傍に立つ君は完璧で究極のアイドル 作:カミキヒカラナイ
「なあ、アイ。結局アクアとルビーの父親──お前を死に追いやった男って誰だったんだ?」
以前アイとあかねさんを初めて引き合わせた、芸能人もよく利用すると評判の個室付きの喫茶店。
アイはギクリと肩を跳ねさせると、ゆっくりとカップをテーブルに戻しながら気まずげに目を逸らした。こめかみにはうっすらと冷や汗が浮かんでいる*1。
まあ、何となく察してはいた。集合場所にこの喫茶店を選んだ時点で余人に聞かせたくない話題だということは明白だったし、事務所ではなく直接僕達に話を持ってきたことから仕事の関係でないことも分かっていた。
そして仕事の話でないとなれば壱護さんが用があるのは僕ではなくアイということで、そうであるならば自ずと話題は限られる。むしろ遅かったぐらいだろう。恐らく最も“それ”を知りたがっていたのは、アクアではなくこの人であったはずだから。
「あー……ちなみに黙秘権ってあったりする?」
「黒幕がいたことは否定しないんだな。そしてそれが元恋人の男だってことも。……正直、お前が帰ってきてくれただけで満足してる自分がいることは否定しない。お前がそうなっちまった原因の一端が俺にあることも重々承知の上だ」
だが、それだけでは納得できないこともまた事実なのだと。壱護さんは感情を押し殺したようにそう語った。
さもありなん。十二年だ。事務所を捨て、ミヤコさんを捨て、アクアとルビーを捨て、それまで壱護さんが苺プロダクションの社長として積み上げてきた全てを
無論、復讐のためにミヤコさん達を切り捨てたことは手放しに肯定できるものではないが、実の娘も同然だったアイを失った壱護さんの気持ちを思えば安易に責めることもできない。生半可な覚悟であったはずもなく、彼にそうまでさせたという事実を軽く見るべきではなかった。捨てられた側が辛かったのは当然として、捨てる側にも相当な苦悩や葛藤があったことは間違いないのだから。
アイが戻ってきたからといって全てを水に流すことなどできるはずもないだろう。アイを失って彼が抱いた憎悪と絶望は果てしなく、失った十二年の重みは計り知れない。少なくとも僕が壱護さんの立場であれば、下手人に何らかの報いを与えなければ完全な納得などできなかったはずだ。その人物が何を罰されることもなく、今この瞬間ものうのうと生きているだろうことを思えば尚更である。
「むしろお前は何も思わないのか? そいつに殺されたせいで十二年もの間アクアとルビーと離れ離れになったんだぞ。子供達も辛かったろうし、お前自身も辛かったはずだろう。その原因となった奴に何も思うところはないのか?」
「でも死んだからこそシオンと会えたわけだし……」
「確かにそれは幸運だった。不幸中の幸いと言っていい。だがそもそも殺されなけりゃそれはそれで幸せだったはずだ。お前は以前
発言しながら気持ちが昂ってきたのか、徐々に語気が荒くなっていく壱護さん。だがアイはそれに困ったような顔をするばかりだった。
壱護さんの気持ちはよく分かる。逆にアイは何故そうまで頑なに元恋人の名前を出さないのか、僕には理解が及ばなかった。
まだ情が残っているから? 確かにそれはあるかもしれないが、一方で以前アイが元恋人を指して「あのサイコパス」と吐き捨てていた場面があったので、その線は薄いような気もする。
だが、その疑問はアイの次の一言で氷解した。
「だって、壱護さんはあの人の正体を知ったら復讐するんでしょ? 私、家族に人殺しになってほしくないなぁ」
「っ、それは……」
図星だったのだろう、壱護さんは狼狽を露わにして言葉を詰まらせる。
確かによく考えてみれば、アイを殺害したのは例のストーカーであり──確かアイはリョースケ君と言っていたか──件の元恋人本人ではない。教唆した疑いはあれど明確な証拠はないため、仮に素性が判明したところで法的に裁けるかは怪しい。
返す返すもリョースケ君とやらが後追い自殺してしまったのが悔やまれる。せめて彼の口から教唆の証言でも出てくればまだ可能性もあったのだが、今や証拠は全て闇の中だ。
そして証拠がなければ犯罪として立証することができない以上、下手人に報いを与えるには被害者が──この場合はアイにその気がないので壱護さんが──直接手を下すしかない。しかし日本の法律は私人による自力救済*2を禁じている。復讐に及んだ瞬間に壱護さんは犯罪者となってしまうだろう。たとえそれが正当な報復であったとしてもだ。
「……考えすぎだ。少し前ならいざ知らず、今の俺は苺プロに帰ってきた身。これで人殺しにでもなったらミヤコやアクア達に迷惑が掛かる」
「どうかなー、壱護さんもう社長じゃないからなー。佐藤“元”社長さんは今はもうただのアルバイトでしょ? ぶっちゃけ逮捕されてもどうとでもなるって思ってない?」
「……思ってねぇよ。これ以上ミヤコに迷惑かけるわけにはいかねぇ」
「うーん、嘘はついてなさそうだけど本心を言ってるわけでもないと見た。心が二つあるーって感じ?」
「…………」
アイは天然の嘘発見器だ。自分が天性の嘘つきであるせいか、他人が嘘をついているとすぐに察してしまう。たとえそれが嘘にも満たない建前のようなものであったとしても。
アイの言う通り、壱護さんの中には葛藤があるのだろう。復讐を果たしアイと自分の無念を晴らしたいという思いと、ミヤコさん達に迷惑をかけたくないという思い。
事実、社長だった頃よりは限定的なものになるにしても、少なからず影響が出ることは避けられないだろう。事務所の風評にも関わるだろうし、順調に人気と知名度を増しつつあるアクアとルビーの今後の活動にも支障が出るかもしれない。人気が出てきたタイミングだからこそ、身内から犯罪者が出てしまったという風評は致命的なものになる恐れがある。
「ごめんね、壱護さん。私が馬鹿だったせいで」
「……何でお前が謝るんだよ。一番の被害者はお前じゃねぇか……」
「うん、私としても流石にぶっ殺されるのは予想してなかったんだけどさ……その可能性を全く考えなかった時点でもう色々ダメダメだったというか……あいつの拗らせぶりを舐めてたというか……それはそれとして原因は私にあるというか……」
アイが原因……?
何だろう、いつものナチュラルに人の心がない言葉で手酷くフったとか?
「そうそう、いつもの人の心とかない感じの言葉で……えっ、シオン私のことそんな風に思ってたの???」
いやまあ、本当に人の心がないと思ってるわけではないけど……それはそれとして言動は割とアレというか。顔の良さと愛嬌で誤魔化せてるけど人間性にちょっと問題ありというか、根本的に情動的共感性*3が欠如してるというか。
出会ったばかりの頃よりは丸くなったと思っているが、今のアイを見てさえそう思うのだから昔はもっと酷かったんじゃないかと考えるわけです、はい。
「………………ま、まあ私の人間性の話は今は置いといて」
「(あ、ちょっと傷ついたな)」
「(なまじ嘘じゃないと分かるから余計刺さってるな)」
「置・い・と・い・て!」
ゴホンゴホンと大袈裟に咳払いし無理やり話題転換を試みるアイ。
態度は変わらない。どこかおどけていて、まるで昨日の夕飯のメニューを思い出すような軽い口調で言葉を紡いでいく。
「あいつ……あの人は可哀想な人なんだよ。私と似ててさ。身寄りがなくて、未来の展望もなくて、嘘塗れの仮面で自分を守ることしかできない臆病者で……」
アイが何気なく語り出したそれは、壱護さんが求めてやまなかったもの。
アイを死に追いやった男の
「でも、私と違って愛を知ってる人だった」
「愛を……」
「どっちかっていうと執着って感じの愛だったけどね。私に負けず劣らずまともな境遇じゃなかったし。でも
だから
「後悔してるの?」
「後悔? うーん、どうだろ? 我ながらもうちょっと他に言い様はあったんじゃないかなとは思ってるけど……うん、別に後悔はしてないかな。あの時はあれが最善の選択だったと思う。言ったでしょ? 私とあの人は似たもの同士だったって。あのまま一緒にいてもどん詰まりだったと思うから。マイナスとマイナスを掛けたらプラスになる、なんて単純なものじゃないでしょ、人間関係って」
どうあれ突き放さなければお互いに破滅するだけだったのだと、そう語るアイの表情に──少なくとも表面上は──後悔しているような色は見られない。もう既に過去のこととして割り切っているような風情だった。
「そりゃ割り切ってるよー! だって私にとってあの人はしょせん身体だけの関係だったわけだし、結婚して一緒になるなんて微塵も考えなかったし! そりゃ一方的に別れたのはちょっと悪かったかなって思ってるけど、恋人同士なんて上等な関係じゃなかったのは向こうだって承知してたはずなんだから逆恨みもいいところだし! うーん思い出したらだんだん腹立ってきたぞー! 善良なファンをストーカーに仕立てて
「うーんこの」
「娘みたいに思ってた奴のこういう生々しい話聞くのすげぇ複雑……」
何というか、ある意味アイらしくて安心したというか……うん。元恋人の「愛人!」……相手の男には多少同情しないでもない。アイの魅力は魔性みたいなもので、自分達の間にあるのが一時の関係に過ぎないと頭では分かっていても心が追い付かなかったのだろうことは何となく分かる。僕だって急にアイに捨てられたら精神的に病む自信あるし。
結局アイは相手の男の名前はおろか個人情報に関する一切に言及しなかったが、別れた時のその一件が原因で事件に発展したのだろうことは理解できた。
後の流れは壱護さんも知っての通りなのだろう。別れた男との間にできた子供がアクアとルビーであり、アイは双子の存在をひた隠しにしながらも活動を続け……恐らくは子供の存在や住所などの情報を男から得たストーカーによって事件が起きたのだ。
しかし一つ疑問に思うことがある。どうして事件が起きたのはあのタイミングだったのだろうか。
アイが殺されたのはアクアとルビーが四歳の時。つまりアイと男の破局から実に五年以上の時間が経っている。愛憎裏返って殺してしまうほどアイに殺意を抱いていたというのなら、何故男は五年もの間何もせず傍観していたのだろうか。
恋愛感情の類にとことん無知だったかつてのアイをして「重い」と感じる程の執着を抱いていたような男が五年も辛抱できたとは考えにくい。殺す気ならさっさと殺していただろうし、仮に最初はその気ではなく途中で心変わりしたのだとしても五年という時間は妙に中途半端だ。果たしてどのような心境の変化が
「あ、それは私が住所を電話して教えたからだね」
『は?』
「うわビックリした。二人とも急にドスのきいた声出すじゃん怖〜」
いや怖〜じゃないが。
じゃあ何か? アイはせっかく防犯目的でセキュリティのしっかりしたタワマンに住居を移したというのに、わざわざそれを自分の口から教えてしまったというのか? あれほど自分に執着していた男に?
「アイ……俺ドーム前に言ったよな……罷り間違ってもあいつらの父親に会おうなんて考えるなよって……」
「でもルビーがさ〜、処女受胎とか男なんて最初から存在してないとか言って自分達の生まれにすんごい結論出そうとしてたからさ〜、これは流石に放置してたらマズいでしょって思って、一度ぐらい父親に会わせてあげようと……」
「こいつ……本当にこいつ……」
……アイの謎の楽観的思考と危機感のなさと防犯意識の低さは昔から筋金入りだったらしい。まさかドームを間近に控えた、最も気を付けるべき時期にそんな致命的なガバをやらかしていたなんて……
「まぁそういうわけなんでね! あの人も私をぶっ殺してもう満足しただろうし、私がそうなったのも半分は自業自得みたいなもんなのでね! それに最終的にこーして復活して再会できたわけだから壱護さんはハッピー! アクアとルビーもハッピー!
「はいそうですかって終われるわけねぇだろ! 久々にトサカにきたぜ……そこに直りやがれ! 久し振りに説教してやる!」
「いやーんこのオジサンこわーい♡ 助けてシオン~♡」
割と本気で怒り心頭な様子でいきり立つ壱護さんと、それに微塵も動じず猫撫で声でこちらにしな垂れかかってくるアイ。
そうしてアイの体重を受け止めつつ、僕は二人のその様子を苦笑して見守っていた。
見守るだけだ。壱護さんと一緒になってアイに苦言を呈する、なんてことは一切しない。できない。
口出しなどできるはずもない。当たり前だ。何故なら僕は──
今でも鮮明に思い出せる。父の死と日を追うごとに異常性を増していく僕の存在感に精神を病んだ母の姿。笑顔の下でどこか恐れを含んだ目で僕を見る施設の職員達に、欲に満ちた好色な目でこちらを品定めする里親候補の大人達。そして僕を上位者か何かのように扱う同年代の施設の子供達──
普通の人間の仮面を被ることで制御できるようになってからはマシになったが、施設を初めて訪れた時にはまだそこまで器用なことはできず、生来の存在感というものを殆ど垂れ流しにしていた。そのせいで僕と関わる人達は大なり小なりその影響を受け普通ではなくなっていったのだ。
施設の人達は立派だったと思う。明らかに普通ではない僕を恐れながらもあくまで職務に忠実で、表面上は愛情をもって接してくれていた。
問題なのはあからさまに僕の容姿目当てで欲に満ちた目を向けてくる里親候補と、まるで僕を神か何かのように扱ってくる子供達だ。前者はともかく後者に悪意などなかったが、それでも辟易とさせられたのは確かだった。前世を知るが故にそれなりに精神的に成熟していたからこそ耐えられたが、決して居心地の良い場所ではなかった。
だが、僕にはアイがいた。僕をまともな人間として見てくれる者などただの一人として存在しない環境の中、アイだけは親身に、愛情をもって接してくれたのだ。
アイがいなければ僕はずっと孤独だった。アイという心の拠り所がいたからこそ僕は孤独ではなかった。彼女の存在に、僕は心から救われたのだ。
だから僕は、誰にも悟られないよう心の中でこう呟くのだ。
僕のもとに来てくれて、僕と一緒にいてくれてありがとう──
なんて醜い。我ながら吐き気を催すような醜さだ。
だが、それこそが紛れもない僕の本音。アイがいなかった
だから僕は今日もそんな醜いエゴを笑顔の仮面の下に隠す。誰にも、それこそアイにも悟られないよう巧妙に。
アクアとルビーと会うために芸能界に飛び込んだのも、
正直に言うと、僕はアイを殺した元恋人の男に感謝してさえいた。そうでなければ僕がアイと出会うことはなかったからだ。
とはいえ、感謝はするがそれだけだ。どうあれその男はアイを殺した。過去に何があったにせよ、第三者を利用した殺人教唆などという邪悪を庇い立てる道理もない。結果として僕は救われたが、それで男の罪が減じるなどあり得ないことだ。
だから、僕は壱護さんのように積極的に罪を追及するようなことはしないが、さりとて敢えて庇うような真似をするつもりもない。
いずれアイは再びその身を表舞台に晒すだろう。もしその時、再び男がアイの前に姿を現すというのなら──
その時は、僕が手を下す。壱護さんの手を汚させるわけにはいかない。ケジメをつけるのは、今アイの隣にいる僕の役目であるべきなのだから。
「わたしの~お墓の~まえで~泣かないでください~」
その日、
水をかけ、花を供え、線香をあげる。アイが死んでからというもの、数ヶ月に一度は欠かさず行っているルビーの習慣だった。
「そこに~わたしは~いません~」
アイの魂は今もシオンの元で元気にしていることを承知していながら、墓地で歌うには割と不謹慎寄りな歌を口ずさみながら文字通り誰もいない墓石の手入れをしているのには訳がある。
何故ならアイが復活したことを知るのは、アイの家族である星野兄妹と斉藤夫妻、そして蘇らせた張本人たるシオンとその彼女の黒川あかねだけなのだ。にもかかわらず、これまで頻繁に墓参りに訪れていたルビーが急に来なくなれば周囲から不審に思われる。ルビーのことを孫同然に可愛がってくれている、すっかり顔見知りになってしまった墓地を管理するお寺の住職の山田さん(63歳)などは特に心配してしまうだろう。よもやバレるとは思わないが、現状アイの復活は絶対の秘密である以上、不審に思われる行動は控えなければならなかった。要はアリバイ作りである。
とはいえ、この墓の下にアイの遺骨があるという事実は変わらない。本人は「セミの抜け殻みたいなもんだからほっときなよ~」とケラケラ笑っていたが、アイを慕う実の娘としてはそうもいかない。以前ほどではなくとも丁寧に墓前の手入れを済ませ、願掛けの意も込めてたっぷり一分ほど黙祷してようやく立ち上がった。
「ルビーちゃんは相変わらず丁寧だねぇ。こんなに綺麗にしてもらって、お母さんもきっと喜んでるよ」
「あっ、山田さん! ご無沙汰してます!」
噂をすれば何とやら。恐らく墓地の掃除をしに来たのだろう、住職の山田さん(63歳)がにこやかな表情で話しかけて来た。年齢の割にヨボヨボで不安になる姿だが、この人は十二年前に出会った時からこんな感じのヨボヨボ好々爺なのでルビーはもう気にしなくなって久しい。いつも通りにこやかに二言三言言葉を交わしてから、「暗くなる前にお帰り」という山田さん(新生B小町ファンクラブ会員№12)の言葉にペコリと頭を下げて別れを告げる。よくあるいつものパターンだった。
お墓参りにおけるいつものルーティーンを終えたルビーは鼻歌を歌いながら帰路につく。カラスの鳴き声が響く夕焼け空の下、参道を歩くルビーは一人の男性が反対側から歩いてくる姿を視界に収めた。
背の高い男だった。180センチ近い均整の取れた長身にスラリと伸びた手足。黒い帽子とサングラスで表情は窺えないが、帽子の下から覗く頭髪は日本人にしては珍しい、染料によるものではない綺麗な金髪だった。
とはいえ、ルビーも今やそれなりの売れっ子アイドルとして芸能界に出入りする身。モデル業にも手を出している関係でスタイルの良い男性など見慣れている。これと言って感慨を抱くこともなく、道を空けるように端に身を寄せ軽く会釈をして通り過ぎようとした。
「星野、ルビー……」
だが男の方は擦れ違ったところで立ち止まり、
それは独り言だった。その呟きを余人に聞かせる意図はなく、男は口の中で転がすように少女の……ルビーの名を囁く。
「美人に育ったね。流石は君と僕の──」
男にとって誤算だったのは、ルビーの身体能力を知らなかったことだった。彼女の肉体は既に人間の限界を超えており、とりわけ五感の鋭さは“赤き
故に、独り言のつもりで呟いた男の声はルビーに筒抜けだった。唐突に自分の名を呼ばれたルビーは何事かと男の方に意識を傾け──
その優れた感覚で、気付いた。気付いてしまった。
男から向けられる──底すら見えない、煮凝りのようなどす黒い悪意の眼差しに。
「…………ッッッッ!!」
それに気付いたのは偶然だった。何せ男は気付かれようと思っていたわけではなく、むしろその逆。余人に勘付かれないよう、声も視線も極めて静かに潜められたものだった。よもや勘付かれるなど男は想定すらしていない。
誤算だったのは、
初めて向けられる他者からの直接的な悪意。生理的嫌悪感を伴う値踏みされるような眼差しと、そこに含まれる確かな殺意は──
ルビーの防衛本能を刺激した。
「キャオラッッッ!!!」
「え? はうっ!!??」
その場に居合わせた山田氏(住職・63歳)は、この時の様子を後にこう語っている。
あれは理想的な“
「今はこんなヨボヨボの
カウンター……迎撃には二つの効果が期待できる。
一つは当然物理的な効果。向かってくるものを迎え撃つ。小さな力でも大きな力を発揮する。
「しかし
それは“心の隙間”──
意識の隙間を縫う絶妙の巧打──被弾を覚悟する隙を与えない……相手にとってはまるで不意打ち──
「信じられますか? 弱冠十六歳の少女が、まるでヘヴィ級
「
「まるで空気を切り裂くような鋭利な風切り音……完璧な角度で腹腔を穿つ打突の炸裂音……成人男性と年端もいかぬ少女……絶望的な体格差、埋め難い筋力差……それらを覆す技術……意識の
「……え? 殴り飛ばされた例の男はどうなったか、ですか?」
「ん~~~……まあ、ルビーちゃんが何の理由もなく暴力なんて振るうワケありませんからね……遠くて聞き取れませんでしたが、何かよっぽどのことでも言ったんじゃないでしょうか。おろおろするルビーちゃんの前でたっぷり三十分ほど悶絶した後、逃げるように去って行きましたからね。完全な被害者なら警察を呼ぶなり何なりするはずですから、きっと後ろめたいことでもあったんじゃないですか?」
【
実は児童養護施設時代に◆哀しき過去(自業自得)……があったことが判明した完璧で究極のゲッター。
シオンの母親は別にシングルマザーが辛かったのではなく、我が子の異常性に恐れをなして逃げ出したのであり。
そして最後の家族がいなくなったことでいよいよ
施設の職員は純粋にシオンを恐れた。シオン自身は至って善良であり、外見も良かったため最低限表面を取り繕う程度の余力はあったが、それでも総身から滲み出る、人ならざる超重量の魂から発される異形の圧力は彼らを恐れさせるのに十分な威力を有していた。
子供達はシオンを神かなにかのように──明確に人ならざる者として──崇めた。事件、事故、病気……あるいは貧困、
世に冠絶した美貌、他を圧倒する魂の光輝……峻厳として屹立する霊峰が如き、荘厳にして静謐の存在感。それは頼るべき
例えばシオンが通った小・中学校の同級生……一般家庭に育ち、当たり前に親の愛を受けて育った子供にとってならシオンはただの美しい少年でしかなかった。しかし愛に飢え、どこか心の欠けた人間にとってシオンの放つカリスマは猛毒だった。飢える者は足るを知らぬが故により大きな
だから、施設においてシオンは子供達の
……だが、一番シオンの精神を削ったのは施設の職員でも子供達でもなく、里親候補という名のへんたいふしんしゃさん共だった。
誰も彼もが幼いシオンを見るや目の色を変え、その視線に欲望の火を灯す。大人の人っていつもそうですね……! 身寄りのない子供のことなんだと思ってるんですか!?(すぐ隣のスタンドから目を逸らしながら)
【
だから僕は今日もそんな醜いエゴを笑顔の仮面の下に隠す。誰にも、それこそアイにも悟られないよう巧妙に。
アクアとルビーと会うために芸能界に飛び込んだのも、
(とか、浅いこと思ってるンだろうなァ〜)
だが彼女はそんなシオンの考えなどとっくに理解した上で、その罪悪感を利用し
(シオンの性格ならそういう結論になることなんてとっくにお見通し☆ あえて訂正しないことでますます私に依存させるって寸法よ!)
幾度も重ねたシミュレーション(笑)がたった一つの「式」を導き、そして──
ある日突然インターセプトしてきた
【
壱護「アイ、くれぐれも父親に会おうとかするなよ?」
アイ「了解! トランザム!」(元カレに電話)
壱護「ヌゥン! ヘッ! ヘッ!
ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛
ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!
ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!
フ ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ン!!!!
フ ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥン!!!!」(大迫真)
アイのウカツさ加減は今更擁護のしようもないが、壱護は壱護で「B小町メンバーの
それはそれとしてアイのやらかしはあらゆる面で擁護不能なので、その点に関してだけは壱護さんは怒っていいと思う。多分その電話がカミキ君の闇堕ちの最後のトリガーだったろうし……
なお壱護もアイもシオンも、
【
アニメ第3期第35話は最高でしたねおじさん「アニメ第3期第35話は最高でしたね」
感想といたしましては「もうシスコンでいいや」ということで、神回と認定させて頂きたい所存であります。異論はミトメヌンデ!
なお拙作のルビーに原作のカワイイサリナチャンの面影は微塵も残っていない模様。キレると「FATALITY……」と鳴き声を発したり、「あなた達を殺すよーーーーーー!!!!!!」という叫喚と共に視界に映る全てを
【
強……!
無理!!
【
アイが埋葬された墓地を管理するお寺の住職。63歳。妻子はいるが孫はおらず、頻繁に墓参りに訪れるルビーを孫娘同然に思って優しく見守っていた。ルビーからの認識はよくお茶とあんぽ柿をご馳走してくれる優しいお爺ちゃん。
実は若い頃はボクシングをやっており、プロになれる程の力はなかったがアマチュアとしてはそれなりに名の知れた実力者だった。しかし試合中に負った怪我が原因で引退。父親の跡を継ぐ形で出家しお寺の住職となった。
それでも現役時代の思い出が忘れられず、かつて使用していたボクシンググローブは今でも家の倉庫に大切に保管していた。そしてその日、ルビーの素晴らしい
もちろん原作にこんなキャラは存在しない。誰やねんコイツ。
オレ、気づいたんすよ。最近妙に小説書くモチベーションが上がらなかった理由ってやつです。馬鹿なんで、時間かかったっすけど。
単純にカミキ君が嫌いだから書く気力が湧かなかったんですね。よくもアクアを死なせてくれやがったな人間の屑がこの野郎……
というわけで、少しでも筆を乗らせるためにカミキ君にはギャグ展開の養分になってもらうことにしました。元々そこまで上等な結末にしてやるつもりはありませんでしたが、エタるよりはマシだろうということでもう開き直ってギャグに振り切ってやります。
なのでこれより先著しいキャラ崩壊とカミキ君の尊厳破壊があるため、原作設定遵守派の皆様に置かれましては閲覧注意ということでお願いいたします。カミキ君は犠牲になったのだ……作者のモチベーション維持の犠牲……その犠牲にな……