「そ、その傷…。坂口につけられたってのは本当か?」
「ああ、あいつは新潟の走り屋の間じゃあ、ちょっとした有名人でな。ここに来たのも、高橋啓介から群馬で一番速い走り屋がこのスタンドに寄ると聞いて、立ち寄ったわけだ…」
啓介からの情報を頼りに、渋川市のスタンドへ来たと哲也は池谷達に話すが。それを聞いた池谷は、哲也にある質問をする。
「ちょっと待ってくれ…。もしその話が本当だとなら…。あんたはどうする気だ…?」
「決まってる…。奴の相手は、俺がする。あの男には地元でバトルした時、痛い目に合わされたからな…。それまで俺は、引き下がるわけに行かないんだ…!!」
哲也がそう言って、健吾を自らの手でカタを付けるように言っていくが。そこへ健二が割って入るように聞いていく。
「そ、そうは言ってもだな…。坂口が次どこに現れるか、心当たりはあるのか?昨日は赤城に出没して派手にやらかしたみてえだけどよォ…」
「そんなもの、俺が知るわけねえだろ。奴が群馬にいるなら必ず動き出す。情報を集めて…奴に復讐を果たすまで、地元へ戻る気はない…!!」
哲也がそう言い放ってすぐに車へ戻ると、自分のFDのエンジンを豪快に吹かしながら、スタンドを去っていくのであった。
「なんか…ヤバいことになっちまったみてえだな…」
「こればっかしは、俺達群馬エリアの走り屋だけの問題じゃなくなったからな…。とにかく、俺らも色んな奴から話を聞いておく必要がありそうだ…」
「そうっすよ。俺達スピードスターズは今じゃ、秋名だけに留まらず、群馬でも名の知れた走り屋チームですからね。ここらでビシッとやらないと」
「いや、俺らはそこまで大層なチームじゃねえよ…」
イツキが調子に乗りかけるのに対し、池谷が軽く抑えるようイツキを嗜めるのだった。すると、
「やめておいた方がいいぞ。お前ら…」
「店長…」
「今度ばっかりは、お前達の手に負える相手じゃないからな…。ことが収まるまでの間、大人しくすることを勧めておくよ…」
健吾のことで躍起になりかけた池谷達を、スタンドの経営者である祐一が呼びとめ。イツキが、祐一に歯向かうように言う。
「どうしてなんすか!?坂口のせいで群馬は大変なことになってるというのに、それを黙って見過ごせと言うのですか!?」
イツキが食って掛かるように言っていくが、祐一は重みのある口で続けて話す。
「だから…それをやること自体が危ないって言ってるのがわかんねえのか?ついさっき、テツからお前達に伝えるように連絡が来てな…。群馬県警が本腰を入れ始めた今、お前達が出しゃばったところで、逆に検挙されるだけなんだよ…」
「「「えっ?」」」
群馬県警が動き出したからには、下手に動くのはマズいと祐一が三人に告げ。健二が食い下がるように理由を尋ねるのだった。
「ちょっ…その話、本当なんすか!?警察が動き出したって…じゃあ、俺達も当面、秋名を走れないってことすか…?」
「ことが収まるまでは、お預けってところだ…。まあ、警察が秋名を回るのは、お前らがよく走っている時間帯だろうから…。拓海が豆腐を配達する早朝に関しては、テツが伏せてくれてる筈だ…」
「そんな…」
警察の警戒が強まったからには、地元の秋名はおろか、群馬の峠を気ままに走ることができないと知った池谷はショックを受け。イツキと健二も池谷と同じ様に肩を落とすのであった。
高崎市 高橋邸
「兄貴…。さっき、史浩から来た情報によると、赤城だけじゃなく、群馬エリアの峠は全面的にサツが見回りを強化しているそうだ…!!」
高崎にある高橋邸にて、啓介が群馬県警が見回りを強化していると切り出し。涼介は椅子に身を預けたまま、静かに頷く。
「そうか…。坂口が赤城に現れたと聞いた時点でこうなると予想していたんだが…。ここまでの事態になるとはな…」
「ったく…。元はと言えば、ケンタと真希が赤城で坂口とバトルしたのが発端だというのに…。なんで、引き受けたりしやがったんだ…!!」
「そう怒る必要はないだろ。真希とケンタは一度断ったそうだが、向こうが無理に因縁を付けて来たと言っていたんだ。あの二人だけの責任じゃないことは、お前も分かってるだろ…」
「そうかもしれないけどよ…。このまま奴の思い通りに進むのが運ぶのが気に入らねえんだ…。ケンタの話じゃ、あいつは俺達を腰抜け呼ばわりしたと言っていやがったんだ。そこまで言われて、大人しくしてるわけには…!!」
「お前が憤る気持ちは俺にも分かる…。だが、お前は新しいチームの要でもあることを、少しは意識したらどうなんだ」
「くっ…!!じゃあ兄貴は…。この惨状に目を瞑ってろと言いたいのか!?春から関東制覇するって決めた俺達が、こうも他所者に舐められたままで、いられるわけねえだろ!!」
涼介の静かな言葉に、啓介は歯を食いしばり、拳を握り締めるも、兄に反論していくが。涼介は啓介がそう返してくると読んでいたか、あることを話す。
「落ち着け啓介…。俺だって、奴の思い通りにされるのは癪だからな…。念の為、俺の知る限りの情報網を駆使して坂口の居場所を探っているところだ…」
「その話…、本当か!?」
「…これ以上奴を野放しにしておけば…群馬エリアの走り屋は愚か、関係のない人間に甚大な被害を及ぼす可能性があるからな…。坂口の居場所が判明次第、行動に移るぞ」
「上等だ…!!奴にはケンタや真希をやられた借りがあるからな…。そいつを絶対に返してやるぜ…!!」
涼介が、健吾の居場所を調べていることを明かすと。啓介の顔付きがは先程と打って変わり、瞳に闘志を焚き付けながら、健吾に屈辱を晴らすチャンスを伺うのであった。
秋名湖
「…そうなんだ。結衣さんも昨日…赤城にいっていて、その坂口って人を見かけたんだね…」
一方タケルは、秋名湖に来ており。近くのベンチに腰を下ろし。一緒に来ていた結衣から、昨日の出来事を聞いていたのだった。
「うん…。お父さんと一緒に運転の練習で赤城へ行ってね。その時、瀬名さんが私達を呼び止めて、教えてくれたの。去り際にその車が走り去っていくのを見かけたんだけど、見るからに危なそうな雰囲気だったわ…」
赤城で起きた出来事をその場に居合わせた結衣から聞いたタケルは、健吾の危険性を改めて再認識し。ある決意をしたか、結衣にこう語り掛ける。
「瀬名さんや結衣さんのお父さんは…次に狙うとしたら僕か拓海、あるいは涼介さん達だと言ってたんだよね」
「ええ。帰りに真希さんの車に乗せてもらった時、お父さんがそう言っていたわ。…タケル君、まさかその人にバトルを挑むつもりなの?」
「ああ…。もし奴が僕達のところに来るのなら、全力でぶち抜いてやるよ…。そうでもしなきゃ、群馬を走る走り屋として、僕の気が済まないからね…!!」
タケルは、自らの手でかたを付けるとはっきり言うと。坂口健吾のパルサーを相手に、必ず勝つと、その決意を結衣に告げるが、結衣はタケルの手を強く握りながら反対する。
「タケル君…。それだけは絶対にやめて…!!お父さんから聞いた話だと、昨日見たあの灰色の車に乗ってる人はマトモな人じゃないって言ってたから…」
「それは僕でも分かってるさ…。でも、これ以上好き勝手させたら、他の誰かが巻き込まれるに決まってる…。だから、向こうが僕達に用があるっていうなら、こっちから出るしかないんだ…」
「タケル君…」
「大丈夫だって。今までも色んな奴とバトルしてきたんだから、油断はしないよ。それに…、ああいうやり方をする奴は…放っておけば必ずどこかで自滅する…。だから、そうなる前に、決着をつける必要があるんだ…」
結衣から必死に止められるも、タケルの覚悟は揺らぎなかったか、健吾とやり合うと真剣味を見せつけ。結衣はタケルが危ない目に遭うのではないか、心配そうに見つめるのだった。
高崎 高橋邸
ダッダッダッ
「坂口の居場所が判明したってのは本当か!?」
駆け足で涼介の部屋に入ってきた啓介が、健吾の居場所がわかったと聞かされてすぐさま、息もつかずに聞いていくと。涼介は椅子の向きを変え、啓介の方に顔を向けて話す。
「つい先程、風間に頼んでは、坂口の経歴について調べてもらってな…。風間の調べた話によると、坂口は普段、弥彦山をホームコースにしてる走り屋で、そこを中心に幅を効かせてるそうだ…」
「弥彦山…。新潟じゃ走り屋の聖地として名の知れているあそこが、奴の地元なんだな…」
「ま、この時期の弥彦山は道路が封鎖されて走れずにいたから、その憂さ晴らしをするのにこっちへ来てるに違いないな。今は県警が目を光らせてるおかげで、好き勝手できずにいるが、今頃どこかで身を潜めているに違いないだろうな…」
涼介は健吾のホームコースが弥彦山であると啓介に伝え。どこかに身を潜めながら機会を伺っていると話ていくや、啓介は決意したように口を開く。
「兄貴。奴が身動きの取れない今、レッドサンズ総出で奴を見つけ出し、反撃を仕掛けよう。今までヤラれた借りを、倍にして返してやらねえとな…!!」
コンコン
「ん?」
ガチャ
「涼兄…ちょっといい?」
「どうした、緒美?」
啓介が健吾を見つけ出してやろうと躍起になっていた矢先に、従姉妹の緒美が部屋に入ってきては、二人に言う。
「今、家の周りに人相の悪い人達がいて、うちを見張ってるんだけど…何か悪いことしたの?」
「はぁ?俺と兄貴がそんなヤバいことに関わってるわけねえだろ、一体何を言って…」
「じゃあ、どうしてこの家の周りをパトカーがウロウロしてるのよ?まるで家から出てくるのを待ち構えてるみたいだったわ」
「なんだと…?」
緒美から警察車両が家の周りを巡回していると聞かされた涼介は、すぐさま窓辺へ向かい外を確認すると。複数の車両が邸宅の周辺を監視し、数台ものパトカーが邸宅の近くを巡回するのだった。
「兄貴、これは一体どういうことなんだ…!?なんで俺達の家の周りをサツが張ってるというんだよ…!!」
「それは俺にもわからんが…。どうやら悪い方向に向かってるということだけは確かだ…。警察は俺達がレッドサンズのリーダーであることを踏んで、勝手なことをしないよう見張ってるに違いないな…」
状況を把握した涼介が、自分達が県警に見張られる理由を察し。その話を聞いた啓介は、歯痒い顔付きをする。
「くそったれが…。なんでこんな時にサツが邪魔立てをするというんだ…!!俺達だって奴の被害者だというのに…!!」
「向こうからすれば、俺達は坂口と同じ様に見えるに違いないだろう…。走る場所やスタイルが異なれど、根本的なところは大して変わらないからな…」
走り屋である以上、こうなることを予測していたか。涼介が淡々と受け入れるように話していくが。啓介は冷静なままでいられる兄に対し、強く反発する。
「くっ!!だとしたら…俺達はどうしろって言うんだ!!このまま坂口に歯向かうことすらできず、どこにも行けなくなっちまうじゃねえか!!」
「…一つだけ方法はある。俺達の代わりを任せられる人間にこの状況を説明し、坂口とのカタを付けてもらうしかない…」
「代わりって…?」
「この状況で動けるとするならば、あの二人のうちのどちらかだ。すぐに連絡を取り、この件に終止符をつけてくれるよう頼むしかない…」
涼介が自分達が担う筈だった役目を、ある二人に託すしかないと言い切ると、すぐに携帯を取り出し、二人のうちの一人に電話をするのだった。
渋川駅
「じゃあ…そろそろ電車が来るから私は行くね。くれぐれも、無茶だけはしないで…」
「心配いらないよ…。いつどこで奴と会えるか分からないんだし。無鉄砲に突っ込むつもりはないから安心して」
「そう…。タケル君、お願いだから無茶だけはしないでね。私、タケル君が私の目の前からいなくなるのだけは絶対に嫌だから」
「うん、それだけは約束するよ」
「…じゃあね。また今度会える日が決まったら、連絡して」
結衣はタケルに別れを告げるや、駅舎の中へと入っていき。その背中を静かに見送ったタケルは、息を吐く。
「…とりあえず、結衣さんも無事に帰ったことだし。こっから、どうするかだ…」
ピリリリリ
「ん?誰からだろ…あ、涼介さんからだ」
携帯の着信が鳴っているのに気付き、タケルがポケットから携帯を取り出し、着信に出る。
「もしもし…斎藤ですけど…。何か用があるのですか?」
『斎藤…。お前は坂口健吾という男のことは、知っているな?』
「え?…ええ、知ってますよ。新潟から来た走り屋で、ところ構わず車をぶつける男だと…」
『そうだ…。お前にその坂口とのバトルをお願いしたいが、引き受けてくれるか…?』
「え…僕が、ですか…?」
『俺達は自宅にいるんだが、家の周りを警察が張っていて身動きが取れなくてな。藤原にも電話を寄こしたんだが…あいつとは連絡がつかず。そこで身動きの取れるお前にこの件を任せようと思い、連絡したってわけだ』
「…それって、僕が群馬エリアを代表して、坂口とバトルしたらいいんですね」
『そうだ。この件に関しては、あくまで俺個人からの頼みだから、無理に引き受ける必要はないが…。お前はどうするつもりだ?』
涼介が、健吾とのバトルを引き受けるかどうか尋ねると、タケルは先程の結衣の言葉を思い出し、一瞬戸惑うが、頭を振って切り替え、涼介からの頼みに答える。
「…その頼み、引き受けますよ。僕としても、奴にはギャフンといわしたかったと思ってましたので…」
『そうか…。なら、奴をお前の地元である秋名に向かわせるよう、こっちで策を仕掛ける。それと…秋名には、坂口と同じ新潟から来た小野哲也という走り屋が来ていると情報があってな。啓介の方からそいつに連絡を入れてもらっているところだから、小野と合流して、奴のことについて色々と話を聞いておくことだ…』
「…了解しました。で、その小野さんって人に会いに行くのはいいですけど、坂口を秋名へおびき寄せるのにどうするか、教えていただけますでしょうか?」
『…いいだろう。これはまだ公にはなっていないことなんだが…』
そこから涼介が、健吾をどうやって秋名におびき寄せるか話していき、涼介の作戦を聞いたタケルはこう返す。
「…わかりました、僕は今から準備しますので、ここで切らせてもらいますね」
そうして涼介からの電話を切ったタケルは、身を引き締めながら言う。
「よしっ…奴の居場所もわかったことだし。こっちも本気で向かわないと」
タケルは健吾とのバトルに向け、本気でぶち負かそうと決意したか、握り拳に自然と力が入るのだった。
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