椅子に座って読書を楽しんでいた私は、ある邪悪な気配を感じ取った。
姿は見えない、隠れ潜んでいるのだろう、しかしその禍々しい気配を隠しきれていないようだ。
私は一旦見なかった事にし、椅子にもたれかかり内心で終わった・・・と呟く。
黒光りしていて素早い、正に悪魔、奴が現れないように細心の注意を払ってきた。
だが奴はそんな私をあざ笑い、この家に出没した、しかもよりにもよって自分の憩いの場に現れたのだ。
しかし奴を何とかせねばならないのも又事実、こんな時のために用意していた殺虫スプレーを手に取り。
奴のいる方向に向け発射する、だがスプレーは何も吐き出してはくれなかった。
私の絶望はより一層深まった、幸いにも奴は動きを見せない。
この絶望的な戦況を覆すべくあたりを見回す、掃除機はなく、あるのは100cm程度の箒としゃがんで使うタイプのチリトリだけだ。
ろくに物を置かなかったせいでこういう時に苦労するが、逆に言えば奴の隠れるスペースがないに等しい。
私は決断する、この箒で邪智暴虐の奴を窓の外に追いやり、この家から追放してやると。
先ずは近場にあった小窓を開ける、外の空気が入り込み精神を落ち着かせてくれる。
奴がいる方向へと目を向ける、そこにはベランダに繋がる大窓がある。
あれを開けねば長期戦へともつれ込む、奴もそれを見越してか大窓を守るように動く気配を見せない。
私は悩む、どうにかせねばならないが下手に刺激すれば何をしでかすか分かったものではない。
どうすればいい、冷や汗が頬を伝い、時間だけが過ぎていく。
決心した筈だ、ここで奴を追い出さねば私の安寧はない、心臓の鼓動が速くなり呼吸が乱れる。
投擲武器となる物は無い私が着ている服を除いて。
愛着のある服だ、長年の友と呼んでいい、それ程に迄着込んだ服。
取り敢えず深呼吸をし、心臓を落ち着かせる、冷静にならなければ死ぬ、心が死ぬのだ。
そんな私を嘲笑うかのように奴がこちらに向かって来るではないか!
突然の凶行に私は恐慌状態になりつつ、奇声を上げながら慌ててやつの反対方向へと身を投げ出した!
思わず出た奇声、混乱して冷静さを欠いてもやることは忘れない。
念願の大窓を開け、反撃体制へと移るがここで自分が犯した失敗を見せつけられる。
私の武器、箒が奴の手に渡った、私は決断を迫られていた。
一息入れ上の服を脱ぐ、振り回しやすいように結んで。
さらば友よ、内心で謝り大きく振りかぶって奴を退かせようとするが。
奴の行動は私の予想を大きく裏切った、私の攻撃を避け、私目掛けて飛んできたのだ!
私は堪らず叫び、足を滑らせて、床に倒れる、奴は開けた大窓からドコかえと消え去り。
私は失禁した。
冷静になった私は、後片付けを済ませ、殺虫スプレーを買いに走った。