「あっ……」
トイレに行った竜子は鏡の前で泣いていた玲央奈の姿を見つける。
「……」
玲央奈がハンカチで涙をさっと拭い、鼻水をすする。
「す、すまん……」
「何故貴女が謝るのよ」
「あ、ああ……」
「謝るのはむしろ私の方よ」
「え?」
「え?じゃないわよ、決勝で会おうって言ったのに、負けちゃったのだから……」
玲央奈が顔を俯かせる。
「しょ、勝負は時の運じゃ!」
「運を引き寄せられなかった私の負け……」
「あ、相手の差し回しが予想外のもんじゃった!」
「それに対応することが出来なかった私の力不足……」
「ほ、ほとんど五分五分じゃった!」
「そういう一局こそモノにしないとならないのに……結局は勝負弱いということ……」
「ぐっ……」
竜子も顔を俯かせる。
「ふふっ……」
玲央奈がぷっと噴き出してしまう。
「ん?」
「なんで貴女まで俯くのよ」
「い、いや、なんとか慰めようと思ったんじゃが、手詰まりじゃと思って……」
「慰め?」
玲央奈がキッとした目つきになる。
「む……」
竜子がややたじろぐ。
「そんなもの要らないわよ……!」
玲央奈が低く鋭い声色で呟く。
「う……」
「こちらがよりみじめな気持ちになるだけだわ……」
「す、すま……」
「だから謝らない!」
「は、はい!」
竜子がピシッと背筋を正す。
「………」
玲央奈が竜子を睨む。
「…………」
「……………」
「………………」
「…………………」
「……で、でも……」
竜子が目をきょろきょろとさせながら口を開く。
「でも?」
竜子が再び顔を俯かせて呟く。
「げ、元気付けてあげたいのじゃ!」
「元気付ける?」
「そ、そうじゃ」
「……何故?」
「何故って……それは……」
「それは?」
竜子が顔をパッと上げる。
「友達だからじゃ!」
「!」
玲央奈が目を丸くする。
「ど、どうしたのじゃ?」
「友達……?」
「あ、ああ……」
「誰と誰が?」
「い、いや、誰と誰って……玲央奈とワシじゃ」
「貴女と私……?」
玲央奈が自らと竜子を交互に指差す。
「ああ、そうじゃ」
「友達だったの……? 私たちって……」
「違うのか?」
「……いつから?」
「い、いつからって……そりゃあ、初めて会うた時からじゃろ」
「……今日で会うのは三回目よ? たったの……」
「そうじゃな」
「あまり話したことないじゃないの……」
「多くを語り合ったじゃろ……盤上で」
「‼」
玲央奈がさらに目を丸くする。
「うん?」
竜子が小首を傾げる。
「……………………」
玲央奈が再び顔を俯かせる。
「……ち、違うたかの?」
竜子がおそるおそる玲央奈の顔を覗き込む。
「……ぷっ」
「ぷっ?」
「……あははは!」
「おおう⁉」
いきなり顔を上げて笑い出した玲央奈に竜子が驚く。
「ははははは! ははは……あ~可笑しい……」
玲央奈が指で目からこぼれる涙を拭う。
「な、なにかおかしかったか?」
竜子が戸惑う。
「いいえ……将野竜子ちゃん!」
「お、おう……!」
「どうもありがとう、すっかり元気が出たわ」
「そ、それは良かったの……」
やや間をおいてから玲央奈が話す。
「……友達としてお願いがあるのだけれど……」
「なんじゃ?」
「決勝戦、必ず勝ってちょうだい、私があらためて貴女を倒すから」
「! ……ふふっ、任せとけ!」
竜子が力強く頷き、会場に颯爽と戻る。