「……」
「逃がさん!」
「………」
「ちぃっ!」
「…………」
「くぅっ!」
「……………」
「ぬぉっ!」
「………………」
表情をくるくると変える竜子に対し、アリスは顔色ひとつ変えずにいた。
(むう……なんと手堅い指し回しじゃ……劣勢を挽回することが出来ん……!)
「……ヨロシイノデスカ?」
うつむき加減だったアリスが顔を上げて、竜子を見つめる。
「な、なにがじゃ?」
「ゴジブンノマモリヲオロソカにサレテイルヨウナノデ……!」
「! しまった……」
アリスの指した一手に対し、竜子が自らの口元を右手で覆う。
「スキアリ……」
「こ、これは……」
観戦していた央美が目を細める。
「痛烈な反撃……」
央美の横で真理が呟く。
「守り一辺倒だけはでなく、ここぞという一手を狙っておられたのですね……見事なバランス感覚ですわね」
二人の間に立つ左京が感心して頷く。
「カウンター炸裂ってわけだね……尻尾ちゃんが劣勢を覆そうと無理してバランスを崩すのを狙っていた……」
「見事な勝負勘……」
央美と真理も感心する。左京が扇子を広げてパタパタとさせる。
「いやはや、しかし、これはなかなかのダメージですわね……」
「勝負ありかな?」
「ふむ……」
央美の問いに左京は扇子を閉じて自らの口元を隠す。
「……パ、パパ……」
左京たちのやり取りを近くで聞いていた太郎がパパに視線を向ける。
「うん?」
「竜子……負けちゃうの?」
「な、なかなか厳しいみたいだね……」
「なにを言っているの……!」
ママが低く鋭い声を放つ。
「お、おっと……」
「マ、ママ……」
パパと太郎が驚きの目でママを見つめる。
「わたしたちが信じてあげなくてどうするのよ……!」
「そ、それはそうだけど……」
「なに? 太郎?」
「ここから勝てるの?」
「それは分からないわよ。ママ、将棋知らないもの」
「そ、そんな……」
「ご心配は要りません」
「! あ、あなたは……」
太郎たちの近くに玲央奈が立っていた。
「お嬢さん……竜子さんはまだ大丈夫です……」
「ど、どうしてそう言い切れるの?」
太郎の問いかけに対し、玲央奈はフッと笑ってから告げる。
「あの子の瞳はまだ生きているからよ……!」
「……ふふふっ」
竜子がうつむいて笑う。
「?」
アリスが不思議そうに首を傾げる。
「いやはや、簡単なことじゃった……」
「ウン?」
「そなたを凌駕する方法じゃ」
「ホワッツ?」
「……そなたがふたつの国を股にかけるというのなら……ワシはふたつの世界を股にかければよいだけのこと!」
竜子が右手でピースサインを作って、顔を上げて笑みを浮かべる。
「……ハアッ?」
アリスが理解不能だという表情になる。
「常識外れではなく、そもそも違う常識で勝負するんじゃ……!」
「ナ、ナニヲイッテイル?」
「百聞は一見に如かずじゃ!」
「ム!」
「えいっ!」
「!」
「せいっ!」
「‼」
「ていっ!」
「⁉」
「どうじゃ!」
「ナ、ナニ、コノメチャクチャナサシカタ……」
アリスが混乱する。
「ふっ……」
「ちっ、変われ! アタイがやる!」
「ふふっ、再びありすのお出ましじゃな……」
「てめえ……」
ありすが竜子を睨み付ける。
「江戸っ子対異世界っ子の戦いじゃ!」
「い、意味の分からねえことを!」
「……ど、どういうことだし……?」
「理解の範囲外……」
央美と真理が呆然と勝負の行方を見つめる。
「乱戦を超えた大乱戦に持ち込む……有栖宮さんはそこまでの切り替えに慣れていない」
「伊吹さん……!」
いつの間にか自分の後ろにいた玲央奈に左京は驚く。玲央奈が微笑みながら呟く。
「ふふっ……そういう戦い方もあるのね……」
「……負けました!」
「ゆ、優勝は将野竜子さん!」
竜子が決勝戦を制した。