小説世界で全知無能を演じていたら、悪の組織のトップになってた 作:茶蕎麦
皆様は9月もどうか無理なくお過ごしくださいー。
あの子と、あの人の登場ですね。
最後に一度サブタイトルに振り返っていただけると嬉しいです!
好きで自分を語らないのはダサいとは、クラスメートの吉原美袋さんからお聞きしたことばです。
なるほど確かにそれにも一理あるでしょう。示威として手持ちのトゲを向けるより胸の中の愛を披露することの方がよほど難しいものです。
他を嫌ってばかりの人はつまらなく思えてしまう少女の気持ちは理解できるのですね。けれどもそれ止まり。
なにせ私は吉原さんの天真爛漫なところに似合わぬ血みどろサイコスプラッタ好み(強火)に比肩するほどに、ツンデレ大好きですし。
そう私ったらついつい、由梨センパイを筆頭にハリネズミみたいな類を好んでしまうのですね。優しくしてあげたくなっちゃうのでした。
とはいえ、なんだかところどころゴツゴツしていて格好いいけど実際は色々と引っ掛かったりして動きにくそうだよね、みたいな善人がしてたみたいに物理的なトゲトゲはダサいと思います。
そして、もしダサさ覚悟で私が嫌いなものを挙げるとしたら、それはもう鬼でしょう。
楠の鬼。その中でもまた特に極まって尖った角を持った彼女がお家近くの鬼の本家門前にて突っ立っていました。
嫌いとはいえどうでもいいという訳でもない私はつい、同級生しちゃっているそこの作中最強に声をかけてしまうのでした。
「汀。やれ。そういえば物理的なトゲの極みが貴女達でしたねぇ」
「むぅ……まだツンツン期なのか、吉見は……汀様は悲しいぞ」
「私は汀にデレることはないですよー」
「それは悲しいが……いや、吉見の唯一無二の嫌いというのはそれはそれで最早愛では?」
「はぁ」
デカブツはオンリーワンを独り占めだとか何とかぶつぶつ口走ります。
これには、あまり汀に詳しくない玲奈さんもお目々キョトンですね。
そうして、どうしてだかこの人形侵略存在に好まれている私は、素っ頓狂な論にため息を吐かずにはいられません。
愛とか口にする割には触れても来ない臆病者さんを前に、私は何となく彼女の中の定義を聞いてみるのでした。
「やれ。愛ってなんなのでしょうかね?」
「……ためらわないことって私は聞いたよ?」
「汀様は、力で勝つだけではいけないと教わったな」
「この世界で最も馬鹿力な鬼には難しいことですね、それ」
なんでかちょっとムッとしながらクチバシを容れられた玲奈さんの結論はどうにも昭和ヒーロー的な感じですが、しかし誰かの言葉を諳んじる汀の発言もどうにも平成ヒーロー的。
これには悪役な私としては、中々頷けないところがありますね。愛ってこうもっと、柔らかな根っこの温もりであるような気がします。
また私が思わず突っ込んでしまったように、力の権化たる鬼がそれを完全には認めていないところが不思議でした。
多分どこぞのテレビの中で活躍するウルトラな人たちにだってステゴロで勝てちゃうくらいの単純暴力。
もしパワーがスピードと重さ(あと入れるとしたら力みとかですかね?)の掛け算で出来ているのだとしたら、重さがこいつら群を抜いているものですから。
毎瞬自己増殖を重ね続けて、すでに幾多の界を割るほどの質量を持っているエックスなんてものと繋がっているというかその先駆け、突端の役割ですからまあ桁外れ極まりなく。
「そうだなあ……生まれてから一度も本気にならないでい続けるのは、ちょっとホネだ」
「そうですか……」
そんなのが世界に優しくしようとしているのが冗談みたいでむしろ奇跡的なのでしょうね。
世界を物理的に均すピースメーカー。本性が世界を滅ぼし続ける悪逆(それこそ億年後には這入ってきた彼らがこの世に溢れてこの世界を埋め尽くし破壊するでしょう)であるのに、同じく植物の性根として大きく変わらずを好む。
そんな鬼と呼ばれていることがおかしな感じのどこか優しげな存在ですが、しかしこいつらが【空/カラ】を持つわらびを【鬼化】させようとしていたことは決して許せません。
本当に、私が有用性を示してそれをお流れにさせられてよかったです。
改めて私が気持ちを複雑にさせていると、私の後ろからぴょこんと玲奈さんが。
彼女はまるでノベル版の一巻表紙絵みたいに愛らしい上目遣いで汀に声をかけます。
「……あ、あのっ!」
「おや。そういえばなんだこの清楚系女子は。偽清楚な吉見に見習わせたいレベルだ」
「やれ。汀は彼女の発生させる可能性のあるラッキースケベのえげつなさを知らないからそんなことを言えるのですよ」
「なんと」
とはいえ、玲奈さんの私を見て攻撃も鈍感鬼さんには通じず、むしろ汀が変なことを抜かすものでしたから話の方向すらそっぽを向いていしまいました。
私はあまり克明にでしたら鼻血ぶーですので、なんとなくアニメスタッフが作業量に切れてしまったからという噂のあの原作女性ファンドン引きなサービスシーンを思い出すのでした。
いやもう玲奈さんまだ懐ききっていない時点でなんでそんなこんなあんな前のめりでとっ散らかってヤバヤバな脱げ脱げになっちゃったのでしょう。
私には分からないですが、アレのようには瞬間移動と恣意的な行動がなければ再現不可能ではないのでしょうか。
件の作画スタッフが反省したのか以降はまあとんでもないのは減りましたが、あの伝説的な最大風速を思うにきっと玲奈さんはエッチの神様に愛されている筈です。
ついつい、エロの欠片もストンと落ちちゃうだろうレベルの清楚ボディを保有する私は、ジト目で玲奈さんを見てしまうのでした。
「……ええ!? 私ってちゃんとエッチから距離を取るようにしてるよ?」
「そうですか……ナイスディスタンスと言いたいところですが、ならば宗二君が原因なのかもしれませんね。あの三人でぐにょんぐにょんのべっちゃべちゃのシーンの原因は」
「マジか。三千世界でも中々居ないスケベ誘発体だったなんて我が弟子ながらヤバいな」
「ですねえ。え。汀ったら宗二君弟子に取ったのですね」
私はこの世の真理を理解したことに納得を覚えていると、なんとも意外な新情報も耳に入ります。
鬼の弟子とか原作ルートだいぶ逸れる感じですが、それはそれで強くなりそうで胸熱展開ですね。
原作ではなかった汀(原作元カノ)ルートしょうか。
とはいえ、何ともどこかの二次創作で読んだような感も拭えず、実際ただ強いだけの存在と組手しただけで強くはなれるものなのでしょうかねとは思います。
まあ今のところ問題がないからいいなあと考えながら、彼の目下の大問題に一応女性の片割れとして一緒に悩むのでした。
「まあ、見どころはあるからなあ……だがあいつに裸に剥かれたくはないな」
「大丈夫ですよ、汀。流石に隠すところは隠したうえでだいぶマニアックな格好にさせられる感じですから」
「そっちの方が嫌だな……」
凄く嫌そうにする、汀。何時もどこか余裕ぶっているのが嘘みたいですね。
すごいですね、宗二君。善人ですら、聞くに耐えない悪口で嫌がらせするのが関の山なのに、これは現状あなたは誰よりも鬼を(性的に)追い詰められているのかもしれませんね。
まあ、そんな風に私たちは、楽しく友達のお話をしていたのですが。
「……またあの人の名前」
「ありゃ」
うっかり放ってしまい、私は宗二君のことをスケベ警戒対象と最初から構え続けていた玲奈さんをスネさせてしまったのでした。
玲奈さんの機嫌を取るのに、しばらく。
なでなですることでようやく立ち直った彼女の手を繋ぎながら、私はそんな全ての様子を面白そうに観察していた鬼に首を傾げます。
そういえばどうしてこいつここに居るのですかね。私は素直にこう問うのでした。
「それで汀。貴女はどうして私たちのハウスの前で出待ちしていたのですか?」
「いや、ここは楠木の屋敷の前っていうか汀様の本来の家なんだが……まあ、今そっちのが間借りしてるんだってのは知ってたから、待ってたさ」
「……目当ては、私?」
「ああ。鶴三ってんだっけ? 爺ちゃん達から聞くに吉見と魔法少女やってるんだって?」
「……まあ、そう」
「詳しいことはどーでもいいけどさ。まあ、吉見と仲良くしてるやつがどんなのか気になったんだ」
友達だしな、と重なりだした夜を見上げながら呟く汀の本心が私には今ひとつ分かりません。
彼女が妙に私に粘着するのはもうどうしようもありませんが、とはいえ私の隣の子を品評しだすのははじめてのことです。
何せ、鬼どもは今まで悪を足元に敷き詰めようとも気にもとめなかった放任主義。
それがどうして玲奈さん相手ならば違うのか。頭から設定を引っ張ってきても今ひとつ理解できません。
まあ、実際汀が玲奈さんに向ける瞳は凪いでいて、特に文句なさそうな表情に見えますね。
ならば問題は特にないとした私は口を開きます。
「それで……玲奈さんは汀のお気に召しましたか?」
「そうだな……汀様的には実に平凡で悪くないとは思うが……」
一旦、そこで鬼は言葉を留めます。
そして、彼女は
「そこに居る変なの的にはどうだ?」
親しげにこう問いかけるのでした。
「っ!」
「おや?」
聞き、見てそこが無でないことに気付いた私と玲奈さん。
驚き総毛立つ彼女の隣で、しかし私は平然としてしまいます。
いや、これはむしろ嬉しいのですね。何とも素敵なサプライズ。
夜闇のびっくり箱の中には、何より普遍的な/特異な一輪が挿し込まれていて、その人は柔らかに口を開きます。
「――――あらあら。変なのとは、随分ですね。汀ちゃん」
「ふん。概念の強さだけで汀様ですら害せないレベルのバケモノは、随分変だぞ?」
「ふふ。それもそうかもしれませんね」
善人も裸足で逃げ出すレベルの威圧感を志向的に向けている鬼の前でも、平然至極。
きっと誰の瞳にもトゲにならずに記憶すら出来ないような、そんな優しさを持った美を前に私はにっこり。
今回はその素敵なお顔を隠さず披露されている彼女のお名前を再び読み上げるのでした。
「静さんです!」
「そういう貴女は、よしみちゃんね?」
「はい! 20年前から愛していました!」
「そうね……貴女とペンフレンドになってから数えても5年は経っていないと思うのだけれど。まあ、貴女の中ではそうなのね」
「その通りです!」
「なんだこいつら……」
汀が口を開いて何か溢していますが、実際私と静さんはツーカーの仲。
そりゃそうですよね。私がこの世界を情報として識っているのに対して、ありとあらゆる世界に
そんなだからきっと、私の真実ですら当たり前のように。
そんなのとんでもないですよね。でも、そんなずるっこな無敵さんなのが、私
私は唖然とする玲奈さんを他所にファンとして当然の仕草としてこう続けるのです。
「静さん! 握手して下さい!」
「分かったわ」
「わわ……すべすべです……流石は、指先までこの世の中心点なだけありますー!」
「お気に召した。それで、次はなに?」
「それは……」
固唾をのんで様子見している周囲を他所に、私という道化は狂喜乱舞。
一度は感じてみたかった静さんの実存を存分に味わってにこにこするのです。
「こうです」
でも、そればかりではよくないのですね。
私は誰より私の歪さを理解できるだろうこの人に、絶対にしなければいけないことがありました。
ああ、ここが天下の往来であろうと私には関係ありません。
平身低頭とはこのこと。跪いた私は彼女の足元に頭を擦り付けて。
「あら」
「……川島さん?」
「吉見っ!」
そう、土下座ですね。
大いにびっくりする皆様に、でもこんなおかしな私もこの世にあってしまったのならば。
「静さん――どうか私の存在を、許して下さい」
私を唯一理解できるこの人だけには認めてほしいって、思ってもいいですよね?