ヒナと猫が戯れるだけの話です。

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ヒナと猫

“急用につき先生不在”

 シャーレの当番日。先生と会える数少ない機会を楽しみに、

足早に執務室に向かうと、一枚の張り紙が目に入った。

 急いで書いたのか乱れた、

それに先生の筆跡とも一致しない文字で書かれた張り紙が、

セロテープで雑に扉に貼り付けられていた。

 扉を開けて執務室の中へ入る。

先生の仕事机に向かうが、そこに先生の姿はなく、

一体どれほどの間貯めていたのか大量の書類がうずたかく積まれていた。

「先生。」

 少し声を上げて呼びかけてみるが、しばらくしても返事は返ってこない。

どうやら本当に先生は不在のようだ。

 先生がいないのは少し惜しいが、先生がいなくとも仕事はしなければならない。

幸い、仕事の内容は事前に教えてもらっている。

仕事を片付けていれば、そのうち先生も帰ってくるかもしれない。

 まずはあの紙の山から整理しよう、そう思った時だった。

ニャー。

 どこかから猫の鳴き声が聞こえてきた。

視線を下に落とすと、一匹の猫がぽつんと佇んでいた。

三毛というやつか。白色の毛に黒と茶色の毛がまばらに模様を作っている。

目と鼻の間に黒色の毛がぽつりとまとまっていて、それがホクロに見えるのが面白い。

猫。シャーレは猫を飼い始めたのだろうか。それとも生徒の飼い猫を先生が預かっているとか。

 目線が合うように屈んで手を差し出してみる。

人慣れしているようで、すぐに顔を擦り付けてきた。そのまま顎の下を掻くように撫でる。

猫はごろごろと気持ちよさそうに喉を鳴らして目を細めた。

 なんだか初対面とは思えないような気がした。

どこかで会ったことがあるような、

いや、猫に知り合いなんていないのだからそんなはずはないのだけれど。

 ひとしきり顎を撫でると、猫は今度は頭を撫でてと言わんばかりに、頭を差し出してきた。

お望みの通りに頭を撫でる。

「甘え上手なのね。あなたは。」

 自然と口元が綻ぶ。

猫を撫でると、猫も人もどちらも幸せになれる。

猫は愛されて幸せ、人は愛せて幸せ、そんな互恵の関係が成り立っている。

全く、是非ともその愛嬌にはあやかりたいものだ。

「私もあなたみたいだったら、先生も幸せでしょうね。」

 私もこの子みたいに先生に甘えられたら、と想像しかけてやめる。

やめよう。ひどく似合わない。これは愛らしい猫だから許されることなんだ。

 ふと、撫でる手の合間に猫がじっとこちらに視線を送っていることに気づく。

心地良さそうに鳴っていた喉の音も止み、ただじっとこちらを見つめている。

思わず撫でる手が止まり、猫と目が合う。

何だか見透かされているような気がして、何となく目を逸らしてしまう。

 すると猫は腕の下をするりと抜けて、靴に体を擦り付けて、もう一度同じ場所に戻ってきた。

ニャー。ニャウニャウ。ニャーウ。

 真っ直ぐにこちらの目を見つめながら、何かを訴えるようにしきりに鳴く。

「ふふ。」

 思いがけず笑いが溢れる。

一連の猫の行動が、何だか勝手に落ち込んだ私を元気づけているようで、

そんな猫にお節介な誰かさんの姿が重なって見えた。

 猫はひとしきり鳴いた後に今度はごろんとお腹を向けた。

猫のお腹をゆっくりと流れるように撫でる。伸縮する毛皮が手に取って分かった。

結局、ひっきりなく鳴いていたのはお腹を撫でてもらう前振りのようなものだったのだろうか。

呆れたような、でもちょっとだけ嬉しいように感じて、そうしてしばらくの間、猫を撫でて過ごした。

 結局、仕事を終えるまで先生は戻って来ず、

シャーレも、帰り際に一人の山海経の生徒と入れ違ったぐらいで何事もなく、

その日は先生に会えないままで終わってしまった。




チピチピチャパチャパ

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