とある2人の竜による、蒼く透き通った他愛のない青春の話

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とりあえずモンハンtriのオープニングムービーを見てからコレを見てくれ



第1話

 

 青く澄んだ満天な天気だった。

 海のように深く、大空のように広がるソレは、誰が何と言おうとピクニック日和な天気というだろう。

 

 また、そこに浮かぶ青い輪を見たところで誰も疑問には思うまい。

 それもまたこの世界の様式美だからだ。

 

 ――ここは、学園都市キヴォトス。

 

 日々、生徒が跋扈し、学びを得ながら、奇跡的で透き通った日常を過ごす都市。

 下を見れば()()()()()生徒が、上を見れば()()()()()()()ビルの窓ふきで働く少女が、たまーに路地裏を寄ってみればそこには()()()()()()()()()カツアゲ中の不良少女が。

 ……まあ、所々おかしいところはあるが、この世界では至って普通な日常に寄り添っている子供がいるのだった。

 

 ついでに、その生徒全てに天使の輪(ヘイロー)がもれなく付いていることも、ありがちな普通だった。

 

 

 

 さて、例に漏れずこういうところにも生徒はいる。

 

 そこは薄汚く、露天販売上等、違法物がそこらじゅうで投げ売りされている路地裏を拡大したような場所。

 パチパチ、と切れかけの電球すら放置されたそこは。

 名を「ブラックマーケット」と呼ぶ。

 

 文字通りの闇市と呼ばれるその一帯は、その名を関したような無法地帯だ。

 独り身で歩けば不良によるカツアゲは当然、意地汚い大人が大暴れし、時にワンワン派とニャンニャン派と呼ばれるまったくもって意味不明な派閥が戦争を引きおこす程には、無法なものなのだ。

 

 そして、ここは不良に落ちた生徒。

 要は学園から退学を言い渡されてた者のたまり場でもある。

 

 だからこそ、学園都市を整備する政府――連邦生徒会はそれを盾にこの無法地帯をあえて法治化することはせず――……いや、この話は後としよう。

 

 

 

 ともかく、ここには様々な生徒がいるのだ。

 数多くの学園から仕切られた境目を超えて……言い方はあれだが、色とりどりな生徒が大勢いる。

 

「へいへい、そこの嬢ちゃん! 一人でこんなとこに来たのが運の尽きだな! 痛い目にあいたくなきゃ身ぐるみ全部置いてきな!」

 

 先の通り、もはや王道的とまで言える不良が。

 

「そうだぜぇ! その立派に育った角を折られたくなきゃササっと支度をするんだなぁ!」

 

 不良が。

 

「ちくわ大明神」

「誰だ今の」

 

 ……不良ばかりが。

 いるが、それもまたこの無法地帯の一端に過ぎない。

 そう、カツアゲされたこの少女もまた、その一端なのだ。

 

 

「…………はぁ」

 

 

 丁度、不良と同じような身長だろうか。150cmほどの体格をした少女。

 青色のヘイローを揺らし、肩に折り畳み式の何かを担いだそのゲヘナ学園所属の少女は。

 黒に染まった制服を揺らして嘆息を吐いた。

 

 羅起亜(ラキア) クルスと呼ばれるその少女は。

 頭部に特徴的ともいえる2本の双角を、不機嫌を表すように蒼く煌めかせる。

 

「な、なんだよ」

 

 突っかかっているのは不良の方。

 銃を突きつけているのは不良の方。

 

 だというのに、物怖じすらしない目の前の存在に対して、思わず不良側が一片の怯えを見せた。

 

「いいや。相も変わらずこの一帯は荒れきってるようだと感心したんだ。何せ、(オレ)が思い立って久々の遠出をしようとすれば、こ・れ・だ。ため息もつきたくなるだろう? なあ不良1番?」

 

 とても麗しの乙女が使うような言葉使いではない。そんな男のような台詞。

 

 何か、生存本能的な何かが働いた不良少女は、目の前の少女に怖気づいてしまう。

 理屈じゃない。自身が持つ感覚が、その少女を危険視していた。

 その神秘が、存在が、ヤバイと叫んで、いて……

 

 そして――ギラリッと、人のモノとは思えない紅き瞳孔に睨まれたことで、その予感が確信に変わる。

 

 数瞬の静寂。

 そして、その流れを他愛なく破るかのように、路地裏にてクルスの声が響いた。

 

「おい」

「はっはい!?」

「貴様が、この群れの長か?」

「えっ?」

「お前がこの不良共のまとめ役かと聞いているんだ」

 

 ゲヘナの、制服を着たその少女は、一人の不良に声をかける。

 もはや最初の威厳は消え去った。

 彼女たちは、獣に睨まれた小動物のように身を震わせ、怯えた声でその問いに答えるだけの存在にしかなり得なかった。

 

「い、いやアタシたちはただの集まりだから……そういうのは……」

「ほう? 無い、と」

「そ、そうだ」

 

 答えを聞いたそのクルスは、それを聞いて何を考えたか口角を上げる。

 

「そうかそうか、それは上々。即席の集まりでこのような狩りを行える魂胆は中々見据えたモノだ」

「は、はあ」

「そりゃどうも」

「ありがとう……?」

 

 その姿に、不良生徒が悪寒を感じる。

 既に関わった事に後悔すら感じながらも、笑ってその様な台詞を吐く2本角のゲヘナ生徒に警戒心を増していた。

 

 そして。

 その予感は、的中する。

 

 

「ならば、狩られる側の責任も、頭領がいない分。全員に分けなければいかんなぁ?」

「は……?」

 

 

 次の瞬間。

 

 ドゴンッッ! という爆音と共に。

 

 一番少女の近くへと寄っていた不良生徒の姿が、影へと変わった。

 

「な……!?」

「フ、フキちゃーん!?」

 

 残像すら残すほどの速さで吹き飛んだ不良……フキと呼ばれた生徒はビルの壁に激突。保っていたその意識を、一瞬で消し炭に変えていた。

 起きることは無い。腕もだらけて、ヘイローすら消して昏倒しているのだから。

 

 そして何より、攻撃を受けた彼女の腹部。

 

 弾丸の痕跡を残し、衣服すら貫通せしめるその威力をまともに受ければ、気絶するのも無理はない。

 

「テ、テメェ……!」

 

 起きる気配がない友人を見たか、踵を返して攻撃したクルスを睨み返す不良。

 攻撃されたからには、攻撃し返す。

 やられたからにはやり返す。

 その意義を再び持ち、手にしたアサルトライフルで照準を合わせようとするが。

 

 だが、その気は。

 硝煙が晴れた先、突っかかった少女が持つ銃を見たことで霧散した。

 

「なんだ? まさか狩る側が狩られる訳がないと、タカをくくっていたんじゃあるまい?

 悪いが、生憎(オレ)はそこまで優しくはないぞ? 貴様らも狩る側と宣うのなら、いつか狩られる恐怖を持てというものだ」

 

 台詞が、入ってこない。

 

 なんだあれは。

 なんだあの銃は。

 なんだあの神秘は。

 

 まさしく異端な、異常なほどの雰囲気に、不良たちは飲まれかけそうになっていた。

 

 よく見る投げ売りされているような銃ではない。そんなものでは断じてない。

 かといって、自分たちが持つようなライフルというわけでもない。

 ましてや、そのカテゴリに属してすら()()()

 

 キャノン砲とでもいうのか。

 いや、その中間の大きさ。しかも威力は先の通りで、前方にシールドらしきものが付いた銃など見た覚えも一切ない。

 そして、何より少女が担いでいた折りたたんでいた何かが無くなっている。

 と、見て取るに。

 

「ん? ああ、この銃か。良いモノだろう? ミレニアムの技術部に作らせた特注品だ。いかんせんBluetoothなど無駄な機能とかも搭載されてるが……まあ、それを度外視で愛用しててな」

 

 あれが、担いでいた物の正体。

 あんな2段折りで畳んでいた物が、こんなバカげた威力を吐き出している銃だと、不良たちは理解した。

 

「っと、長話が過ぎたな。そろそろ始めるとしよう」

「……っ!! まっ待て待て、こっちはもう戦う気ないって! な?なぁお前ら!?」

 

 これ以上の時間は無用だと銃に手を置いたゲヘナ生を見て、飛び出す様に戦う意思がないことを表明する不良生徒。悲痛な叫びすら感じるその様子に、周りを囲んでいた不良生徒も同調したのか、首が取れるんじゃないかと思うくらい頷きを繰り返していた。

 

「そ、そうっすよ!」

「ここで命を無駄にしたくは無いんですっよ!」

「突っかかってすみませんでしたぁ!」

「ちくわ大明神」

「だから誰だ今の」

 

 複数人から向けられる叫び。

 それを真っ向に受けながらも、クルスは語った。

 

「なに、何も(オレ)は貴様らに戦えと言ったわけじゃない」

 

 その一言に安堵を見せる不良生徒だったが。

 

「戦意が無くなっているのはすでに分かっている。だから……」

 

 次の砲撃。

 ドゴンッッ!!と。

 不良たちの間を抜けたその銃撃を聞いて、すぐにその安堵がつかの間のモノだったと理解した。

 

「逃げおおせて見せろ。

 (オレ)が追い、貴様らが逃げる。獣に牙を剥いた分くらいは、その空虚な闘争で支払ってもらおうか」

 

 瞳孔が開く。

 双角が彼女の感情の高まりを表す様に、蒼く煌めく。

 狩る側と狩られる側の立場が逆転し。

 

「う、うわぁぁぁ!!!」

「逃げろおお!!」

 

 ここ、ブラックマーケットでまた一つ。

 追いかけっこという争い事が、増えたのだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「全く、ようやく終わったか」

 

 数分後。

 生と気絶をかけた鬼ごっこの終着点は、そこら辺の路地裏で事を終えた。

 ごっつい折り畳み狙撃銃(ヘビィボウガン)を肩に担ぎなおし、クルスは再び嘆息を吐く。

 

 本来、クルスは銃の整備のためにブラックマーケットに寄ってきたのだが、それもこれもこの横たわる不良のせいで余計な手間をかけてしまったのだ。

 予定が少しばかり狂ってしまったことで、嘆息を吐くのも当然だ。

 

 そして、見渡した彼女の周囲には気を失った不良の山が築かれており、さも凄惨な光景が広がっていた。

 

「散歩ついでにこれとはな、本当にブラックマーケットは無法なものだ。こっちのゲヘナも何とも言えんが、ここよりはずっとマシだぞ?」

 

 独り言をつぶやきながら、ただ一人で手を動かす。

 何をしているのかって?

 ……それはもちろんカツアゲである。

 

「ほう? 手応えがない分、懐寒い報酬かと思っていたが思ったよりはあるようだ。

 さてはコイツ等、直前までカツアゲを続けていたな?」

 

 鞄を、懐を、胸元をまさぐるクルスに迷いはない。

 もとより、この不良たちもカツアゲを実行していたのだ。

 だというのなら、それをやられ返しても文句は言えない。狩る側が勝つということは、その全選択権を持って行くということなのだ。

 

「にしても、張り合いがない。

 これならば、こっちの風紀委員を相手にしていた方がよほど戦いがいがある。味変にヒナ(じょう)ともそろそろ再戦を願いたいところだな」

 

 そりゃまあ、ただそこら中をほっつき回っている不良と、学園の自治団を比べちゃいかんだろ、と言う一言はさておき。

 

「……ああ、あとミレニアムの。C&Cのネルとか言ったか。アレもなかなか味わい深かった」

 

 つい最近、売られた喧嘩を買ったおかげでよい経験が出来たことを思い出して、良い笑みを浮かべるクルス。その笑みは不良共を追い回している時よりも数段良い笑顔だった。

 

 

 

 思い出し高揚を胸に抱えたまま、カツアゲを続けるクルス。

 思いのほか、先ほどよりも懐をまさぐる手つきが早くなっている。気絶していることを良いことに、不良の体つきをペタペタ触るくらいには身勝手感も増していた。

 

 そうして財布や、現物などを漁っている中。

 ふと、クルスは一つの手帳に目を付けた。 

 

「なんだ?」

 

 明らかに不良生徒には不釣り合いな色合いの手帳だ。

 赤くて、気品があるそんな手帳。……ていうか、これは生徒手帳だ。

 

「これは……トリニティの」

 

 刺繍された紋様は、間違いなくゲヘナとは対立している学園のモノで。

 それに目が向いている最中。

 

 一つ、頭上から響いた銃声を。

 クルスは聞き逃さなかった。

 

 

「それは、うちの子の手帳だワ二公」

 

 

 しいて言うのなら、野生の勘からか。

 頭上から、振り下ろされる撃鉄を回避するのにさほど理屈は考えなかった。

 

 ガゴッ!と、地面を弾丸が削り取る音。

 その音をしっかり耳にしたクルスは、ようやく自分が攻撃されたことを悟った。

 そして、その声色と口調から。

 誰が撃ったのかすらも。

 

 

「貴様……なんのつもりだ竜モドキが」

「こちらの台詞だワニ公めが。なぜお前がここに、そして私の子の生徒手帳を持っている」

 

 

 それは、すぐ傍にあるビルの屋上から降りてきた。

 

 クルスよりも少し大きく、155cmほどの身長をしている少女。

 赤き両翼を羽ばたかせ、見た目は矮小な体を宙に浮かせながら。

 

「わ、わぁ! レウス先輩、急に飛び降りないでぇ!」

 

 里桜(リオ) レウスと呼ばれる少女が、悠々とその地に立った。

 

 黒と、所々に赤い刺繍が施されているその制服は、トリニティ総合学園の物。

 それも、()()ということはその内部組織、正義実現委員会の正規衣類だった。

 

 右肩にちまっこい生徒を乗せているが、それも例に漏れず黒制服。正実の物だ。レウスを先輩と呼んでいたところを聞くに、恐らく後輩の一人だろうとクルスは予想を立てた。

 

「はは、すまんな。こうした方が手っ取り早いんだ」

 

 先ほどの殺気の投げ合いからは思いもよらぬほど、優しく後輩っ子に話しかけるレウス。

 頭を撫で、甘やかすさまはまるで本当の親子の様だ。

 

「もっもう! レウス先輩ってば!」

「どうどう。帰り道に後でクレープでも買ってやるから、それで許してくれ。もちろんイチカには内緒でな」

「え!? そ、それなら……」

 

「おい、(オレ)を置いて乳繰り合うな。家族の愛撫でなら他でやれ」

 

 顔を赤くしたり、笑ったりと。

 とてもブラックマーケットには似合わない雰囲気に、クルスは思わずツッコんだ。話に置いてけぼりにされていたのも、また気に障ったところもあるが。

 

 それを聞き届けたのか、レウスも笑みをやめてクルスと正面から向き合う。

 

「ふ、すまんな。お前のような一匹オオカミには向かんやり取りだったな。……ああ、お前の場合は一匹ワニか」

「侮蔑にもならない一言どうも、だ。貴様こそ、自身の後輩を『子』と呼ぶのはどうなんだ? 人肌寂しい感情はガキの頃に置いたんじゃないのか?」

「生憎、私は先を生きる正義実現委員会の先輩なのでな。先を見据えようとする後輩に道を示すのは、親の役目だと自負しているのだ。……だがお前には居ぬか。何せ牙を研ぐ一匹ワニ、付いてく後輩もいないのだからな」

 

 バチバチッ!!! だ。

 

 一方はまるで雷撃を放っているかのような風貌で、その双角を青く輝かせ。

 もう一方は、今にも火を噴き出しそうな雰囲気で、両翼を広げていた。

 

 その光景はまさに修羅場。

 険悪で、剣呑で、一触即発間近な空気が蔓延していた。

 雰囲気に当てられたのか、レウスの隣に立つ後輩っ子も体を震わせる。しかし、それを押さえようとレウスは片翼を後輩の頭からかぶせて安心させる。まさにイケメンの諸行だ。

 

 そうして、後輩っ子は少しは落ち着いたのか、片翼を外して未だ剣呑の2人の間に入って、疑問に思ったことを聞いた。

 

「えっと……ゲヘナの生徒さんなんですよね? お名前は……」

「……クルスだ。どうとでも呼べ」

「えと、じゃあクルスさん。()()レウス先輩とはお知り合いなんですか?」

 

 自己紹介と疑問を兼ねた問いに、目を細めたクルスが応える。

 

「知り合い、と言ってもいいのだろうな」

「それじゃあ、友達だったりとかは……?」

「無いな。日頃、殴り合う仲ではあるが、そうまでしても友人までの関係はコイツと築いたことは無い」

 

 答えに後輩がなるほどと頷く。

 

「それじゃ、嫌いなんですか? レウス先輩、良い人なのに……」

「別に、嫌いと言うわけでもない。コイツとは他愛ない話をしたこともある。共に飯を食った事すらある、が。それでも、内に秘めた嫌悪が表を出すのだ。恐らく、獣同士の対立と同じようなものがな」

「は、はぁ……?」

 

 急によく分からない答えを出されて、今度は後輩が疑問に思う。

 獣同士の嫌悪。嫌いではないが、嫌っているという2人の関係性がよく分からないのだ。

 

 だから、その思考を解消するためレウスが一言、後輩に挟んだ。

 

「気にするな。対立していないと成り立たない関係とだけ覚えておくといいさ」

「レウス先輩?」

「私とアレはそういう存在、ということだ。深く考える必要は無い。キミにはキミで、良いと思う関係性があるように。私とアレにも、こういう関係が合っているというだけなんだから」

 

 頭を撫でて、優しく微笑んで言い聞かせる。

 そうして、やや無理やりに会話を打ち切ったレウスは、再びクルスと向き合った。

 

「竜モドキ、一つ聞こう」

 

 だが次は、クルスが問いかける番。

 そういう関係ならば、挨拶代わりに銃を打ち込む程度は良いとして、問題はその先の言葉にあったのだから。

 

「この手帳、お前の横に立つ後輩の物だといったな」

「ああ、そうだ」

(オレ)はこれを、そこに転がっている不良共からかっぱらった。だとしたらなんだ、そこの後輩はこの手帳を盗まれたとでもいうのか?」

 

 その問いに、後輩っ子はピクリと反応し。

 レウスはそれを頭を撫でることでなだめ、一瞬肩を透かした。

 

「そのまさかだ。

 つい先日、この子がこの周辺を歩いた際にひったくりにあってな。学園生、それも正義実現委員会の役員となれば関係のない誰かに泣きつくわけにはいかないと思ったのか、ベンチで静かに泣き言を発していたものでな。だから、先輩の私は、それを取り戻そうと、わざわざこんな所まで足を運ばせてきたのさ」

 

 答えはこれで十分か? と聞けば、十分だと返すクルス。

 

「だから、(オレ)がこれを手にした時に撃ってきたということか。なるほど。だが、いささか早計な判断だとは思うが?」

「それに関しては、私の弾丸を避けた件でお相子だろう。もとより、お前がタイミング悪くあんな場所にいたのだからな。勘違いするのも当然だ」

「ふむ……」

 

 顎に手を当てて納得点を探すクルス。

 しかし、これ以上の言葉の言い争いは無用というもの。そもそも、無くしたはずの手帳を見つけ、それを盗んだ犯人がそこに転がっているという地点で、問題の解決は出来ている。

 

「手帳を盗んだ犯人がお前ではないことは、少々期待外れだったが」

 

 闘争は好むが、無用な争いは好まないクルスにとって、その着地点は妥当なものだった。

 

「ただ、私としてはお前よりもそこの不良共に問い正したいところだな」

 

 しかし。

 レウスの方はどうだと言えば。

 

 その赤色の頭髪を揺らし、今にも噴火しそうな何かを押さえているレウスからすれば。

 

「一体、どれだけの時間、私の子が悲しい思いをしたのかをなぁ……!」

 

 その原因を作った不良共に、怒りを沸かせていた。

 

 そう、思えば開幕一撃。クルスに撃鉄を放った地点で考えるべきだったのだ。

 物を盗まれ、悲しみに暮れる自身の子を想う、レウスの感情を。

 

 若干伸ばした言葉使いに、滲み出る殺意がまき散らされる。

 怒り心頭、だがそれは冷静、冷血な判断と怒りだ。

 炎のように燃え滾るソレを向けられた、狩られる対象は。

 

「…………っ!!!」

 

 いつの間にか起きていたのか、ヘイロー浮かばせて逃走を図る。

 気絶していたはずの不良ですら、彼女の殺気に当てられたのか起き上がり、その場から去ろうとする始末。

 

 だが。

 

 

「逃げるな」

 

 

 それを許さない者がいた。

 

 片腕で肩にかけていた獲物に手をかけ、瞬時に発砲。

 クルスの銃とは比べ、小回りがあるソレは多少改造してある狙撃銃(ライトボウガン)

 そして弾丸は、逃走者のこめかみへとクリーンヒット。計5発。瞬時にその意識を刈り取った。

 

「この場にいる全員、私の両翼から逃れられると思うな。

 お前たちはこの場で拘束し、正義実現委員会の名の下に、しかるべき処置を受けてもらう」

 

 残りは脚を止めた他数名。

 双方、武器は持っている。抗う手段は持ち合わせている。

 だがしかし、それでも。

 

「だが、それまで、私の子が受けた苦しみを、お前達にも味わわせてやろう……!」

 

 彼女たちは、狩られる側。

 クルスと対等に張り合うその実力には、絶望しか有り得なかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 そうして、ひと悶着を終えた3人は帰り道に、とあるクレープ屋へと赴いていた。

 

「おいしいですぅ……!」

 

 レウスの約束通り、クレープ屋に連れてくという約束を果たす為、連れ来たのだ。

 

「おい貴様、(オレ)にも奢れ」

「断る。なぜお前に駄賃をやる理由があるんだ」

「最初の一撃、忘れたとは言わせんぞ。その謝礼にクレープで手を打て」

「お前はそれを避けただろう? 怪我も負っていない奴に、謝礼金など渡す義務などない」

 

「むぐむぐ……」

 

 そこに何故、クルスがいるのかと言われれば、その場の流れとしか言いようがなかった。

 

 いや、最初はクルスとて、用事を済ませて即時帰宅をしようとしていたのだ。

 だがしかし、それを後輩っ子に止められた。

 お礼をさせてくれと、そんな一言でだ。

 

 後はお察しの通り。

 過保護な親が「分かるよな? クソワニ公」という圧を受けたクルスは渋々同行。本来の目的である銃の点検と言う用事を明日に回し、このクレープ屋へと来たのだった。

 

「あ! そうだお礼! クルスさん、クレープ代なら私払いますよ!一緒に食べましょう!」

「……待った。待ってくれ私の子。それはいけない。このワニ公に甘いものなど毒だ」

「やかましい竜モドキ。……だがそうか、(オレ)が手帳と財布を取り戻すのを手伝った以上、その後輩にも俺に奢る義務があるのか。よし、なら言葉に甘えて貰うとしよう。そこのクリームクレープを一つくれ」

「はい!」

 

 おい待て、という悲鳴をよそに、クルスは堂々と店員へ注文。

 

「お前、今すぐキャンセルしろ! 親である私が、子の駄賃で貴様に施しを受けさせるなど、私のプライドが許さん!」

「貴様はいい加減その過保護っぷりを何とかしろ!子の小遣いを誰が何に使おうが勝手だろうが……!!」

 

 注文を聞き届けた店員は去ってしまい、もはやキャンセル不可。

 矜持と言うかなんというか、互いに譲れないものがある以上、争いは避けられなかったのだ。

 

 テーブルに座りながら、2人は頬の引っ張り合いという形で喧嘩を開始。

 

 殴り合い、銃撃など喧嘩の方法はいくらでもあったのだが、クルスは奢ってもらった少女の手前。レウスは単純に尊敬の目を向けられる後輩の手前、大事にはできなかった。

 

 そして、ちまっこい後輩っ子はクレープを咥えながら、微笑ましく見ていた。

 

(この2人、こんなのでも仲が良く見えちゃうんだよねぇ……)

 

 

 

 青空の下、青春が成る星の下で。

 

 闘争好きな少女と、過保護な少女の小さな抗争が巻き起こる。

 

 だがこれも、2人にとってはそうでなくとも。

 

 傍から見た誰かにとっては、これもまた青い青春(ブルーアーカイブ)だったに違いない。

 

 

 





思いつきで突発書きした。
続きは思いついたら書く予定なんで、一応短編行き。

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