スリザリンの面汚し   作:減らず口

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ダイアゴン横丁で

 フィニアスはダイアゴン横丁にいた。

 

 久し振りの魔法界だったが、フィニアスが予想していた程には変わっていなかった。狭い街路にひしめくごちゃごちゃした店並みはほとんど子供の頃に見た記憶のままだった。マグル社会の目まぐるしい変化に比べると、まるで時が止まったままであるかのようにすら思えた。

 

 こみ合うダイアゴン横丁をブラブラ歩きながら、フィニアスは忙しなく歩き回る大人子供を眺めた。自分の着ているナフタリンの香りのするローブがそれほど時代遅れの印象でもない事が分かると、買い物リストから「新しいローブ」の項目を削除した。

 

 服を新調しないとなると、リストの中でこの横丁で買えるものはほとんど残っていなかった。杖が要るわけでも、鍋が要るわけでも、薬草が要るわけでもない。羽ペンはもう購入ずみだ。魔法が使えない者が魔法界で生活するためには、本来様々な道具の助けが必要だが、ホグワーツではダンブルドアの魔法でどうにかなるらしい。あの校長に出来ないことはないのだ。

 

 漏れ鍋に戻ろうと踵を返したとき、目の前に道を塞ぐ巨大な人影が目に入った。

 

「フィニアスじゃねぇか!お前さんも買い出しか?」

 

「やあ、ハグリッド。こっちで暮らすのに幾つか必要なものがあってね。君こそこんな混み合う時期に来なくても…」

 

 ハグリッドと呼ばれた大男は強い髭でおおわれた厳つい顔をほころばせた。

 

「今日は俺の用じゃねえんだ。ほれ、ハリー」

 

 ハグリッドの陰から、眼鏡をかけた小柄な少年がおずおずと顔を出した。ハグリッドは少年の背中をぐいと前に押した。

 

「フィニアス、驚くな、あのハリー・ポッターだ。ハリー、この人はフィニアス・ペティボーンさんだ。今年からホグワーツで働くことになっちょる。んで、お前さんの父さんの同級生だった人だ」

 

 ハリー少年は驚いたように目を見開いてフィニアスを見つめた。一方でフィニアスも負けず劣らず、相手をまじまじと眺め回していた。闇の帝王を退けた「生き残った男の子」、ハリー・ポッターは、その父親に生き写しだった。まとまらない黒髪、垢抜けない眼鏡。目の色は違った気がするが。

 

 ただ、ジェームズ・ポッターは決して人の陰を歩くような男ではなかったし、こんなにおどおどすることなどなかった。いつも自信満々で、傲慢で、鼻持ちならなくて――

 

 

 ――死ぬことを望んでいた私の命を勝手に救ったお節介な男――

 

 

「あの」

 

 中々目をそらしてくれない大人に、少年は気まずそうに声をかけた。

 

「あ、ああ。私はフィニアス・ペティボーン。君のお父さんとは同級生だった……寮は違ったけれど……君は本当にお父さんにそっくりだ」

 

 フィニアスは慌てて手を差し出した。ハリー少年は恐る恐るその手を握った。自信なさげに手を握ってくる少年に、フィニアスは少し苛立ちを感じた。

 

「あの、ペティボーンさんは父さんの友達だったんですか?」

 

 そう訊ねるハリー少年の目には戸惑いがあるものの隠しきれない期待に溢れていた。

 

「まあ、そんなところかな」

 

 あまり、期待してほしくない――そんな気持ちをこめて、フィニアスは十分に間をとって答えた。わざと歯切れの悪さを残した。ジェームズ・ポッターが友人だったかと言われると、果たしてそうだったのか自信がなかったのだ。根掘り葉掘り聞かれても、上手く答えられないだろう。

 

 しかし、ハリー少年はフィニアスの言葉の裏まで感じ取ることは出来なかったようだ。キラキラした目でフィニアスを見つめている。

 

「父さんの話、聞かせてくれますか?」

 

「ああ――また機会があればね」

 

 そろそろこの場を離れたいと、フィニアスはハグリッドに目配せしようとしたが、お人好しの大男は微笑ましそうな顔をして少年を眺めていて、フィニアスの視線には気付かなかった。

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