竜王はワシじゃろ?   作:阿弥陀乃トンマージ

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第9話(3)関西チャンピオン

「へへっ……」

 

 室内に虎が刺繡されたジャンパーを羽織り、長い脚をダメージジーンズに通した、比較的大柄な体格で、ショートの髪型を少し外ハネさせた女の子が入ってきた。

 

「だ、誰じゃ?」

 

「そっちのゴスロリちゃんに遊んでもろたもんや」

 

 竜子の問いに外ハネショートの女の子が真理を指差して答える。

 

「……!」

 

「先日はどうも~」

 

 驚く真理に対し、外ハネショートの女の子が右手を軽く振る。

 

「だ、だから誰じゃと聞いておる!」

 

「人に名前を尋ねるんなら、まず自分から名乗るのが礼儀ってもんちゃう?」

 

 外ハネショートの女の子が外ハネの部分を指先でくるくるとさせながら応じる。ちなみに外ハネの部分だけを金色に染めている。

 

「む……それもそうじゃな」

 

「お、わりと物分かりええな」

 

「ワシは将野竜子……!」

 

「知っとるで、関東チャンピオンやろ?」

 

「お、おう……」

 

 竜子はやや面食らう。

 

「アタシは棋田直虎きだなおとら、関西チャンピオンや」

 

「! 関西チャンピオン……」

 

「そうや」

 

 直虎と名乗った女の子が誇らしげな笑みを浮かべる。

 

「……ご存知?」

 

 左京が自らの口元を扇子で隠しながら、央美に小声で問う。

 

「な、名前は一応……でも、何故かデータが無い……」

 

「それも当然や……!」

 

「!」

 

 直虎にビシっと指をさされ、央美がビクッとする。

 

「み、耳が良いですわね……」

 

 左京が多少ばつが悪そうな表情を浮かべる。

 

「陰口を言われたらシバけるようにな」

 

「か、陰口ではありませんわ!」

 

「分かっとるがな。冗談やがな」

 

 直虎は笑顔を浮かべる。

 

「当然、というのは?」

 

 玲央奈が問う。

 

「……」

 

「失礼、伊吹玲央奈です」

 

 玲央奈が頭を下げる。

 

「ああ、アンタが元名人の娘かいな!」

 

 直虎が右手でポンと左手の手のひらを打つ。

 

「……ええ」

 

 玲央奈が若干顔を引きつらせながら、頭を上げる。

 

「初出場で初優勝の快挙を成し遂げたからな~」

 

「初出場⁉」

 

「初優勝⁉」

 

 玲央奈と左京が驚く。

 

「なるほど、データが無いわけだ……」

 

 央美が頷く。玲央奈が重ねて問う。

 

「……棋歴は?」

 

「? キレ痔? けったいなことを聞きはるな~特に大丈夫やで」

 

 直虎は自らのお尻のあたりを大げさにさすりながら答える。

 

「そうじゃなくて、棋歴! 将棋経験のこと!」

 

「ああ、そういうことかいな……」

 

 直虎は自らの顎に手を添えて首を捻る。

 

「………」

 

「……これや」

 

 直虎が玲央奈に対し、左手の人差し指を立てる。

 

「一年ね……」

 

「ちゃうわ。一ヶ月や」

 

「い、一ヶ月⁉」

 

「そうや」

 

 目を丸くして驚く玲央奈を見て、直虎がドヤ顔で頷く。

 

「そ、そんなことが……」

 

「あり得るんやな~これが……」

 

 直虎が両手を広げる。

 

「関西にも実力者が多く出たのに……」

 

「アタシの敵じゃなかったっちゅうこっちゃね~」

 

 央美の呟きに直虎が反応する。玲央奈が問う。

 

「本当に一ヶ月なの?」

 

「ホンマやっちゅうねん。嘘吐いてもしゃあないやろ」

 

「それはまあ……」

 

「か~怖いわ~!」

 

「怖い?」

 

「己の才能が怖いっちゅう話や。小さい時からなんでも要領よくこなしてまうからな~」

 

 直虎が自らの額を軽く叩く。

 

「………」

 

「こりゃあ、一年後には将棋界を席巻してまうやろな~」

 

「! そ、そんなに簡単な話じゃないわ!」

 

 玲央奈がムッとする。

 

「せやけど姉ちゃん、たった一ヶ月で関西チャンピオンやで? これで半年後と言わないのがむしろ慎み深いやろ?」

 

「ぐっ……」

 

「ふふん♪」

 

 押し黙る玲央奈を見て、直虎がほくそ笑む。

 

「……ビギナーズラックという言葉を知っておるか?」

 

「あん?」

 

 口を開いた竜子を直虎が軽く睨む。竜子は怯まずに再度尋ねる。

 

「知っておるか?と聞いている」

 

「お嬢ちゃん、アタシは横文字は苦手やねん。日本語で言うてや」

 

「ま・ぐ・れ、じゃろ?」

 

「‼」

 

 直虎が目を細める。左京が困惑しながら小声で呟く。

 

「あ、貴女がそれを言うんですの……?」

 

「なかなかオモロイこと言うな~挨拶だけにしとこうかと思ったけど……」

 

「……お待ちなはれ」

 

「!」

 

 直虎が振り返ると、五つの影が部屋の入口に立っていた。

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