「へへっ……」
室内に虎が刺繡されたジャンパーを羽織り、長い脚をダメージジーンズに通した、比較的大柄な体格で、ショートの髪型を少し外ハネさせた女の子が入ってきた。
「だ、誰じゃ?」
「そっちのゴスロリちゃんに遊んでもろたもんや」
竜子の問いに外ハネショートの女の子が真理を指差して答える。
「……!」
「先日はどうも~」
驚く真理に対し、外ハネショートの女の子が右手を軽く振る。
「だ、だから誰じゃと聞いておる!」
「人に名前を尋ねるんなら、まず自分から名乗るのが礼儀ってもんちゃう?」
外ハネショートの女の子が外ハネの部分を指先でくるくるとさせながら応じる。ちなみに外ハネの部分だけを金色に染めている。
「む……それもそうじゃな」
「お、わりと物分かりええな」
「ワシは将野竜子……!」
「知っとるで、関東チャンピオンやろ?」
「お、おう……」
竜子はやや面食らう。
「アタシは棋田直虎きだなおとら、関西チャンピオンや」
「! 関西チャンピオン……」
「そうや」
直虎と名乗った女の子が誇らしげな笑みを浮かべる。
「……ご存知?」
左京が自らの口元を扇子で隠しながら、央美に小声で問う。
「な、名前は一応……でも、何故かデータが無い……」
「それも当然や……!」
「!」
直虎にビシっと指をさされ、央美がビクッとする。
「み、耳が良いですわね……」
左京が多少ばつが悪そうな表情を浮かべる。
「陰口を言われたらシバけるようにな」
「か、陰口ではありませんわ!」
「分かっとるがな。冗談やがな」
直虎は笑顔を浮かべる。
「当然、というのは?」
玲央奈が問う。
「……」
「失礼、伊吹玲央奈です」
玲央奈が頭を下げる。
「ああ、アンタが元名人の娘かいな!」
直虎が右手でポンと左手の手のひらを打つ。
「……ええ」
玲央奈が若干顔を引きつらせながら、頭を上げる。
「初出場で初優勝の快挙を成し遂げたからな~」
「初出場⁉」
「初優勝⁉」
玲央奈と左京が驚く。
「なるほど、データが無いわけだ……」
央美が頷く。玲央奈が重ねて問う。
「……棋歴は?」
「? キレ痔? けったいなことを聞きはるな~特に大丈夫やで」
直虎は自らのお尻のあたりを大げさにさすりながら答える。
「そうじゃなくて、棋歴! 将棋経験のこと!」
「ああ、そういうことかいな……」
直虎は自らの顎に手を添えて首を捻る。
「………」
「……これや」
直虎が玲央奈に対し、左手の人差し指を立てる。
「一年ね……」
「ちゃうわ。一ヶ月や」
「い、一ヶ月⁉」
「そうや」
目を丸くして驚く玲央奈を見て、直虎がドヤ顔で頷く。
「そ、そんなことが……」
「あり得るんやな~これが……」
直虎が両手を広げる。
「関西にも実力者が多く出たのに……」
「アタシの敵じゃなかったっちゅうこっちゃね~」
央美の呟きに直虎が反応する。玲央奈が問う。
「本当に一ヶ月なの?」
「ホンマやっちゅうねん。嘘吐いてもしゃあないやろ」
「それはまあ……」
「か~怖いわ~!」
「怖い?」
「己の才能が怖いっちゅう話や。小さい時からなんでも要領よくこなしてまうからな~」
直虎が自らの額を軽く叩く。
「………」
「こりゃあ、一年後には将棋界を席巻してまうやろな~」
「! そ、そんなに簡単な話じゃないわ!」
玲央奈がムッとする。
「せやけど姉ちゃん、たった一ヶ月で関西チャンピオンやで? これで半年後と言わないのがむしろ慎み深いやろ?」
「ぐっ……」
「ふふん♪」
押し黙る玲央奈を見て、直虎がほくそ笑む。
「……ビギナーズラックという言葉を知っておるか?」
「あん?」
口を開いた竜子を直虎が軽く睨む。竜子は怯まずに再度尋ねる。
「知っておるか?と聞いている」
「お嬢ちゃん、アタシは横文字は苦手やねん。日本語で言うてや」
「ま・ぐ・れ、じゃろ?」
「‼」
直虎が目を細める。左京が困惑しながら小声で呟く。
「あ、貴女がそれを言うんですの……?」
「なかなかオモロイこと言うな~挨拶だけにしとこうかと思ったけど……」
「……お待ちなはれ」
「!」
直虎が振り返ると、五つの影が部屋の入口に立っていた。