼の部隊指揮官、総司令官としての経験は恐らくは世界屈指だろう。その思考の一端を見せた。
「先ずは此処ではなく、タッシルという街を攻撃した理由だ。恐らくはレジスタンスの拠点の一つであるからだろう。」
ここまではいいかと、私の顔を見る。それに頷くと話を続けた。
「問題は何故このタイミングかというところだ。」
もう一呼吸タバコを吹かし、少し考えている。
「レジスタンスの拠点というのがつい最近分かったということで攻撃と言うなら変な話だ。アイツはそんなに凡将じゃないさ。アイツの能力ならずっと前から拠点なのは気づいている。」
「今の今まで放置していたと?」
私が尋ねると頷いてくれた。そして夜空を見上げる。
「なら何故今攻撃したか………ここ最近で今までになかった事態が起きた。」
何か分かるだろうと此方に強い視線を向ける。
「……私…達……?」
コクリと頷く。
「私の考えが正解ならアークエンジェルとその艦載機の力量を考え、顔に纏わりつくハエを潰しにきたんだよ。」
レジスタンスの人達に聞かれていないか周囲を見渡す。良かった、誰も聞いていない。
「大敵であるアークエンジェルの相手をする時に、片手間で片付けれるレジスタンスに手を取られるのを嫌がったんだろう。」
なるほど………やはり頼りになる。これで私よりも6歳も年下とは。
「それで……どうする?」
私達の対応を聞いてきた。
「アークエンジェルは動かないほうがいいでしょう。確かに別働隊の心配もありますから。少佐、行っていただけますか?」
私がムウに言うと、「俺?」と困った声を出した。この男は対岸の火事と決め込むつもりだったようだ。
「スカイグラスパーが一番速いでしょう?」
にっこりと笑って告げると仕方ないなと億劫そうな声で了承した。
「………だわね。んじゃ、行ってくるわ。」
アークエンジェルに向かう彼の後ろ姿に、マリューは念を押した。
「出来るのはあくまで救援です!バギーでも医師と誰かを行かせますから!」
小走りでアークエンジェルに向かうムウは振り返らず、手だけを振って応えた。
「カナデさんはどうしますか?」
彼にこれからの動きを聞いた。
「とりあえず警戒態勢だけはとろうか。俺も後詰めとしてバギーと一緒に行こう。アークエンジェルはキラくんに任せるよ。」
分かりましたと頷き、周囲に命令を出した。
「総員、直ちに帰投!警戒態勢を取る!」
私もカナデさんと共にアークエンジェルに向かう。
キラたちにも騒ぎは伝わっていた。途端にキラはフレイを置いて走り出した。
「――キラ!」
フレイがその後を追おうとするのを、サイが肩をつかんで引き留めた。フレイは振り返り、ムッとした顔で彼を睨みつけると、その手を振り落とすように再度走り出した。サイは何も出来ず、立ち尽くすしかなかった。
まるでわけが分からなかった。あんなにコーディネイター嫌いだったフレイが、キラと―――?
たしかに彼女は最近ずっと、キラに対して気づかうような様子をみせていた。それはサイは、彼女の優しさだと思い、キラという仲間を彼女が受け入れてくれたことを、むしろ喜ばしいとさえ思っていた。なんて馬鹿だったんだろう。
彼女の心が移っていたことにも、気づかなかったなんて―――。
「ばかヤロウっ!?」
街は火の海だった。
タッシルは広がる砂漠の闇を照らし出す、巨大な松明へと変じていた。
「隊長!」
ダコスタが戻り、助手席に乗り込むと、目を閉じていたバルトフェルドは片目を開ける。
「……終わったか?」
「はい!」
「双方の人的被害は?」
「はぁ?」
ダコスタは思わず聞き返す。抵抗するすべも持たない民間人相手に、被害など出したらいい笑い者だ。
「あるわけないですよ。戦闘したわけじゃないんですから!」
「双方だぞ?」
「………そりぁまあ、街の連中の中には、転んだだの火傷しただのってのはあるでしょうが。」
結局のところ、バルトフェルドは『気分の悪い』ことはしない主義なのだ―――と、最近ダコスタは思うようになった。非戦闘員―――女子供や年寄り連中を傷つけたり殺したりすることは気分が悪いからしない。彼が人道主義者であるとは言わない。もちろん必要なら街の一つや二つ焼き払うことを躊躇ったりしないし、住民を殺す場合もある。だが、ただ街を焼くだけで同じ効果を上げるなら、それだけでいい。それは彼なりの合理性に従った行為なのだろうと思う。
「では引き上げる。ぐずぐずしてるとダンナ方が帰ってくるぞ。」
バルトフェルドのあっさりと言った言葉に、ついつい呆気に取られた顔になってしまう。
「それを待って討つんじゃないんですか?」
「おいおい、それじゃ卑怯だろ!?ダコスタくん、ボクがヤツらを誘き出そうと思って街を焼いたとでも思ってるの?」
心外そうに言われ、ダコスタは「はあ……?」と力なく呟く。卑怯もなにも、それが戦争なんだからそういったものだろう、という、極まともな意見はこの人に言うだけムダだ。
「ここでの目的は達した!帰投する!」
バルトフェルドは指示し、ダコスタはそれを部隊に伝えた。やっぱりこの上官は分からない。彼の行動を読むことは、自分には不可能だ。
スカイグラスパーが夜空を切り裂いて飛ぶ。タッシルはレジスタンスの拠点から東に数十キロの距離にあるが、行き先に迷う可能性は全くなかった。百キロ先からでもこの灯りは見えるだろう。
燃えさかる街に近づくと、ムウは気流に巻き込まれないよう注意しつつ、上空を旋回した。
「ああ……ヒデェな………全滅かな、こりゃあ………」
流石の彼も、口調に苦いものが滲むのを抑えられなかった。
無事に残っている区画はほとんどなく、残ったそこも、じきに延焼の炎にのまれて灰と化すだろう。街に動く姿はなかった。火の勢いは凄まじく、機体が気流に持って行かれそうになるほどだ。そのときムウの目になにかを捉えた。彼はヘルメットの奥で視線を転じ、ふと虚に衝かれた表情になった。
町外れの小高い丘に、人影がみえた。生存者が残っていたのだ。―――というより、ほとんどの住民が生き残っているように見える、とムウはスカイグラスパーを付近に着陸させながら考える。街の規模からして、人口はそう多くはあるまいが、この丘付近以外にも街周辺には人影がみえた。そしてその数はけっして少なくない。
ムウは通信回線を開いた。
「こちらフラガ………生存者を確認。」
『そう………よかったわ。』
荒れた画面の中で、マリューの顔が少し微笑む。
「………ていうか、ほとんど皆さんご無事のようだぜ。」
『え?』
「こりゃ、いったいどういうことかな?」
ムウが困ったようにいうと、画面に映るマリューも困っている。
『敵は!?』
当然そう考えるだろう。それならば街を焼いたのは、彼らやレジスタンスを誘き寄せる作戦に違いないと。だが、敵の姿はどこにもない。砂のしたに潜っているというなら別だが。
レジスタンスのバギーが到着し、家族の姿を見つけて駆け出す。妻や子供を抱き締める者、夫にすがって泣き崩れる者、肉親の無事を到着する者の姿が見られた。そこへ、少し遅れてアークエンジェルのバギーも到着した。ナタルが降り立ち、すでにコクピットから出て家族たちの再会を眺めていたムウに駆け寄る。
「少佐、これは………?」
困惑している彼女をよそにサイーブが指示を出しながら、避難民の中を歩き回る。長老が居たようで、状況を説明してくれた。死んだ人が一人もいないそうだ。それどころか今から襲うから逃げろと警告し、攻撃してきたようだ。
「警告のあと、バクゥが来た。そして焼かれた………家も、それに食糧も、燃料、弾薬、全てな………たしかに、死んだものはおらん。今はな……。じゃが、全て焼き払って、やつらは明日からわしらにどうやって生きろというんじゃ……。」
静かな憤りをこめて、長老は砂漠の日差しに刻みつけられた皺をさらに深める。
「ふざけた真似を……!どういうつもりだ、虎め……!」
サイーブが拳を握りしめる。そのとき、怒りに沈んだ空気に、横から淡々とした声が割り込んだ。
「だが、手だてはあるだろ?生きてさえいりゃさ………。」
「なに!?」
サイーブたちが険悪な表情で、言葉を発したムウを見やる。ムウはいまだに火勢の衰えないタッシルを眺めていた。
「―――どうやら虎は、あんたらと本気で戦おうって気はないらしいな。」
「どういうことだ?」
「こいつはアークエンジェルと戦う前に、目障りなハエを払いにきたようなもんだろ?こんなことですますなんて、ずいぶん優しい人じゃないの、彼?」
「なんだとぉ!?」
ムウの軽い言葉にカガリが飛び出し、胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄る。
「『こんなこと』?街を焼かれたのが『こんなこと』か!?これのどこが優しい!?」
ムウは彼女の勢いにたじたじとなる。身長差がなければ、キラのようにいきなり殴られていたかもしれない。
「失礼、気に触ったんなら謝るけどね。けどあっちは正規軍だぜ?本気だったらこんなもんじゃすまないってくらい、分かるだろう?」
バクゥが数機いたら、楽に殲滅させることなど簡単なことだ。
だが彼の言葉は、逆にカガリの怒りに火をつけてしまったらしい。
「アイツは卑怯な臆病者だ!我々が留守の街を焼いて、それで勝ったつもりか!?我々はいつだって勇敢に戦ってきた!」
彼女は激高し、周囲のレジスタンスたちも、それに賛同するようにムウを軽蔑の目で見る。街の住民も、こころなしか、ナタルの目まで冷たい。
「―――だから臆病で卑怯なアイツは、こんなやり方で仕返しするしかないんだ!なにが『砂漠の虎』だ!」
先の闘いでバクゥを含め多くの戦力を漸減することができた。だがそれはストライクと、何よりベーシスを駆る黒騎士カナデ・ドウジマの卓越した技量によるところが大きいだろう。
それを自分の力のように思い込んでいるのか、砂漠の虎を叩いたという事実だけが一人歩きしている。
「おまえら、どこに行く!」
サイーブの鋭い声に、一同はそちらに目をやった。レジスタンスのメンバーが、手に手に武器を持ち、バギーに乗り込もうとしていた。
「ヤツラが街を出て、まだそうたっていない!今なら追いつける!」
「なにを………!」
「ちょっとちょっと、マジ?」
男たちのやりとりを聞き、ムウは思わず口の中で呟く。そちらに気を取られた彼は、カガリが灼き殺しそうな目で自分を睨みつけているのに気づき、大急ぎで誤魔化し笑いを浮かべた。
「あー………えー………ヤなヤツだな、虎って。」
「あんたもな!」
少女は彼の鼓膜を破る勢いで怒鳴ると、ぷいと仲間たちのほうへ向かう。バギーのところでは、サイーブと男たちが揉めていた。
「街を襲った直後の今なら、連中の弾薬も底をついているはずだ!」
「俺達はやつらを追うぞ!こんな目に遭わされて黙っていられるか!」
男たちは口々に言いつのり、興奮した顔でエンジンをかけた。サイーブが慌てて止めようとする。
「馬鹿な事を言うな!そんな暇があったら怪我人の手当をしろ!女房や子供についててやれ!そっちの方が先だろう!」
だが怒りに燃えた男たちは倍の勢いで怒鳴り返す。
「それでなんになる!?――見ろ!タッシルはもう終わりさ!家も食糧もすべて焼かれて!――なのに、女房子供と一緒に泣いてろとでも言うのかよ!?」
「まさか俺達に虎の飼い犬にでもなれって言うんじゃないだろうな、サイーブ!」
サイーブは言葉に窮した。その考えが一瞬でも浮かんだからだ。それを感じ取ったのか、怒りでリミッターが振り切れたのか顔を険しくするだけのサイーブを置いてバギーが次々と走り出した。取り残されたサイーブは、どうしょうもない苛立ちをぶつけるように砂を踏みつけた後、一人の男を呼んだ。
「エドル!」
「おう!」
その意味を心得ている男はバギーを寄せ、それにサイーブは飛び乗った。そのバギーにカガリが駆け寄る。
「行くのか、サイーブ!」
「………放おってはおけん。」
「私も行く!」
飛び乗ろうとしたカガリを押し退けて、払い落とした。
「お前は残れ。」
その言葉だけ残して、バギーが走り去る。カガリは彼の言葉の意味を考えもせず、砂煙にむせながら「サイーブ!」と怒鳴り、恨めしげな視線を送った。その彼女の前にアフメドの車が停まる。
「乗れ!」
すでに後部座席には、いつも影のように付き従う大男の姿もある。カガリの顔が、パァッと明るくなり、彼女は喜び勇んでバギーに飛び乗ると、仲間たちの後を追った。
「なんとまぁ………」
ムウは彼らを見送り、深くため息をついた。
「風も人もお土地柄なのねー………。」
ナタルは彼の詩的な感想など聞かず、レジスタンスたちの暴挙ともいえる行動に呆れる。
「全滅しますよ?あんな装備でバクゥに立ち向かったら!」
「だよねぇ………。」
案の定、それを報せたらマリューもあきれた。
『なんですって!?追っていった?なんて馬鹿なことを!』
流石のムウもそこまでは言わなかったが。女性はきつい。しかもそれだけではすまず、モニターの中で、彼女はムウを睨みつける。
『なぜ止めなかったんです、少佐!』
とんだとばっちりだ。
「止めたらこっちと戦争になりそうだったの。――それより、街の方も……どうする?たしかにこれじゃ、さっそく食糧や―――なにより水の問題もある。これだけの人数だからな。怪我人も多い。」
マリューはため息を吐いた。
『キリュウ一佐に後を追ってもらいます。それとヤマト少尉にも後詰めをしてもらいます。フラガ少佐は帰投を。そちらには、残った車両で水と物資を送ります。』
「あ、そ。りょーかい。よろしく。」
のほほんとした調子で了承しながら、目の前に広がる状況を分析した。
―――ごく普通に街を焼き討ちしていれば、これほどの数の難民を此方が抱えることもなかったのだ。レジスタンスやアークエンジェルとしては、自分たちのとばっちりで攻撃を受けた彼らを見殺しにすることもできず、相当な物資を放出せざるをえない。そう考えると、虎の目的はもしかして、できる限り大量の難民を作り出すことだったのかもしれない。難民はムウたちにとって足枷になりかねなかった。
もちろん、こんな考えを口にしたら、今度こそあの好戦的な女神様に殴られるだろうが。
周辺の警戒からバルトフェルドの後を追ったレジスタンスの救援に向かってくれと命令を受けて、後を追う。
正直に言えば気乗りしない。理由は幾つかあるが、一番の理由はもうすぐ分かる。
日が昇り、朝になった。外は暑いだろうな。昼にはまだまだあるが。
バクゥと戦っているレジスタンスの姿が見えた。バクゥに追われるレジスタンスがモニターに映っている。それはそうだ。バクゥと自走砲では話にならん。当然の結果だ。
スコープを引き出し、覗き込む。此方に気付いていないのか何らかの要因で動けないバクゥに照準を付け、トリガーを引く。
バクゥの横にビームが着弾した。外したっ!?その瞬間ハッとした。砂漠の熱対流か!チッ、気付かなかった。
キーボードを取り出してプログラムの修正をする。ザフト時代は実弾を使ってきたから、そこに考えが至らなかった。
再度違う敵機に照準を付けて放つとバクゥには避けられたが狙ったところに着弾した。よしっ、これで戦える。
アラートが鳴る。横合いからバクゥがミサイルを放ったのを確認した。下がりながらライフルとバルカンで撃ち落としつつ、砂丘を盾にして防ぐ。
「3機だけか………早々に排除する。」
攻撃に打って出ようとした瞬間、嫌な感じがし、フットペダルを踏み込み機体を一気に移動させる。その瞬間、さっきまで居た場所に弾頭が何発も着弾した。発射地点を確認するとフォーメーションを組みながら射撃してくる5機のバクゥが迫ってきた。
飛んでくる攻撃を躱しながら、射撃をするとフォーメーションを崩しながらも互いにフォローして此方に効果的な攻撃をさせないようにしている。
「チィッ、アウステルリッツ帰りかっ!」
あの攻撃フォーメーションは俺が考案した特殊な訓練が必要でそこそこの技量がいる。それを使えるのは歴戦の猛者しかいない。
さっきまで相手をしていた3機はレジスタンスの相手をしようとしているのだろう。此方に来ない。このままならレジスタンスの連中は全滅するだろう。まずいなと思っているとその3機の内の1機にビームが飛来した。キラ君が来たのか。
『カナデさんっ!』
通信機からキラ君の声が聞こえる。
「此方はいいっ!そっちの3機を頼む。レジスタンスの連中から引き離す!」
『了解です!』
私の相手をする5機は、此方の技量を理解しているのか遠巻きからしか攻撃してこない。私の機体はPS装甲がない。つまりは相手の攻撃は一発でも致命傷になるということだ。
そうなれば敵は一気呵成に攻めてくる。
私もザフトで名を馳せた男。キラ君が3機を片付けてこちらに援軍に来るのを待つなど出来ん。黒騎士の実力、見せてやる。
グッとフットペダルを踏みこんで1機の敵に急速に接近する。敵のフォーメーションを崩さないと話にならんからな。敵がレールガンを放つ。私が接近しながら放ったビームがそれを撃ち抜き、爆発を起こす。広がった爆煙を一気に駆け抜けて接近し、すれ違いざまにサーベルで切り裂いた。ギリギリで躱されたが足を切り裂かれ、走行不能だろう。
パイロットの脱出を援護するためだろう。ミサイルを放ち、半壊のバクゥから引き離そうとしてくる。
幾度かの交戦をするも敵の撃破までは至らない。PS装甲があれば多少の無茶も出来るのだが………。
大きめな砂丘の影に機体を隠すように入ると、どうやら撤退に移り始めた。キラ君の方を確認すると1機撃破し、1機を損傷させていた。
こちらとの間にミサイルを撃ち込み、爆煙を上げて撤退に移っていた。
相変わらず引き際のタイミングも、撤退の仕方も見事だ。
去っていくザフト軍を見ながら思った。
「ほう………」
戦闘を見ていたバルトフェルドは感嘆の息をついてスコープを下ろした。
「ストライクまで来ましたが………?」
追ってくるなら仕方がないとレジスタンスを叩いた。そしてその救援に来るかもしれないと伏せていたバクゥ5機の相手を、あのプロトタイプが相手している。
砂漠の虎の指揮下にある中でも腕利きのパイロットの連携と互角に戦っている。
そしてタッシルを攻撃した3機はストライクを相手取っている。
このまま戦闘を続けるのかと尋ねるも、バルトフェルドの関心はそこにはなかった。
「先日と装備が違うな。」
「は……あ、たしかに……。」
前回は砲戦仕様、今回は多分機動性重視の装備なのだろう。
「それにビームの照準……即座に熱対流をパラメーターに入れたか……。」
彼の意識はすでに『なぜ』とか『何の目的で』とかの問題から離れていた。あのモビルスーツの戦闘能力、―――そしてコクピットにいるパイロットの能力をもっと知りたい。それにしか興味がなかった。
パイロットは戦いながらモビルスーツのOSをいじっている。それほどのプログラミング能力、艦砲を撃ち落とすほどの射撃精度、そして卓越した反射神経と運動能力を発揮するモビルスーツのパイロット。
―――気になる。
さっきから脚にレジスタンスの砲撃をくらい、動けなくなっていたカークウッドのバクゥが復調したらしい。キャタピラを回転させ、前肢を動かしてジョイント部に問題がないことを確認してから機体を動かし始めた。
「カークウッド、代われ。」
『はっ!?』
無線から虚を衝かれて聞き返すパイロットの声が聞こえる。
「バクゥの操縦を代われと言っている。聞こえてるか?」
『はっ、聞こえてます!ですが……』
困惑しているパイロット。隣のダコスタが驚いて「隊長!」と声を上げるが、かまわずバルトフェルドはカークウッドを口説く。
「今度一杯奢ってやるから!」
『………じゃ、アルコールの入ってるもんでお願いします。』
隊長ご自慢のブレンドコーヒーを飲まされた事のあるパイロットは、渋々答えた。
「隊長!」
ダコスタが、今度は非難の調子を漂わせ呼びかけた。指揮官たる者、どっしりと腰を落ち着けて、他人の働きを見ていろと言いたいのだろうが、バルトフェルドはパイロットとして現在の評価を得るまでになり、そして今なおパイロットなのだ。さっきから身体がうずうずしている。あのパイロットと対戦したくてたまらなかった。
バルトフェルドは困った顔をしている副官に向かって、にやりと笑ってみせる。
「撃ち合ってみないと分からないこともあるんでね。」
バクゥがミサイルを連射した。ストライクがそれを躱し、ジャンプすると、敵機もそれを追って高く跳び上がる。勢いをつけて蹴りつけてこようとしたところを、キラはシールドで弾き返した。空中で体勢を崩すバクゥにすかさず照準を合わせる。
―――もらった!
ターゲットマークが目前で点灯する。そこへ、横殴りの衝撃があった。
「………っ!?」
右側面から発射されたミサイルが着弾したのだ。キラは慌ててそちらに機体を振り向けようとしたが、間を置かず2発目をくらう。
「3機目!?まだ動けた―――?」
さっき戦力外と切り捨てた1機が、いつの間にか戦線に加わっている。バクゥは3機で合流し、編隊を組むように横に並んで、そのままキャタピラを駆動させ、高速でこちらに突っ込んでくる。避けきれず跳ね飛ばされ、キラは衝撃に呻く。頭を振って顔を上げると、モニター一面にミサイルが迫っていた。
「うっ……!」
頭に一発喰らい、カメラは潰されなかったものの爆煙で視界を一瞬塞がれる。その隙を突いてバクゥが眼前に躍り出た。
「うわあぁっ!」
叫びながらとっさに頭部バルカンを撃ったが当たらず、そのときには凄まじい蹴りを胸部に受けていた。急激にかかるGに鎖骨が軋む。既のところでバーニアを吹かし、地面との激突は避けられたが、上空にいるバクゥの射撃からは逃げられない。容赦なくミサイルが撃ち込まれ、キラは懸命に機体を操った。
助けを求めるようにカナデさんの方を見ると4機のバクゥを相手に互角の勝負をしていて、すぐにこちらに来られそうにない。
―――なんだ……!?
さっきまでと比べてバクゥたちの動きには、明らかな変化があった。あの3機目の機体が戦線に参入した瞬間から、統制が取れ、高度な戦術を駆使するようになったように思える。
これではこちらが息をつく暇もない。いくらPS装甲が通常弾頭を防ぐといっても限度がある。PSシステム自体が一定の電力を必要とする以上、被弾すればするだけ電力消費は増え、それだけタイムリミットが近づく。これ以上被弾したら、PS装甲が落ちる危険があった。バクゥが着地し、再び同じフォーメーションを取って急襲する。ミサイルが発射され、ストライクを狙う。あれを喰らったら………
―――やられる……!
そう思った瞬間、あの不思議な感覚が襲った。知覚が研ぎ澄まされ、すべてが同時に感知される。発射され、自分に向かってくる十数発のミサイルがたどる軌跡、バクゥの尖った鼻面に当たる強烈な日差し、キャタピラの回転数………。
キラはミサイルを充分に引きつけたところで、逆制動をかける。ストライクの鼻先でミサイルが収束し、互いにぶつかり合って激しい爆発が起こった。その時にはキラの手はスロットルを限界まで押し込み、足はフットペダルを蹴っていた。
ストライクが大きくターンし、バクゥの前面を横切って脇へ抜ける瞬間、キラはシールドを手放した。そのシールドは外側の1機に当たり、フォーメーションから抜けさせる。
そして素早く空中で向き直る。ビームライフルが火を噴き、バクゥは後方に飛び退って辛くもそれを避けたものの、フォーメーションは完全に崩れた。
着地の瞬間を狙って放たれたミサイルを、キラは身を屈めて難なく避ける。着弾直後を叩こうと飛び掛かったバクゥは、抜き放たれたビームサーベルで翼の片方を斬り落とされ、体勢を崩して落下した。なおも撃ちかけられたミサイルの目前で、ストライクは急制動をかける。足のバーニアから推進ガスが噴射され、濛々と砂煙が上がった。そこへミサイルが突っ込み、今度は激しい爆煙が上がる。1機のバクゥが爆煙を避けて飛び越えようもした。
煙が晴れたとき、パイロットが見たものは、バクゥと同じ速度で並行して、低空を滑るように飛ぶストライクだった。
キラがトリガーを引く。ビームがコクピットを貫き、バクゥは砂漠に落下しながら炎を噴き出した。ムキになったように向かってくる最後の1機に、キラはサーベルを一閃させた。
交錯する2機。着地したバクゥの背後には、斬り落とされた前肢が転がった。
雌雄は決した。引き上げていくバクゥを見送り、キラはシートにへたり込んだ。去っていくバクゥを見送りながらカナデさんの方に目をやる。
カナデさんも1機撃破し、1機に損傷を与え、1機のバクゥのレールガンを破壊していた。
キラが降りていくと、レジスタンスのメンバーがどこか気不味い表情で彼を迎えた。
キラは滅多になく苛立っていた。出撃の前、サイとやり合ったせいもあり、ギリギリの戦いを強いられたせいもあった。ひしゃげた車の残骸や立ちのぼる黒煙、砂まみれの死体が一層その気分を逆撫でする。
彼は、泣きそうな顔で自分の前に立ったカガリやサイーブたちに向かって、低く冷たく言い放った。
「―――死にたいんですか。」
頭に来ていた。バギーとランチャーなんかで、この人たちは本気でバクゥを倒せると思っていたのだろうか。彼はこれ以上ないほど冷ややかな声で続ける。
「こんなところで………。なんの意味もないじゃないですか。」
「なんだと!?」
途端にカガリが噛みついた。彼女はキラの胸元を掴み、片手を振って背後を指した。
「見ろ!彼らにそう言えるのか!?」
そこには何人もの死体が横たえられていた。先日見た、キラとそう歳の変わらない少年の変わり果てた姿もある。カガリは目に涙を溜め、なおもヒステリックに喚いた。
「みんな必死で戦った!戦ってるんだ!大事な人や、大事なモノを守る為に必死で………!」
―――守る。守りたいから、戦う。
だがこうなったら、いったい誰を、何を守れるというのか。
愚かな少年―――キラと同じだ。自らの甘さで失敗して、その代償にキラは他人の命を、彼は自分の命を失った。なのに、この少女はその愚かさに気づかず、いつまでも同じことを繰り返そうとしている。
キラは自分が抑えられなくなる。思わず、喚き続けるカガリの頬を張り飛ばしていた。
「―――気持ちだけで、いったいなにが守れるって言うんだ!」
カガリは目を見開き、キラを見つめた。
機体で荒い息を整え、周囲の警戒をする。機体の外に取り付けられた集音マイクが外の声を拾う。
キラ君の状態が良くないな。ずっと続いた戦闘。守れなかった人達、親友との戦場での邂逅と多くの問題がありすぎた。
それが精神状態に過負荷をかけているのだろう。どうにかしてやりたいが、こんな状況下では………。
それにしても………キラ君があの小娘を引っ叩くとは。あの馬鹿娘には色々と学んでほしいものだが………。こうも様々な問題が降り掛かってくるとな………流石の私も。
誰にも聞かれることがないから、一際大きなため息をコクピットに響くくらい吐き出した。
次の更新予定はアオのハコの予定です。
とりあえず2話か3話で千夏先輩の誕生日と文化祭の冒頭まで書く予定です。
その後は流れに身を任せる予定です。
アオのハコのテレビ放送も始まっているので、熱が上がって連投するかもしれないので。
気長にお待ちください。