呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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更新忘れかけ定期
話の切り方が不格好ですがご了承ください なんか別にいいはずのところでどんどん長くなるんだ……



玉京台

 

「おかえりなさい。品物は取り置きしてありますよ!どれにいたしますか?」

「3番の夜泊石をお願いします!」

「かしこまりました。お気に召されたようで何よりです」

 さて…往路と同じようにワープを使って、璃月港へ帰還。そのまま真っ直ぐ『解翠行』に戻ってきて、今。蛍の元気いっぱいな注文を受けて奥へ引っ込んだ店主を待っているところ。

 …今思えばアレ、"途中で帳を下ろせばよかったのでは?"という気がしてきた。うっかりしてるな私…いやでもそれはそれで、解除したとたん袋叩きに遭いかねないか。意識されない隅っことかなら帳で誤魔化せるけど、あの大鍋はさすがに無理だったろうな…。

 

「ところで…単なる好奇心ですが、お客さんはどうしてこれほど上質な夜泊石を必要とされているのですか?」

「まあ、別に言っても支障はないから構わん。『送仙儀式』の器具を作るためだ」

「『送仙』、というと…確かに、噂は最近耳にしましたが…それはつまり、岩王帝君は、本当に…?」

 存外あっさりと話してしまう鍾離さんの言葉を聞いた店主は、目を丸くした。老舗だけあってこの人も知識人であるらしい。…私は、ちらりと鍾離さんの顔を見遣る。誰も何も言わない。沈黙はすなわち肯定。察したらしい店主は、深く息をついた。

 

「信じられません…今の『解翠行』は昔に比べて規模を縮小しましたが、うちは代々岩王帝君のご加護を享けてきたのです。言い伝えによれば200年前、岩王帝君が城南を巡った際、道に迷ったことがあったそうで…その時、この『解翠行』の(さじ)で料理を召し上がったとか。もう過去のことですが…」

「そうなんだ…」

 …あるものなんだな。そういう言い伝えが、市井にも。弘法大師みたいだよな……いや、そうか。概念的存在なんかじゃない()()()()()っていうのはそういう感じなのか。単なる畏敬には留まらず、同じ世界を共有するものとしての親しみもある…と。なるほどなぁ。

 

「しかし、そうですか…でしたら。岩王帝君を送る儀式に使うものでしたら、この夜泊石は半額で構いません」

「へっ!?」

「ええっ!?いいのか!?」

「岩王帝君のご加護がなければ、今の"貿易の都"は有り得ませんでした。商人として、浅ましくもそれで儲けを得ようとは思えません」

「ううっ、店主…!きっとその思い、岩王帝君にも届くぞ!」

 …独り思考に意識を飛ばしてしまっていた一方、眼前ではそんな契約がなされていた。この店主、いたく敬虔で誠実な人であるらしい。(うやうや)しく頭を下げる姿に、こちらも頭が下がってしまう。パイモンは感激して涙ぐんでいた。

 そんな中、鍾離さんは一人通常運転で…いや。珍しく、優しげな笑みを浮かべて。

 

「璃月七星と、たゆまぬ努力を続ける商人たちの協力あればきっと、璃月はこれまで通りに繁栄し続けることができるだろう」

「ありがとうございます。…はぁ、どうしたものか。こんなに泣いていたら金運が逃げてしまいますね。ははっ…」

 

 

 

 …そんないい感じで終われたらよかったんだけども。

「…ない」

「何が?」

「モラがない。恥ずかしながら、また手落ちがあった」

「手落ちって…」

 …まさかの、鍾離さんが財布を持ち歩いていないことが判明したりしていた。まあ経費…もとい『公子』からの資金でいくものだと思ってたから、今はいいけど……それでも、予算は払底してしまった。半額であの麻袋の中身全部か…最高品質の品は伊達じゃない、ということだ。

 

「では、夜泊石を『玉京台』まで持っていこう。儀式はあそこで行う予定だからな」

「1モラも出してないくせによく言うよな…」

「まあまあ…今度はちゃんと持ってきてくださいよ」

「ああ…今後は俺も善処する。お前たちのお陰で助かった」

「どうも…この感じだと、『公子』からの資金も貰い直したほうがいいかな」

 気の重いため息が(こぼ)れてしまうけれど、この調子では仕方がない。世知辛い話…たぶん今後、あの『公子』とは何度も顔を合わせる必要があるだろう。…次は我慢せずに言ってしまおうか、「なんだこいつ」って。

 

 

 

 …苦い思い出のある『玉京台』は、思いのほか閑散としていた。あのときの物々しい雰囲気はどこへやら…何人か千岩軍の兵士の姿も見かけたけれど、ただの()(そつ)であるようで、特になんの反応も示されなかった。あんなに追い回されたのにな…この急に手のひらを返すような扱いは、なんだか不気味だ。

 多くの人で賑わっていた円形の舞台にも、今や人影はない。鍾離さんはそこへ遠慮なく踏み入ると……その片隅、荷物が(まと)められている場所へと歩いていく。

「夜泊石はここに置いてくれ。すでに加工を請け負う職人を呼んである。儀式に必要な器具を作ってくれる手筈になっているんだ」

「お、おお…そのへんは万端なんだな…」

「そういえば、急いでいたからまだ『公子』殿に会えていないな。職人への支払いは…」

「はいはい伝えておきますよ…送仙儀式もここなんですね。確かに、いかにもそういう目的のありそうな広場ですけど」

「ああ、この場所を貸してもらい、儀式の準備を行っているところだ」

「迎仙儀式と同じ場所…事件現場のはず、だよね…」

「そうだ、同じ場所だ。『璃月七星』には黙認されている」

 …()()、ね。なんか含みがある言い方のように思える。ただ鍾離さんのことなので、そういうつもりは毛頭ないかもしれないけれど。

 ここ璃月はただでさえ海と山との狭い間に築かれた街、大々的に儀式を執り行えるような場所は、たぶんここ玉京台の他にはないか……もしくは岩王帝君(岩神)ほどの存在が相手だから、迎仙儀式と同規模でなければいけないか。『高いところがいい』っていうのは、どこで聞いたっけ。あれも風魔龍か。さすがにそれとこれとは別かな…

 

「ハッ!そ、そういえば…オイラたちって容疑者なんだったよな?千岩軍には気を付けないと…!」

 一方で、パイモンは今さらそんなことを思い出したらしい。会食とか挟んでたしそりゃ忘れるか…というより、

「パイモン、今更?さっきすれ違ってたよ?」

「うえっ!?」

「巡回業務の人ってだけなのか、スルーされたけどね」

「そういえば…『絶雲の間』から戻ってからは、千岩軍に狙われることはなくなったよね?」

「なんか"北国銀行が捜査を遅らせてる"とか言ってたから、その加減かと思ってたけど…」

 (ある)いは…タイミングからして、仙人と関わり合いになったことが知れたから、かもしれない。千岩軍の兵士が「これ以上は立ち入れない」とかなんとか言っていたし…なんというか、不可侵の存在というものに、私たちも知らず数え上げられてしまったのかもしれない。自意識過剰だったら申し訳ないけど。

 

「それと、ここに残ってた岩王帝君の……えっと、何の何だっけ…?」

「伝統的な呼称を用いれば『仙祖の亡骸』だな」

「そうだ、それだ!鍾離はなんでも知ってるんだな!それで、その『仙祖の亡骸』は七星に隠されてるんだよな?まだ犯人はわかってないんだろ?」

「事件の犯人について、七星には心当たりがあるようだ。あるいは、犯人へ繋がる手がかりを全て揃えたのか…」

「その上で放置というか、静観してるってこと?」

「うーん…?なんか、釈然としないよね…」

 お偉いさん方が何を考えてるかなんて、跋山渉水の徒たる私たちにはそりゃ分かりようもないけれど……蛍の言う通り、釈然としない。こういうのは厭だな…。

 せめて、私たちはもう大丈夫なのかぐらいは知りたい。不安は(むしば)むものだ、精神的にも肉体的にも。抱えたままでいるのは非常によろしくないから、手放してしまうに越したことなはい……そう思うのだけど、鍾離さんはやはりつれない。

 

「そういうことは玉京台の偉い奴らに任せておけ。俺たちが彼らの心配をしても、悩みの種を増やすだけだ。『仙祖の亡骸』は送仙儀式までの間、『黄金屋』で一時的に保管されるそうだ」

「『黄金屋』って?」

「璃月唯一の造幣局だ。テイワット唯一でもある。七国で流通しているモラは、すべてそこで製造されているんだ」

「おぁ…!いや、別に悪いことなんかこれっぽっちも考えてないぞ?ただ、いかにも契約の神の国って感じだなぁって」

 …そんな場所もあるんだ、なんて安直な感想を抱いて、自分が思いのほか呆けてしまっていることを自覚した。なきゃおかしいだろ何言ってんだ。…全世界の分をこの1か所で、っていうのは、かなり意外だけど。

 そんなことより…妙に白々しいパイモンもさておき。

 

「鍾離さん、そこまで把握してるんですね?」

「『送仙儀式』は七星に黙認されている、言わば半ば公式の催しだ。だから俺も内部の事情には、限定的にだが精通している」

「七星が場所を、『公子』が資金を、ってところだよね…送仙儀式でも何かがある、ってことなのかな…?」

「彼らなりに、それぞれの目的があるのだろう。そういうものだ…この商業の都では、時には人に利用されることも受け入れねばならない。契約の神が治めた璃月では、契約だけが裏切らない。契約以外のことは、俺は特に気にしていない」

 …鍾離さんは相変わらず淡々としていらっしゃる。今まで(こっちで)出会った誰よりも、"達観した大人"って感じが強いように思う。頼もしい、(いわお)のような人というやつだ。岩元素使いってみんなこうなのか?(既視感)

 

「さて、次は香膏(こうこう)の準備に取りかかろう」

「香膏…それもどこかの店で買えるのか?」

「いや、神に捧げるものとなれば『(げい)(しょう)()』が必要だ。その品質も特別なものが必要になる」

「つまり高品質のそれを入手して手作り、ってことですね」

「『霓裳花』って、確かこれだよね?これはその辺で採ったやつだし、品質はよくないだろうけど…」

 まあ、意味のない憶測はさておき。話は次の準備のことに進んだ。ゲイショウ…と聞いて、蛍が(例のごとくどこからともなく)取り出したのは紅色の花。6枚ある雫型の花弁には、よく見れば葉のような繊維質が認められるのが特徴的。

 

「ああ。『霓裳』という名の花は、その花弁が上等な繊維素材ゆえ絹織物に多く用いられている。その香りは清らかで、上品な美しさがあり、神への貢ぎ物のような厳粛な場に相応(ふさわ)しい代物だ」

「また鍾離が上流階級の豆知識タイムに入ったぞ…」

「本当に繊維素材になるんだな…」

「まあ、詳細は割愛させてもらおう。まずは商人から材料を買いに行くぞ」

 …このマイペース極まりない知識人に振り回される時間がまたしばらく続きそうだ。今度はすんなり行くといいんだけどな……とか考えない方がいいか。やっちまったかも。

 

 

 

 

 





・日依
今回はずっとぼんやり思考を回していた呪術師
個人的に"手作り"に思うところあり 詳細は次回

・蛍
影薄くなっちゃったかも

・パイモン
とても安定のリアクション担当

・鍾離
財布不携帯系有識者 でも安定感がすごい()


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