OMORI -After words-   作:|2:<|<‘/


原作:OMORI
タグ:R-15 一話完結
この物語にはOMORIの重大なネタバレ、自己解釈、二次創作、改変などの要素が含まれます。

始まりの舞台はOMORI本編のラストシーン。主人公サニーの言葉と、その後を描きます。
OMORIのストーリーを既にご存知の方は、より楽しんでいただけるかもしれません。

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あと0日

「みんなに、伝えたいことがあるんだ」

 

 サニーの言葉に、彼の友人であるオーブリー、ケル、ヒロの3人が病室の中でサニーに視線を合わせる。3人はもう1人の友人である、バジルが寝込んでいるベッドを囲んでいた。

 サニーもバジルも、決して軽いとは言い難いほどの怪我を負っている。改めて右目に眼帯をしているサニーと向き合った3人の中で、オーブリーが真っ先に口を開く。

 

「ねぇ、サニー……昨日、何があったの?」

 

 それに続いて、ケルとヒロもサニーに声をかける。

 

「皆心配してたんだからな!」

 

「サニーも、バジルも……酷いケガだった。気も失ってたみたいで——でも、無事で良かった」

 

 サニーの中で、何かがキュッと引き締まったように苦しくなる。彼の言う伝えたいこと……それは、昨晩のバジルとの喧嘩のことではなく、それはこの場にいる誰にとっても重く苦しいことだったからだ。

 

「そ、そうじゃない……姉の……マリの、死の本当の理由……」

 

 次第にか細くなっていくサニーの言葉に、その場の空気が一気に凍りついたように冷たくなった。

 普段はお調子者で、少しバカで、いつも明るい雰囲気であったはずのケルでさえも、言葉を失っていた。

 

「ぼ……僕は、発表会の日に……あのバイオリンを壊したんだ。それも、故意にやった。練習も辛くて、当日に上手くできるかも分からなかった」

 

 サニーの肺に息が詰まった。それでも、どうにか声を出し続けようと、呼吸を整えようとする。

 

「……そ、そして……マリが階段の前に立ち塞がって……ぼ、僕は……マリを、突き飛ばした。膝が悪いことも忘れて。それでマリが階段から、頭から落ちて……死んだ。僕が——殺してしまった」

 

 ヒロの表情が目に見えて暗くなっている。今まで親友だと信じていた者から告げられた真実を前に、マリと恋愛関係にあった彼からすれば無理もないことだった。

 

「……バジルは、その日は早くから来ていたんだ。……それでも、どうするべきか分からなかった。それで、僕達は——マリの——マリの、死を……偽装した」

 

 オーブリーは目に涙を浮かべながら、顔を真っ赤にして拳に力を込める。しかしながら、震えるその手をサニーやバジルに振るわなかった。

 

「4年だよ——どうして、どうして今まで黙っていたの? こんなのおかしいよ、サニー……」

 

「ヒロ、大丈——」

 

「……ごめん。今は、1人にして欲しい」

 

 ヒロは立ち去った。

 オーブリーも立ち去った。

 ケルは困ったようにサニーに目線を合わせた。かける言葉も見つからず、すぐに2人の後を追った。

 誰も、病室を出る時に振り返りなどしなかった。

 サニーはその扉の方へ向き直ることもできなかった。

 

「バジル」

 

 サニーが重い足取りで、バジルのベッドに歩み寄った時——あざだらけの彼が目を開けた。

 

「サニーくん……? ここは、どこなの? ——みんなは?」

 

「終わったよ、全部……全部、伝えたよ……あの時のこと」

 

「………マリちゃんのこと? そんな、でも、みんなは、君を——」

 

「きっと、全部うまくいく——でしょ?」

 

 サニーは泣いていた。涙で濡れた顔を、笑顔で飾る。

 バジルは、何故サニーが笑えるのか分からなかった。でも、確かにある笑顔を前に、彼の後ろにいる『何か』が消えていくのを見て……バジルはなんとなく、自分の親友が全てを受け入れたことを理解した。

 

「……はは」

 

 バジルは静かに、笑顔を返した。

 

 

 

 

  * * *

 

 

 

 

 サニーは揺れる自動車の中で、窓の外の景色を見ながら呆けていた。彼がこうなっている時、ほとんどの場合空想の世界に入り浸っているものなのだが、今回は違う。

 思い出すのは、あの町で過ごした日々だ。4年以上の歳月が流れたと言うのに、今も色褪せることなく鮮明に思い出せるのは何故なのか。考えてみても答えは浮かばない。ついに新しい家に着いても、それから何日かが経過しても、ずっとそれを思い出していた。

 サニーは自身の母親の顔を久しぶりに見た時、彼は表情を崩していないつもりでいたが、母親はそれ(・・)を見逃さなかった。

 

「サニー、何か……少し、穏やかな顔になった?」

 

 母親の問いにも、サニーは答えない。無口であることは昔からのことで変わり無かったので、母親も笑いかけるだけで、それ以上は何も言わなかった。

 

「あ、そうだ! オーブリーちゃんがサニーに電話したいって。もう少しでかけ直してくるらしいから、出てあげたら?——あら、丁度かけてきてくれたわ。優しい子ねぇ、お見舞いも来てくれたんだもんね?」

 

 サニーは思わず目を見開いた。一体何を言われるのだろうか? あの時、彼女は怒りで満ち溢れているようだった。受話器を持つ手が小さく震える。今、サニーは威嚇された小動物のように恐怖している。

 

 ——これじゃダメだ。

 

 その思考が頭を横切った時、サニーは頭を振ってその恐怖を振り払う。そして、受話器を耳元まで勢いよく運んだ。

 

『あっ……もしもし、サニー?』

 

 向こうからオーブリーの声がする。サニーは声を出せなくなったが、今電話を取ったのがサニーであることをなんとなく察したオーブリーは話を続けた。

 

『あのさ……サニー。私、サニーがやったことは、確かに許されないことだと思うんだ』

 

 サニーの息遣いが少し深く、荒くなる。

 

『でもね。私さ……サニーの気持ちがわかるんだ。あの時——バジルを池に突き落とした時、そんなことをするつもりじゃ無かったし、サニーやヒロが助けてくれなかったら……私、今頃殺人犯になってた』

 

 意外な言葉に、サニーの呼吸が一瞬止まる。

 

『サニーが全部話してくれた時から、ずっと考えてたんだけど……サニーやバジルは、まだ今よりずっと幼かったし、周りには助けてくれる人もいなかったんじゃないかって思った。だから。だからさ、私は……サニーを、許すよ』

 

『そうだな。俺やヒロだって、サニーを溺れさせかけた時もあったしな……あん時はマリが助けてくれてさ。俺ら二人揃ってすげぇ怒られたよ。本当のことを聞いてすぐの時は混乱したけどさ……オーブリーやヒロと話し合って、サニーとバジルを許す選択をしたんだ——だろ?アニキ?』

 

『……サニー。確かに、君がやってきたことは酷いよ。でも、みんな一歩間違えればそれぞれが同じ過ちを犯すところだった。それに、君がその事でずっと苦しんできたこと……そしてこの先もその事で苦しんでしまうこと……きっと、マリが知ったら悲しむと思う。マリなら、許してあげてって……言うと思う。確かにサニーは、一度は進む道を間違えたのかもしれないけど……正しい心は、失っていないんだって、信じてるよ……バジルのことも、ね』

 

『サニーくん……あの時の僕は——ううん、今の僕も、ずっと無責任で……こんな事になるなんて思って無くて。本当に、ごめんなさい。あの日の夜に……ケガをさせたことも。全部、ごめんなさい……こんな僕まで許してくれて、まだ友達でいてくれるって言ってくれて、みんなや……サニーくんには、感謝しきれないよ。どうか、また、元気でね』

 

 受話器の向こうから聞こえる友人達の言葉に、サニーは涙を抑えられなかった。

 僕は……許されても良いのだろうか? これほどまでに素晴らしい友達を持ってしまって良いのだろうか? サニーは幼子のように泣いた。そんなサニーに、オーブリーが最後に言葉を重ねた。

 

『サニー……いつでも、待ってるからさ……たまには、会いに来てね』

 

 

 

 

 

  * * *

 

 

 

 

 

 とある民家の中庭に、やたらと目立つ切り株がある。年輪の中心には風車が刺され、その横には花束とアルバム……そして、植木鉢がある。花束にはヒマワリ、白のチューリップ、色とりどりのバラ、グラジオラスで一杯に満たされており、植木鉢にはサボテンが植えられている。

 

 

 

 ——そして、その隅にはスズランが1輪。

 

 

 

 

 


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