竜王はワシじゃろ?~異世界生まれのJS、将棋を始めてみた~ 作:阿弥陀乃トンマージ
「……仕掛けよったな」
控室に二つあるモニターの内、大きい方のモニターで対局を観戦していた直虎が呟く。「トリック発動、だいぶ時間がかかったね~」
胤寧が微笑む。
「気まぐれなのが玉に瑕どすな……」
麒麟が頬杖を突きながら、ため息をこぼす。
「……アナタたち、気が付いていないの?」
ルーヴが三人に問いかける。
「ん?」
「う~ん?」
「なにをどす?」
三人が揃って首を傾げる。
「いや、気が付いていないのなら、それはそれで構いません……」
ルーヴがモニターに視線を戻す。
「あ、あ~! あれな! 完璧に気が付いていたわ~」
「……ウソをつきなさい」
「うぐ……」
知ったかぶりをバッサリと斬り捨てられた直虎が顔をしかめる。
「……ご教授ください」
「お願いしま~す」
麒麟と胤寧が素直に頭を下げる。
「……トリック発動には条件があるのです」
「マジで⁉ な、なんや、条件って?」
直虎が目を丸くする。
「……同程度以上の相手でないと、トリックは不発に終わる……!」
ルーヴが間を空けて答える。
「……へ~」
「なるほど、同程度以上ね~」
直虎と胤寧が揃って頷く。
「それはそれは……実力者揃いのわたしたちにとっては盲点でしたな~」
麒麟がわざとらしく自らの額に手を当てて呟く。
「謙虚さというものがありませんね……最近のニッポン人はこうなのかしら……?」
ルーヴが首を捻る。
「……ドウテイドイジョウ」
離れた席で聞き耳を立てていたアリスがボソッと呟く。
「……ご存知だったかしら?」
玲央奈が央美に尋ねる。
「いや……棋譜を見る限り、調子の波があるな~くらいには思っていたけれど……」
央美がモニターを見ながら、自らの顎をさする。
「トリックとはなんじゃ?」
「この場合は……カウンターが決まるように伏線を張っていたのですね」
目の前の将棋盤に並べられた駒を手際よく動かしながら、玲央奈が竜子に答える。
「……」
竜子が盤面をじっと見つめる。
「先ほどの左京さんの攻めの一手が、やや攻守のバランスを欠く瞬間になります。その瞬間を逃さないように発動する罠……」
「ふ~む……」
「分かった?」
玲央奈が竜子に問う。
「これはつまり……アレじゃな?」
「アレ?」
「お互いの信頼の表れというやつじゃ」
「信頼の表れ?」
玲央奈が首を捻る。
「だってそうじゃろ? お嬢がこのように指さなかったら、この局面にまで持ち込めなかったら、罠も意味をなさなかったわけじゃし……」
「それはまあ、そうね……」
玲央奈が頷く。
「面白い見方をするね、尻尾ちゃん」
央美がふっと微笑む。
「きっと、お嬢とあのトラック野郎は楽しそうに盤面で会話しとるんじゃろうて……」
竜子が腕を組んでうんうんと頷く。
「トリックスターね。『神戸のトラック野郎』は無数にいる気がするわ」
玲央奈が訂正する。
「……タノシソウ?」
アリスがモニターを見つめながら首を傾げる。
(……最低最悪の気分ですわ!)
左京が盤面を見つめながら心の内で叫ぶ。
「……ふふっ」
真宵が笑みをこぼす。
「なにがおかしいのかしら?」
左京が目線を上げて真宵に問う。
「いや別に……」
「別にということはないでしょう」
「まあまあ……」
「正直におっしゃってくださいな」
「……怒らない?」
真宵が尋ねる。
「淑女たるもの、感情を乱したりはしませんわ」
「そう……」
「ええ」
「本当に?」
「もちろんですわ」
「じゃ、じゃあ、言うね……」
「……どうぞ」
「……トリックに引っかかってざまあwww」
「ムキ―!」
左京が取り乱す。
「郷右近さん⁉」
大会職員が駆け寄ろうとする。
「い、いいえ、なんでもありませんわ……」
左京が大会職員を制する。
「そ、そうですか……」
「皆様、失礼を致しました……」
左京が周囲に頭を下げる。
「……怒ったじゃん」
真宵がボソッと呟く。
「そういう言い方をされればどなたでもそうなるでしょう……!」
左京が小声で言い返す。
「まあまあ、対局に集中しようよ~」
「言われるまでもありませんわ……!」
「ふっ……」
「…………」
「……………」
「………………」
「ん?」
「…………………」
「んん?」
「……いかがなさいました?」
左京が微笑む。
「こ、これは……お嬢様、自らでバランスを崩した?」
「御明察……!」
左京が扇子をバッと広げる。
「!」
「バランスを保つことが出来れば、逆もまた可能というもの!」
「くっ、それは……想定していなかった……形勢再逆転か……」
「ふふん……」
左京は得意気に扇子を仰ぐ。
「……………………」
「………………………」
「……むむっ⁉」
左京は盤面に顔を近づける。
「ふふふっ……」
「な、なにをなさいましたの⁉」
「自分でも意識していなかったよ~罠の2段構え……!」
真宵が両手で前髪を勢いよくかき上げる。両目がキラリと光る。
「む、無意識に? そ、そんなことが……」
「出来ちゃうんだな~トリックスターは……」
「くっ、ここで形勢の再々逆転とは……負けました」
しばらくもがいてみせた左京だったが、苦々しい表情で頭を下げた。
「ありがとうございま~す」
真宵が礼を言う。対抗大会の先鋒戦は関西チームが制した。