スリザリンの面汚し   作:減らず口

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僕はただ平和に暮らしたいだけ

 長かった冬がようやく終わりを告げ、寒さが緩みはじめる頃。熱心な一部の生徒は早くも期末試験を心配して気を揉みはじめる季節でもある。しかし、久々に綺麗に晴れた青空を見ると、沈み勝ちなフィニアスの気分も少しは浮き立つようだった。しばらくは心安い生活が送れるのではないだろうか――そんな気がフィニアスはした。

 

 フィニアスの予感に違わず、イースター休暇も何事もなく平和のうちに過ぎ去った。今、彼の頭を悩ませているのは、庭園のバラの木に害虫が増えていることだけだった。ホグワーツに来てからというもの、騒がしい日々が続いていたことを考えると、かえって拍子抜けのような感じさえした。

 

 ある土曜日の午後、フィニアスは森の側にあるハグリッドの小屋へと向かっていた。害虫の駆除剤を分けてもらうためである。晴れ渡った青い空に、暖かい空気。フィニアスは思わず欠伸が出そうになるのを噛み殺した。

 

 小屋の木の扉をノックするが、返事がない。耳を澄ますと、中で何やら慌てたような物音がする。しかし、扉はいつまでたっても開かない。フィニアスは首をかしげた。

 

 「ハグリッド、忙しいところすまないけれど、ちょっと頼みがあるんだ――」

 

 応答なし。確かに中に人のいる気配はあるのだが。不審に思ったが、急ぎの用でもないのでまた出直そうと踵を返したとき、扉の開く音がした。顔を出したハグリッドは、そわそわしていているわ、目が泳いでいるわ、明らかに何か隠しているような風情だった。フィニアスは何気なく中を覗きこもうとしたが、ハグリッドはその巨体で戸口を塞ぐように立っていて、中の様子はうかがえなかった。

 

「よ、ようフィニアス、お前さんがここに来るなんて珍しいじゃねぇか。何か用か?」

 

「ああ、害虫駆除剤が少し欲しくてね」

 

 その時、小屋の中でいくつも物が落ちる大きな音がした。疑わしげな視線を向けるフィニアスに、ハグリッドはあからさまにびくびくしている。

 

「中に何かいるのかい?」

 

「ああ、いや、ファングが機嫌悪くてな。駆除剤は今ちょうど切らしとるんで、悪いが明日出直して――」

 

「熱っ!こいつまた火を吹いた!」

 

「ハリー!!」

 

 分厚い布越しに聞こえるようにくぐもってはいたが、すぐに生徒のものとわかる子供の声だ。フィニアスはますます疑惑を深めた。例によって例のごとく、また危険な生物を飼っているのではないだろうか。しかも生徒まで巻き込んで。

 

「中を見せてもらうよ、ハグリッド?」

 

 

***

 

 

「つまり、君は違法であるドラゴンの卵を孵しただけでなく、生徒にその犯罪の片棒を担がせていたってことだね、ハグリッド?」

 

 仁王立ちしているフィニアスの前には、しおれていつもよりも小さく見えるハグリッドと、ハリー・ポッター、ハーマイオニー・グレンジャーの二人が肩を落としてソファに座っていた。

 

 ハグリッドの膝の上には子供のドラゴン――彼らはノーバートと呼んでいる――が座って、いや暴れていた。

 

「どうしてダンブルドアに相談しなかったんだ。っクシュン!どっちみち巨大なドラゴンをこの小屋に隠しておけるわけないのに」

 

「ペティボーンさん、それ僕たちが散々言った――」

 

「君たちも!」

 

 フィニアスは口を挟むハリー・ポッターを一喝した。

 

「ドラゴンが危険な生物なのは知っているだろう!火は吹くし、毒は持ってるし、餌は気持ち悪いし――」

 

 フィニアスは部屋の隅のバケツに山積みになったネズミの死骸を気味悪そうに一瞥した。ノーバートが心外だと言わんばかりに火花を散らした。

 

「怪我をしてからでは遅いんだ。先生方に告げ口したくなかったのは分かるけど、少なくとも危険な生物に知識もなく近づくべきじゃな――っクシュン!全く、ドラゴンにかまけて掃除をサボるから埃っぽい!」

 

 その後、既にロン・ウィーズリーがドラゴンに噛まれた後だと知って、ついにフィニアスは怒る気力さえ失ってしまった。

 

 結局、今晩ノーバートをドラゴンの研究者に引き渡す予定であることと、ダンブルドアにだけは言わないでくれとハグリッドに泣きつかれたことで、このまま黙っておくことを了承したのだった。

 

 しかし、計画性のないハグリッドたちにイライラさせられるわ(これだからグリフィンドールは!)、ドラコ・マルフォイにこの事を知られていると聞かされますます腹が立つわ(スリザリンも相変わらずだ!)、クシャミは止まらないわで、フィニアスの機嫌は最悪だった。

 

 一体ホグワーツでは平和に暮らすことはできないのだろうか?フィニアスは窓外の麗らかな春の風景を眺めて溜め息をついた。

 

 

***

 

 

 その日の真夜中近く、フィニアスは天文学の塔へと続く廊下へ向かっていた。マルフォイはきっと邪魔をしにくるに違いない――姿を現したらフィニアスが捕まえて、スネイプにつき出す。その間にハリーとハーマイオニーがドラゴンを引き渡してしまおうというのだ。二人は透明マントを使うというが(ジェームズの使っていたマントをハリーが持っていると知ってフィニアスは驚いた)、念には念を入れてということらしい。

 

 ランプの灯りを黒い布で隠して物陰に隠れていると、案の定ドラコ・マルフォイが姿を現した。蛍光塗料がぼんやりと光る腕時計を確認すると、十二時まであと十分程である。スリザリン生とかかわり合いになるのは望むところではないが、仕方がない。フィニアスはランプの覆いを外した。

 

「今晩は、ミスター・マルフォイ」

 

 ぎょっとしたマルフォイの腕を掴んで問答無用で地下へ引っ張っていく。マルフォイは逃れようと散々もがいたが、そこはマグル界で鍛えたフィニアスのこと、杖より重いものを持ったことのない坊っちゃんごときに負けるはずがない。

 

「ポッターが、ドラゴンを連れてくるんです!」

 

「はいはい、嘘をつくならもう少しうまい嘘をつくように」

 

「嘘じゃない!」

 

 その時、二人のすぐ横をスッと風が通り過ぎた。透明マントを被ったハリーとハーマイオニーだろう。これで邪魔されることなくドラゴンを処分できるはずだ。やれやれ。

 

 しかし、何に取り憑かれているのか、穏やかな夜はまだ訪れそうになかった。ひっきりなしに毒づくマルフォイを連れてスネイプの部屋へ行くという恐ろしく気詰まりな一幕を演じた後、一階に戻って来たときである。さっさと部屋へ戻って、シャワー浴びて寝ようと、足早に自室に向かっていたフィニアスの耳に凄まじい怒鳴り声が飛び込んできた。

 

「罰則です!!」

 

 慌てて様子を見に行くと、ハリーとハーマイオニーが怒り心頭のマクゴナガルの前で項垂れていた。ドラゴンは無事引き渡せたようだが、何故か被っていたはずの透明マントが何処かにいってしまっていた。

 

 ――これだからグリフィンドールは詰めが甘いんだ!

 

 かつての同級生がイタズラを見つかって怒られている姿を思い出しながらフィニアスは痛むこめかみを揉んだ。最早何を言っても耳を貸しそうにないマクゴナガルの剣幕にフィニアスはなすすべもなく、二人が連行されるのを見守ることしかできなかった。

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