灰の男と赤紫の少女   作:鉄血

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第十四話 圏内事件3

教会の一階に常駐するNPCシスターの横をすり抜け、キリトとトターは建物の奥にある階段を駆け上がった。

二階は、宿屋の個室に似た四つの小部屋に分かれているが、宿とは違ってドアロックができない。

通り過ぎた三部屋をキリトとトターは索敵スキルと目視で一通り探してみたが、潜んでいるプレイヤーは見つけられなかった。

現場の部屋の窓際で振り向いたアスナとミトは、気丈な表情を保ってこそはいたが、やはり内心ではショックを受けているようだった。

 

「教会の中を一通りトターと一緒に探してみたけど、俺達以外は誰もいない」

 

報告すると、アスナは即座に問い返してきた。

 

「隠蔽アビリティつきのマントで隠れている可能性は?」

 

「俺の探索スキルを無効化するほどのアイテムは、最前線でもドロップしてないよ。それに今は教会の入口に、他のプレイヤー達に頼んで隙間なく立ってもらってる。透明化していたとしても出る時に接触で自動看破される筈だ。この建物には裏口も無いし、窓がある部屋はここだけだ」

「ん・・・分かった。ならこれを見て」

 

アスナは頷くと、白いグローブの指で部屋の一画を示した。

そこには簡素な木製のテーブルが設置されており、動かすことができないいわゆる《座標固定オブジェクト》だ。

その脚の一本に、やや細いが頑丈そうなロープが結わえられている。結わえると言っても実際に手で結ぶ訳ではないのだが。

黒光りするそのロープの先は、部屋の空間を二メートルほど横切って、南側の窓から外に垂れている。ここからは見えないが、先端が輪になっていて、そこにあのフルプレ男が首吊りになっていた、というわけだ。

 

「うーん・・・」

 

キリトは唸りながら首を捻った。

 

「どういうことだ?これ?」

 

「普通に考えれば・・・」

 

アスナも同じように小首を傾げて答える。

 

「あのプレイヤーのデュエルの相手がこのロープを結んで、胸に槍を突き刺した上で、首に輪を引っ掛けて窓から突き落とした・・・って事になるのかしら・・・」

 

「見せしめのつもりでもないわよね?トターはどう思う?」

 

私の問いにトターは言った。

 

「・・・正直な話、死んだあのプレイヤーには申し訳ないがデュエルでたかが一人、人を殺すのならば余りに非効率だ。仮に見せしめのつもりだとしても、こんな手間でしかない事で何故、労力をかける?それにあの重武装のプレイヤーをここまで運び出すとなると、例え俺達のような攻略組でも無理だろう。特に他プレイヤーの目を盗んであのように吊るすなど・・・あのプレイヤーが胸に武器を突き刺さった状態だとしても抵抗はするだろう」

 

長々と自身の仮説を三人に説明したトターにミトは言った。

 

「・・・確かに。街中でデュエルなんかしたら嫌でも目立っちゃうもんね」

 

「この教会の中でデュエルしたとかはないのか?」

 

「有り得なくもないが、あのプレイヤーに連れがいたらその可能性は低いだろうな」

 

「だよなあ・・・」

 

頭をかくキリトにトターは更に告げる。

 

「そもそもの話、ウィナー表示がどこにもなかったのだろう?広場にいた数字人のプレイヤー達が見つけられなかったとなると、デュエルではなかったという可能性もある」

 

「でも・・・あり得ないわ!」

 

鋭い反駁。

 

「《圏内》でHPにダメージを与えるには、デュエルを申し込んで、承諾されるしかない。それはミト達だって知っているでしょう!」

 

「・・・まあ、その通りね」

 

私達は、顔を見合わせたまま沈黙した。

アスナの言葉どおり、絶対にあり得ない事が起きたのだ。それなのに私達に分かっているのは一人のプレイヤーが死んだということだけで、誰が、どうやって殺したのか見当もつかない。

窓の外の広場からは、プレイヤーたちのざわつきが途切れることなく届いてくる。彼らもまた、この《事件》の異質さにもう気付いているのだろう。

そんな中、アスナが私達を見て言った。

 

「このまま放置は出来ないわ。もし、《圏内PK技》みたいなものを誰かが発見したのだとすれば、早くその仕組みを突き止めて対抗手段を公表しないと大変なことになる」

 

「・・・俺とあんたの間じゃ珍しいけど、今回ばかりは無条件で同意する」

 

「私も協力するわ。こんなことを見ておいて協力しないのは流石に目覚めが悪いもの」

 

「俺もあまり頭は良くないが協力しよう。多少手助けになれればいいが」

 

そして私達はこの事件を解く為の探偵となった。

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