秋名の下りでスイスポとパルサーによるバトルが開始し。
序盤から先行ポジションにつくパルサーは、パワーで物を言わせながらも、コーナーに突入し、荒々しくブレーキングを掛けて、ステアリングを切り。アンダーが強い四駆を強引に抑え込みながら、ブレーキングドリフトで抜け切る。
「(…見たか、俺の
そう吐き捨てながら、バックミラーに映るスイスポを見ていく健吾だが、スイスポの動きをみた瞬間、表情が変わった。
スイスポがコーナーに突入すると同時に、タケルがブレーキングから素早くシフトダウンして、ステアリングを切り。リアを滑らせてテールスライドで向きを変えると、立ち上がりでフロントを路面に食い込ませ、シフトアップして一気に加速する。
「(はっ…!!どんな手を使ったか知らねえが、あのクソガキがFFであんだけ鮮やかに曲がり切れるなんざ、まぐれに違いねえ!!どうせ、次のコーナーでヘマするに決まって…)」
そう見下しながら、すぐ次のコーナーに入ると、健吾は再びブレーキングドリフトしてコーナーを抜けていき。
それに続くタケルも、ヒール&トウでシフトダウンして、旋回体勢に入り、荷重移動を使ってスイスポを曲げ。ガードレールとの隙間を、わずか数センチで横切ってみせるのだった。
「(ちっ…!!まぐれなんかじゃねえ…。あのガキ…スイスポの旋回性能を、完璧に使いこなしていやがる…!!流石に高橋涼介が差し向けるだけのことはあるみてえだな…!!)」
二度もスイスポのコーナリングを見せつけられ、ようやくタケルの
「(なら、てめえをここで潰して、奴らへの見せしめにしてやるよ…!!俺を侮ったそのツケを…利子を付けてやらな、俺の気が済まねえからな…!!)」
健吾は、バトルしているにも関わらず、走り屋としてのマナーというものをかなぐり捨てて、タケルを潰そうと画策し。
コーナーを抜けて、短い直線に入ると、わざとアクセルを緩めて、外側からスイスポと横並びになるや、ステアリングを切り込み、車体を寄せる。
ガシャアン
スイスポは、横から押し寄せるパルサーのプッシュでサイドが激しく軋み、大きく揺さぶられる。
「!?…まだ始まったばかりだと言うのに、ここでやるのか…!?」
突然のプッシュにタケルは動揺するが。外側から押し寄せるパルサーに逃げ道を塞がれてしまい。左ヘアピンへ押し込まれる。
「(くっ…、ここでやるには早い気もするけど、アウトを押さえられた今、あれをやって…この状況を抜けきるしかない!!)」
外側のラインしか残されていない状況で、差し迫るヘアピンに入ろうとするタケルは、スイスポを意図的にインベタへ寄せ付ける。
「(へっ…終わったな…。この先のヘアピンで縁石に乗り上げて、潰れちまいな…)」
そう言っていながらスイスポが自滅するのを待つ健吾であったが、スイスポは縁石に乗り上げずにある一定の箇所にタイヤを落とす。
ガリッ
「な…っ!?」
縁石に乗り上げて自滅すると思ったスイスポは、イン側の底溝にフロントタイヤを落とし込み。車幅を稼ぐように向きを変え、ヘアピンを抜け切り。それを見た健吾は茫然とする。
「(野郎…!!外側を抑えられた土壇場で、何を使ってヘアピンを抜けたやがったというんだ…!!)」
健吾はタケルがどんな
「…あれが溝落としか…。啓介から聞いてはいたが、あんな技を見せられたら、あいつの敵じゃねえのも頷けるな…」
後ろからスイスポの溝落としを見ていたのは、啓介のFDを駆る哲也で。哲也は啓介から聞かされていた溝落としを目の当たりにして、タケルの底知れなさを改めて知り。同時に、この秋名で啓介を負かした秋名のハチロクが、如何にレベルが高いのか思い知る。
「だが…あんな芸当を見せつけられたからには、坂口はさっきよりも猛烈な行動をしてくるに違いない…」
健吾の性格から、今よりも過激な行動をしてくると危険視する哲也は、二台の走りを後ろから見続け。健吾の動向を監視していくのだった。
高峰展望台付近
秋名の中間セクションである展望台付近に入った二台は、パルサーが頭を取って、その後ろにスイスポが続き。拮抗した状態のまま、突入する。
「さっきは何をやったか知らねえが、同じ手は使わせねえよ…!!」
序盤から仕掛けながらもスイスポを潰せなかったことに苛立ちを募らせたか。健吾は、より過激な行動に移ろうと、アクセルを緩め、スイスポの裏に回り込む。
ゴツッ
「(今度は後ろから、まだ仕掛けてくるというのか…!?)」
背後に回られ、後ろから押し付けてくるようなパルサーの攻撃に、スイスポはリアのバランスを崩しかける。
だが、走りに乱れが生じながらも、タケルは姿勢を崩さないようブレーキングで必死に姿勢を立て直して、抑え込む。
「オラオラァ!!とっととヤラれちまえってんだ…!!」
健吾は後ろから執拗にスイスポを追い立てていき。その猛攻にタケルは必死で堪えていくも、その先にある下り勾配の強い右コーナー付近で、パルサーがリアから離れる。
「(やっと離れてくれたか…。ひとまず、姿勢を立て直し…!?)」
だが、パルサーが離れると同時にスイスポはコーナー直前へと差し掛かり。ブレーキングをして減速しきるにしても距離が足りないのだった。
「(!!…マズい、このままだと衝突は免れない…)」
「(へっ…とうとう逝っちまうみてえだな。そのままガードレールに突っ込んでくたばることだ…)」
「(や、ヤバい…。減速して立て直すことが厳しい状況を乗り切るに、一体どう走ったら…)」
スイスポがリアを押された勢いもあって、減速が思うように進まず。アウト側に膨らませたまま、右コーナーへ突入しようとしたその時、タケルの頭の中である言葉が鮮明に蘇る。
『コントロールできないアンダーよりコントロールしやすいオーバーステアを作るほうが正解なんだ…』
群サイで坂本から教わった時、アンダーを抑えるよりもオーバーで攻め込む方がいいと言ったのを思い出し、タケルの目つきが変わる。
「(よりによって…カプチーノに乗った経験がここで活かされるなんてね…。一か八かの確率だけど…やるしかない…!!)」
覚悟を決めたか、タケルは右足のアクセルを一気に緩め、フロントに荷重が移り、リアのグリップが抜ける手応えを感じる。そっからスイスポのノーズを内側へと切り込んでいき。ガードレールを掠めながらコーナーを抜け切るのだった。
「ば、バカな…。あんな状況からタックインで強引に立て直しやがっただと…」
二度もスイスポを潰し損ねた事実に、健吾は動揺を隠しきれておらず、苛立ちが頂点に達した。
「ふ、ふざけんじゃねえ!!この俺が二度もヘマするなんざ、ありえねえだろうが!!あのガキ…ここで絶対に潰してやる…!!」
健吾はタケルを本気で潰そうと躍起になり。アクセルを全開に踏み込んではスイスポの後ろに食いつこうと猛追する。
「坂口の野郎、完全にぶち切れてイカれたか…。さっきまで見せていた余裕が、完全に消えていやがる…」
パルサーの走りが急激に変わったことに、哲也は健吾がタケルを本気で潰そうとしているのだと察する。
「こっから先は、スイスポが坂口の猛攻をどう凌ぐかだが…。あいつが我を忘れ暴走し始めた時点で、勝機はなくなったとみて、いいかもしれんな…」
怒りに身を任せて攻め込むパルサーを見つめながら哲也は静かに呟き、もう健吾に勝ち目がないとでも言っていきながら、二台の走りを見届けるのである。
5連続ヘアピン
秋名のダウンヒルを駆け下りていくスイスポは、秋名を攻める上で最難関である5連続ヘアピンへと入っていき。
タケルは左足ブレーキでアンダーを消しながら、順調にヘアピンを正確にクリアし。背後から迫りくるパルサーなど意に介さず、突っ込んでいく。
「殺す…あいつだけは、絶対にぶち殺す…」
「(…どうやら完全にやけを起こしたみたいだね。タイヤのグリップはまだ持ってるから、あそこで勝負をつける他ないか…)」
奇声に近い声を発しながらスイスポを追う健吾は、最早さっきまでの余裕が微塵も残っておらず。目の前のスイスポだけに、異常な程執着し。タケルは後ろから迫る健吾の執念に満ちた気迫を感じとり、乱れが生じないようスイスポをコントロールしていく。
秋名山 麓
スイスポとパルサーが秋名でバトルをしていたその頃、秋名の麓にある駐車場付近では、黒のFDと赤の8が滑り込むように入ってきた。
「啓介、警察の目が他の峠に向いてるのに、ここに来て大丈夫だったのか…」
「ああ…。坂口を誘き寄せるのに、俺のFDをあいつに貸してやってるからな…。それを取り返さないわけにはいかねえよ…」
そう。秋名にやってきたのは、レッドサンズの啓介と真希の二人で。本来啓介は、警察の目が向けられている状況で自宅から出ることすら困難であったが。健吾を秋名におびき寄せるのに、哲也に貸したFDを返してもらいにやってきたのだ。
「にしても、サツから睨まれてる状況でよく来れたな…。どんな手を使って抜け出したんだ?」
「…緒美の買い物に付き合うって口実で家を出たんだよ。車を使わず、歩いてすぐそこのスーパーまで行ったから、流石に警察もそこまでは追ってこなかったよ」
「おいおい、従姉妹の付き添いで警察の目を出し抜くとは、随分と可愛らしいじゃねえか…。お前にしては上出来だよ」
「うるせえ…。で、そっからは緒美と別れた後で、哲也が指定した有料駐車場にキーを挿したまま置いてあったから、ここまで来れたってわけだ」
「それって、
「まあな…。奴とはサーキットで一緒に走って、それなりに付き合いがあるからな…。とにかく、乗ってきたこいつを俺のFDと替えないといけねえんだし、あいつらがここに来るのを待つしかないってことだけは確かだ…」
暗闇の秋名山を見つめなから、そう啓介が呟き。二人してタケル達がここへ下りてくるのを待つのであった。
「(もう、そろそろだな…。パルサーは走りが完全に崩れかけているし、次の複合コーナーに辿り着く頃には限界に来るだろうな…)」
タケル達の後に続けるように、後ろから二台を見ていた哲也は、タイヤが垂れて挙動のふらついたパルサーを冷静に見つめ。
二台は勝負を決する最後のゴール手前のコーナーへと突入する。
「(…このバトルの決め手となるとポイントに来てしまったか…。涼介さんが敗北を喫したというここで、あの二台がどう立ち上がるか、この目でしっかりと見ておかないとな…)」
哲也のFDに続く松本は、涼介から借りたFCのステアリングを強く握りしめながら、スイスポとパルサーが最後の大一番で、勝負に出る瞬間を注視する。
「(へへっ…。ゴールはすぐそこだからな…。ここまで俺を舐め腐ってくれた礼を、キッチリと返させてもらうぜ…)」
スイスポを潰すことができず、完全に狂ってしまった健吾はここで仕留めようと、スイスポの真後ろに張り付き、最後の複合コーナーに突っ込み。
フルブレーキングからのドリフトで、コーナーを曲がろうとしたその瞬間、
ギャアアア
「ば、バカな…。タイヤが言う事を聞かねえ…!!」
涼介の目論見通り、パルサーのノーズが外側へと逃げ。スイスポが立ち上がりでインを突くのと入れ替わるように、パルサーは車体を大きく膨らませていきながら、スイスポから離れていった。
「(…だと思った。あれだけブレーキングしてドリフトで切り抜けたんだ…タイヤが悲鳴を上げるのは当然だし、その車は限界に達してるよ…)」
「く、クソったれがァァァ!!」
健吾は力ずくで立ち直そうと試みるが、パルサーは元々がアンダーが出やすい車で、フロントタイヤが限界に達してしまったが故に、ズルズルと外側へ押し出され、コーナー端のガードレールへと車がいく。
ガリッ…ガンッ!!
激しい衝撃とともに、パルサーは車体に大きな凹みをつけてしまい、その場で静まり返るのだった…。
「(ざまあないね。今までやってきた報いが、こんな形で受けることになるとは…)」
端で停止したパルサーを一瞥したタケルは短く吐き捨て。そのままゴールへと向かっていき、その場を離れていくのだった。
秋名山 麓
「お、斎藤が先に下りてきたってことは、無事に勝ったみてえだな…」
「ああ。タケルが坂口とやり合うと聞いたとき、タケルがどうなるか冷や冷やしたんだが、無事で何よりだ…」
スイスポが先にゴールして勝負を決めた姿を見た啓介達は、スイスポに近づいていき、車内で深く息を吐くタケルに呼びかける。
コンコン
「ん?」
タケルがスイスポの窓を叩く音に反応して、すぐに開け。自分に呼びかけてきた啓介と顔を合わせる。
「よくやったな斎藤…。お前がやってくれたおかげで、兄貴にいい報告ができるからな」
「いや〜これくらい、どうってことありませんよ…。今日のバトルで勝てたのも、向こうが勝手に自滅しただけですし…」
「そうだったな…。大方兄貴の予想通りではあったが、ここまで来るとはな…」
ブォオオオ
「おっ、俺達の車も無事だったみてえだし…。俺はここで引き上げさせてもらうぞ」
哲也達が遅れてやって来ると、啓介は哲也が乗ってきたFDの元へと向かっていく。
タケルは車から降りて、ひと息つこうとすると。上の方から、さっきまでやりあったパルサーがボロボロの状態で下りてきた。
「あ〜あ…。フロントが派手にヤラれちゃってるね…」
タケルはボロボロのパルサーを見ながら憐れむも。健吾がしてきたことを思えば、同情する気になれなかったので。冷たい目で、パルサーを見据える他なく。
健吾はバトルに負けただけに留まらず、自分の車を傷つけてしまったことに大きく影を落とし。そんな状態の健吾に声を掛けるのは愚か、手を差し伸べようとする人は一人もいなかった…。
「よぉ、ここまでやったからには…何をしなきゃいけないか、わかってるよね?」
「……」
タケルがそう吐き捨てるように言うと、健吾は虚ろになった目線をタケルに向け。その瞳の奥に残る殺意に、タケルはまだ気づいていなかった。
「ま、今回のことに関しては、涼介さん達が来るって嘘をついて誘き寄せたのは悪かったと思うよ。でも、ああでもしないとお前はここに来なかっただろうし…。もう、終わりにしよっか…」
そう言って手を差し伸べたタケルは、穏便に済まそうと話を進めようとするが。健吾はタケルの言葉に耳を貸すどころか、自ら差し出した手をある方向に向ける。
ガッ
「ゔっ…!?」
なんと、タケルの首を鷲掴みした健吾は、そのままタケルを絞め殺そうと凶行に出る。
「調子に乗るなよ、クソガキが…!!俺をここまで侮辱しておいて、何勝手に終わらせようとしてんだよ…!!」
「くっ…!!」
「タケル…!!てめえ、その手を離せってんだ!!」
健吾がタケルを絞め殺そうとするのを目撃した真希が、健吾に近づき、タケルから離そうとするが。健吾は近づいてきた真希に手を出し。
真希は地面に倒れてしまう。
「てめえだけはここで殺す…!!もう、ここまでやったからには、道連れにしてやる…!!」
最早、完全に怒り狂ってしまった健吾を止める術はなかったか。健吾の力ずくの首しめにタケルが事切れそうになったその時、
バギィっ
「えっ…?」
なんと、タケルを助ける人物がいたのか。健吾に強烈な右ストレートをかまして、ノックアウトさせ。
解放されたタケルが咳をしながら振り向くと、そこにいたのは…。
「いい加減にしろ、坂口!!走り屋としての矜持を捨てて負けてしまったお前に、これ以上反抗する権利がないってことがわからねえのか!!」
健吾を殴り飛ばしたのは、先程のバトルを後ろから見ていた哲也だった。哲也は右ストレートをもろに食らって倒れた健吾を見下ろし、低く言い放つ。
「タケルと言ったな。こいつが群馬でやったことに関しては、俺からも謝るよ。警察には、俺が引き渡しておくから、後のことは俺に任せてくれ」
「…はい。哲也さん、今回は色々と協力してくださり、ありがとうございました」
「いいってことよ。こいつには、俺自らの手で負かしてやりたかったが、ここまで来ちまった以上、こいつに復讐したところで、何にも残らねえってことが、よくわかったからな…」
後始末は自分に任せろと哲也が言った後、タケルは哲也に後を託し。
啓介達と共に秋名から離れることにするのだった。
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