「うっわ……なに、これ……」
丸く球状に、構造が削り取られている。さながら何かの制作ソフトで、円形範囲選択をしそこを丸ごと切り取ったかのような。多層構造になった断面が鮮明に見え、切り裂かれたパイプから水やオイルが流れ出し、同じく切断されたケーブルは火花を散らす。ぽっかりと生まれた巨大な空洞の上部からは、時折ガラガラと物が落ちてきている。
ここはその球形の最下部。見上げれば、破壊の規模がよく分かった。
しかも。
「根幹構造体を……!」
非常識な大きさの柱、その断面がくっきりと見えている。死ぬほど頑丈なはずの根幹構造体をこうもあっさりと、消滅させるように破壊したのだ。十中八九、マスコット兵器だろう。
「ウィルム結晶爆弾の他にもあるの!?」
『さっきのレーダーで映らなかったってことは、魔法少女の産物じゃないね。爆弾捜索に時間がかかりそうだし、魔法少女の相手は二人に任せる。頑張って。絶望郷に希望あれ』
「了解、絶望郷に希望あれ……やばっ!」
瞬時に全方位に空色の剣が射出され、二人の死角から迫っていた双子が貫かれた。
復活が遅かったのは、爆弾の威力故か、それとも距離があったからか。
崩落した空間の中央に、どろりと蘇るグールとグーラ。
爆弾にも巻き込めず不意打ちにも対処されたからか、表情は酷く苦々しい。
「……不愉快」「……苛つく」「あれで」「死んでくれたら」「よかったのに」「嬉しかったのに」
「蘇る命を囮に、巻き込むつもりでしたか……。何です? そうまで私達が憎いんですか?」
嘲るような言葉に、双子は無表情にはっきりと憎悪をたぎらせた。
「当たり前」「死んでほしい」「お前らが私達を苦しめる」「お前らが私達を踏みつける」
言い募る双子は、明らかに疲弊した様子で息を切らしている。やはり復活するたびに少なくない魔法の力を使うらしい。
こちらも衣装に無数の傷が走り、あちこちを切り裂かれ血が滲んでいるが、何度も殺し返しているのだ。消耗度合いはグールグーラの方が激しいだろう。
「絶望郷が見捨てた」「絶望郷が死ねと言った」「捨てられた」「追い出された」
「……規律を守り暮らしていれば、放逐されることなどないはずですがね」
「なぜいけない?」「なぜ罰せられる?」「何も許されない」「少しの欲も」
「はぁ……!?」
「だから他に生きる道はない」「弓を引いて生きて行くしかない」
鏡写しにナイフを構えて並び立つ双子は、言い切るや否やドロリと黒い渦へと溶け、べちゃりと瓦礫に広がった。
一拍置いて、ゴポゴポと盛り上がったそれが球体となり、そして渦を巻き始める。
異様な事態にも、リツは咄嗟に動けなかった。
溶ける寸前、屍鬼二人の濁った目の奥に滾る怒りが見えた。
何への怒りだ。
当惑、そして理解に変わったそれが齎す感情が、リツの憎悪にも火を点ける。
苦しいのは皆同じ。己だけが楽をするため欲望に手を伸ばし、絶望郷に咎められ。
そして放逐され、憤怒を燃やすのか? ふざけるなよクソ野郎!!
苛立ち怒声を上げようとしたリツの肩に、バディの手が置かれた。
『耳貸しちゃダメだよ』
『…………』
『あーしも放逐民だった。その上で言うけど。こいつらが親の巻き添えで放逐されたのか、自業自得で放逐されたのかは知らない。でもだから絶望郷が悪い? んなわけない。楽な道に縋って鎮圧対象になった挙げ句責任転嫁してるだけだよ』
『分かっています。だから腹立たしいのです……!』
グールとグーラが変じた黒い渦は、周囲に転がる己の死体をも取り込んでいく。切り取られた空間の上部、爆発を回避するためクラウンが引き込む前の戦場からも、ズルズルと黒い液体が宙を泳いでくる。
せめてもの妨害とシアンが剣を飛ばすが、全て飲み込まれて消えてしまった。
『あいつらに対話するつもりなんてない。不満を一方的にぶちまけて、自分を正当化してるだけ。苛立ってもこっちの動きが悪くなるだけで非効率だよ』
『……そうですね。……いえ、少し落ち着きました。申し訳ありません』
滾る憎悪をそのままに、感情を刃のように冷ややかに。
絶望郷の保安官として、クラウンの手先として銃を構えろ!
渦が晴れれば、そこには一人。双子の屍鬼は一つとなり、左右に分かれていたアンバランスな装飾が合わさり、シンメトリーの衣装を纏う。
『ちゃっちゃと仕留めないとね。柱がやられて絶望郷の力が削がれたら効率悪いし』
『……結局、貴方の結論はそこに帰結するんですね』
『当然でしょ?』
軽口と同時、ハルバードを構えるシアン。
――“
リツもその手に、長大な対物ライフルを作り出す。先端にはやはりレーザーブレードの穂先。
「「グールグーラがお前たちを殺す」」
重なった声と共に、屍鬼は先に使っていたナイフではなく、巨大な鎌を振りかざす。
双子だった時より比べ物にならないほど、奴の気配の質が強い。
勝てない、とまでは言わないが、厳しい戦いになるだろう。
シアンとアイコンタクト。
行きますよ。
オーケー。
言葉なく言葉を交わし、リツは地を蹴った。
グールグーラが大鎌を振るう。
身を捻って避ければ、余波で背後の通路に巨大な斬撃痕が刻まれる。
対物ライフルの先端、レーザーブレードで斬りかかるが、魔法障壁に弾かれた。
隙をカバーするシアンのスカイブレード、そしてハルバードの一撃。
続くリツの銃撃すらも避け、屍鬼は腕を振り上げた。
「「“死者のラメンタツィオーネ”」」
「ッ……!」
死の色が混じる深緑の光が空中に走る。
それを幹として、無数の骨が弾けるように全方位に射出された。
「うぐ……!」
「ぎぁ……っ!!」
至近で喰らい、吹き飛ばされるシアン。
リツは辛うじてその大半を避けたが、背に数本の骨が突き刺さる。
槍じみた骨の群れが瓦礫の転がる床をズタズタにし、周囲を無秩序に抉っていく。
二人の魔法少女、その力が合わさった故の力。直撃すれば即死しかねない。
回避後、起き上がりと同時一発。
リツの銃弾は球形空間の反対側に巨大な弾痕を穿つにとどまった。
「“
が、ダメージを魔法で誤魔化し、翼を生やしたシアンが宙から強襲する。
シアンは鎧が砕け傷だらけの悲惨な有様だが、魔法で誤魔化し、翼を生やして宙を舞う。
迎撃のため屍鬼が放った髑髏の弾丸が飛んでいくも、慣性を無視した不自然な動きでそれを避け、構わず突っ込んでいく。
斧槍の一撃は鎌で迎え撃たれるが、至近距離から剣を射出。
グールグーラが飛びのいた瞬間、リツは引き金を引く。
――“
空中で黒い爆発を生じ、回避する屍鬼。
が、ぐにゃりと曲がった弾丸は障壁をぶち抜き、屍鬼の脇腹を削り取っていった。
罪を感知し、自ら軌道を変える弾丸だ。
「「鬱陶しい。早く死んで。今すぐ死んで!」」
「お断りです! 貴方が死んでください!」
返答は、再びの骨弾爆発。
大きく飛び、無秩序な槍の群れをなんとか避ける。
合体する前は、脆いが何度死のうと蘇ってきた。
そして魔法障壁をすり抜ける力で、暗殺者のように即死を狙う。
それが通じないと見れば合身し、二人分の凄まじい威力の魔法で殺す。
再誕による奇襲がなくなったものの――復活自体はできるかもしれないが――、正面から相手を捻り潰せるだけの力がある。
あの魔法は警戒し続けなければ……いや。
だからこそ、こちらから攻めるべき。
(……後手に回るから対応せざるを得ない。主導権を握られる)
思えば、ウィルムとの戦いでもそうだった。爪と炎を警戒し、消極的に動くことしか出来ていなかった。まだ魔法少女の力にも不慣れだったが、今はアルケミストの指導の元戦い方を学んだのだ。再び取り逃がすようなヘマをしてたまるか。
『消耗度外視で攻撃します! この状態で復活する可能性があれど、殺せねば意味がありません! 合わせてください!』
『おっけぇー……!』
――“
対物ライフルを、ガトリング銃のように六本一纏めにした不格好な兵器。
腰だめにぶら下げるように持ち、ガチンと引き金を引く。
ズダン!ズダン!と破滅的な威力の弾丸が連続で放たれる。
「「……!!」」
追尾する弾丸を躱し、髑髏の弾を放ち相殺し、なお鎌を振るい広範囲を切り裂いて攻撃してくるグールグーラ。
しかしそこへ、翼をはためかせハルバードを振りかざすシアンが吶喊する。
「“
シアンの体が分かれるようにして、空色に光る戦乙女の影が生み出された。
本物と寸分違わぬ動きで、別方向から屍鬼に向け波状攻撃を仕掛ける。
「「邪魔……! “貧者のラメンタツィオーネ”!!」」
詠唱が終われば、グールグーラを中心に、凄まじい黒い爆発が巻き起こった。
シアンが生み出した空色の分身が巻き込まれ、燐光となり消滅していく。
瓦礫が吹き飛び、黒い渦が嵐のように吹き荒れる。
それにビッと頬を切られながらも、リツは引き金を引き続ける。
その内の一つが直撃。罪追弾の威力はさほどでもないが、確実にダメージは通った。
「“
空洞上部から、シアンの魔法。
空色の錐じみた大きさの針が無数に生み出され、雨の如く降り注ぐ。
それに晒され続けるのを嫌い、通路の断面、その奥に逃げる屍鬼。
逃げた先、通路さらにの奥から壁を貫通し、死者の魔法、その緑の光が伸びてくる。
ようやく追い込んだ。
追撃に影を送り込むシアン。
骨爆発を避け、リツは新たな兵器を作り出す。
「“
ガゴン、と構えたのは、リツの身長ほどもある巨大な電磁誘導銃。
「“
照準を定め……。
「FIRE!!」
つんざく轟音と共に、臨界した弾丸が放たれた。
残骸、瓦礫、構造を貫通し、その奥で大爆発が起こる。
『追撃を!!』
『分かってるよ!!』
バサ、と翼を一際大きく羽ばたかせ、突っ込むシアン。
「“
シアンの全身が空色の光に覆われる。
通路の奥から、槍じみた骨の弾丸が飛んできたが……それらは全てシアンをすり抜け、壁に深く突き刺さった。
「続きます……! “
作り出したのは回転式のマシンガン。先端に、棘のような小さなレーザーブレードが並ぶ。
リツはギュルギュルとスピンアップを始めたガトリングを構え、シアンの後に続き走る。
――“
ギュアアアアアアア!!と唸り吐き出される大量の弾丸、その全てが軌道を変え、シアンを避けて飛んでいく。
巨大な骨の盾を作り出し耐えるグールグーラの目に浮かぶのは、苛立ちの色。
「「“亡者のラメンタツィオーネ”!!」」
弾かれるよう、全力での回避行動。
だが、一直線にコンマ数秒で伸びた骨の濁流が左腕を消し飛ばす。
「ッ……!! ぐうぅぅぅっ……!!」
「「次は頭」」
「舐めるなよ造反者……!!」
リツの啖呵に呼応するよう、背後に回り込んでいたシアンがハルバードを振り下ろす。
「“事象割断”ッ!!」
「「グギッ!?」」
屍鬼の背後をカバーしていた骨の盾を割り砕き、斧槍の叩きつけが直撃。
対象の『強度』を『拘束』と見做し、それを無視して破壊する一撃だ。
全霊で振り下ろされたハルバードは、地面ごとグールグーラの魔法障壁を砕いていく。
割り砕けた床の下は、谷のように縦に長い、構造と構造の大きな隙間。
グールグーラが逃げ込んだのは、そこに掛けられた渡り廊下の一つだった。
落下していくグールグーラ。シアンは一も二もなく飛び込み、リツもその後を追う。
「“
左腕の代わりに、魔法で義腕を作り出す。
そして背には、翼に似た反重力制御装置。シアンほど軽快ではないが、これで飛行も可能。
先に落下した屍鬼は、巨大な骨の腕を背から作り出し、左右の壁を掴んで落下を止めた。
飛びかかったシアンのハルバードと片手で鍔迫り合いをしながら、リツへ手を伸ばす。
「「“死者達のラメンタツィオーネ”!!」」
(連続で……!!)
緑の光が何本も伸びる。直線だけでなく、ぐねりと曲がった光も。
見極めろ。
散弾じみたファントムの槍、それを真正面から避けたあの時のように!
被弾面積を抑えるため、右手に持つ長大な機関銃を消滅させる。
そして……骨槍の爆裂。
身を捩り、感覚だけで背の翼で重力制御を行い……。
抜けたッ!
驚愕するグールグーラ。
譲るように離れるシアン。
「“
鎌の柄でとっさに防御した屍鬼だが、無意味。
それをねじ切り、土手っ腹に、ドリルのように回転するグラインダーをぶち当てる!
「「ぎあああああ!!!」」
「死んでください……!!」
押し付けたまま引き金を、壊れんばかりの全力で押し込む。
「“
「「ぐぎぃぃぃぃッ……!!」」
少しでもと、骨の盾が生成され、生成されては砕け散る。
ふ、と支えがなくなり、落下を始めたグールグーラ。
(底まで落ちようと、離すものか……!)
馬乗りになり、グールグーラの腕を掴んで共に落ちていく。トリガーの指は離さない。
空間の中ほどにかかる通路に落着し、一拍のちに突き破ってさらに下へ。
が、
「がひゅあッ……!?」
不意に全身が巨大な力で掴まれ、全力で放り投げられた。
そうと気づけたのはめり込むほどの勢いで壁に激突し、血を吐いてから。
支えに使っていた巨大な腕で引き剥がされたのだ。
シアンは急降下し、落ちていくグールグーラへ槍と剣の雨を振らせている。
くら、と揺れる脳。己も限界が近い。
ドズン……と遠くから凄まじい振動。
恐らく、マスコットの爆弾が起爆した。
続けてもう一度、巨大な揺れ。これ以上は許容できない。
ペッ、と口の中の血を吐き出し、リツは身を虚空へ躍らせる。
重力を強め追いつけば、運搬用の大型通路の中にシアンが吹き飛ばされる瞬間だった。
空色の斧槍が折れ、粒子となって消えていく。
骨腕で縁を掴み、戦乙女を追って中へ飛び込んでいく屍鬼。
逃がすか、と追うリツ目掛け、巨人の骨による裏拳が迫る。
間一髪回避すると、拳は通路を壁際に並ぶ機械ごと砕いていく。
「“
杭打ち機と大砲を組み合わせた、大型の兵器を担ぐ。
横向きに重力を発生させ、吹き飛ぶようにして急接近。
至近でトリガー。
「吹っ飛べ!!」
「「っぎ……!!」」
杭が弾丸として射出され、直撃。さらに通路の奥へ吹き飛んでいくグールグーラ。
「「“貧者達のラメンタツィオーネ”!!」」
黒い爆裂。先よりも、遥かに規模の大きな。
シアンが余波を喰らい体制を崩すが、狙撃銃に換装したリツがその隙をカバー。
弾け飛んだ通路、壁、瓦礫の降る中を飛び、銃を撃ち続ける。
「「げほっ、はぁ、はぁ……」」
復活する能力はやはりないのか、随分と消耗しているらしい。
「「お前らは、お前らだけは……!!」」
恨みの籠もった、地の底から響くような声。
死者の怨念などに、絶望郷を道連れになどさせてたまるか!!
「“
「“
どちらも死に体。
――これで魔法は打ち止め。
確実に殺す!!
グールグーラも両の手を広げ、緑の闇を凝縮させていく。
「「“亡者達の……」」
だが。
『ばーん!!』
「「ギッ!?」」
その胸を貫いたのは、一筋の光弾。
モニターの中には、銃を構える道化師の姿。
驚きと疑問が湧き上がるが、全て無視。このまま全力を叩きつける!
「FIRE!!」
リツのレールガンがグールグーラの魔法障壁を完全に破壊し……。
「“事象割断”ッ!!!」
絶叫じみた掛け声と共に、シアンの一撃が屍鬼の胴体を上下に両断した。
吹き飛び倒れ、力が尽きたのか霧となって消える巨人の骨。
まだ油断するな。復活の可能性はゼロではない。
銃口を向けたまま荒い息をつく。
「「…………」」
ちら、と周囲を伺えば、巨大な塔のような柱が。根幹構造体だ。戦ううち、別の柱まで移動してきていたようだ。
視線を戻し、動かない屍鬼を睨み、十数秒。
パキ、と小さな破砕音。
視線を巡らせば、根幹構造体の影に隠れた、紫色の装置を割る骨の槍。
全身が総毛立つ。
転げ落ちたのは、一抱えほどの球体。
マスコットの爆弾。
その小さな魔法で力を使い果たし変身が解けたのか、分離した血塗れの双子が歌う。
「お前らも一緒」「道連れにしてやる」「亡者からの贈り物」「死者からの贈り物」
「クソが……!!」
ここまで誘導されていた……!?
爆弾をどうにかしようと、走るシアン。
リツも残る力をかき集め、魔法を作る。
「思い知れ」「身をもって」「私達の恨み」「怒りを」
だが何を作ればいい! 盾か、エネルギーシールドか。何で囲えば……!!
「そんなに……そんなに絶望郷が憎いのかッ!!」
「勿論」「当たり前」「「正義ぶって私達を虐げるお前達が理解できるわけがない……!!」」
「……!!」
ああクソ、間に合わない……!
「「死ね」」
紫の光が臨界し……。
瞬きの後、視界に広がるのは透明な灰色だった。
その向こうでは、爆裂の瞬間が、臨界直後のまま停止していた。
何が!? 状況を理解できず見回せば、周囲全てが同じ色に染まっている。巨大な結晶のようなものまで生え、鋼鉄の空間が氷の洞窟と化していた。
そう、これは氷だ。
遅れて気づき改めて爆弾を見やれば、漏れ出す紫の光はそのまま。まさしく、時間ごと凍りついたかのように動かない。
「少しばかり遅れたか」
シャラシャラ、綺羅びやかにも聞こえる透明な音。
それを纏って立つのは、灰色の騎士服にも似たドレスの少女。体や衣装の各所からは刺々しい氷の結晶が伸びる。色のない髪に血色のメッシュ、装飾は真紅と灰の冷気を纏い、剣を携えて悠然と立つ、まさしく氷の女王と呼ぶべき姿。
魔法少女メルクリウス☆グレイザー。
氷河の名の如く。冷気と氷を意のままに操る、絶望郷の最大戦力、その片割れ。
――助けてくれた。
安堵で全身の力が抜け、へたり込むリツ。
『ありがと~~メルク! そしてピスメちゃん、スカイちゃんお疲れ様! 助かったよ!』
「はぁ、はぁ……いえ、こちらこそ援護ありがとうございます。奴を補足出来たのですか?」
『二人の視線から予測して狙ってみたけど、ドンピシャだったね! ぐねぐね曲がる列車の上じゃなかったから、上手く行くと思ったんだ! 爆弾もなんとかなったよ! マスコット製のはメルクがなんとかしてくれたし、ウィルムのはファミリアの子たちが解除してくれたから大丈夫!』
「おお~……。よかった~……」
シアンもひと心地ついたのか、「あー……」と声を漏らしながら寝転がった。
「……いや冷たいし寒っ!?」
そりゃ凍りついた金属床に寝転がったら寒いだろう。
シアンから視線を外し……。
「……うぇっ!?」
グレイザーがいつの間にか近づいてきていたことに気づき、リツはビクッと立ち上がった。
まさしく氷の女王のような、感情の色が見当たらない絶対零度の赤い目がリツを射抜く。
憧れの存在にまじまじと見つめられ、思考が一瞬止まった。
「たっ、助けていただき、ありがとうございました」
ビッと敬礼し礼を述べれば、グレイザーは構わん、と小さく頷いた。
「二年といくらか前の革命軍第六基地。覚えているか」
「……えっ、あっ、はい。勿論です! その節は……」
「よい」
心地よい冷たさの掌が頭を撫で、リツはその感触にしばし浸った。
……覚えていてくれた!
「此度の下手人はこれか」
「はい」
視線を動かし、氷の中のグールとグーラに向ける。死んでいるのか、凍っているからかは定かではないが、微動だにしない。撃破したと見ていいだろう。
「っ……!!」
ほっと息をついた瞬間、それまで無視していた苦痛が一気に体を灼いた。
崩れ落ちる体は、グレイザーに抱きとめられた。
「思索は後に。止め置け。まずは休息を取るといい」
「……はい」
冷たい抱擁だったが、その奥の暖かさを感じ、リツは目を閉じた。