あるとき、ここは絵本の世界であることに気づいてしまった山羊。
しかもボーイズラブ絵本の世界だ。

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第1話

俺は気づいている。俺は絵本の世界の住人だと。

しかも、ただの絵本じゃない。

いわゆる、ボーイズラブ絵本の住人だ。

 

思えばおかしなことはいくつもあった。

イケメンのヤギの比率が異様に高い世界。その割に造詣があやふなメスたち。

 

敵意剥き出しで談笑中の白ヤギを連れ去る謎の美形の黒ヤギ。

「俺の手紙に返事もしないで…!」

「違っアイツはただのヤギの仲間で…っ」

(え…誰…?怖…)

 

ここがBL絵本の世界だとすると今までの不自然な現象に説明がつくのだ。

 

さて、このBL絵本の世界でも生きている以上は飯を食わねばならない。

兄弟ヤギから山へ草を食みに行こうなどと誘われたとき、このBL絵本の世界でBLになることを避けるにはどうすればよいか。

兄弟でおいしくご飯を食べるだけで成立してしまうBL絵本の世界だが、もちろん断るなんてことはしない。

 

「おー、いこうぜ」

 

モブは反対しない。その他大勢の一匹でしかない。孤高を気取るのは狼で十分である。

俺はヤギに徹しよう。

 

橋。

谷を渡る為に通行することが必要な建築物だが、しかし俺には一つ懸念事項がある。

橋がそれほど大きくなく、一匹ずつしか渡れないは大した問題ではない、

厄介なことに橋の下には大きなトロルが住み着いているのだ。

 

……で、現在だが。

 

「誰だ、てめえ。俺の上をまたぎやがって、気に食わねえ」

「あの…えっと…小さいヤギのがらがらどんです」

「ただで通れると思うなよ、通行料を払ってもらう」

 

先に橋を渡っていた弟が件のトロルに絡まれている。

 

「少し待てば、お金を持っている兄さんがやってきます。僕よりずっとお金持ちです」

 

俺を売ったな。あの野郎。

 

「それなら、さっさと行ってしまえ!」

 

トロルがキレ散らかして弟は山の方に逃げて行った。

えっ…この後で俺が行くの? いやだなぁ……。

だが、ここで逃げ出したりすれば、オス同士の熱い鬼ごっこの始まりだ。

見ればトロルという名前のくせに、随分と美形である。間違いなくBL絵本の主人公クラスの住人である。

選択を誤れば性的な意味で食われてしまう。

ここで一回のモブキャラクターがとるべき行動は、

 

”かたん、ことん、かたん、ことん”

 

何も考えずに橋を渡るのが一番である。

 

「俺の上をまたいで通りやがって、気に入らねえ。通行料を払え」

 

弟と同じように絡まれるが、こういう横暴な素振りのクリーチャーは総じて知能が低めであると設定されているのが絵本の常だ。

お金は兄さんが持っています。と、弟と同じように上の兄になすりつけてしまえばいい。

兄は体も大きい。ナヨナヨのモブと、ムキムキのイケヤギ。どちらとフラグが立つかは明白である。

もう台詞のカッコも出ていない。

 

無事に橋を渡り、俺を売った弟を追いかけている間に、一番上のがらがらどんが橋を渡りだした。

さんざん待たされたトロルがこれまでと同様に、兄に向って絡み始めた。

 

「がたん、ごとんと一体ぜんたい何者だ。俺の頭の上を通りやがって」

「俺だ」

 

有無を言わさずに 兄のがらがらどんが トロルに飛び掛かる

角で 目玉を 串刺しに

ヒヅメで 肉も 骨も 木っ端微塵にして

トロルを 谷川へと 突き落とした。

 

それから山へ登ってきて「行くぞ」と言った。

まぁ、絵本って理不尽な展開よくあるよね。

 

哀れなトロルはバラバラになって突き落とされてしまったが、心配は無用である。

谷川へと落ちたミニサイズとなったトロルは、既に通りすがりのイケメンに発見されていた。

このような状況に遭遇した時、この世界の男の9割は自宅へ連れて行き看病してやるのである。

 

絵本の世界だから防犯意識もまるでない。

トロルが体力を取り戻したら食われてしまう……訳もなくお互いに恋に落ちる。

この世界のジャンルはBLしかないのだ。

お幸せに。


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