魔法少女ディストピア☆クラウン   作:巳知外 竜世

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13話 嘆きの声 後

 

「うっわ……なに、これ……」

 

 丸く球状に、構造が削り取られている。さながら何かの制作ソフトで、円形範囲選択をしそこを丸ごと切り取ったかのような。多層構造になった断面が鮮明に見え、切り裂かれたパイプから水やオイルが流れ出し、同じく切断されたケーブルは火花を散らす。ぽっかりと生まれた巨大な空洞の上部からは、時折ガラガラと物が落ちてきている。

 ここはその球形の最下部。見上げれば、破壊の規模がよく分かった。

 

 しかも。

 

「根幹構造体を……!」

 

 非常識な大きさの柱、その断面がくっきりと見えている。死ぬほど頑丈なはずの根幹構造体をこうもあっさりと、消滅させるように破壊したのだ。十中八九、マスコット兵器だろう。

 

「ウィルム結晶爆弾の他にもあるの!?」

『さっきのレーダーで映らなかったってことは、魔法少女の産物じゃないね。爆弾捜索に時間がかかりそうだし、魔法少女の相手は二人に任せる。頑張って。絶望郷に希望あれ』

「了解、絶望郷に希望あれ……やばっ!」

 

 瞬時に全方位に空色の剣が射出され、二人の死角から迫っていた双子が貫かれた。

 復活が遅かったのは、爆弾の威力故か、それとも距離があったからか。

 

 崩落した空間の中央に、どろりと蘇るグールとグーラ。

 爆弾にも巻き込めず不意打ちにも対処されたからか、表情は酷く苦々しい。

 

「……不愉快」「……苛つく」「あれで」「死んでくれたら」「よかったのに」「嬉しかったのに」

「蘇る命を囮に、巻き込むつもりでしたか……。何です? そうまで私達が憎いんですか?」

 

 嘲るような言葉に、双子は無表情にはっきりと憎悪をたぎらせた。

 

「当たり前」「死んでほしい」「お前らが私達を苦しめる」「お前らが私達を踏みつける」

 

 言い募る双子は、明らかに疲弊した様子で息を切らしている。やはり復活するたびに少なくない魔法の力を使うらしい。

 こちらも衣装に無数の傷が走り、あちこちを切り裂かれ血が滲んでいるが、何度も殺し返しているのだ。消耗度合いはグールグーラの方が激しいだろう。

 

「絶望郷が見捨てた」「絶望郷が死ねと言った」「捨てられた」「追い出された」

「……規律を守り暮らしていれば、放逐されることなどないはずですがね」

「なぜいけない?」「なぜ罰せられる?」「何も許されない」「少しの欲も」

「はぁ……!?」

「だから他に生きる道はない」「弓を引いて生きて行くしかない」

 

 鏡写しにナイフを構えて並び立つ双子は、言い切るや否やドロリと黒い渦へと溶け、べちゃりと瓦礫に広がった。

 一拍置いて、ゴポゴポと盛り上がったそれが球体となり、そして渦を巻き始める。

 

 異様な事態にも、リツは咄嗟に動けなかった。

 溶ける寸前、屍鬼二人の濁った目の奥に滾る怒りが見えた。

 

 何への怒りだ。

 当惑、そして理解に変わったそれが齎す感情が、リツの憎悪にも火を点ける。

 

 苦しいのは皆同じ。己だけが楽をするため欲望に手を伸ばし、絶望郷に咎められ。

 そして放逐され、憤怒を燃やすのか? ふざけるなよクソ野郎!!

 苛立ち怒声を上げようとしたリツの肩に、バディの手が置かれた。

 

『耳貸しちゃダメだよ』

『…………』

『あーしも放逐民だった。その上で言うけど。こいつらが親の巻き添えで放逐されたのか、自業自得で放逐されたのかは知らない。でもだから絶望郷が悪い? んなわけない。楽な道に縋って鎮圧対象になった挙げ句責任転嫁してるだけだよ』

『分かっています。だから腹立たしいのです……!』

 

 グールとグーラが変じた黒い渦は、周囲に転がる己の死体をも取り込んでいく。切り取られた空間の上部、爆発を回避するためクラウンが引き込む前の戦場からも、ズルズルと黒い液体が宙を泳いでくる。

 せめてもの妨害とシアンが剣を飛ばすが、全て飲み込まれて消えてしまった。

 

『あいつらに対話するつもりなんてない。不満を一方的にぶちまけて、自分を正当化してるだけ。苛立ってもこっちの動きが悪くなるだけで非効率だよ』

『……そうですね。……いえ、少し落ち着きました。申し訳ありません』

 

 滾る憎悪をそのままに、感情を刃のように冷ややかに。

 絶望郷の保安官として、クラウンの手先として銃を構えろ!

 渦が晴れれば、そこには一人。双子の屍鬼は一つとなり、左右に分かれていたアンバランスな装飾が合わさり、シンメトリーの衣装を纏う。

 

『ちゃっちゃと仕留めないとね。柱がやられて絶望郷の力が削がれたら効率悪いし』

『……結局、貴方の結論はそこに帰結するんですね』

『当然でしょ?』

 

 軽口と同時、ハルバードを構えるシアン。

 ――“兵器創造(マギファクチュア)・アンチマテリアルランス”

 リツもその手に、長大な対物ライフルを作り出す。先端にはやはりレーザーブレードの穂先。

 

「「グールグーラがお前たちを殺す」」

 

 重なった声と共に、屍鬼は先に使っていたナイフではなく、巨大な鎌を振りかざす。

 

 双子だった時より比べ物にならないほど、奴の気配の質が強い。

 勝てない、とまでは言わないが、厳しい戦いになるだろう。

 

 シアンとアイコンタクト。

 行きますよ。

 オーケー。

 

 言葉なく言葉を交わし、リツは地を蹴った。

 

 グールグーラが大鎌を振るう。

 身を捻って避ければ、余波で背後の通路に巨大な斬撃痕が刻まれる。

 

 対物ライフルの先端、レーザーブレードで斬りかかるが、魔法障壁に弾かれた。

 隙をカバーするシアンのスカイブレード、そしてハルバードの一撃。

 続くリツの銃撃すらも避け、屍鬼は腕を振り上げた。

 

「「“死者のラメンタツィオーネ”」」

「ッ……!」

 

 死の色が混じる深緑の光が空中に走る。

 それを幹として、無数の骨が弾けるように全方位に射出された。

 

「うぐ……!」

「ぎぁ……っ!!」

 

 至近で喰らい、吹き飛ばされるシアン。

 リツは辛うじてその大半を避けたが、背に数本の骨が突き刺さる。

 槍じみた骨の群れが瓦礫の転がる床をズタズタにし、周囲を無秩序に抉っていく。

 

 二人の魔法少女、その力が合わさった故の力。直撃すれば即死しかねない。

 回避後、起き上がりと同時一発。

 リツの銃弾は球形空間の反対側に巨大な弾痕を穿つにとどまった。

 

「“スカイリリース(束縛抹消)・傷痍差響”!! “スカイバード(空観翼々)”!」

 

 が、ダメージを魔法で誤魔化し、翼を生やしたシアンが宙から強襲する。

 シアンは鎧が砕け傷だらけの悲惨な有様だが、魔法で誤魔化し、翼を生やして宙を舞う。

 

 迎撃のため屍鬼が放った髑髏の弾丸が飛んでいくも、慣性を無視した不自然な動きでそれを避け、構わず突っ込んでいく。

 

 斧槍の一撃は鎌で迎え撃たれるが、至近距離から剣を射出。

 グールグーラが飛びのいた瞬間、リツは引き金を引く。

 ――“実弾魔法(マギサバレット)・罪追弾”!

 

 空中で黒い爆発を生じ、回避する屍鬼。

 が、ぐにゃりと曲がった弾丸は障壁をぶち抜き、屍鬼の脇腹を削り取っていった。

 罪を感知し、自ら軌道を変える弾丸だ。

 

「「鬱陶しい。早く死んで。今すぐ死んで!」」

「お断りです! 貴方が死んでください!」

 

 返答は、再びの骨弾爆発。

 大きく飛び、無秩序な槍の群れをなんとか避ける。

 

 合体する前は、脆いが何度死のうと蘇ってきた。

 そして魔法障壁をすり抜ける力で、暗殺者のように即死を狙う。

 それが通じないと見れば合身し、二人分の凄まじい威力の魔法で殺す。

 

 再誕による奇襲がなくなったものの――復活自体はできるかもしれないが――、正面から相手を捻り潰せるだけの力がある。

 あの魔法は警戒し続けなければ……いや。

 だからこそ、こちらから攻めるべき。

 

(……後手に回るから対応せざるを得ない。主導権を握られる)

 

 思えば、ウィルムとの戦いでもそうだった。爪と炎を警戒し、消極的に動くことしか出来ていなかった。まだ魔法少女の力にも不慣れだったが、今はアルケミストの指導の元戦い方を学んだのだ。再び取り逃がすようなヘマをしてたまるか。

 

『消耗度外視で攻撃します! この状態で復活する可能性があれど、殺せねば意味がありません! 合わせてください!』

『おっけぇー……!』

 

 ――“兵器改竄(モッドファクチュア)・バレルスナイパー”

 対物ライフルを、ガトリング銃のように六本一纏めにした不格好な兵器。

 腰だめにぶら下げるように持ち、ガチンと引き金を引く。

 ズダン!ズダン!と破滅的な威力の弾丸が連続で放たれる。

 

「「……!!」」

 

 追尾する弾丸を躱し、髑髏の弾を放ち相殺し、なお鎌を振るい広範囲を切り裂いて攻撃してくるグールグーラ。

 しかしそこへ、翼をはためかせハルバードを振りかざすシアンが吶喊する。

 

「“スカイシャドウ(空観影姿)”!」

 

 シアンの体が分かれるようにして、空色に光る戦乙女の影が生み出された。

 本物と寸分違わぬ動きで、別方向から屍鬼に向け波状攻撃を仕掛ける。

 

「「邪魔……! “貧者のラメンタツィオーネ”!!」」

 

 詠唱が終われば、グールグーラを中心に、凄まじい黒い爆発が巻き起こった。

 シアンが生み出した空色の分身が巻き込まれ、燐光となり消滅していく。

 瓦礫が吹き飛び、黒い渦が嵐のように吹き荒れる。

 それにビッと頬を切られながらも、リツは引き金を引き続ける。

 その内の一つが直撃。罪追弾の威力はさほどでもないが、確実にダメージは通った。

 

「“スカイスコール(空観針雨)”!!」

 

 空洞上部から、シアンの魔法。

 空色の錐じみた大きさの針が無数に生み出され、雨の如く降り注ぐ。

 それに晒され続けるのを嫌い、通路の断面、その奥に逃げる屍鬼。

 

 逃げた先、通路さらにの奥から壁を貫通し、死者の魔法、その緑の光が伸びてくる。

 ようやく追い込んだ。

 追撃に影を送り込むシアン。

 骨爆発を避け、リツは新たな兵器を作り出す。

 

「“兵器創造(マギファクチュア)・レールガンクレイモア”!!」

 

 ガゴン、と構えたのは、リツの身長ほどもある巨大な電磁誘導銃。

 

「“実弾魔法(マギサバレット)・爆刑弾”……!」

 

 照準を定め……。

 

「FIRE!!」

 

 つんざく轟音と共に、臨界した弾丸が放たれた。

 残骸、瓦礫、構造を貫通し、その奥で大爆発が起こる。

 

『追撃を!!』

『分かってるよ!!』

 

 バサ、と翼を一際大きく羽ばたかせ、突っ込むシアン。

 

「“スカイリリース(束縛抹消)”!!」

 

 シアンの全身が空色の光に覆われる。

 通路の奥から、槍じみた骨の弾丸が飛んできたが……それらは全てシアンをすり抜け、壁に深く突き刺さった。

 

「続きます……! “兵器創造(マギファクチュア)・ガトリンググラインダー”!」

 

 作り出したのは回転式のマシンガン。先端に、棘のような小さなレーザーブレードが並ぶ。

 リツはギュルギュルとスピンアップを始めたガトリングを構え、シアンの後に続き走る。

 

 ――“実弾魔法(マギサバレット)・罪追弾”!

 ギュアアアアアアア!!と唸り吐き出される大量の弾丸、その全てが軌道を変え、シアンを避けて飛んでいく。

 巨大な骨の盾を作り出し耐えるグールグーラの目に浮かぶのは、苛立ちの色。

 

「「“亡者のラメンタツィオーネ”!!」」

 

 弾かれるよう、全力での回避行動。

 だが、一直線にコンマ数秒で伸びた骨の濁流が左腕を消し飛ばす。

 

「ッ……!! ぐうぅぅぅっ……!!」

「「次は頭」」

「舐めるなよ造反者……!!」

 

 リツの啖呵に呼応するよう、背後に回り込んでいたシアンがハルバードを振り下ろす。

 

「“事象割断”ッ!!」

「「グギッ!?」」

 

 屍鬼の背後をカバーしていた骨の盾を割り砕き、斧槍の叩きつけが直撃。

 対象の『強度』を『拘束』と見做し、それを無視して破壊する一撃だ。

 

 全霊で振り下ろされたハルバードは、地面ごとグールグーラの魔法障壁を砕いていく。

 割り砕けた床の下は、谷のように縦に長い、構造と構造の大きな隙間。

 グールグーラが逃げ込んだのは、そこに掛けられた渡り廊下の一つだった。

 落下していくグールグーラ。シアンは一も二もなく飛び込み、リツもその後を追う。

 

「“兵器創造(マギファクチュア)・ウェポンアーム”! “兵器創造(マギファクチュア)・グラビティウィング”!」

 

 左腕の代わりに、魔法で義腕を作り出す。

 そして背には、翼に似た反重力制御装置。シアンほど軽快ではないが、これで飛行も可能。

 

 先に落下した屍鬼は、巨大な骨の腕を背から作り出し、左右の壁を掴んで落下を止めた。

 飛びかかったシアンのハルバードと片手で鍔迫り合いをしながら、リツへ手を伸ばす。

 

「「“死者達のラメンタツィオーネ”!!」」

(連続で……!!)

 

 緑の光が何本も伸びる。直線だけでなく、ぐねりと曲がった光も。

 見極めろ。

 

 散弾じみたファントムの槍、それを真正面から避けたあの時のように!

 被弾面積を抑えるため、右手に持つ長大な機関銃を消滅させる。

 

 そして……骨槍の爆裂。

 身を捩り、感覚だけで背の翼で重力制御を行い……。

 

 抜けたッ!

 驚愕するグールグーラ。

 譲るように離れるシアン。

 

「“兵器創造(マギファクチュア)・ガトリンググラインダー”!!」

 

 鎌の柄でとっさに防御した屍鬼だが、無意味。

 それをねじ切り、土手っ腹に、ドリルのように回転するグラインダーをぶち当てる!

 

「「ぎあああああ!!!」」

「死んでください……!!」

 

 押し付けたまま引き金を、壊れんばかりの全力で押し込む。

 

「“実弾魔法(マギサバレット)・銃刑弾”……ッ!!」

「「ぐぎぃぃぃぃッ……!!」」

 

 少しでもと、骨の盾が生成され、生成されては砕け散る。

 ふ、と支えがなくなり、落下を始めたグールグーラ。

 

(底まで落ちようと、離すものか……!)

 

 馬乗りになり、グールグーラの腕を掴んで共に落ちていく。トリガーの指は離さない。

 空間の中ほどにかかる通路に落着し、一拍のちに突き破ってさらに下へ。

 が、

 

「がひゅあッ……!?」

 

 不意に全身が巨大な力で掴まれ、全力で放り投げられた。

 そうと気づけたのはめり込むほどの勢いで壁に激突し、血を吐いてから。

 支えに使っていた巨大な腕で引き剥がされたのだ。

 

 シアンは急降下し、落ちていくグールグーラへ槍と剣の雨を振らせている。

 くら、と揺れる脳。己も限界が近い。

 ドズン……と遠くから凄まじい振動。

 恐らく、マスコットの爆弾が起爆した。

 続けてもう一度、巨大な揺れ。これ以上は許容できない。

 

 ペッ、と口の中の血を吐き出し、リツは身を虚空へ躍らせる。

 重力を強め追いつけば、運搬用の大型通路の中にシアンが吹き飛ばされる瞬間だった。

 空色の斧槍が折れ、粒子となって消えていく。

 骨腕で縁を掴み、戦乙女を追って中へ飛び込んでいく屍鬼。

 

 逃がすか、と追うリツ目掛け、巨人の骨による裏拳が迫る。

 間一髪回避すると、拳は通路を壁際に並ぶ機械ごと砕いていく。

 

「“兵器創造(マギファクチュア)・パイルバンカーキャノン”!!」

 

 杭打ち機と大砲を組み合わせた、大型の兵器を担ぐ。

 横向きに重力を発生させ、吹き飛ぶようにして急接近。

 至近でトリガー。

 

「吹っ飛べ!!」

「「っぎ……!!」」

 

 杭が弾丸として射出され、直撃。さらに通路の奥へ吹き飛んでいくグールグーラ。

 

「「“貧者達のラメンタツィオーネ”!!」」

 

 黒い爆裂。先よりも、遥かに規模の大きな。

 シアンが余波を喰らい体制を崩すが、狙撃銃に換装したリツがその隙をカバー。

 弾け飛んだ通路、壁、瓦礫の降る中を飛び、銃を撃ち続ける。

 

「「げほっ、はぁ、はぁ……」」

 

 復活する能力はやはりないのか、随分と消耗しているらしい。

 

「「お前らは、お前らだけは……!!」」

 

 恨みの籠もった、地の底から響くような声。

 死者の怨念などに、絶望郷を道連れになどさせてたまるか!!

 

「“兵器創造(マギファクチュア)・レールガンクレイモア”……!!」

「“スカイハルバード(空観斧槍)”ッ!!」

 

 どちらも死に体。

 ――これで魔法は打ち止め。

 確実に殺す!!

 グールグーラも両の手を広げ、緑の闇を凝縮させていく。

 

「「“亡者達の……」」

 

 だが。

 

『ばーん!!』

「「ギッ!?」」

 

 その胸を貫いたのは、一筋の光弾。

 モニターの中には、銃を構える道化師の姿。

 驚きと疑問が湧き上がるが、全て無視。このまま全力を叩きつける!

 

「FIRE!!」

 

 リツのレールガンがグールグーラの魔法障壁を完全に破壊し……。

 

「“事象割断”ッ!!!」

 

 絶叫じみた掛け声と共に、シアンの一撃が屍鬼の胴体を上下に両断した。

 

 吹き飛び倒れ、力が尽きたのか霧となって消える巨人の骨。

 まだ油断するな。復活の可能性はゼロではない。

 銃口を向けたまま荒い息をつく。

 

「「…………」」

 

 ちら、と周囲を伺えば、巨大な塔のような柱が。根幹構造体だ。戦ううち、別の柱まで移動してきていたようだ。

 

 視線を戻し、動かない屍鬼を睨み、十数秒。

 パキ、と小さな破砕音。

 視線を巡らせば、根幹構造体の影に隠れた、紫色の装置を割る骨の槍。

 

 全身が総毛立つ。

 転げ落ちたのは、一抱えほどの球体。

 マスコットの爆弾。

 その小さな魔法で力を使い果たし変身が解けたのか、分離した血塗れの双子が歌う。

 

「お前らも一緒」「道連れにしてやる」「亡者からの贈り物」「死者からの贈り物」

「クソが……!!」

 

 ここまで誘導されていた……!?

 爆弾をどうにかしようと、走るシアン。

 リツも残る力をかき集め、魔法を作る。

 

「思い知れ」「身をもって」「私達の恨み」「怒りを」

 

 だが何を作ればいい! 盾か、エネルギーシールドか。何で囲えば……!!

 

「そんなに……そんなに絶望郷が憎いのかッ!!」

「勿論」「当たり前」「「正義ぶって私達を虐げるお前達が理解できるわけがない……!!」」

「……!!」

 

 ああクソ、間に合わない……!

 

「「死ね」」

 

 紫の光が臨界し……。

 

 

 

 瞬きの後、視界に広がるのは透明な灰色だった。

 その向こうでは、爆裂の瞬間が、臨界直後のまま停止していた。

 

 何が!? 状況を理解できず見回せば、周囲全てが同じ色に染まっている。巨大な結晶のようなものまで生え、鋼鉄の空間が氷の洞窟と化していた。

 そう、これは氷だ。

 

 遅れて気づき改めて爆弾を見やれば、漏れ出す紫の光はそのまま。まさしく、時間ごと凍りついたかのように動かない。

 

「少しばかり遅れたか」

 

 シャラシャラ、綺羅びやかにも聞こえる透明な音。

 それを纏って立つのは、灰色の騎士服にも似たドレスの少女。体や衣装の各所からは刺々しい氷の結晶が伸びる。色のない髪に血色のメッシュ、装飾は真紅と灰の冷気を纏い、剣を携えて悠然と立つ、まさしく氷の女王と呼ぶべき姿。

 魔法少女メルクリウス☆グレイザー。

 氷河の名の如く。冷気と氷を意のままに操る、絶望郷の最大戦力、その片割れ。

 

 ――助けてくれた。

 安堵で全身の力が抜け、へたり込むリツ。

 

『ありがと~~メルク! そしてピスメちゃん、スカイちゃんお疲れ様! 助かったよ!』

「はぁ、はぁ……いえ、こちらこそ援護ありがとうございます。奴を補足出来たのですか?」

『二人の視線から予測して狙ってみたけど、ドンピシャだったね! ぐねぐね曲がる列車の上じゃなかったから、上手く行くと思ったんだ! 爆弾もなんとかなったよ! マスコット製のはメルクがなんとかしてくれたし、ウィルムのはファミリアの子たちが解除してくれたから大丈夫!』

「おお~……。よかった~……」

 

 シアンもひと心地ついたのか、「あー……」と声を漏らしながら寝転がった。

 

「……いや冷たいし寒っ!?」

 

 そりゃ凍りついた金属床に寝転がったら寒いだろう。

 シアンから視線を外し……。

 

「……うぇっ!?」

 

 グレイザーがいつの間にか近づいてきていたことに気づき、リツはビクッと立ち上がった。

 まさしく氷の女王のような、感情の色が見当たらない絶対零度の赤い目がリツを射抜く。

 憧れの存在にまじまじと見つめられ、思考が一瞬止まった。

 

「たっ、助けていただき、ありがとうございました」

 

 ビッと敬礼し礼を述べれば、グレイザーは構わん、と小さく頷いた。

 

「二年といくらか前の革命軍第六基地。覚えているか」

「……えっ、あっ、はい。勿論です! その節は……」

「よい」

 

 心地よい冷たさの掌が頭を撫で、リツはその感触にしばし浸った。

 ……覚えていてくれた!

 

「此度の下手人はこれか」

「はい」

 

 視線を動かし、氷の中のグールとグーラに向ける。死んでいるのか、凍っているからかは定かではないが、微動だにしない。撃破したと見ていいだろう。

 

「っ……!!」

 

 ほっと息をついた瞬間、それまで無視していた苦痛が一気に体を灼いた。

 崩れ落ちる体は、グレイザーに抱きとめられた。

 

「思索は後に。止め置け。まずは休息を取るといい」

「……はい」

 

 冷たい抱擁だったが、その奥の暖かさを感じ、リツは目を閉じた。

 

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