竜王はワシじゃろ?~異世界生まれのJS、将棋を始めてみた~ 作:阿弥陀乃トンマージ
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週末、都内のとあるイベントスペースにて……。
「まさか、関西対関東の対抗戦なんてものがあるとはね……」
「パパ、知っていたの?」
太郎がパパに問う。
「いや、郵便物はママが管理しているから……」
パパがママに視線を向ける。
「……竜子がこの間の大会で燃え尽きたように見えたから……参加を断る方向で進めていたのよ……ただ、急にやる気が戻ってきたみたいだから……」
「参加出来たんだね」
「なんとかなったみたいね。関係者の方々には迷惑をかけちゃったわ」
太郎に対し、ママは苦笑を浮かべる。
「……お嬢様」
「……ふむ」
左京が紅茶を置いて、豪奢な椅子からゆるりと立ち上がる。
「ご武運をお祈り申し上げます」
「吉報を届けてあげるわ、セバスティアン」
「……山田です」
山田が頭を下げる。左京がイベントスペースの中央に設置された椅子に腰かける。将棋盤を挟んで、長い前髪で両目を隠した女の子、裃真宵が座っている。
「……よろしくお願いいたしますわ」
「……」
「な、なに?」
髪に隠れているが、顔の向きから、真宵が自分のことをじっと見つめているのが分かった左京はやや戸惑う。真宵が口を開く。
「……対局前に優雅なティータイムって、余裕だね~」
「ルーティーンですから」
「でもさ~」
「?」
「対局中にお漏らしたりしないでね~」
「! そ、そんなことは致しませんわ!」
「ふふふ~」
左京の言葉に真宵が微笑む。
「……振り駒の結果、先手は裃さん……それでは、関東関西特別対抗大会、先鋒戦、裃真宵さんと郷右近左京さんの対局です。両者、初めてください」
大会職員が告げて、真宵と左京が礼をする。
「お願いしま~す」
「お願いします」
「……」
「………」
「…………」
「……………」
「………………」
(先手を取られたのは少しばかり気になりましたが、ここまでは静かな立ち上がり……裃真宵さん……定跡どおりに指されますわね……)
左京が盤面を冷静に見つめる。
「ふ~む……」
(ここで長考――しばらく考える時間――に入った? まだそこまで難しい局面ではないはずでは?)
「う~ん……」
(まだ考えていらっしゃる……)
「ぬ~く……」
(ま、まだ⁉)
「……よっと」
(しばらく考えたわりにはなんとも普通の一手……いや、この局面ならばこの一手こそが最善だとは思いますが……)
「す~ふ……」
(ま、また、長考⁉)
「つ~ゆ……」
(な、何を考えることがあるのです?)
左京が内心戸惑う。
「る~う……」
(わ、分からない……)
「……ほっと」
(またまた考えたわりには、極めて平凡な一手……そうか、分かりましたわ!)
左京が真宵に向かって満面の笑みを浮かべる。真宵が首を傾げる。
「うん?」
「失礼……」
「お?」
「さらに……」
「ろ?」
「重ねて……」
「ほ?」
「失礼を……!」
「お、おお……」
盤面の変化を見て、真宵が自らの顎をさする。
(裃さんはトリッキーな棋風とお聞きしていました……実際に関西での大会の盤面も並べて研究させていただいた……しかし、どうやら本日はそのトリッキーさが不発気味……! 恐らく本日はあまり調子が良くないのでしょう……)
「む、むむ……」
(少し慎重に入り過ぎました……先に仕掛けて、一気に決めさせて頂きますわ!)
「わ、わわ……」
「あるいは……」
「ん?」
真宵が左京を見る。左京がニヤリと笑う。
「緊張なさっているのかしら? トリッキーさが売りの方が、平凡な立ち上がりを見せるなんて……自らの棋風を捨てた方に、勝利の女神は微笑みませんわ!」
「‼」
左京の一手に真宵が目を見張る。左京がうんうんと頷く。
(大分わたくしの優勢に傾きましたわ……)
「……まあまあ」
「む?」
「そんなに慌てないでよ~」
「う⁉」
「ふふっ……」
(わたくしの戦法、棒銀は十分に機能していたはず……ですが、いつの間にか……攻撃の要である銀が孤立させられている⁉ これでは攻められない……!)
「お手洗いに行っておいた方が良かったかもね~ふふふ~」
真宵が鼻歌まじりに呟く。