皇国の第三者視点から見た本編主人公と革命団についてのあれこれ。
原作→https://syosetu.org/novel/333707/
「はぁ? 革命が起こった?」
「い、いかがいたしましょう総督代行……!」
正直、思ったよりは衝撃ではなかった。
むしろ、ようやく起きてしまったかという気持ちのほうが大きかった。
俺は数か月前に落とされ、我が国に降伏したとある国の総督代行をしているため総督代行と呼ばれている。
「じゃあ独立するか」
「えっ」
俺は元皇国少将の総督代行改め小国最高軍指揮官にジョブチェンジした。
「まさか、あれほど上手くいくとは……」
「あんなもん交渉の持ってきかた次第でしかねぇよ」
俺のために用意してもらった司令官室にて優雅に紫煙を散らしながら、副官である皇国中尉改め少佐に返答する。
「いずれこうなるか、政争で消されるか。どっちかだと思ってたさ」
「少将……失礼、元帥閣下ほどの英雄を消すなど……」
「そう、それだよ。英雄なんて柄じゃねぇ。それもこれも
本当に厄介なことをしてくれたと思う。とんでもない奴と同期になったせいでこっちは苦労してばかりだった。
「特殊部隊の
「……聞いたことがあります。特殊部隊の指揮官、特務中将のことですね」
「革命の黒幕はあいつかもしれんと思ってる」
特務中将、常に微笑みを浮かべている貼り付けた笑みの男。
ついたあだ名が
「皇国は軍事独裁制を謳っているが実際は貴族寡頭政モドキの血統主義国家だ。軍事独裁の理念なんざ吹っ飛んでる。出世する前提に血統の有無があるんだ、まともな将官なんざ育たねぇよ」
「し、しかし……閣下は平民出身ではないですか」
「俺は媚びるのが上手かったからな」
あの国において血統によらずに出世できる存在は稀有である。佐官になれただけでも天才と呼ばれる世界である。
どんなに有能な人間でも大佐が限界だ。
「こいつぁ、俺の経験と主観だが。将官になれる人間は二つだ。一つは上にとって使い勝手のいい人材であること。もう一つは上の人間に取り入るのが上手い人間であることだ。特務中将は前者で俺は後者だ」
俺は上官に取り入って出世した。
賄賂もしたし、部隊がボロボロにならない程度に銀蝿や横領だってした。敵からの一撃より背後から撃たれるのが怖かったからだ。生き残るために必要だったってのもある。
「総督代行なんざ、最後の花道にするつもりだったんだ。出世しすぎたし、媚売った総督も退役が近かったからな。後ろ盾が無くなれば孤立して潰されるのは見えてたからな」
「しかし、閣下はまだ30半ばでしょう? 退役には早すぎでは?」
「なんのためにお前を副官にしたと思ってんだ。お前の家は皇国有数の名門軍人家系だろ? お前の元上司としての立場があればお前のコネで食ってけんだ」
「き、聞きたくなかった……」
少佐は端正な顔を歪ませて眉間を解すように指をさする。
「キレイな手段じゃ生きてけねぇんだ。俺は飯を食うために軍人になった人間だぞ? そんな高尚な気持ちとかあるわけねぇだろ。将官なんざポスト争いの火種になりかねん。さっさと退役するのが吉だろ」
「閣下はもっと金銭に執着している人間だと思ってました」
馬鹿かコイツは?
「金はあって困るもんじゃない。的確に吐き出せば味方を作れる。それに何事にも無頓着な人間より何かに執心している方が相手にとって取り入りやすいと見えるんだよ」
「つまり、保身のためのポーズだったと……」
「金にも地位にも女にも興味なくて生き残れる奴なんざ俺は特務中将以外知らねぇ。あいつはそれ程までにバケモンで天才だ」
俺が欲しいのは飢えることなく出される三食の飯だ。それ以上を願ったことがあるが、過ぎたる欲は身を滅ぼすことを俺は軍人社会を経験する中で学んだ。
自身の安全と命には代えられん。
「普通は排斥させられる。だがアイツは命令に対して完璧に答え、皇国において重要な任務を遂行するために必要な駒としてあり続けた。我も出さないし、上に噛みつかない。そうなりゃ簡単だ排除するより使ったほうが便利だからな。軍上層部はアイツに依存したのさ」
与えられた任務に対して成功率は100%、特殊部隊という特殊な立ち位置もあり功績はすべて軍上層部のものになる。
上にとってこれ以上ない手駒だろう。
「この小国なんて早期に落とせたのは八割が特務中将の情報戦の結果だ。偽札をばら撒いて首都の経済を崩壊させて恐慌を引き起こし、その混乱を縫って俺等が実働部隊を率いて陥落させた。俺はただアイツにお膳立てさせられて国落としをしただけだ」
あのときの特務中将は随分とキレてたと言わざるを得ない。小国の首都機能を破壊するなんざ情報戦と政治戦略の部類だ。戦術の分野の話じゃない。
「俺がこんな辺土の小国にこだわる理由もわかんだろ、皇都に戻ったら事故死するに決まってる。総督府の一人として小国の軍政に携わって田舎に籠もるのが命を守るために必要だったからだ」
「……」
少佐は絶句していた。
「閣下……素は皮肉屋だったのですね」
「面に出せるかこんなもん、俺は死にたくねぇからな」
生きるために軍人になり、生きるために部下を殺してきた。畜生にも劣るが人間など得てしてそういうものだ。
「溝底の汚物になってでも生きたい。誰だってそうだろ。事実俺はそうだし、大勢の人間は欲得にまみれた汚物だ」
誰もが美しく気高くあれるわけじゃない。高潔を貫く聖者だろうがそんな奴が幸福な結末を迎えることなんて英雄譚でもあり得ない。
「俺は俺が生き残るために副総督の首を刎ねた男だぞ」
「……ですが、そのお陰で我々は生き残ってます」
「当たり前だ。どこの世界に暴力を手放す馬鹿がいる」
軍事力は劇薬である。それ程までに便利なのだ。
だからこそ皇国はそれに依存して末期にはその副作用によって死んでしまった。
「俺は俺が生き残るためにお前らを利用するし、この国の王族を庇護し庇護される。俺が軍権を握り、王家の狗であり続けこの国を守ってやる。それが俺と国王が結んだ契約だ」
「総督であったときもそうでしたが、閣下は旧王族や貴族は基本的に庇護していましたよね……」
「それでも血筋だけの馬鹿は要らねぇからな。俺はキレイ好きなんだ」
生かしたのは其の方が皇国と俺にとって都合がいいからだった。喚き散らすだけの無能を殺して話が分かるまともな貴族と賄賂で動く便利な貴族を残した。反抗的で気骨ある貴族は分断して管理して動かし、或いは王族の側付きにした。
「ですが、閣下は皇国から亡命してきた高官を保護してます」
「亡命を成功させる程度には能力がある。特に首都から辺土を越えてこの国に来たんだ。無能とは言い切れねぇよ。横暴なやつは理解させれば良い。この国じゃ俺がトップだ」
革命の影響で祖国は絶賛混乱中だ。その余波で亡命してくる人間は後を絶たない。亡命を受け入れることは皇国の治世知識をもった人間や軍中枢の技術者や学者を取り込む好機でもある。
「安く人材が買い叩ける。お前ごときが佐官に、俺が元帥になれる程度に人材が枯渇してんだ。苦労してでも買うべきだろ」
「手厳しいです……」
「一番欲しいのは特務中将だ。亡命者を喜んで受け入れてるのはあの男の亡命を期待してる面もあるからな」
あの化け物がそう簡単にくたばるとも思えん。何を好んで魔窟である皇都にいるのかその神経がわからないのだ。汚濁と腐敗と暗闘が日常の伏魔殿になんざ、一秒たりとも居たくもない。
「この小国を俺の故郷に変えたかった。皇国にとって都合のいい国であると同時に俺にとって都合のいい国にしたかった。総督代行になったのはそのためだ。だからこそ国軍の再編と中央集権化の導入。王族の保護と象徴的な権威化、皇国との同化政策。すべてを推し進めたのはそのためだ」
「数か月でできることではありませんね」
「10年計画だったからな。もっとも革命のせいでパーだ」
灰を灰皿に落とす。いつしか咥えていたたばこは随分と短くなっていた。
「あなたが抵抗すれば、革命政府を打倒することもできたのでは?」
「意味がない、リスクが高い、やる気もねぇ。俺ぁ利己的な人間だぜ? どうして好きでもねぇやつのために命を懸けなきゃならねぇんだ?」
この国の軍人なんて生き物はみんなそうだ。自己の利益のために戦い、自己の自尊心を満たし、自己のエゴのために戦う。
「若い軍人にありがちだ。理想があって実によろしい。俺はそれほど気高くなれねぇな、小物だからな」
「祖国はどうなるでしょうか」
「滅んだ国のことなんざ気にするな。俺の見立てだと五分だろうな」
「五分……ですか」
うまくいくかは五分で破綻するのが五分。
「腐っても国家運営を担っていた中枢の軍人を排除したんだ。まともな国家運営ができるとは思えん」
軍の高官の首を刎ね、その子弟を処刑台に送るか追放した。
「皇国は血統主義だぞ、役職の専横や家職化がザラだったんだ。財務、内務、法務。其処に居た人間を片っ端から排除することになる。余程うまくやらなければ革命前より苛政になる。そうでなくても軍事独裁制に近い統制を敷くことになる」
俺が小国の貴族を選別するのにどれだけ気を揉んだかわかんねぇのかこの女? パカパカ首を刎ねたらどれだけの知識が紛失するかわかったもんじゃねぇぞ? 各諸侯家の秘伝や知識継承なんざ口伝であることがザラだぞ。
「財務のトップだった主計総監が嬲り殺しにされたんだ。腐ってはいたが、ギリギリの財政バランスで国を保たせてた傑物だぞ。あの男が殺されるなら俺が生かしてもらえる道理はない」
「しかし……」
「お前が何を期待してるのか知らねぇが、小国は反革命政府。親王国を貫くぞ。故郷に帰れるとは思わねぇことだ。死んでもいいなら戻ってもいいぞ。革命政府の上はわからねぇが、民衆は軍の高官の一族を嬲れば幸せになれると思い込んでる狂信者の類だぞ」
「五分の可能性で上手くいかないのでしょう? ならば」
「特務中将が黒幕ならどうする?」
革命の手引があの男の策だったなら。まず間違いなく誘われてる。敵は多いほうが良い、内部に不満を溜め込ませるより外に向ければ国内の不満を逸らせるからだ。かつての祖国が仮想敵国だった王国にやっていたことだ。
「軍事知識に裏打ちされた戦略眼、この国の首都機能を崩壊させた経済知識。特務の経験が豊かな情報戦と謀略能力。表に出ないことが革命政府の危険性を跳ね上げてる」
「証拠はあるのですか?」
「特務大尉だった銀色の姫様が居るだろ? どうして首を刎ねられる側の奴が革命政府の高官にいる? 十中八九あの女は特務中将と革命政府首魁を結ぶメッセンジャーだろう」
状況証拠としては十分だ。特務にいた人間は何人か吊るされてる。
どれも皇国の軍事政権に高い忠誠心を持っていた奴らばかりだ。生き残ったのは忠誠心の薄く俗物的なやつらばかりだ。
「革命政府に理性があり、私心なき有能で清廉な独裁を続けている限りそう簡単には崩れない。ここで戦争なんて起こしてみろ、国が一致団結するような大義名分を与えることになるじゃねぇか」
「相手は軍を解体しています、武力では此方のほうが」
「軍縮にはなるが、外向けの対外派兵を取りやめるだけだ。自警団と名前が変わるだけで主に治安維持と国防のための軍であることには変わりねぇよ。下士官や尉官の多くは生き残ってるんだ。有能で燻ってた佐官や退役せざるを得なかった有能な元大佐は革命政府に合流する。大部隊を率いた経験のある優秀で高官に功績を握りつぶされて良いように扱われた秀才連中だ。皇国の軍事能力は見た目ほど下がっちゃいない」
上っ面しか見てねぇのかよコイツはよぉ……。
泥に浸かっていた俺ほどじゃなくても泥遊びもしなかった箱入りにしか思えん。
「理想論を吐き出しつつも実際は革命政府幹部によるポストの独占。元軍人や中級幹部による実務家を握っているんだ。首魁のオーハの政策は革命の名前を借りた軍事独裁の原点回帰、改革に近い。理性的で現実が見えてる。プレイヤーとしての能力は無能のそれじゃない」
「首魁が死ぬか、衰えてしまえばどうとでもなる。まともに国民を教育するのにも半世紀は時間がかかる。それまで革命政府が外に対応することはない。むしろ、革命の甘美な言葉に煽られた周辺諸国の動き次第だろうな」
まず間違いなく、反革命政府になるだろうが知ったことじゃねぇ。その余裕もねぇ。
「オーハが死んでも、特務中将が裏にいるなら次の傀儡は銀色の姫様だろうな。俺はアレと戦いたくない。専守防衛で負けない戦いはできるが、どこでひっくり返させるかわからん」
そもそも、他国の軍人だ。小国の信用なんてほとんど無い。離間の計を仕掛けられたらあっという間に失脚の可能性もある。
「随分と特務中将のことを買っておられますね」
「軍学校の同期だ。下士官のな」
軍主流で軍人家系ですらない奴が入れる学校としたら下士官学校が精々だ。その中でも目立たない学生があの男だった。
貼り付けた笑みで心の底を見せることのない不気味な男。それでいて成績は水準以上だが、上に睨まれる程でもない成績。
あの時からこの状況を創り上げることを計画していたとしても俺は驚かん。
「やはり、俺の同期が黒幕かもしれない……」
少将→元帥
元皇国の少将で革命の蜂起の際に数ヶ月前に本編主人公によって落とされた敵国の首都で総督代行をしてた為に生き残った自己保身特化の不正軍人。ウンコマン。カス。人間の屑。人の心がないタイプの男。
本編主人公をイカれたインテリジェンスをもつバケモンだと思っており革命政府の裏に中将がいると思い込んでいる勘違い野郎。デルウハ殿とサイコロステーキ先輩のハイブリッドメンタルをしている。
中尉→少佐
元帥の副官。名門軍人家系の出身で皇国軍人であるときに育てて元帥は引退後にこいつの後ろ盾で同化政策の完了した小国で悠々自適に暮らそうとしていた操り人形。実家は滅んで家族は吊るされた。お前の故郷はもう無い。
高潔で父母が事故死するまえの大尉に似た考えを持ち清廉でそれなりに軍事的才覚をもつが軍政能力がお粗末なタイプの女。
元帥をごますりと卑屈な態度と上と下に金をバラまくことで出世した男と思い嫌悪しつつも元帥の軍事的才覚自体は本物だったため好悪入り混じった感情を持っていたが、革命によって本性を表した元帥にドン引きしている。今は嫌悪より畏怖が強い。