良かったら読んでいってください。
ああ、満腹だ。
こんなに苦しいのは、学生以来かもしれない。
昔は、いくらでも食べられたのに。
まだまだ若いと思ってた。
何でこんなもの頼んだんだ。
過去の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。
何がチャレンジメニューだ。限度があるだろ。
何が30分で食べ切れたら無料だ。金ならあるわ。
何が本当に大丈夫かだ。もっと真剣に心配しろ。
クソ、ニヤニヤこっちを見るんじゃない。張り倒すぞ。
根性だけは、あったはずなのに。スプーンが震えて掬えない。
この後、得意先と打ち合わせがあるんだぞ。
なのにどうしてこうなった。
ああ、満腹だ。
ほんとのほんとに満腹だ。
ようやく落ち着いた。
この広くもない店にあれだけのお客がよく入るものだと感心してしまう。値段か?立地か?カップを磨きながら、ぼんやり考える。
入店のベルが鳴った。少しげんなり。
いらっしゃいませ、お客に向かって笑顔を一つ。
歳は、40〜50歳頃だろうか。
仕立ての良いスーツ、ピカピカの革靴。おまけに高そうな腕時計まで着けていた。
おそらく営業マンだろう。窓際のテーブル席に座り、メニューを開いた。お決まりになりましたら、お声がけください。お冷ことり。
お湯を沸かし、厨房にいる店主へ声をかけておく。
少しして、すみません。声がかかる。
メモを片手にテーブルへ向かう。はい、お伺いします。
チャレンジメニューを一つ。
私は耳を疑った。
声量が控えめだったせいで、聞き間違えたのかもしれない。
チャレンジメニュー、ですか?
疑問と困惑、少しの期待。
はい、お願いします。
かしこまりました。少々お待ちください。
私が働き始めて、初めて出た。
お父さん。チャレンジメニュー出た。
厨房に向かって声をかける。
なんだって。
驚いた様子で厨房から顔だけ出し、マジマジとお客を見つめる父。
お客は、父に一度会釈をして窓の外を眺めた。
誰?
友達だよ。昔からのね。
そう言うと厨房に引っ込んで、調理を始めた。
いや、それは知ってる。
なんせメニューに載ってない。チャレンジメニューなんて。でも、聞いたことは何度かあった。お爺ちゃんが店主だった頃、学生向けに出してたって。
だから、実物を見るのは初めて。
カレー、ナポリタン、サンドイッチ、コーヒー、ケーキ類等。
ウチで出せるのなんてこのぐらいでは、、、?
頭を悩ませていると、お客がこちらを見ていることに気がついた。
何かあっただろうか。
いざ、お客の方へと伸ばした足は、父の料理に止められた。
あがったよ。
父が差し出した皿には、カレーにナポリタン、サンドイッチに目玉焼きが雑に積み上げられていた。
私は、目を剥くと同時にこう思った。そう、別の皿でよくないかってね。確かにインパクトは大事であるが、流石に食べづらいだろう。
取り皿は必要か、フォークとスプーンはどちらが必要か。持っていくか、いかまいか。うんうん悩んでいると。
お父さんは笑顔でいうのだ。
この雑さが良いんだよ。それ提供したら、上がって良いから。
ごめんなさい、お父さんの友達。フォークとスプーンは、しっかり持っていきます。
チャレンジメニュー(大盛りカレーにナポリタン〜太陽と砂の魔女を添えて〜)をテーブルに置いて、ちらりとお客の反応を見た。
お客さんは、何というか、目を細めて、懐かしんでいるようだった。
ごゆっくりどうぞ。
一声かけて厨房へ戻る。
お父さんあがって良いの?
もう帰ってからの過ごし方で頭の中一杯ではあるが。一応。
もちろん、今日はお店閉めちゃうから。
お母さんに怒られるよ?
うちの母は、バリバリのキャリアウーマンである。怒ると怖い。
今日は大丈夫だよ。
知らないからね。
帰り支度を済ませて、出口に向かう。
お父さんと友達が、楽しそうに話しているのを背中に店を出た。
普通に仲良いんかい。
私の心配を返せ。
ちなみに、お母さんの機嫌はとても良かった。
共通の友達だったのだろうか。