それはアコとカヨコの間に形成される、やや重めの百合カップリング。
一般的には、アコが一方的に重めの感情を抱いていがちだが……。
毎回それじゃあ、面白くないだろう?
「あら、カヨコさん」
「……アコ」
面倒なのに捕まった。それが私の、率直な感想だった。
社長に頼まれて、久々にゲヘナ校内の店に買い出しに来たと思ったら、これである。
アコとはそれなりに古い仲だ。付き合いの長さだけでいえば、このキヴォトス内でも一、二を争う。……いや、付き合いの深さも相当なものか。
別れ方が別れ方だっただけに、気まずいというか、今ではギスギスした感じになってしまっている。
「わざわざゲヘナ校内までお買い物とは、便利屋稼業は暇が多そうで何よりです」
「アコこそ、いちいち突っかかってくるなんて。風紀委員の行政官も、最近は仕事が減ったのかな」
「いえいえ。あなたたちのような素行の悪い生徒の方々のおかげで、風紀委員は大忙しですよ。ですが、悪名高い生徒に声をかけることも、治安維持にはかかせませんから」
「どうだろうね。案外、アコが空回りして仕事増やしてるだけだったりして。たしか、アビドスの一件もアコの独断専行だったよね」
アコの言葉に淡々と返事しながら、少し煽るように言い返す。
過去の失態。風紀委員長直々に叱られたようなやらかしを掘り返されたら、アコならきっと頭に血が上って……。
「そうですね。ですが、何度も同じ過ちを繰り返す私ではありません」
「……どうかな」
意外だった。アコのことだし、もうちょっとムキになってくるものかと。
アコも成長したのかな。それもそうか。アコだって普通の人間、なんなら優秀な部類の人間だし、当たり前のことだ。
……なんで私は、言い聞かせるみたいに、こんなこと。
「ちょっと、カヨコさん! どうかなってなんですか!」
「言葉通りの意味だよ」
一拍遅れてムキになったアコをあしらいながら、少し安堵したように息を吐く。
「だいたい、あなたは昔からそうでした! 意味深なことばかり言っては、理由を聞くとすぐにはぐらかして……!」
「はいはい」
なんだ、何も変わっていないじゃないか。そう思いながらキャイキャイ騒ぐアコの声を背に、買い物籠に頼まれていた品を詰めていく。
「そろそろ、その気まぐれな性格をどうにかしたらどうなんですか! まるで猫みたいにあっちこっちにふらふらと、マイペースなんですよ! 私がどれだけ、あなたのために……」
「それは昔の話でしょ」
籠に入れるのは大量に消費した弾丸だったり、安値で叩き売りされている食料品だったり。便利屋の薄い財布をやりくりし、どうにか必要な物資を購入した。
ふと、やけに静かなことに気づく。いつもなら、アコが未だにしつこくこちらに話しかけてくるので、耳を塞ぎたいほどにうるさいのだが。
適当にあしらわれたことに腹を立てて、むくれているのかな。
流石にやりすぎたかと少し反省し、構ってやるかと振り返って声をかける。
「あ「アコ」」
彼女の名前を、呼ぼうとして。
かぶせられるように、別の声が響く。
決して低くはない、少女の声。それでも、底知れぬ威厳のこもった声。
「あ、ヒナ委員長!」
アコは表情を引き締めつつも、どこか嬉しそうに風紀委員長のもとへと駆け寄る。
「美食研究会が、また他自治区で問題を起こしたわ。私は至急、制圧に向かうから……」
「私は、他風紀委員の指揮でしょうか」
「えぇ。ただ、今回は勝手知ったるゲヘナ自治区とは違って、前情報が少ない」
「となると……」
「アコは、私と一緒に前線に来て指揮を執ってもらうわ」
「っ! かしこまりました!」
そのまま、アコは風紀委員長とともに他自治区へ向かっていった。
残されたのは、私だけ。
相変わらずの猪突猛進ぶりだ。
幸せそうに、ただ飼い主だけを見つめて、どこまでも純粋に、愚直についていく。
「やっぱり、何も変わっていないね」
誰に言うでもなく、一人ごちる。
かつての記憶が、その視線が自分に浴びせられていたころの記憶が、脳裏をよぎる。
「犬みたい」
胸の中に微かに浮かんだ感情から、目を背けるようにそうつぶやいた。
アコカヨはアコが一方的に引きずっているイメージだし、実際そうなんだろうけど、カヨコも結構重かったら興奮するなって話です。