「ああ、将野さん、どうぞ席についてください」
大会の係員が会場に戻ってきた竜子に声をかける。
「ああ……」
「……」
竜子が席につく。既に有栖宮アリスがその前に座っていた。
「待たせてすまん」
「イエ……」
アリスが軽く首を振る。
「先ほどは見事な一局じゃった」
「ソレホドデモ……」
「しかし……!」
「?」
「勝つのはワシじゃ」
「ハア……」
「い、いや、ハア……って、もうちょっとなんかないんか……?」
竜子が少しズッコケる。
「準備はよろしいですか?」
係員が声をかける。
「う、うむ……」
「イツデモドウゾ……」
「では、先手後手を決めるじゃんけんをお願いします」
「じゃんけん」
「ポン」
「む……」
じゃんけんはアリスが勝った。
「では、有栖宮さんが先手です……」
(ちっ……!)
竜子は内心舌打ちをしながらも駒を手際よく並べた。
「……時間です。決勝戦の対局を始めてください」
「お願いします……!」
「オネガイするぜ……!」
「ん⁉」
竜子が驚いて相手の顔を見る。そこには前髪を上げて、碧眼を覗かせたありすがいた。
「へへっ……」
「……ありすの方か? 驚いたの……」
「別に順番を決めているわけじゃないぜ?」
「それはまあ……そうじゃな」
「理解が早くて助かるぜ」
「………ひょっとして……」
「うん?」
「おぬしが出てきたということは……」
「察しも早くて……助かるぜ!」
「なっ⁉」
「はっ!」
「ぬっ⁉」
「ふっ!」
「のっ⁉」
「ほっ!」
「むう……」
「へっ……」
(ひらがなの方のありすは攻撃的だとは分かっておったが……まさか定跡をこうも無視してくるとは……)
「まだるっこしいのは性に合わなくてね~」
竜子が顔を上げる。
「……思考が読めるのか?」
「まさか」
「じゃろうな」
「どうだい? アタシの指し回しは?」
「……せっかちじゃな」
「江戸っ子なもんで」
ありすは肩をすくめる。
「ふむ……」
「そらっ!」
「! むむ……!」
「ほらっ!」
竜子が自らの口元を抑える。
(こちらの手に対して、ほぼノータイムで指し返してきおる……! マズいな、このままではペースが握れん……!)
「焦るのも早いね~」
「! ふ、ふん……!」
ありすが右手を軽く挙げる。
「いいや、煽っているわけじゃねえぜ。実力差をはっきりと認識しているわけだからな」
「煽っておるではないか! ……おっと!」
竜子が指した手を見て、ありすが笑う。
「へえ、冷静だね~」
「その手には乗らん」
「乗りかけてたけど?」
「やかましい!」
「おっ……!」
竜子の指した一手でありすの顔色が変わる。
「……滅茶苦茶な指し方だと分かれば、対処のしようもある……!」
「さすがは決勝戦ともなると、そう簡単にはいかないか~」
「そうじゃ」
ありすと竜子がともに笑みを浮かべる。
「………」
「…………」
「……………」
(くっ! 後もう少しというところなんじゃが……差が詰まらん!)
竜子が顔をしかめる。
「……少しばかり早いが……」
「ぬ?」
竜子がありすの顔を見る。
「慎重にいこうか……!」
「⁉」
次の瞬間、ありすの前髪がその碧眼を覆い隠す。
「ケンメイナハンダン……」
(アリスになりおった⁉ ……ここから守りを固めてくるということか! マズいぞ! このままでは追いつけん!)
竜子は険しい顔つきで盤面を見つめる。