もうすぐバレンタイン。
“愛してる”を貴方へ。
そして、私だけに“愛してる”を______

1 / 1
とある二人のバレンタイン

「もうすぐバレンタインよね」

 

二人並んで歩く、放課後の帰り道。

河本 綾瀬は白い息を吐きながらそう言った。

「そうっすね」

「ねえ」

「うん?」

「他の女から、チョコもらっちゃダメだからね」

綾瀬が立ち止まって、俺の方を見上げた。

彼女の真剣な碧い眼差しを、俺はガーナの板チョコを頬張りながら見つめ返した。

 

バレンタイン。

俺は高校に入ってから、毎年なんやかんやで何個かクラスメイトから貰っていた。

一個も貰えない奴が多い世の中で、それはとてもありがたいことだった。

 

理由がどうであれ、せっかくの好意を拒絶するのは申し訳ない。

「むぐむぐ……別に良いじゃん。どうせ義理しかもらえないし」

「そうとは限らないでしょ?貴方を私から取り上げようとする子だって、もしかしたらいるかも知れないじゃない」

そんな命知らずいるもんか。

その言葉が喉まで出かけた。

 

「……じゃ、もし渡されたら?」

「断って。当然でしょう?」

常識を諭す母親のように、綾瀬は答えた。

「じゃあ、全員にチョコ配ってる奴のもらうのは?」

クラスメイトに、みんなにチョコを配って歩く行商みたいなやつがいる。

「ダメ」

「じゃあじゃあ、もし……」

 

ねえ______

 

綾瀬のその声で、辺りがしんと静まり返った。

 

「私のチョコレートだけじゃ不満?」

 

綾瀬がぐいと顔を近づける。

甘いコロンの匂いがした。

 

鋭い目つきとドスの効いた声に冷やされ、

甘い匂いと身体の温もりにくすぐられ、

心臓がバグを起こして止まりそうになる。

 

「貴方の彼女は私でしょう?他の女なんてどうだって良いって、いつも言って聞かせてるわよね?」

湧き出る強い愛情を隠そうともしない。

こうなると、もう歯向かえない。

 

俺は、また板チョコを口に運んだ。

パキッという音と共に、周りの音が戻ってくる。

 

「……ッ」

いきなり、綾瀬が手に噛みついてきた。

右手に彼女の歯に食い込む。

「いってぇ!」

「ふんっ」

半分ほど残っていたチョコが2切れ分までかじり取られ、右手にはきれいな歯形がついた。

「人が真剣な話してるときに何食べてるのよ!しかもよりによってチョコレート」

もぐもぐしながら、綾瀬が呆れたように言った。

「全く、貴方って人は」

「ごめん」

謝りながら、包みを剥がして残りを口に放り込んだ。

 

 

去年の夏から付き合い始めた、小さい頃からの幼馴染。

明るくて、料理ができて、ピンク髪のポニーテールが似合う可愛い恋人。

嫉妬深くて、独占欲が強くて、誰よりも愛が重くて。

だけど、そんな一途な綾瀬のことが、俺は大好きだった。

 

 

「そう言えばバレンタインの日って、家の人いないんだっけ?」

「え?あぁ、まあね」

「そっか」

綾瀬は頷く。

しばらく間を置いた後……

「じゃあさ、その日は私が夕ご飯、作ってあげる!」

「……良いのか?」

「もちろん!また八宝菜、作ってあげるね」

「ありがとう」

綾瀬の作る八宝菜は絶品で、俺は綾瀬の言葉に心がときめいた。

 

 

俺達は、手を繋いで歩きだす。

この幸せが、

いつまでも続きますように_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから貴方は、

私だけを見て______?

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。